ネブライザー療法用薬剤の選択−1

あじさい Vol.11,No.1,2002
Feb.2002 Vol.11 No.1
★シリーズ
『ネブライザー療法用薬剤の選択−1』
要旨:ネブライザー療法では、薬剤として抗生物質、ステロイド剤、抗アレルギー剤、粘液溶解剤等がそれぞ
れ単独又は併用で使用されますが、他剤との配合に注意が必要です。ネブライザーの「ジェット式」については
薬液を選ばず、ほとんどの薬液を霧にすることが可能です。2種以上の薬液を混合しても同様です。しかし、「超
音波式」ネブライザーについては粘性の強い薬剤・混合すると白濁する薬剤などは霧にすることができなかった
り、たとえ霧になったとしても霧の量が極端に少ないということが起こり得ます。また、2種以上の薬液を混合した
場合、その配合によっても使用状況が変わることがあるようです。
今回の『あじさい』では、ネブライザー療法で使用される主な薬剤の配合変化と、安定性にスポットをあててみ
たいと思います。データ数が多いため2回に分けて掲載致します。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
4) 長時間効果が持続すること
◎はじめに
5) 副作用が少ないこと(刺激性、抗原性)
6) 苦味、異臭が少ないこと
ネブライザー療法は耳鼻咽喉科領域で汎用されて
7) 超音波で変化をうけないこと
等
いる局所薬物療法です。吸入療法は局所療法の一
つとして副作用や治療効果の面から見直されていま
す。吸入療法で使用される吸入器は種々の機種があ
◎ネブライザー療法用薬剤の選択
りますが、特に超音波によるエアロゾル療法は安定
17) 18)19)20)
性のよい微細粒子が比較的均一に得られることから、
ネブライザー療法に使用する薬剤は通常液剤で、
臨床で繁用されています。しかし、薬剤によっては超
吸入用薬剤、点鼻用薬剤が使用できます。これらの
音波処理の影響を受けるものもあり、ネブライザーの
薬剤は、分類上外用薬になっており、気道に噴霧可
使用にあったっては吸入剤の超音波による影響や配
能な性状を備えており、薬剤の安定性もよいようで
合による変化などが検討される必要があります。
す。
この他に、注射用薬剤を吸入に適した濃度に調節
◎ネブライザー療法に使用する薬 して使用されることが多々あります。ネブライザー療
剤の選択で重要なこと17)19)
法に使用することが認められている注射薬は限られ
ていますが、使用が認められていない注射薬もかなり
1) 必要濃度に調節しやすいこと
使用されています。
2) 調節後安定性があること
吸入器で使用される薬剤には、抗生物質、ステロイ
3) 外観などの性状がよく、配合変化のないこと
1
あじさい Vol.10,No.6,2001
ド剤、抗アレルギー剤、気管支拡張剤、粘液溶解剤、
血管収縮剤などが使用されています。
1) 加湿剤
鼻腔を通過した空気は咽頭に達するまでに体温近
くに加温され、湿度は 90%になります。手術を含む気
道疾患のために、加温・加湿機能が障害され ると線
毛運動にも障害がおこります。
超音波ネブライザーは均一で密度の高い小粒子の
エアロゾルを作ることが可能なため、気道の加湿には
最適です。内容は注射用水、生理食塩液が使用され
ます。しかし、小児における水の過剰投与には注意
を払わなくてはいけません。また、喘息患者では水の
吸入が刺激となり気管支痙攣を起こす場合もあるの
で蒸留水よりも生理食塩水がよいようです。
菌などが主として対象となります。除菌が速やかに行
えない場合には耐性化する場合があることに注意が
必要です。又、肺炎球菌にも菌交代することがあるこ
とも念頭におかなければいけません。
② ペニシリン系
ペニシリン系抗生物質は特有の臭いがあるものの、
気管支の攣縮を惹起する作用は弱く、吸入治療に
適した抗生剤です。低濃度であれば、閉塞性喚起
障害のある気管支にも分布し、肺胞にも到達します。
