甲状腺腫瘍診療における病理診断の役割 ―病理組織診断は良性腫瘍と悪性腫瘍を 正確に区別できるか?― 覚道 健一1)/佐藤 伸也2)/山下 弘幸3) 1)近畿大学医学部奈良病院中央検査部病理客員教授 2)医療法人福甲会やました(甲状腺・副甲状腺)クリニック副院長 3)医療法人福甲会やました(甲状腺・副甲状腺)クリニック院長 甲状腺癌病理診断の原則 まりにも当 然 の 基 本 原 理(central dogma)となっているため,この診断 診断の不一致 基準のもつ矛盾点に,疑問をもつ人 病理組 織診断は最も信頼性の高 は少ない。しかし,もし核所見のみで 一方,近年病理診断の信頼性が揺 い検査方法として,甲状腺癌診療方 良性と悪性を判定できるのであれば, らぐような,診断の不一致を報告す 針の決定に重要な役割をもち,腫瘍 濾胞癌の核所見も,これがあれば濾 る論 文が,甲状 腺腫 瘍の病 理診断 診断のgold standardとされている。 胞癌としないと,この診断基準のバ で集中的に発表されている1)-8)。これ 甲状腺癌の病理診断において,その ランスが崩れる。他の臓器において, は1つの組 織型にとどまらず,甲状 診断の根拠となるものは,以下の3 腫瘍細胞の形態学的特色のみで良性 腺腫瘍全体に及び,広範囲に報告さ 点の組織学的診断基準である。①乳 悪性の判定をする例は稀で,例外的, れている。筆者はこの原因は,診断 頭癌の核所見,②浸潤増生(腫瘍被 少数に限られる(ホジキン病のリード 基準に根本的な不備があることに起 膜浸潤,脈管浸潤),③転移(所属 ステルンバーグ細胞,乳腺皮膚のパ 因すると考えている。残念ながら日 リンパ節転移,遠隔臓器転移)。こ ジェット細胞の存在など)。現実的な 本語での発表であるが,われわれは れら3点の有無で良性腫瘍と悪性腫 運用として,濾胞癌の診断において 1996年,他に先駆けてこの点を指摘 瘍に鑑別診断をしている(図1)。甲 は,核所見を根拠とせず,②浸潤増 し,その後の英文での論文発表につ 状腺腫瘍の病理診断では,これら3 生の有無,③転移の有無のいずれか なげている1)-3)5)。すべての問題点を 者のどれか1つがあれば悪性と診断 を適応し決定する。良性と診断する ここで詳細に記述することは困難で する。しかし,乳頭癌の核所見があ ためには,上記3診断基準のすべて あるため,一部を図に示して簡単に れば乳頭癌と診断されるのであって, が否定されるときにのみ,はじめて 解説すると,乳頭癌の核所見の判定 濾胞癌とは診断されない。これはあ 濾胞腺腫の診断を適応する(図1)。 は, 「あり」と「なし」の2群に分ける SAMPLE Thyroid Cancer Explore Vol.2 No.2 9(99) Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.
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