平成 21 年度第 4 回浦安市文化財審議会(県外視察)結果報告 1 2 3 開催日時 平成 21 年 11 月 18 日(水) 午前 9 時∼午後 12 時 30 分 視 察 先 足立区立郷土博物館 出 席 者 (委 員)平野委員長、杉山委員、平野(敏)委員、丸山(光)委員、 丸山(純)委員 (事務局)押尾生涯学習部長、中里館長、高橋主査 4 視察経過 (1)視察目的 浦安市郷土博物館は、今年度開館以来9年目を迎えて、利用者から常設展示 のマンネリ化や映像機器の旧式化など指摘されている。そこで、常設展示の改 装に関する知見や情報などを入手するため、最近リニューアルを終えた足立区 立郷土博物館を視察した。 (主な問題関心) ・設置理念及び運営理念を見直す必要があるのか。 ・今回以降も続く、実効性ある長期リニューアル計画をどう担保していくか。 ・区民、利用者からの要望を展示リニューアルにどのように反映させたのか。 ・リニューアルの動機づけとなった問題点は何であったのか。 ・楽しさ、親しみやすさ、分かりやすさについての工夫をどうしたのか。 ・個別利用者への対応策及び想定する、主たる利用者層への対応策をどのよう にしたのか。 ・博物館職員は、リニューアル計画の執行にどのように関わったのか。 (2)視察内容 足立区立郷土博物館の応接室において、多田学芸員、荻原学芸員より館の 概要のほか、「ボランティア活動」「学校利用」「足立区立郷土博物館の常設展 示リニューアルの経緯」等について説明いただいた。 その後、エントランス内にある映像機器や展示設備等を紹介いただいた後、 「江戸東京の東郊(農業展示)」ほか、館内展示を説明いただいた。 (3)視察結果 ①常設展示の見直し構想 足立区立郷土博物館は開館 20 年を経過し、常設展示のマンネリ化と展示資 料の劣化(見えなくなってしまったグラフィック、壊れてしまったジオラマ) などが原因で、年間有料入館者数の漸減傾向に歯止めがかからなくなっていた。 このため、区財政当局から博物館に対し、今後も博物館として存続させるか 否かが問われていた。 検討した結果、区民協働の支援施設としても位置づけることで、今まで博物 館へ投下してきた施設設備費を活かす方向で、改修計画を決定した。改修計画 の中身として、施設設備の更新と常設展示のリニューアルに踏み切ったもので ある。 1 ②リニューアルの基本理念 足立区は江戸東京の近郊東北部に位置し、その変貌に影響されながら、地域 の特徴を形成してきた。そこで、足立区の現代までの成り立ちを区民に伝える 博物館にするため、江戸時代から現代に至るまでの「江戸東京の東郊」を基本 テーマとした常設展示改装を行った。 あわせて、運営の基本テーマに足立らしい「泥臭い、地域に根付いた展示」、 「子どもが楽しく学び、遊べる博物館」、 「区民との協働を支援する博物館」を 掲げ、これらのテーマに沿った運営ができる内容の展示改装を行った。 ③区民、利用者からの意見、要望 地域住民、学校及び住民団体から成る博物館連絡協議会や利用団体 12 団体 からなる博物館登録グループ連絡協議会から基本計画などの策定段階に応じ、 意見、要望を聴取していった。意見・要望として、地元に拘った「足立らしい 泥臭く、地域に根付いた展示」あるいは「展示室の暗さの解消」「交通機関の 不便さの訴え」などがあったとのことであった。 ④展示造作の考え方 今後、財政窮乏が長期継続するとの予測のもと、足立区立郷土博物館自身、 必要時機に安価に展示改装できるよう、改修工事を行った。 その内容については、概ね以下のとおりである。 展示造作の可変性 ・エントランスホールの床及び展示台を可動式のものとした。 ・必要に応じて床をフラットにし、展示スペースの拡張を可能とした。 ・常設展示の造作を容易に変更できるようにした。 展示スペースのテーマ区分 ・1階を農業、2階を工業及び物作りに関する産業を中心にスペース構成。 