一方、ペニシリンは安全性に優れ、静脈内大量投
与も可能で、点滴静注時の血清中濃度の約1割が
肺内病巣に移行すると考えられているので、あえて
吸入治療にペニシリンを選択する必要は少ないよう
です。
2) 抗生物質
感染防止の目的で投与されます。抗生物質の条件
としては
① 水溶液として力価が安定していること
② 抗菌スペクトルが広いこと
③ 耐性菌ができにくいこと
④ 悪臭、にがみ、刺激が少ないこと
⑤ 水溶液として調整しやすいこと
⑥ 消化器からは吸収されないこと
などが上げられます。
以上より耳鼻咽喉科用ネブライザー溶液(抗生剤)
の種類が少ない現在、アミノ配糖体等がよく使用され
ていますが、超音波ネブライザーの使用では薬剤の
分解、変性、活性化の低下、悪臭の発生などをおこ
すことがあり注意を要します。
馬場によると、気道感染症の主要起炎菌に対し広
い抗菌スペクトルをもつものとして、アミノグリコシド系
(ジベカシン、アミカシン、トブラマイシン、シソマイシ
ン、ミクロノマイシン等)、ホスホマイシン、セフメノキシ
ムが使用しやすいとされています。(表1参照)
術後のネブライザーは長期にわたり使用されていま
すが、当然のことながら細菌の感受性を調べる必要
があり、真菌の発生にも注意を払わなければいけま
せん。
吸入療法における抗生物質の濃度としては1∼5%
が良いとされています。理由はそれより低濃度では薬
剤の効果が不十分であり、それ以上の濃度では粘膜
の線毛機能に対する悪影響が考えられるからです。
1回注入式の場合はネブライザー容器内の濃度変化
は問題となりませんが、噴霧を繰り返す度に、薬剤の
濃度は上昇するので、この点も注意する必要がありま
す。
また過敏症の発現、院内の空気汚染などの可能性
にも留意しなけばいけません。
① アミノ配糖体
インフルエンザ菌、ブランハメラ・カタラーリス、緑膿
③ セフェム剤
セフェム剤は無味無臭のものから、苦味や異臭が
あるものまで種類が豊富です。ペニシリン剤と異なり
セフェム剤は静脈内大量投与は避けるべきであり、
高濃度のセフェム剤と病巣菌とを直接接触させて、
治療効果を高めるためには、エアゾール粒子として
直接肺内にセフェム剤を到達させ た方がよいようで
す。
良好な肺分布を得るためにはセフェム剤の吸入
液濃度を 50mg/ml 以下とするべきです。
④ ポリペプチド系
MRSA の患者で感染を発症している時には抗生
剤の全身投与を行いますが、感染が鎮静化した後
もなお局所での持続排菌状態が残ることが少なくあ
りません。喀痰中に残存するMRSA を陰性化する目
的で、バンコマイシンの吸入療法を行われることが
あります。しかし、MRSA に対するバンコマイシンの
吸入療法の報告は少なく、安全性が確立されてい
ません。吸入に際して、気管支痙攣等の呼吸器障
害等の副作用を考慮する必要があります。
又、バンコマイシンは溶液にした場合、pH が約
3.5 と低いため粘膜刺激性があり吸入療法にはあま
り適した薬剤ではないようです。
表1 主なネブライザー用薬剤の性状(各 5%溶液)17)
薬剤 性状
合成ペニシリン系
(
ABPC・
SBPC・
CBPC)
セファロスポリン系
(
CER)
リンコマイシン系
(
LCM)
テトラサイクリン系
(
MINO)
アミノグリコシド系
(
DKB・
RSM)
ホスホマイシン系
(
FOM)
2
粘膜
苦味 抗原性
刺激性
安定性
±
±
時に
CBPCはよ
くない
±
++
時に
やや黄変
±
++ 少ない
よい
+
++ 少ない
黒変
±
±
少ない
よい
−
−
少ない
よい
あじさい Vol.10,No.6,2001
3) 副腎皮質ホルモン
副腎皮質ホルモンは、抗炎症、抗アレルギー、肉芽
抑制の目的で使用します。
エアロゾル療法に使用が認められているステロイド
ホルモン剤は、全身性ステロイド注射薬(表2参照)の
一部と、点耳・点鼻液があります。
