#1 prologue 組織を活性化させるために #2 episode① 自社と他社の統合 #3 episode② 上司と部下の整合 #4 episode③ 本社と現場の連携 #5 episode④ 顧客理解力の向上 #6 episode⑤ 事業部同士の共有 #7 episode⑥ トップと現場の連続 #5 episode④ 顧客理解力の向上(顧客理解による組織活性化) PMIコンサルティング株式会社 藤井 厚(監修:PMIコンサルティング 代表取締役社長 辰井伸洋) ての社員が自発的に顧客と向き合 阻害されるが,顧客理解力の弱い い,積極的に協働することで支え 企業は,(2)経営システムに問題 られている。弊社では,このよう があるケースが多く見られる。特 近年,「売れる商品を開発でき に「1.目的の共有,2.主体的・ に①評価指標,②階層間および部 ない」「一度売れても長続きしな 自発的,3.協働」の 3 つが成り 署間のコミュニケーション,に問 い」といった悩みを抱える企業が 立つ状態を「組織が活性化されて 題があるケースが目立つ。 増えている。顧客の価値観やライ いる状態」と定義している。つま ①評価指標における問題 フスタイルが多様化し,急速に変 り,組織の活性化が顧客理解を支 化するなか,消費者ニーズを理解 えているのだ。 組織の活性化が 顧客理解を支える することが難しくなってきている のだ。闇雲に商品,サービスを投 じても,このような状況から脱す 顧客理解を阻害する 経営システム 顧客の最前線に立つ営業部隊の 多くは,目先の業務や数字ばかり に捉われ,顧客を観察,理解する 時間的余裕,精神的余裕など全く ない場合がほとんどだ。こうした ることは難しい。仮に,偶然ヒッ マーケティングのプロを多く抱 状況は,「売上up」「顧客数up」 トしたとしても,その多くは単発 え,消費者調査に資金を投じれば, といった最終成果を評価指標とし で後に続かない。このような状況 顧客理解力を強化できるといった ているために,引き起こされてい が続けば,業績の低迷とともに, 思い込みに捉われる企業はいまだ るケースが多い。これでは,ヒッ 社員のモチベーションは低下,さ に多く存在する。もちろんそれら ト商品やサービスにつながる有益 らに組織の求心力も低下する。結 も重要な条件ではあるが,それだ な情報の収集は難しい。 果,顧客ニーズを理解しようとす けでは顧客理解力を上げることは ②階層間および部署間のコミュニ る活力も失われ,ますますヒット できず,成果を出せないケースが ケーションにおける問題 商品,サービスから遠ざかること 後を絶たない。組織活性化の仕組 一方,最前線に立つ営業部隊が になる。 みづくりが不足しているためだ。 顧客から有益な情報を得ても,組 多くの企業がこのことを見落とし 織の上下の階層間,横の機能間を がちである。 情報が流れるたびに,顧客情報の 一方,ヒット商品,サービスを 継続的に生み出し,成長を続ける 企業も存在する。これらの企業に 弊社では,組織活性化の土壌に 希薄化,解釈のズレが起きること 共通していることは,顧客理解力 必要な要素を,(1)理念(ビジョ が多い。例えば,最前線の営業部 が高いという点だ。この顧客理解 ン),(2)経営システム(制度・ 隊から経営者に辿り着くまでの 力の高さは,顧客を理解すること 体制・態勢),(3)経営システム 間,もしくは開発や生産に辿り着 こそが自社の最重要課題であると の運用/管理体制,(4)人材,と くまでの間に,リアルな顧客情報 社内で共有され,顧客の本当のニ 定義している。この中のいずれか は薄まり,ひどい場合には都合の ーズを見極めるために,ほぼすべ に問題があると,組織の活性化が いいように内容が歪められること 92 人事マネジメント 2011.10 www.busi-pub.com 藤井 厚(ふじい あつし)PMIコンサルティング株式会社 シニア・コンサルタント 1981年生まれ。慶応義塾大学理工学部卒業後,フューチャーシステムコンサルティング(現:フューチャー アーキテクト)を経て,2010年より現職。様々な業種の企業に対して,マーケティング戦略,ブランド戦略, 商品開発,新規事業戦略等,マーケティング領域での幅広いコンサルティング経験を持つ。