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Ca代謝とArterial Stiffness

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Ca代謝とArterial Stiffness
折茂
肇
健康科学大学学長
のである。このような変化を病的変化と捉えるか,
はじめに
あるいは加齢による生理的変化と捉えるかは難し
加齢に伴い血管の石灰沈着が増加し,血管の弾
い問題を含んでいるが,ほとんどすべての人に共
性が低下することは古くから知られているが,そ
通した現象であり,それ自体では重大な臨床症状
の詳細および機序については不明な点が多い。本
を起こしてこないことから加齢による生理的変化
論文ではまず加齢に伴う動脈の変化につき述べ,
と考える研究者が多い。
次いでその機序に深く関与しているCa代謝の役割
につき述べることにする。
動脈の加齢による変化は生理学的には血管の伸
展性(コンプライアンス)の低下をもたらす。剖検
で得られた日本人の胸部大動脈の伸展性を周径と
加齢による動脈の変化
壁張力の関係から検討したNakashimaら3)のデータ
1. 形態および機能の変化
によれば,高齢者ほど周径─張力曲線は左にシフ
加齢とともに動脈には周径の拡大,長軸方向への
トし,加齢とともに大動脈の伸展性が低下するこ
伸展,動脈壁への肥厚が出現する。これらの動脈の
とが示されている。大動脈の硬さの指標として,
形態変化のうち最も重要なものは壁の肥厚である。
大動脈脈波速度(PWV)を用い,大動脈の硬さを非
ヒトの剖検例において大動脈内膜,中膜の厚さを計
侵襲的に調べた成績からも,PWV値は加齢ととも
測したデータによれば,大動脈の壁厚は加齢ととも
に直線的に増加することが示されている4)。
1)
に直線的に増加し,特に内膜の肥厚が著しい 。
加齢に伴う内膜肥厚は主として内皮下層の肥厚に
加齢により動脈は伸展性のみならず,種々の血
管作動物質に対する反応性も変化する。
よりもたらされ,病理学的には繊維間基質の増加,
破壊された細胞片,脂肪滴の沈着が認められる1)。
動脈中膜は,弾性板と平滑筋層が幾重にも重な
ってできており,動脈収縮の原動力となるもので
2. 構成成分の変化
1)
コラーゲン
コラーゲンは動脈壁の結合組織を形成する線維性
ある。中膜も内膜と同様,加齢により肥厚するが,
蛋白であり,線維芽細胞,中膜平滑筋細胞で,プロ
その程度は内膜に比しそれほど著明ではない。中膜
コラーゲンペプチドとして合成される。このプロコ
平滑筋細胞の単位面積あたりの数は加齢とともにむ
ラーゲン分子はプロコラーゲンペプチターゼの働き
しろ減少し,細胞自体の質的変化(空砲変性,筋原
により,C端末,N端末のアミノ酸のいくつかが切
2)
線維の減少など)も生ずる 。中膜には平滑筋細胞
断され,コラーゲン分子となる。このコラーゲン分
層だけでなく弾性板が存在しこの中膜弾性板には,
子はリシルオキシダーゼの働きにより分子内,分子
1, 2)
加齢とともに断裂,走行の乱れが出現する
。
動脈壁の加齢による病理学的な変化は,細胞間
間の架橋結合が起こり,膠原線維を形成する。動脈
は加齢とともにその伸展性を失い,硬化していくが,
質の増加,カルシウム,脂肪沈着など一部動脈硬
この大きな原因の一つに,この架橋結合が加齢とと
化(粥状硬化)と類似する点もあるが,局所的な病
もに増加することがあげられる。架橋結合は動脈の
変である動脈硬化と異なり,びまん性に起こるも
弾性を保つうえに重要であるが,その増加とともに
1346-8375/03/¥400/論文/JCLS
Ca代謝とArterial Stiffness
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和性が強いとしている。エラスチンのもつ脂質結
動脈の伸展性は減少していく。
動脈のコラーゲン含量は加齢とともに増加する
合性は,加齢および動脈硬化における動脈所変化
とされる。ラット大動脈中のコラーゲン量を測定
に大きな役割を演じていると考えられるが,その
したLookerらのデータでも,コラーゲン量は加齢
本態は明らかでない。
5)
とともに増加することが示されている 。動脈中の
コラーゲン量は加齢以外の病的状態,特に高血圧,
6)
粥状硬化部位の動脈で著明に増加するとされる 。