エアロゾル療法では効力が長時間持続するものが
望ましく、デキサメタゾン、ベタメタゾンが該当します。
点耳・点鼻液も殆どデキサメタゾン、ベタメタゾン製剤
です。いずれも 0.1%液で1回に 0.5∼1ml
使用するの
が普通です。
フルニソリドは長時間が持続しますが副作用は少な
いとされ、1 回量は 0.3∼0.4mlが適量です。いずれの
使用量も1 日 2∼3 回では下垂体副腎皮質系の抑制
は起こらないとされています。
副腎皮質ホルモン製剤は、定量噴霧式吸入(MDI)
も効果的です。
4) 抗アレルギー剤
気道アレルギーの治療パターンとして、エアロゾル
療法が最も適していると思われる薬剤です。
クロモグリク酸ナトリウム(インタール)点鼻液は、エ
アロゾル療法に使用できます。エアロゾル療法を併
用した場合は自己噴霧単独よりも効果が増強するよ
うです。1回量は0.5ml
(
自己噴霧の 2 回分)を使用し、
隔日に実施します。自己噴霧は1日4回とします。効
果が発現すれば症状により継続していきます。
表2 ネブライザーで使用可能なステロイド剤(注射剤)24)
代表的商品名
1回量
喉
頭
炎
・
喉
頭
浮
腫
喉
頭
ポ
リ
ー
ー
ア 花 血 副 嗅
レ 粉 管 鼻 覚
ル 症 運 腔 障
ギ
動 炎 害
性 ・
性
鼻 鼻
鼻
炎 茸
炎
プ
・
結
節
適応症
耳 気
鼻 管
咽 支
喉 喘
科 息
術
後
療
法
喘
息
性
気
管
支
炎
び
ま
ん
性
間
質
性
肺
炎
︵
一般名
食
道
拡
張
術
後
侵
襲
後
肺
水
腫
進
行
性
壊
死
性
鼻
炎
︶
食
腐道
食の
性炎
食症
道
炎
,
直
達
鏡
使
用
後
コハク酸ヒドロコルチゾンNa
ソル・コーテフ
10∼15mg
コハク酸プレドニゾロンNa
水溶性プレドニン
2∼10mg
酢酸メチルプレドニゾロン
トリアムシノロンアセトニド
デポ・メドロール
ケナコルトA
2∼10mg
2∼10mg
○ ○ ○ ○
○
○
酢酸デキサメタゾン
デカドロンA
0.1∼2mg
○ ○
リン酸デキサメタゾンNa
オルガドロン
0.1∼2mg
○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○ ○ ○
○
○ ○
メタスルホ安息香酸デキサメタゾンNaセルフチゾン注
0.33∼3.3mg
○ ○ ○ ○
○
○
○ ○
リン酸ベタメタゾンNa
0.1∼2mg
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○
○ ○ ○
リンデロン注
○ ○
5) 粘液溶解剤
アセチルシステイン系薬剤(アセテイン他)
は吸入
用薬剤で、上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)に適応があり
ます。軽度の硫黄臭があって不快感や、粘膜刺激の
あることがあります。
チロキサポール(アレベール)は界面活性剤で、粘
液溶解剤としてよりも吸入薬の溶解剤、エアロゾル粒
子の安定剤として使用されます。
○ ○
○ ○ ○
○
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
○
○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○
○
○
○ ○
○ ○
○ ○
○
○
○ ○
○ ○
の目的で使用されます。超音波ネブライザーを使用
した場合にはエピネフリンの含量低下の報告がありま
す。
◎吸入器の種類 19)
吸入療法は、水あるいは薬液をエロゾル粒子に変
え、それを患者が吸入することで気道および肺に到
達させ、気道分泌物を軟化させたり、薬物を気道病
変部へ直接噴霧する治療法ですが、薬液をエロゾル
粒子に変えるために吸入器が使用されます。
吸入器の種類は大きく分けて、圧縮空気で霧を作
