看護進学会 横浜市立大学 問題1 小論文講座 平成 17 年度 次の文章を読んで、次頁の設問に答えなさい。 喫煙の動向について わが国では比較的喫煙者の割合が多く、2002 年の日本たばこ産業の喫煙者割合調査では男性 49.1%と初めて 50%を下回ったものの、成人の2人に 1 人が喫煙者である。男性では 1980 年代に入 るまで 70%と従来から喫煙者の割合は高かった。全体では単調に減少しているものの、60 歳代の高 齢群に比べ、20 歳代では減少の程度が緩やかで、40 歳代では近年変化が少なくなっている、など一 様でない。女性でも、全体では 15%前後を推移し大きな変化はないものの、①年齢群別では 40 歳代を 境に高齢群では減少傾向にあるものの、20∼29 歳など若年群では明らかな増加傾向が認められる。 1964 年の公衆衛生総監報告以来、積極的なたばこ対策を推進してきた米国では、その成果として 肺がんは減少傾向にある。日本では男性の喫煙者割合は高く死亡の減少を観察するまでには至ってい ない。また国により喫煙対策には差があり、ハンガリーなど東欧諸国では喫煙対策の遅れからまだ喫 煙者が多く、肺がん死亡率も急峻な上昇傾向を示している。途上国においても、たばこ消費量として は大きくないが喫煙者割合は増加してきており早急な対策が望まれる。 わが国では 2003 年 5 月 1 日より( a )法が施行され、多くの人が利用する施設の管理者に対し、 ( b )防止のための措置をとる努力義務が課された(第 25 条)。( c )によるたばこ規制枠 組み条約(FCTC: Framework Convention on Tobacco Control)をはじめ国際的な流れの中で国内でも 喫煙対策が推進されつつあるところである。 禁煙の効果、受動喫煙について 1990 年の米国公衆衛生総監報告では、禁煙により肺のほか、口腔、食道、膵臓、膀胱、子宮頸部 がんのリスクは減少し、肺の前がん病変の程度も軽減するとされている。また肺がんでは禁煙後 10 年で喫煙継続者のリスクに比べ3∼5割のレベルにまで減少するとされ、その後の研究でもほぼ一致 する結果が報告されている。リスク減少の程度は異なるものの禁煙する年齢にかかわらず喫煙継続者 よりリスクが減少し、また多発がんとの関連においても禁煙は喫煙継続者よりリスクが低いとされる。 (中略) ②受動喫煙について、米国がん研究所のモノグラフでは、肺がんや副鼻腔で関連があり、子宮頸が んで関連が示唆されるとしている。関連の強さは能動喫煙ほど大きくはなく明らかな関連を認めない とする報告もあるが、がん以外の疾患や、妊娠、小児への影響なども含めて健康に影響を及ぼす要因 の1つであり対策を必要とする。 (出典:吉見逸郎、祖父江友孝:特集 肺癌:診断・治療の最前線;高齢化する肺がん、急増する腺 がん. 癌の臨床 49:989-996、2003 より抜粋) 注1 前がん病変:将来がんになる可能性の高い状態 注2 モノグラフ:1つの特定の問題を詳細に取り扱った研究論文 1 看護進学会 設問1( 小論文講座 )内に下から適切な語句を選び記号で記入しなさい。 能動喫煙 世界保健機関 未成年者喫煙禁止 環境汚染防止 世界医師会議 副流煙 受動喫煙 健康増進 設問2 下線部①に関して、この現象が生じた要因を4つ、300 字以内の箇条書きで述べなさい。 設問3 下線部②を説明しなさい。 設問4 下線部②について、あなたの意見を健康上の観点から 400 字以内で述べなさい。 2 看護進学会 小論文講座 【解答例】 設問1 a 健康増進 b 受動喫煙 c 世界保健機関 設問2<ここでは5つ書いたが、このうち4つ書けていればOK。> ○高齢群では自分自身の健康に気遣う人が多く、たばこをやめる人が増えたため、結果として喫煙率 が低下した。 ○1985 年の男女雇用機会均等法以後、女性の社会進出が進むにつれて、ストレス解消のために喫煙 習慣をつけた若い女性が増えた。 ○日本市場に進出した外国たばこが、女性向けのたばこをファッションに必要なアイテムと位置づけ、 「自立する女性」イコールたばこというイメージに影響を受けた若い女性が増えた。 ○喫煙すると食欲がなくなるが、それがダイエットになると考える若い女性が増えた。 ○未成年の喫煙率の上昇がそのまま若い世代の喫煙率上昇につながった。特に女性は依存性が強いた めに20代の喫煙率が上昇した。 設問3 たばこの煙は、喫煙者の吸入する煙、吐き出された煙、そしてたばこの点火部から直接立ちのぼる 煙の3種類があるが、このうち3番目にあげた点火部からの煙、いわゆる副流煙には強力な発がん性 物質が含まれるという。そこで、非喫煙者であっても喫煙者のそばにいて副流煙を吸うことで健康を 害する危険度が高くなる。これを受動喫煙と呼ぶ。 設問4 課題文中には、受動喫煙について「関連の強さは能動喫煙ほど大きくはなく明らかな関連を認めな いとする報告もある」という指摘があるが、それでも、危険性が報告されている以上、非喫煙者の健 康への影響はあるものとして考えるべきだ。健康増進法でうたわれた受動喫煙の防止を徹底させた い。 