このとき,増加するものはV型コラーゲンであり,
この病的意義については現在のところ不明である。
2)エラスチン
1.加齢に伴い動脈壁の細胞間質,カルシウム,脂
肪沈着が増加し,動脈壁特に内膜が肥厚する。
2.加齢に伴い動脈壁の伸展性が低下する。
3.加齢に伴い大動脈脈波速度(PWV)は直線的に
エラスチンはコラーゲンとともに結合組織を形成
する重要な構造蛋白であり,動脈では主として内,
外の弾性板の主成分となっており,動脈の弾性機能
に大きな役割を果たしている。エラスチンは動脈中
膜平滑筋細胞で未成熟型エラスチン(トロポエラス
7)
チン)として合成され細胞外に分泌される 。その後
増加する。
4.加齢に伴い動脈壁のコラーゲンの架橋結合が
増加し,動脈の伸展性が減少する。
5.加齢に伴い動脈壁の正常エラスチン量は減少
し,変性エラスチン含量が増加する。
コラーゲンと同様にリシルオキシダーゼの働きによ
り架橋結合が起こりしだいに水に不溶性となる7)。
エラスチンはマイクロフィブリルとともに規則的に
加齢と動脈硬化
配列し,弾性線維elastic fiberを形成する。加齢とと
加齢とともに動脈硬化の頻度は増加し,加齢が
もにエラスチンの量の減少,断裂が起こり,また生
動脈硬化の大きな危険因子であることは明らかで
化学的にはアスパラギン酸,リジン,アルギニンな
ある。アテローム硬化の動脈内腔面占有率と加齢
どの極性アミノ酸の割合が増加する。動脈硬化巣で
の関係を調べたEggenら11)のデータによれば,正常
もより高度ではあるが同様の変化が認められる。エ
内腔は加齢とともに直線的に低下し,75歳では
ラスチンの減少,断裂は動脈の弾性機能を低下させ,
30%にまで減少する。脂肪斑は35歳まで増加する
さらに圧負荷に対する動脈の抵抗性を弱めることに
が,以後減少し,代わりにより進展した形の線維
なる7)。エラスチンはエラスターゼにより分解され
斑が直線的に増加する。
るが,ヒト大動脈で加齢,動脈硬化の進展とともに
加齢とともに動脈硬化が進展する機序として加
大動脈壁内エラスターゼ活性は増加することが示さ
齢自体あるいは加齢に伴う何らかの変化が,動脈
れており,エラスチンの断裂に関与すると考えられ
のアテローム硬化に対する 感受性 を増加させる
8)
ている 。しかし一方でエラスターゼの投与はエラ
可能性が考えられている。サルにコレステロール
スチンの断裂を抑制するとの報告がみられる。この
負荷を行うと,若いサルでは脂肪斑しかできない
矛盾に対する十分な説明は得られていないが,エラ
のに対し,成熟期以後のサルではより進んだ病変
スターゼは変性エラスチンをより多く分解し,そ
が惹起されることが報告されている 12)。また,コ
の結果,正常エラスチンの生合成が亢進するとの
レステロール負荷家兎を用いた実験によっても同
9)
仮説 がある。加齢とともに動脈の石灰化が起こる
様の成績が報告されている 13)。ヒトでも実際に同
が,このカルシウムの沈着はエラスチン分画に起こ
様のことが起こりうるかどうかは確認されていな
10)
ることが示されている 。
いが,動脈の加齢による変化と動脈硬化は病理学
エラスチンはさらに,動脈壁の脂肪沈着にも重
的にも生化学的にも類似点が多く,加齢による動
要な役割を果たすと考えられている。Kramschら9)
脈の変化が動脈硬化の発症基盤になりうることが
はエラスチンは特にLDL,VLDLと親和性が強く,
十分考えられる。
これらのリポ蛋白からのコレステロールおよびエ
ステル型コレステロールがエラスチンと結合する
1.加齢自体あるいは加齢に伴う何らかの変化が
とし,さらに動脈硬化巣から抽出したエラスチン
動脈壁のアテローム硬化に対する感受性をた
は,正常の大動脈から得られたものよりも脂質親
かめる可能性がある。
Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.4 2003
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ことが明らかにされており,加齢は動脈硬化の最
Caと動脈硬化
大の危険因子であると考えられる15)。
骨粗鬆症患者においては,腹部大動脈に動脈硬
骨粗鬆症も加齢に伴って増加する疾患であるが,
化を示す所見であるカルシウム沈着がしばしば認
X線で評価した骨粗鬆化スコアと各種動脈のカルシ
