「東京人 2016年12月号」<Close up Tokyo, Books本

苅部
乃 直
平松洋子
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狗絶 ナ
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世界の人びとは、どことなくグ ローバ
リゼーションが底をついてきていると感
じ始めた。トツドは新著 ﹃
問題は英国で
はない、EUなのだ﹄で、米国の大統領
選挙を通して見ても、不平等の拡大、支
配的な白人グループにおける死亡率の上
昇、社会不安の 一般化によ って、ナショ
ナルな方向 への揺り戻しが始ま ったと述
べる。英国のEU離脱は、欧州統合がグ
ローバリゼーションという全世界的プ ロ
、
流から消えたフランスでは 個人がます
、
ます超個人主義にな ってしまい 拠り所
、
を失 ったフランスの支配階級は 自己陶
酔的な肯定の場を反イスラームに求める
、
きらいもある。憂慮されるのは 中産階
級が、移民や若者といった下位の階級に
。
利己的な態度を取 っていることだ
そもそもフランスは、もともと国内が
必序であり、フランス人同士でも互い
征介
、
にいざこざは絶えない。トッドは 外国
、
から異質な要素が入 って来 ても 失う
ジ ェクトのもはや地方版に過ぎず、留ま
る意義を見出せないことから生じた、と
一
言っている。
というのも欧州は、米英に追随した経
済的グ ローバリゼーションの上に、各国
家の政治的廃止というイデオ ロギーの夢
を重ねることで、グ ローバリゼーション
の作用を悪化させたからである。
英仏と日本とドイツの出生率について
も、常識的ではあるが、的確な比較を試
様だと指摘する。とりぁぇず難民が流入
する近隣諸国の負担はも っと大変であ
る。人口比であれば、レバノンの人口千
、
人当たりの難民数は百八十三人であり
、
。
世界最多の難民吸収率である しかも
そこにはパレスチナ難民が入 っていな
、
い。次位はョルダ ンであり 八十七人で
ある。レバノン人口の五分の 一をシリア
難民が占めているという指摘は分かりや
。
すく、痛切な響きを帯びている
リビアが混乱の始まる二〇 一一年以前
から、エリトリア人など人口移動の集約
地であり、欧州 への出航地だ った事実は
高齢化している日本は、国民の同質性を
重んじるあまり、人手不足の問題解決を
テクノロジーに求めている。
これとは対照的にドイツは、大国にふ
さわしいパワーの追求を諦めず、信じが
たいほど冒険主義的な労働力輸入政策に
打 って出ている。この意味で、ドイツが
周辺地以のいたるところで国境と国家の
で、リビアにいた非正規移動者の数は百
。
万から二百万と見積もられていた リビ
アの全人口は六百四十六万人にすぎなか
つた時期でさえ、人口過剰だ ったのであ
る。トルコなど中束の難民政策を批判す
、
る国連やEUの姿勢には 虚偽とは言わ
。
ずとも偽善を感じざるを得ない この点
は、トツドの見方と墓田氏の見解には共
通する面もある。
ところで、日本は難民の受け入れに閉
鎖的であり、世論も消極的だと言われる
ことも多い。二〇 一五年に法務省が難民
として認定した数は二十七人にすぎない
ことを見れば、確かに消極的だと言える
エマニュエル・トッド、訳 堀茂村/文 春新書/896円
21世 紀の新・国家論
山 肉 昌之
東京大学名誉教授・国際関係史
のか。墓田氏のリアリズムには学ぶべき
点が多い。●
本人の耳柔に心地よく響く内容ではな
い。しかし、北朝鮮や中国からの難民が
大挙して到来する事態を公海や領海でい
かに阻止するのか、あるいは受け入れる
くもに積極的な国際協力を行えばよいと
、
。
いうものでないと慎重である そして
こ と比較して、安
軽率な碁一
緒方氏の ﹁
慎重姿勢﹂にもそれなりの理
倍首相の ﹁
。
由があ ったと同情するのである
人道大国﹂になれな い日本の
結局、﹁
限界を怜悧に考察した本書は、あまり日
、
倍晋三首相であ っても シリァ難民の受
け入れを認めなか った。これについて
リス
は、国連に勤務した緒方貞子氏が ﹁
クなしに良 いことなんてできませんよ﹂
、
と批判的であ った。墓田氏は 安全とリ
、
スクの管理は政治家の責務であり やみ
も難民申請をすれば在留延長が認められ
、
るケースが多 い。いきおい 難民申請者
、
が難民性の低い人で占められるために
公表される難民認定率も低くな ったのは
、
当然だというのである。結局 難民認定
、
制度が事実上の移民制度とな っており
比較的安全なアジアの国の出身者が多 い
のが日本の特徴なのだ。
二〇 一五年に難民支援策を表明した安
だろう。しかし、就労目的の難民申請も
。
多く、偽装申請もかなり多 い 帰国が迫
つた技能実習生も、たとえ偽装であ って
グループの宗教の預言者ムハンマドを冒
濱する、無自覚な差別主義の発露だと手
厳しい。確かに、カトリツクが社会の本
ない。三〇 一五年 一月のテロをめぐ って
起こった ﹁
私はシャルリ ・エブド﹂のメ
ッセージと運動は、差別されている弱者
いずれにせよ、統合欧州を理解するキ
ーワードは、難民とイスラームかもしれ
ドイツの経済パワーのほうが重きを成し
つつあるというのだ。
意味をなくしているという指摘は興味深
い。果たして、ウクライナや中東では、
アメリカの ﹁
無力な軍隊装備﹂よりも、
134
欧 州 の難 民 対 策 から
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こと。
書評同人
パーフェクトな状態﹂がないタフな社
﹁
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一一年 の時点
あまり知られていな い。
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みている。英仏は人口が増えもせず減り
もしないバランスのとれた状態にある。
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墓田桂 /中 公新書 /929円
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″
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会だと定義する。
浄い
一
﹄
他方、トッドの日本観はかなり肯緊に
非常に排外的で差
中 っている。日本は ﹁
、 仲間同士
別主義的﹂なわけではなく ﹁
問題 は英国ではない、
EUな のだ
揺、EUの 苦悩、日本 の課題
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で暮らしている状態が非常 に幸せなの
で、その現状を守ろうとしているだけで
、
はないでしょうか﹂と。互いを慮り 迷
惑をかけないようにするといった意味で
完成されたパーフェクトな世界﹂
は、﹁
ではないかと洞察するのだ。
この関連で言えば、難民はフランスに
、
せよ、日本にせよ、ドィツにせよ まさ
に社会と国際関係の安定を望む社会にと
つて、すこぶる厄介な要因なのである。
、人
難民を考えるときに有効なのは ﹁
。
口移動の流れ﹂という観点であろう 墓
難民問題﹄は、貧しいエジプトで
田桂 ﹃
、
さえシリア難民の目的地であり EUヘ
の経由地であり、より豊かなトルコも同
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