る「ジェット式」と、超音波で霧を発生させる「超音波
式」、定量噴霧式吸入器(Metered Dose
Inhaler:MDI)の3種類に分けられます。
6) 血管収縮剤
エピネフリン、硝酸ナファゾリン、塩酸オキシメタゾリ
ン、塩酸トラマゾリンなどを1日2∼5滴を他の薬剤に
添加使用します。
5000倍ボスミンを止血、粘膜の充血や腫脹の除去
3
あじさい Vol.10,No.6,2001
表3 に現在販売されている吸入器(
MDI 以外)の
特徴を一覧表にまとめてみました。
があげられます。よって、薬剤投与量設定には十分
な注意が必要です。
1) ジェット式ネブライザー(コンプレッサー型)
加圧空気や酸素を吸入器に送り込みジェット気流
を発生させ、ベンチェリー効果で薬液を吸い上げ、粒
子を発生させる吸入器です。構造が簡単で衛生管理
も用意です。発生粒子径は幅広く一般的に10μm 以
上(最近のネブライザーは 10μm 以下の粒子を含む
割合が多くなっている)で、鼻腔、副鼻腔(圧力変動
を要す)、咽喉頭に沈着します。各種の薬液が投与
可能です。マウスピースを延長ホースとマスクに変え
ることで仰臥位でも使用可能です。 比較的安価で
すが、重く音の大きいものがあります
2) ネブライザーの残液量特性
ジェット式、超音波式ともに安定した霧化量を供給
するには容器内の一定量以上の薬液量が必要であ
り、これを下回るといわゆる空回りの状態となります。
1.の点もあわせて吸入療法には不可欠な「余分な
注入量」が必要と考えられます。
2) 超音波式ネブライザー
超音波振動により薬液を分散して粒子(ミスト)をつ
くるため、1∼5μm の比較的ちいさな粒子を作り、肺
胞まで到達します。音が静かなのが特徴です。構造
が複雑なため衛生管理は煩雑となります。カビや細
菌の繁殖に注意する必要があります。過剰に行うと肺
胞レベルで over hydration(過給水)を引き起こすこ
とがあります。粒径が 0.5∼5μm と比較的微細で均
一な粒子を高濃度に発生させることができるため、耳
管、副鼻腔、下気道、細気管支、肺胞など肺の奥へ
到達させることができます。
値段はジェット式に比べるとやや高くなります。また、
吸入薬物が超音波の作用で分解されることがあり、
注意を要します。
表4 目的部位と機種19)
副鼻腔
咽喉頭
下気道
超音波ネブライザー
ジェット式ネブライザー
超音波ネブライザー
ジェット式ネブライザー
ジェット式ネブライザー
超音波ネブライザー
◎吸入療法の留意点
4) 超音波による薬剤の分解
超音波ネブライザーは、薬剤が超音波の振動でエ
アロゾル粒子が発生する時、薬剤が分解されることが
わかっており、また発生した粒子が非常に細かいの
で、再呼出されて定着しにくい欠点もあります
5) 器具の消毒と感染
器具の洗浄、消毒後は直ちに乾燥させ、使用ごと
に新しい器具に取り替えること大切です。またエアゾ
ル薬剤あるいは発生器機の病原汚染による感染の
可能性も大きいことに留意する必要があります。
① 音波により影響を受ける不安定な薬剤
(噴霧後30分まで薬剤残存率90%を割る低
下が認められる)
<薬剤:抗生物質> 商品名(一般名)
・結晶ペニシリンGカリウム(ベンジルペニシリ
ンカリウム)
・硫酸ポリミキシンB(硫酸ポリミキシンB)
<薬剤:ステロイド剤>
・ソルコーテフ(コハク酸ヒドロコルチゾンナト
リウム)
・リンデロン(リン酸ベタメタゾンナトリウム)
・プレドニン(コハク酸プレドニゾロンナトリウ
ム)
? プレドニンは酸性・塩基性薬剤との配合によ
り超音波の影響がみられる傾向にある。
3) 定量噴霧式吸入器
液化ガス(フロン等)と薬液の混合体を小ボンベに
高圧に充填し、一定量ずつ噴霧(原理はジェットネブ
ライザーと同じ)させる器具です。粒径が 2∼7μm、
噴霧量が 1 パフ0.05∼0.08mL に調節されています。
携帯に便利でいつでも使用できるため、薬液別に患