められる。このような所見からもCa代謝と動脈硬
ウム沈着との関連を検討した成績では,骨粗鬆症
化の間には強い関連のあることが示唆される14)。
が進展するほどカルシウム沈着が増えることが示
されている(図1)。図2に著者ら15)が200症例を対象
1. 動脈硬化と骨粗鬆症の関連
に動脈硬化の危険因子と考えられる要因を多変量
動脈におけるカルシウムの沈着には病理学的に
解析した結果を示すが,骨粗鬆化が耐糖能や高血
みて三つの形態がある。すなわち,①動脈硬化末
圧とは独立した虚血性心疾患や胸部・腹部大動脈
期像としてのatherosclerotic plaqueへの局部的な沈
石灰化の危険因子であることがわかる。最近閉経
着,②高齢者に多くみられるMönckeberg's sclerosis
後女性の骨量と死亡率との関連を調べた成績が報
とよばれるmuscular arteryへの広範な沈着,そして
告されているが,骨量が少ないほど死亡率が高く,
③特に大動脈弾性線維へのびまん性の沈着である。
心筋梗塞による死亡率も高くなっていることが明
このような現象は男女とも加齢に伴って増加する
らかにされている 16)。さらに同様の検討で,閉経
図1 動脈内カルシウム沈着と
骨粗鬆症スコアの関連
:男性,
胸部大動脈
100
80
発
生 60
率
40
(%)
20
:女性
0
骨粗鬆症
スコア
0
骨粗鬆症
スコア
41/54
13/42
0/9 0/6
0
0/8
I
II
大腿動脈
100
80
発
生 60
率 40
(%)
20
22/35 9/14
19/35
III
腹部大動脈
100
80
23/46
11/30
0/6 0/4
4/33 0/4
0
I
図2 動脈硬化と危険因子
との多変量解析
4/31
II
Age Sex Porosis Ht
2/14
III
TG Chol
42/53
60
17/32 19/33
14/36
40
20
0
9/16
1/48
0/7 0/48
0
I
II
III
+
2++
+++
Uric Fibri- Hyper- Glucose
R R
N
acid nogen tension tolerance
脳血管障害
0.4325 18.70 211
心筋梗塞
0.2617 6.85 207
ischaemic
ST.T changes
0.3993 15.94 211
カ 胸部大動脈
ル
シ
ウ 腹部大動脈
ム
沈
着 大腿動脈
0.4667 21.78 212
0.3967 15.73 199
0.4491 20.17 180
:p<0.05
Ca代謝とArterial Stiffness
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後女性では骨折が多いほど生存率が低いという成
さまざまな年齢の人を対象に血中PTHを測定し
てみると,男女とも加齢に伴って血中PTHが増加
績も報告されている。
カルシウムが動脈硬化の危険因子であることを
15)
することがわかる。その結果,血管壁へのカルシ
説明する考えとしてCa shift theoryがある 。すな
ウム流入が促進され,動脈硬化が発症する。また
わち,加齢によって骨から動員されたカルシウム
一方,PTHは骨からのカルシウム移動を促進する
が動脈に沈着し動脈硬化を引き起こすという考え
ので,骨粗鬆化を促進する。加齢に伴うPTHの過
方である。このカルシウムの骨から動脈へのシフ
剰はこのようにして動脈硬化と骨粗鬆症を惹起す
トには,副甲状腺ホルモン(PTH)とエストロゲン
ると考えられる(図3)
。
の二つのホルモンが重要な役割をしている。PTH
PTHのこのような作用は動物実験によって証明
には骨吸収促進作用があり,動脈へのカルシウム
されている。in vitroでPTH添加時のラット動脈平
沈着を促進させる作用がある。一方エストロゲン
滑筋培養細胞の45Ca摂取を検討した成績では,用量
にはPTHのこれらの作用に拮抗する作用がある。
依存性にPTHによるカルシウム摂取の増加が認め
加齢に伴いPTHエストロゲン欠乏が生じ,両者の
られる。また,in vivoで45Caを注射したラットの
バランスが崩れ,その結果として骨粗鬆症と動脈
大動脈を摘出して検討したところ,用量依存性に
硬化が発症するものと考えられる。
PTHによりカルシウム摂取が増加していることが
認められる。
