DOHaD 研究 (ISSN 2187-2597) 2016 年 第 5 巻 第 1 号 46 頁 妊娠期甲状腺機能低下マウスにおける産仔の行動異常の DNAメチル化制御 1 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 分子内分泌代謝学分野、2東京医 科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 メタボ先制医療講座、3東京医科歯科大 学大学院 医歯学総合研究科 臓器代謝ネットワーク講座、4東京医科歯科大学 難治疾患研究所 神経病理学分野、5AMED CREST 川堀 健一1、橋本 貢士2、袁 勲梅3、辻本 和峰1、加瀨 早織1、藤田 慶大4、田 川 一彦4、岡澤 均4、小川 佳宏1, 5 【背景】潜在性および顕性甲状腺機能低下症の妊婦から生まれた児は、将来知 能低下や精神障害を高率に呈することが知られている。しかし母体の甲状腺機 能低下状態がどのような分子機構によって児の表現型に影響するかは不明であ る。【目的】胎生期の甲状腺ホルモンレベル低下によって中枢神経系遺伝子に エピゲノム変化が生じ、その変化が長期に記憶されることで、将来児に高次脳 機能障害を来すという仮説を検証する。【方法】妊娠2週間前より出産時までマ ウス母獣に0.025% methimazole (MMI)を与え、その仔(M群)を解析し対照群(C群) と比較検討した。中枢神経系遺伝子発現、DNAメチル化解析を生後28日、70日 に行い、更に生後70日に行動試験を行った。【結果】母獣の出産時の血清甲状 腺機能はMMI投与群において低下していた。産仔は生後28日において海馬にお けるBrain-derived neurotrophic factor (Bdnf)exonⅣの遺伝子発現がM群において低 下し、exonⅣのプロモーター領域のDNAメチル化が有意に増加していた(C群vs M群:6.5% vs 9.7%)。またM群は水迷路試験の潜時延長と恐怖条件試験のすくみ 反応減少を認めた。【考察】妊娠期の母獣の甲状腺機能低下が、DNAメチル化 を介して仔の海馬におけるBdnf遺伝子発現低下をもたらし、成長後の空間およ び恐怖記憶の低下を引き起こす可能性が示唆された。本研究は、妊娠期におけ る母体の甲状腺機能低下による児の知能低下や精神障害のDNAメチル化制御の 可能性を初めて示したものである。
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