人を洞察し,人に 働き掛けるコンサルティングに従事。 PMIコンサルティング株式会社 企業の成長戦略を描くことにとどまらず,「人と 組織」の問題にダイレクトに踏み込むコンサル ティングを提供。■URL:http://www.pmi-c.co.jp episode④ 顧客理解力の向上 もある。 組織活性化に向けた 顧客理解力向上策 を“こなす”だけの者も出てくる 接点の有効なツールとして活用す だろう。 る企業が増えてきた。顧客からリ また,加賀屋は,評価指標の実 アルな情報を引き出し,組織の誰 現のために配膳・下膳の自動搬送 もがそれらの情報に直接触れる仕 組織の活性化を阻害するこれら システムを導入するなどハード面 組みづくりは必須である。様々な の問題の解決策として,①プロセ からのバックアップも欠かしてい 立場の人が顧客の生の声に触れる ス指標の設定,②顧客接点拡大の ない。加賀屋から学ぶべきは,評 ことで,それぞれのベクトルが顧 仕組みづくり,が有効である。 価指標を最終成果指標ではなくプ 客に向いて議論できる環境を整え ①適切なプロセス指標の設定 ロセス指標にすることに加え,そ ることが重要である。特に流通・ の実現を会社が全面的にバックア 小売業界では,ソーシャルメディ 和倉温泉の旅館「加賀屋」のエピ ップするという点だ。そのことが, アの効果的な活用が進んでおり, ソードから学ぶべき点は多い。加 顧客に一層真剣に向き合う環境を ロイヤルカスタマーの醸成のみな 賀屋は,「プロが選ぶ日本のホテ 作り,顧客から快い反応が返って らず,組織に顧客理解を浸透させ ル・旅館100選」で30年連続日本 くることで組織の活性化につなが るためのツールとして定着を図る 一に輝いた日本を代表する名旅館 るのだ。 企業も増えてきている。 であり,特に心のこもったおもて ②顧客接点拡大の仕組みづくり 顧客理解力に優れた例として, なしに定評がある。そのおもてな 次に,「階層間および部署間の 今回は,顧客理解という切り口 し力の源泉は,従業員に課された コミュニケーション」は,様々な で組織活性化のアプローチを示し 「客室係の接客時間」という評価 立場の人が顧客との接点機会をで たが,多くの企業は,顧客理解は 指標にある。要するに,客室係に きるだけ多く持つことが最も重要 マーケティングの問題,組織活性 時間的余裕がなければ,お客様個 である。なぜならば,顧客に関す 化はマネジメントの問題と切り離 別の好みやニーズを引き出すこと る情報に直接触れていないがゆえ してしまいがちであるが,実は密 はできず,「最高のおもてなし」 に,階層間,部署間で顧客に関す 接に絡み合っているのだ。それぞ の実行には,客室係の時間的余裕 る認識ギャップが発生し,コミュ れを別々の組織で考えているのだ も必要だということだ。 ニケーションがうまくいっていな としたら,本来の力を出し切れて ポイントは,評価指標を最終成 いためだ。とはいっても,経営陣 いない可能性がある。 果に当たる「顧客満足度」などで や部門によってはなかなか顧客接 そのことにマーケティング担当 はなく,プロセスに当たる「接客 点を持てないこともあるため,情 者も気がつき始めており,マーケ 時間」とした点だ。これにより, 報システムがそれを支えるもので ティング担当者から弊社に「組織 接客時間は当然長くせざるをえな なければならない。顧客情報を単 活性化」に関して相談を持ちかけ いが,そのことにより顧客 1 人ひ に収集・分析するだけではなく, られることが増えている。マーケ とりの特徴やニーズを発見するこ 組織と顧客の接点を拡大するため ティングをはじめ,顧客との継続 とができるのだ。仮に,評価指標 の仕組みとして機能させなければ 的な関係構築に苦労している企業 を「顧客満足度」とした場合,行 ならない。 は,ぜひ本稿を参考にしていただ 動プロセスが曖昧になるため,目 最近では,TwitterやFacebook 先の業務に追われ,効率よく接客 などのソーシャルメディアを顧客 き,顧客理解力の向上に役立てて いただきたい。 2011.10 人事マネジメント www.busi-pub.com 93
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