2. 動脈硬化の成因におけるPTHの役割
2)
動脈硬化のトリガーとしてのカルシウム
カルシウムは内皮細胞の透過性を高め,血管平
1)
PTHと動脈硬化
動脈硬化の成因における脂質の役割についての研
滑筋細胞やマクロファージの内膜への移行を促進
究は盛んに行われているが,PTHとの関連に注目し
する。平滑筋の細胞増殖に関与し,コラーゲンや
た研究はほとんど行われていないのが現状である。
エラスチン分泌を刺激する作用がある。その他,
17)
Rostandら は,PTHと動脈硬化との関連に関して
リポ蛋白の細胞内取り込みに関与し,平滑筋細胞
これまでの知見を以下のごとくにまとめている。
や内皮細胞の収縮弛緩や細胞運動,リポ蛋白の膜
①ラットにおけるPTH投与およびhyperparathyroidismにおいて血中コレステロールおよび中性脂
肪が増加する。②過剰なPTH投与によって耐糖能
への結合など,さまざまな作用に関係している。
動脈硬化の発症機序は,現在Rossらによる
Response-to-injury
18)
仮説 に従って理解されてい
が悪化し,インスリン抵抗性が惹起される。③過
る。すなわち高脂血症,高血圧,糖尿病などによ
剰なPTHは血管平滑筋細胞へのカルシウム流入を
り障害された内皮細胞が血管の内腔面より剥離し,
促進する。④過剰なPTHは動脈壁へのカルシウム
その結果露出した内皮下組織に血小板が粘着,凝
沈着を増加させる。
集する。さらに凝集した血小板より血小板由来成
長因子(Platelet-derived growth factor;PDGF)が放
図3 動脈硬化と骨粗鬆症の成因におけるPTHの役割
出され,中膜より平滑筋が遊走して内膜内で増殖
し,線維性内膜肥厚を形成する。内皮障害が一過
加齢
性ならば障害された内皮細胞は周囲より修復され,
軽度の内皮肥厚を残して動脈硬化の形成は終了す
る。動脈硬化惹起性の刺激が続けば,動脈硬化巣
PTH過剰
の形成過程はさらに進行し,泡沫細胞の出現,血
管壁マトリックスの生合成の亢進により内膜はさ
らに肥厚し,カルシウム沈着などを伴う複合病変
↑血管壁への
カルシウム流入促進
↑骨からの
カルシウム移動促進
へと進展するとする説である。
その後動脈硬化研究の進歩に伴い,この仮説の
19)
修正がなされた 。その一つは,種々の原因によ
り内皮細胞が障害を受けると内皮細胞自身が増殖
動脈硬化
骨粗鬆症
Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.4 2003
因子を分泌すること。他は糖尿病,高血圧,喫煙
などの危険因子が存在する際には内皮細胞の剥離
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は起きないが,機能が傷害され,増殖因子の放出
あることが認められている。さらに1990年代には
が起こり,内膜平滑筋細胞は内膜へ遊走し,PDGF
ヒトを対象に,Ca拮抗薬の抗動脈硬化作用を検討
を分泌し増殖し,その結果線維内膜肥厚が形成さ
した臨床研究が行われている。1990年のINTACT
れるとするものである。
studyではnifedipineの抗動脈硬化作用の有無が冠動
21)
最近ではこの障害反応仮説にさらに多くの知見
脈アンギオグラフィー(CAG)を用いて検討され ,
が加えられ,上皮成長因子,トランスフォーミン
動脈硬化に対する予防効果が認められている。
グ 成 長 因 子 −β, イ ン ス リ ン 様 成 長 因 子 な ど の
2000年のPREVENT study
PDGF以外の成長因子,MΦやリンパ球でつくられ
た検討がなされ,予防効果はあるが治療効果はあ
るinterleukin−1,tumor necrosis factorなどのサイ
まりないという成績が報告されている。治療効果
トカインなどが動脈硬化の発症,進展に関与して
についてはいまだに議論があるところで,作用の
いる可能性が検討されている。
強いCa拮抗薬であれば,治療効果も期待できるの
しかしながら喫煙,高血圧,糖尿病などのいわ
ゆる動脈硬化の危険因子がいかなる機序により内
22)
ではamlodipineを用い
ではないかと考えられている。
4)
エストロゲンと動脈硬化
皮細胞を傷害するかという動脈硬化のinitiationの機
閉経後の女性では血中エストロゲンが急激に減少
