380 最新塗料講座(第 XIII 講) J. Jpn. Soc. Colour Mater., 84〔11〕,380 – 385(2011) 塗料・塗膜に関連した分析技術 日下田 成 *,† * ㈱東レリサーチセンター有機分析化学研究部 滋賀県大津市園山 3-3-7(〒 520-8567) †Corresponding Author, E-mail: [email protected] (2011 年 9 月 16 日受付; 2011 年 10 月 18 日受理) 要 旨 塗料は,要求されるさまざまな特性を実現するために多数の成分から構成され,組成分析の難易度が高いものの一つである。また, 塗料・塗膜の劣化という問題も永遠の課題であり,劣化機構や現象をきちんと把握し解析することは,寿命予測などを行う意味でも 非常に重要である。塗料・塗膜の分析については,組成分析,物性分析,環境関連分析から,不純物分析,劣化解析に至るまで,多 数の項目がある。本稿では,塗料・塗膜についていくつかの分析事例について解説する。 キーワード:組成分析,物性分析,発生ガス分析,劣化解析 図-1 に一般的な塗料の有機組成分析における分離のフローを 1.はじめに 示す。塗料中に含まれる成分については,複数の溶媒による粗 塗料・塗膜に必要とされる機能は塗布する相手材の保護(腐 分離と,GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)などのクロマト 食・劣化防止など)や美装(色彩・光沢など)であり,それに 加えて,汚れ防止,帯電防止,電磁波シールド,防臭・防錆等の 表-1 塗料中に含まれる化合物 機能を要求されることも多い。さらに,近年では環境負荷低減 の観点から,塗料の水性化や粉体化が進められ,塗料・塗膜に 含まれる,あるいは放出される重金属や VOC(Volatile Organic Compounds :揮発性有機化合物)の削減にも注目が集まってい る。このような背景から,用途や目的に応じて種々の塗料が開 発,製品化されており,それら塗料・塗膜のもつ機能や特性発 現のもととなる組成や物性を正確に把握しておくことは,今後 さらに高付加価値品を開発したり,環境負荷低減化を目指すう えで重要である。 アクリル,ウレタン,エポキシ,アルキド,塩ビ, 酢ビ,天然樹脂,セルロース系,メラミン,シリ コーン,フェノール樹脂など 塗膜 有機・無機着色顔料,金属顔料,改質顔料,防錆 顔料 成分 顔料 分散剤,可塑剤,増粘剤,消泡剤,乾燥剤,安定剤, 添加剤 防腐剤,防錆剤,凍結防止剤,老化防止剤,紫外 線吸収剤など 揮発 水,炭化水素類,アルコール類,エステル類,ケ 溶剤 成分 トン類 樹脂 本稿では上記のことを踏まえ,①塗料の有機組成分析,②塗 料中における顔料の分散状態の評価,③発生ガスの分析,④劣 化塗膜の評価について紹介する。 2.塗料の有機組成分析 塗料の構成成分は揮発成分である溶剤成分と,塗膜成分に大 別される。表-1 に一般的な塗料の成分組成を示す。塗膜成分に ついては,樹脂成分,顔料,各種の添加剤などが含まれ,それぞ れ異なる機能をもたせている。このように塗料は非常に多数の成 分から構成されているために,有機組成分析は難易度が高い。 〔氏名〕 ひげた なる 〔現職〕 ㈱東レリサーチセンター有機分析化学研究 部 〔趣味〕 パソコン,クラシックギター,ゴルフ 〔経歴〕 1998 年東北大学大学院理学研究科 (化学専攻) を修了。同年東レ㈱に入社後,㈱東レリサ ーチセンターに出向。熱分解 GC/MS 測定を 中心としたポリマーの構造解析の担当を経 て,2000 年より NMR を主体とした高分子 材料の構造解析や,化学分解を併用した縮 合系ポリマーの組成分析,NMR を主体とし た低分子量有機化合物の構造解析を担当。 − 12 − 図-1 一般的な塗料の分析における分離のフロー
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