渡瀬茂『栄花物語新攷 - 思想・時間・機構』出版のご案内

渡瀬茂『栄花物語新攷 - 思想・時間・機構』出版のご案内
栄花物語新攷 - 思想・時間・機構(研究叢書 471)
渡瀬
茂
著
2016 年 04 月 12 日出版
和泉書院
A5 判
550 頁
定価(税込み)11,880 円
ISBN:978-4-7576-0779-8 C3395
魯の春秋にはじまる編年体史書の歴史は、平安朝において日
本的な展開を示し、かな散文に出会うことによって日本語の歴
史叙述である栄花物語を生み出した。本書は儒教思想に淵源を
持つ編年体の時間と機構が、かな散文の文章による作品として実現するさまを探り、また
作品に仏教思想の高潮が深く刻印を与えるさまを確かめた。そこには栄花物語の二つの相
貌、すなわち「年代記」と「信仰の書」という、異なった相貌が見いだせるであろう。
目次
第一章
編年的時間
第一節
編年的時間の思想性と機能性
中国史書の様相
第二節
四時と中国暦法
日本史書の変容
漢文史書の日本的展開
日本紀略内部の異質性について
月日次の記載から見た光仁・桓武・平城紀
宇多紀以降の月日次記載
宇多紀の天文記事
第三節
宇多紀末尾の問題
土左日記の時間と栄花物語
編年的時間と「かくて」
土左日記の「ある人」について
屏風歌・土左日記・栄花物語
第四節
栄花物語の「かくて」の機能
「かくて」の類の多用
叙述と作品世界の二重性
第五節
源氏物語の「かくて」
平板さの意義
「ゆくさき」と「ゆくすゑ」
「ゆくさき」と「ゆくすゑ」の用例数
信仰の時間
第二章
物語の全体性と歴史叙述の部分性
第一節
作品の部分性と全体性
第二節
固有名詞と歌物語
栄花物語の「ゆくすゑ」
未来の欠如
巫鈴本大和物語
固有名詞の機能
大和物語の歴史性と伊勢物語の反歴史性
第三節
勢語古注と固有名詞
物語の辺境―竹河の時間における全体性の頽落―
竹河の時間
没落する家族
匂宮三帖
物語的全体性の頽落
第四節 蜻蛉後半の虚無―精神の頽廃と時間の停滞―
大君
第五節
浮舟
薫
源氏物語の反歴史性と栄花物語
河海抄の物語論
第六節
物語の全体性と歴史叙述の部分性について
栄花物語の続稿
作品「栄花物語」とは何か
栄花物語の増補
第三章
模倣としての続篇
死と信仰
第一節
死をめぐる叙述について
死の諸相
第二節
愛別離苦
死の集積と信仰
死をめぐる叙述について、ふたたび
時間の把握
「はかなし」の語義
「はかなし」の諸相
第三節
信仰と時間
うたがひの巻の時間について
編年的時間の逸脱
第四節
時間的表現の排除
永遠の時間
道長の死の叙述をめぐって
出家する人々
道長の死
仏教典籍の言語
第五節
臨終の行儀
権者
たまのうてなの尼君たち
翁と老法師
法成寺造営
巡拝する尼君たち
第六節
叙述の視覚性
法成寺世界の空間的ひろがり
世界の尼・花の尼
世界
第七節
尼
花の尼
信仰の時代
奇跡の起こる場所
時代
戒律と破戒
奇跡の物語
第四章
歴史叙述の非完結性
革新の始まり・堕落の始まり
技法と思想
第一節
系譜記述の問題
叙述の緯としての人物関係
系譜記述の方法
系譜の潜在と系譜記述の顕在
第二節
はつはなの巻の「むらさきささめき」の一節をめぐって
紫さゝめき
登場人物としての女房
無名の詠者
第三節
和歌の機能
名の集積・うたの集積
人の集積
第四節
名の集積
衣裳の集積
うたの集積
政治的意志の否定
儒教的政治観
兼家と政治的意志
道長と政治的意志
第五節
作品の政治倫理
花山院出家の叙述における「さとし」について
栄花物語の「さとし」と源氏物語
かな散文作品の「さとし」の個人的性格
平安中期語としての「恠」と「さとし」
「恠」と「物忌」、そして陰陽師
源氏物語の「さとし」の異質性
第五章
ことばと文体
第一節
日記文学の文体と栄花物語
物語の文体
土左日記の文体
紫式部日記の文体
第二節
日記的文体の意義
歴史叙述としての栄花物語の文体
叙述の諸特質
第三節
推量の助動詞と「けり」
第四節
知覚・伝達の語句
第五節
はつはなの中関白家
花山院
歴史物語の終焉─増鏡における文体の危機について─
歴史物語の文体史
あとがき
真実性の表現
中関白家・花山院関係記事の文体的特徴と「けり」
中関白家叙述と「けり」
初出一覧
含羞の文体
正篇における歴史叙述のことば
「侍り」
索引
かげろふ日記の文体
文体の危機
散文の終焉と和歌