序についてはこの説では説明されておらず,未解
し,エストロゲンの欠乏状態が生ずる。閉経後のエ
決の問題として残されている。著者はカルシウム
ストロゲン欠乏をきっかけとして動脈壁へのカルシ
が動脈硬化のinitiationにおいて本質的な役割を演じ
ウム沈着が増加することによって動脈硬化が発症す
ていると考えている。
る一方,骨吸収が亢進することによって骨粗鬆症に
図4に今から13年前に,著者が提唱した動脈硬化
の発症および進展におけるカルシウム仮説
20)
なる。すなわち,急激な女性ホルモンの欠乏は,更
を示
年期障害や失禁,皮膚萎縮などの老化現象を進展さ
す。動脈硬化の発症には加齢や高コレステロール
せるだけでなく,血管壁に対しても,骨に対しても
血症,喫煙,高血圧等さまざまな危険因子が関与
悪影響を及ぼすものと考えられる。
するが,これらの危険因子が存在する際にはまず
米国でのFramingham Studyによると,若年では
内皮細胞へのカルシウム流入が増加すると考えら
男性に多かった心筋梗塞が,閉経後女性では増加
れる。その結果,細胞壊死や,エンドサイトーシ
し,閉経後は性差が小さくなり,高齢者ではほと
スやトランスサイトーシス等の血漿成分取り込み
機構が亢進して,フィブリノゲンやLDLなどの血管
成分が血管内皮細胞に流入してくる。一方,白血
球,血小板,マクロファージが内皮細胞表面に集
まり,さまざまな化学遊走因子や増殖因子が放出
図4 動脈硬化の発症および進展におけるカルシウ
ム仮説
2) エンドサイトーシス
トランスサイトーシス
1)カルシウム流入
される。これらの因子の働きにより,本来中膜に
存在する平滑筋細胞が内膜に移行して増殖を始め
る。これが動脈硬化の初期病変であると考えられ
る。すなわちカルシウムは動脈硬化のトリガーで
あるという考え方であり,カルシウムが内皮細胞
細胞壊死
危険因子
3) 血漿成分
の流入
に移行する過程をPTHとエストロゲンが調節して
いると考えられるのである。
3)
Ca拮抗薬の抗動脈硬化作用
それでは,カルシウムの内皮細胞への流入を抑
5)細胞増殖および
病変の進展
4)化学的遊走因子および
増殖因子の放出
白血球
制すれば動脈硬化を予防できるのではないか。
1980年代には高コレステロール負荷をはじめとす
血小板
るさまざまな方法で作成した動脈硬化モデル動物
を用いて,Ca拮抗薬の作用を検討した多くの実験
マクロファージ
が行われ,いずれもCa拮抗薬に抗動脈硬化作用が
(文献5より引用)
Ca代謝とArterial Stiffness
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んど性差がなくなるとのことである。女性ホルモ
窄を起こすモデルを用いて,エストロゲンの抗動
ンが若年女性での心血管疾患の発症を抑制してい
脈硬化作用につき検討した。
ることを示唆するものと考えられる。欧米ではエ
卵巣摘除群では対照群に比し,術後6カ月より内
ス ト ロ ゲ ン に よ る ホ ル モ ン 補 充 療 法( H R T ;
膜肥厚が認められたが,卵巣摘除と同時にエスト
hormone replacement therapy)
が広く行われており,
ロゲンを補充した群では内膜肥厚の程度は対照群
その効果を調べたコホートスタディでは,HRTに
とほとんど差がなかった。
よって心筋梗塞の発症リスクが約50%減少すると
エストロゲンの抗動脈硬化作用の機序としては,
エストロゲンの脂質代謝への影響に加えて,血管
いわれている。
HRTの各種心血管疾患に対する効果を検討した
壁に対する直接作用が関与していると考えられる。
数々のprospective randomized trialが行われている。
脂質代謝に関してエストロゲンはVLDL(超低比重
23)
PEPI ( Postmenopausal Estrogen/Progestin
リポ蛋白)
合成を促進,血中中性脂肪を増加させる。
Intervention trial)では心イベントの発症を認めてい
さらにLDLの代謝を促進させ,血中LDLコレステロ
ない閉経後女性875例を対象に,HRTの効果を脂質
ールを低下させる。また,HDL合成を高め,血中
代謝を指標とした検討が行われ,HRTによりHDL
HDLコレステロールを上昇させる。そして,最も
やトリグリセリドの増加,LDLの減少が認められた