取り外しのできる解説パネル仕様 ・職員だけで解説パネルの取り外しができる壁面仕様を採用した。 ・パネルを軽量のものとした。 ローテク化の採用 ・故障時のことを踏まえ、専門業者でないと対処できない最新の映像機器類 は極力取り入れないようにした。 ・不具合が生じたとき、即時かつ安価に職員で対応できるようにローテク化 を実現した。 ・業者に依拠せざるを得ない造作部分については、その仕様書に極力、汎用 品を指定し、特注品を使用させないようにした。それにより、施工完了後 のメンテナンス経費の軽減と故障時の短時日対応を可能とした。 解説表記などの工夫 ・展示パネルなどの解説表記は、世代が違っても興味関心に応答できるよう に大人向け、子供向けに書き分けている。 ・子どもが実物資料を自由に選んで取り出し、見て、触れて体感でき、自分 で片付けまでできるよう、資料内臓式の引き出しやボックスを配置した。 2 多様な利用者への対応 ・障がいの有無に拘らず利用できるようユニバーサルデザインを採用した。 ・小学校の利用目的として、社会科見学の対象施設として博物館を見学する ものである。区内小学校 70 校中、約半分の 30∼40 校の利用がある。 ・就学前の子どもも楽しみながら学べるよう、実物資料を手に取って選べる ように工夫された「子どもホール」をエントランスに設けている。 区民との協働支援の取り組み ・団体の自発的活動を支援し、活動成果を博物館と共同で発表できるよう、 博物館登録団体が利用できる研修室を備えている。 ⑤リニューアル事業実現までの経過 足立区では、20 年を経過した公共施設に対し、改修のための「施設再整備 計画事業」という行政施策がある。その施策と文化振興基金という財源を利用 して、老朽化した設備の改修とともに、常設展示のリニューアルが実現できた。 改修事業の歩み 平成 18 年度(開館 20 周年) ・リニューアル基本構想、基本計画及びラフ・スケッチの作成(博物館職 員が担当) 平成 19 年度(開館 21 周年) ・基本設計図書、工事費概算見積書作成、予算要求 ・実施設計図書、総工事費見積書作成 ・展示改修工事業者入札・決定 平成 20 年度(開館 22 周年) ・展示造作物設置工事、模型搬入設置、解説パネル類取付け (※ 年度後半に工事、年度末開館) 経費 基本構想・基本計画は外部委託とせず、自前で処置 0 千円 基本設計、実施設計はプロポーザルで委託契約 9,800 千円 展示改修工事は指名競争入札による委託契約 163,000 千円 工期中の利用者対応 工期中、博物館サービスが休止となることから、利用者との関係が疎遠に なる。そこで、博物館への理解が損なわれないよう「出前展示」や「改修中 の舞台裏展示」などの事業を実施した。 担当職員の業務負担 リニューアル計画を実行する博物館職員には、日常の博物館業務の負荷も あったので、その執行により業務負担が過大となった。最低限の負担緩和策 として、リニューアル担当職員を2人体制とした。 ⑥浦安市郷土博物館の検討課題となっている農業展示について 足立区立郷土博物館では、第 1 展示室において「江戸東京の東郊」をテーマ に常設展示している。 3 ⑦質疑応答 (委 員)足立区立郷土博物館のボランティアについてうかがいたい。 (回 答)大きくは「展示解説ボランティア」と「資料ボランティア」がある。 展示解説ボランティアは 40 名ほどおり、土日祝を中心に展示を案内 いただいている。また資料ボランティアは学芸員と一緒に寄贈された 資料の修理、整理を行うほか、館内のミニ体験に協力いただいている。 (委 員)リニューアル計画についてうかがいたい。 (回 答)当館では開館 23 年目にしてリニューアルを行った。開館 10 年目にも リニューアルの話がでたが、財政的な面で実現できなかった。