者に使用の時期を理解させることが重要です。ハンド
ネブライザーともいわれます。
耳管
鼻腔
3) 薬剤濃度の経時的変化
1回注入式の場合には問題になりませんが、容器
内の薬剤濃度は噴霧時間を追うに従って上昇します。
そしてその程度は容器内の残量が少なくなるに従い
強まります。原因は溶媒が霧化されやすく、気化しや
すいためです。
② 超音波の影響や配合変化が認められ配合
を避ける薬剤
・アレベール(チロキサポール)+ソルコーテフ
※抗生物質とステロイド剤との配合では配合に
よる薬剤安定性の低下は特に認められない
18)19)21)22)23)
1) 薬剤の容器内残留
吸入療法の欠点のひとつに容器内に注入された
薬剤の全部が体内に、また目的部位に到達しない点
4
あじさい Vol.10,No.6,2001
※ビソルボン(塩酸ブロムヘキシン製剤)は PH2.4
と低いため、配合時の PH 変動と考えられる白濁
を各種薬剤と認めやすい
※希釈により霧化する。
喘息患者では水の吸入が刺激となり気管支痙攣
を起こす場合もあるので希釈は蒸留水より生食
がよい。また希釈率が高い場合はせき込むことが
あるので希釈水は等張作用のある生食がよい。
③ 温度の影響を受けやすい薬剤配合
アレベール+ソルコーテフ
+プレドニン
+ソルメドロール(コハク酸メチルプ
レドニゾロンナトリウム)
ビソルボン+ソルコーテフ
+プレドニン
+ソルメドロール
超音波ネブライザーを使用した場合、超音波に
より薬剤は時間経過とともに温度上昇します。現
在市販の超音波ネブライザーを使用して生食を
20分間継続噴霧したとき温度は約3∼7℃上
昇
④ 超音波の影響はみられず使いやすい薬剤
<アミノグリコシド系薬剤>
硫酸ゲンタマイシン(ゲンタシン)
硫酸アミカシン(ビクリン)
トブラマイシン(トブラシン)
硫酸カナマイシン(硫酸カナマイシン)
硫酸ジベカシン(パニマイシン)
硫酸シソマイシン(シセプチン)
5)副作用
薬物局所療法であるから最小の有効量で局所に最
大の効果が迅速に得られ、一般に安全性が高いとい
えますが、抗原性をもつ薬剤の場合にはアナフィラキ
シーショックのような副作用を起こすこともあるので、
アトピー体質をもち、他の薬剤にも過敏な患者には
注意する必要があります。また、注射剤中の添加物
である安息香酸化合物、ベンジルアルコールなどは
アスピリン喘息の誘発物質であるといわれています。
よって、注射剤を使用する場合には添加物にも注意
する必要があります。あじさい Vol.4 No.4 19995
『アスピリン喘息』を参照。
アミノグリコシド系抗生物質においては、聴器障害
があります。
◎配合変化
吸入薬の配合変化について、各メーカーの資料、
文献を元にデータベースを 作成しました。配合変化
の実験の条件等は、個々のメーカー、病院によりそ
れぞれで異なっており、一概に比較することはできな
いかもしれませんが、今回の『あじさい』では、配合変
化試験を行っているものを一覧にして、先生方の参
考にしていただこうと、企画いたしました。中には同じ
ものを実験したデータにも関わらず、実験結果が異
なっているものがありましたが、配合変化を起こして
いる方を重視して掲載しました。
対象となる医薬品(A 医薬品)を五十音順に並べ、
相手医薬品も五十音順に並べています。
配合の可否が、はっきり記載、あるいは判断できる
ものに関しては
○:配合可能
△:配合注意
×:配合不可
空欄:条件により配合可能な場合あり
としました。
⑤ 超音波により悪臭が発生する薬剤
原因:安息香酸プロピルなどの添加剤が超音波
により分解、原末および製品で超音波により硫化
物を生成
硫酸アミカシン(ビクリン)
硫酸ジベカシン(パニマイシン)
ラクトビオン酸エリスロマイシン(エリスロシ
ン)
塩酸リンコマイシン(リンコシン)
※リンコシン製品の超音波吸入は不適当
⑥ 超音波により変色する薬剤