たばこは成人ならだれでも吸うことができる嗜好品であって、むやみに制限を加えるべきではない、 という意見もある。だが、受動喫煙防止の観点から、たばこを吸う自由はあくまで喫煙者本人が被る 健康リスクを自己責任で負う場合に限られる。受動喫煙によって非喫煙者の健康を損なう権利はな い。 近年、条例によって路上喫煙を禁止する地方公共団体が増えた。だが、健康増進法の主旨に従うな らば、路上喫煙こそ法律で全面禁止すべきなのではないか。そうした思い切った施策こそが、国民の 健康を守るために必要である。(377 字) 3 看護進学会 問題2 小論文講座 青少年の体力・運動能力は、生活習慣と密接にかかわっており、将来の健康に大きな影響を 及ぼします。表1は「体格の比較」、表2は「体力・運動能力の比較」を示したものです。これらを もとに以下の設問に答えなさい。 表1 体格の比較 項目 身長(cm) 年 13 歳 16 歳 座高(cm) 昭和 47 平成 14 昭和 47 平成 14 昭和 47 平成 14 男子 141.1 145.2 34.7 39.4 76.1 77.9 女子 143.2 146.8 36.3 39.8 77.6 79.3 男子 154.9 160.2 44.9 50.6 82.8 85.2 女子 152.6 155.2 45.7 48.3 83.1 83.8 男子 167.4 169.9 57.5 61.9 89.6 91.0 女子 155.6 157.7 51.9 53.3 85.0 85.4 年齢・性 11 歳 体重(cm) (文部科学省 平成 15 年度学校保健統計調査結果概要より作成) 表2 体力・運動能力の比較 項目 握力(kg) 年 持久走(秒) ボール投げ(m) 昭和 47 平成 14 昭和 47 平成 14 昭和 47 平成 14 昭和 47 平成 14 男子 21.10 21.15 8.80 8.96 … … … … 女子 20.10 20.04 9.10 9.26 … … … … 男子 31.10 31.69 8.10 7.95 374.00 388.65 22.60 21.80 女子 25.60 24.62 275.40 294.98 15.60 13.75 男子 44.40 42.33 7.50 7.41 361.40 376.25 27.20 26.42 女子 29.70 26.76 8.90 9.13 293.00 312.81 16.70 14.49 年齢・性 11 歳 50m 走(秒) 13 歳 16 歳 8.70 8.85 (文部科学省 平成 14 年度体力・運動能力調査結果より作成)注 持久走…男子 1500m、女子 1000m 設問1 表1、表2から読み取ることのできる特徴を、各々2つずつ4つあげなさい。 設問2 表1、表2を関連づけて言えることを 50 字程度で述べなさい。 設問3 設問2の解答を踏まえ、そのような現象が生じた背景を、現代の青少年の生活状況から 500 字以内で述べなさい。 4 看護進学会 小論文講座 【解答例】 設問1 表1(1)男女とも、全年齢層において身長・体重・座高の数値が伸び、体格の向上が認められる。 表1(2)男子は 13 歳、女子は 11 歳における数値の伸びがもっとも大きく、男女とも 16 歳における 伸びがもっとも小さい。 表2(1)11 歳男子の握力、13 歳男子の握力と 50m走、16 歳男子の 50m走の表中の4個所のみ数 字を伸ばしている。その他の階層・年齢層では体力・運動能力を示す数値が悪化している 表2(2)男子に比べて女子は体力・運動能力の低下が大きい。特に 16 歳女子の低下が最も大きい。 設問2 平成 14 年までの 30 年間において、男子・女子共に体格は向上した一方、体力や運動能力は低下した。 (47 字) 設問3 昭和 47 年の時点で 16 歳の子供は 1956 年生まれということになる。つまり、同調査対象の世代が育 ったのは、日本の伝統的な食、すなわち魚や野菜中心の食生活が主流だった時代である。 しかし、平成 14 年の調査時点における子供たち、つまり平成に入ってからの時代に育った世代の 食生活は西洋型中心である。日本でファミリーレストランが最初にオープンしたのは 1970 年だそう だが、昭和 50 年前後には西洋型の食生活が全国に波及したと推測できる。肉中心の食生活の定着が、 子供たちの体格を向上させたのだろう。 一方、現代の子供たちの体力や運動能力は低下している。これは、身体的な発育が進んでいるにも かかわらず、運動する機会が激減していることが理由だろう。昔の子供なら、近所の空き地や広場で 野球をしたり鬼ごっこをしたりして、自然に培われてきた体力や運動能力だが、現代では仲間と遊ぶ 機会は屋内でのテレビゲームが主流である。外で遊ぶにも空き地や広場さえないのが現実だ。こうし た生活状況が、現代の青少年における体格の向上と運動能力の低下というアンバランスさを招来して いるといえる。(472 字) 5
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