開館 20 年を迎え、本格的な施設改修計画、再整備計画の話が持ち上がり、 計画を実行に移し、今回のリニューアルにつながっている。 (委 員)次回以降のリニューアルについて、計画はあるのか。 (回 答)今回のリニューアルで、部分的な改修を随時行える基礎ができた。 予算等の兼ね合いもあるが、利用者の利便性なども考慮して、リニュ ーアルを継続していきたい。 (委 員)リニューアルを行うにあたっての弊害についてうかがいたい。 (回 答)今回のリニューアルでは約半年の閉館期間があり、「閉館期間の間、 博物館は何をしているの」という意見もあった。 (委 員)具体的な方策などは行ったのか。 (回 答)労力ではあったが、出前展示や講座開講、リニューアル途中の博物館 見学を実施した。とりわけ、改装中の博物館見学は大変好評であった。 日常業務とリニューアル計画が重なり、負担は非常に大きかった。 ⑧視察を終えて 足立区立郷土博物館を視察した感想及び意見等について委員にうかがった。 委員よりだされた意見については、以下のとおりである。 足立区立郷土博物館のリニューアルを視察した感想 ・博物館の限られた内部空間を有効に生かし、リニューアル計画が実施された と感じた。 ・「子どもホール」を中心に展示が配置されているのは、子どもや地域の人々 を中心とした活動や展示を象徴しているという印象を持った。 ・職員の展示に関するアイディアが前面に出ていた。見学の対象である小学生 の社会科学習にも対応しているように感じた。 ・博物館入口の吹き抜けホールは開放感があり、全体が広く明るく感じた。 ・限られた展示スペースを有効活用した「引出し形式の展示(発見引出し)」 は新鮮な感じがした。 ・「子どもホール」の床が可動式になっており、展示の目的によって広さ等を 調整できる便利さを感じた。 農業展示について ・「行政面積のほぼ全体が農業地域である」との説明であったが、スペースが あれば、もっと種々の農具が展示できたであろうと感じた。 ・江戸東京という都市の近郊という利便を生かし、農地を増やしてきた歴史が 4 大切かつわかりやすく展示されていた。 ・本市との関連性は少ないと思うが、野菜及び花の栽培については、足立区に おいて当時としては開発的であったのだろうと感じた。 ・展示解説ボランティアによる「農業」に関する解説が如何なるものか、機会 があれば知りたい。 ・農業展示については、資料の収集状況によって検討が必要と感じた。 ・浦安の農業展示として、浦安らしさをだすならば「ハス生産」を取り入れて いただきたい。 リニューアルする際に取り入れたほうがよいと思われる点について ・正面入口スペースに開催中の目玉展示物を1∼2点設置してアピールしては いかがだろうか。 ・実物資料を展示することが一番望ましいと思うが、実物資料がない場合は、 模型等が展示されていると、なおわかりやすい。 ・リニューアルにあたっては、市民と協働することも必要であると感じた。 ・リニューアルのプロセスを展示しているのは、非常に新鮮に感じた。 ・リニューアル工事期間中は、浦安市郷土博物館も休館になると思うが、外部 からは単なる休館としか理解されないと思う。足立区立郷土博物館のように 出前展示や講座開講等の館外活動が必要であると感じた。 その他(環境設定、ボランティア活動等に関する意見) ・足立区立郷土博物館と庭園の一体感が心地よかった。浦安市郷土博物館の正 面芝生広場にも海苔干しや投網等の体験に活用され、博物館周辺の環境も大 切だと感じた。 ・浦安市郷土博物館のように、「もやいの会」のようなボランティアがいれば なお地域に根付いた博物館になるのではないかと感じた。 ・浦安市郷土博物館には「もやいの会」というボランティア組織があり、協力 的である。浦安のボランティアの皆さんに改めて感謝したい。 以上で、平成 21 年度第 4 回浦安市文化財審議会(県外視察)が終了した。 5
© Copyright 2024 Paperzz