デカドロン(リン酸デキサメタゾンナトリウム)
※薬剤使用上は特に問題ないと考えられる
⑦ 超音波噴霧で生食と比較して霧化量が少
ない薬剤処方
ベクタシン+デカドロン…霧化せず
ベストロン+リンデロン…霧化せず
イセパシン+デカドロン+蒸留水…生食噴霧の
約半分の霧化量
ファンギゾン+蒸留水…生食噴霧の約半分の霧
化量
5
あじさい Vol.10,No.6,2001
21) 小宅ら.吸入療法における気管支拡張剤の安定
性;病院薬学 16:5.294,1990
22) 村瀬ら.吸入療法におけるアミノグリコシド系抗生
物質製剤の安定性 11:1.32,1985
23) 小宅ら.吸入療法におけるステロイド剤の安定性
16:6.355,1990
24) 添付文書
25) 石井ら.バンコマイシン吸入による MRSA 除菌の
試み;現代医療 23:(増刊 V).2912,1991
♪♪♪♪♪まとめ♪♪♪♪♪
アレベールは炭酸水素ナトリウム 2.0%を含むため
弱アルカリ性(
pH8.0∼8.6)を呈し、さらに経時的に
大きな pH の上昇をきたすことから配合変化を起こし
やすい薬剤であると思われます。アレベールが配合
変化を助長する可能性があるため、他剤との配合は
用時調整が望ましく、配合液の保存は避けた方がよ
いようです。添付文書にも「用時調整」との記載があり
ます。
ビソルボンは酸性(
pH3.0∼5.0)であり、他剤と配
合すると、白濁や沈澱をおこしやすい組み合わせが
多いため、配合時には注意が必要です。
吸入療法に用いる薬物は、たとえ薬理作用に問題
がなくても、臭気や味覚が悪いとかえって喘息様発
作を誘発することがあるといわれ、注射剤を吸入用と
して超音波ネブライザーで使用する場合には薬剤の
安定性はもとより臭気や味覚などの考慮も重要です。
また、注射剤中の添加物である安息香酸化合物、
ベンジルアルコールなどはアスピリン喘息の誘発物
質であるといわれています。よって、注射剤を使用す
る場合には添加物にも注意する必要があります。
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
13)
14)
15)
16)
17)
18)
19)
20)
<参考文献>
大塚製薬資料
千寿製薬資料
田辺製薬資料
エーザイ資料
西垣ら.呼吸器官用吸入剤アレベールの配合変
化;JJSHP20:1.37,1984
インタール吸入液インタビューフォーム
日本ベーリンガー資料
三共資料
ペントシリンインタビューフォーム
アストラゼネカ資料
BMS 資料
オルガドロン点眼・点耳液インタビューフォーム
ベストロン耳鼻科用配合変化表(改訂3版).グレ
ラン資料
万有資料
中外資料
福嶋ら.注射剤の配合変化
椿.エアロゾル療法用薬剤の選択;
JOHNS2:7.62,1986
大越.気道疾患術後の療法としてのネブライザ
ー;JOHNS9:10.63,1993
小泉.ネブライザー;
JOHNS10:2.153,1994
野口ら.噴霧吸入法;化学療法の領域
9:12.25,1993
<編集後記>
吸入療法で使用される吸入器は種々機種が
ありますが、特に超音波によるエアロゾル療法
は安定性のよい微粒子が比較的均一に得られ
ることから、臨床で汎用されています。しかし、薬
物によっては超音波処理の影響を受けるものも
あり、ネブライザーの使用にあたっては吸入剤
の超音波による影響や配合による変化などを把
握しておく必要があります。
又、今回ご紹介した薬剤の中には、保険で認
められていない薬剤がございますので、使用さ
れる場合にはその点十分ご確認下さい。
先生方の一参考資料として使用して頂けれ
ば幸いです。
発行者:富田薬品(株)
CS課
池川登紀子
お問い合わせに関しては当社の社員又は、下記ま
でご連絡下さい。
TEL (096)373-1141
FAX (096)373-1132
E-mail [email protected]
6