重要な作用と考えられるのがLDLの抗酸化作用であ
としている。HERS24)
(Heart and Estrogen-progestin
る。LDLは血管壁に入ると酸化LDLになり動脈硬化
Replacement Study)では冠動脈疾患を有する2,763
の要因として働くと考えられているが,エストロ
例の閉経後女性を対象に,HRTの心事故の二次予
ゲンにはこのLDLの酸化を防止する作用がある。
防効果についての検討が行われ,HRT施行1年目に
エストロゲンの動脈壁への直接作用を図5にまと
はイベント発症は増加するが,3〜5年では減少し
めて示す27)。
たことから,治療効果があるとの報告がなされて
a. エストロゲンのCa拮抗作用
いる。最近では,64,500人の閉経後女性を対象にし
カルシウムは電位依存性チャネルとreceptor
たWHI(Women's Health Initiative trial)中間発表が
operated channelの2つのチャネルを介して平滑筋
なされ,HRTの抗動脈硬化作用を否認する成績が
細胞内に流入する。
25)
著者ら 28)はヒトに似た冠状動脈を有するミニブ
出されている 。
5)
エストロゲンの抗動脈硬化作用
著者ら
タの冠状動脈切片を用いて,平滑筋細胞内カルシ
26)
はラット大腿動脈にポリエチレンカフ
ウムの測定と,冠状動脈の張力を同時に測定でき
を巻いて圧迫し,動脈硬化の初期病変と同様の狭
る装置を用いて検討を重ねてきた。図6に示すよう
図5 エストロゲンの血管壁
への直接作用
細胞接着/移動
平滑筋細胞効果
単球接着
増殖
CAM発現
移動
遊走
管腔
血液凝固/
フィブリン溶解
(文献12より引用)
内皮細胞効果
fibrinogen
増殖
ATIII
一酸化窒素放出
factorsVII,X
Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.4 2003
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に,K添加によって平滑筋細胞の電位依存性チャネ
血管壁に対するエストロゲンのさまざまな作用
ルが開き細胞内カルシウムが増加し張力も高まっ
は図7に示すごとく,基本的には血管壁に存在する
てくるが,エストロゲン添加によりこれらの現象
エストロゲンレセプター(ER)を介して発現した応
は抑制される。すなわち,エストロゲンには電位
答遺伝子が司るものと理解されている
依存性チャネルに作用し細胞内カルシウム流入を
ERにはα,βの2つがあることが明らかにされてい
抑制するカルシウム拮抗作用があると考えられる。
るが,さらに別のものもある可能性があり研究が
次にreceptor operated channelの経路に対するエ
29)
。現在,
進められている。
28)
ストロゲンの作用を検討した 。同じモデルにプ
さらに近年,ER遺伝子欠損マウスを用いた多く
ロスタグランジン誘導体U46619を作用させてチャ
の成績が報告されている。前述のカフによる血管
ネルを開かせ,エストロゲン添加時のカルシウム
内皮傷害モデルで認められたエストロゲンの血管
流入の変化を調べた。エストロゲン添加によって
保護作用は,ERα,ERβもしくはその両方をノッ
用量依存性に細胞内カルシウムの減少が認められ
た。このことからエストロゲンはreceptor operated
図6 K添加による細胞内カルシウムと張力の増加
に対するエストロゲンの作用
channelを介するカルシウムの流入もブロックする
ことが明らかになった。
細胞内カルシウム
b. エストロゲンのendothelin-1産生抑制作用
E230μM
W.
endothelin-1は電位依存性カルシウムチャネルを
開口させ,平滑筋細胞の収縮と増殖を促進するこ
とから,動脈硬化を促進する物質であると考えら
れている。培養ラット平滑筋細胞のendothelin-1産
生を測定した結果では,卵巣摘出群では対照群に
E230μM
比べてendothelin-1産生が亢進しており,卵巣摘出
張力
時にエストロゲンを補充した群では産生が抑制さ
26)
れることが見出されている 。
c. エストロゲンの血管平滑筋細胞増殖作用および遊走
抑制作用
マウス培養血管平滑筋細胞の増殖に及ぼすエス
K+
トロゲンの効果を検討した成績では,エストロゲ
K+90mM
26)
ンは用量依存性に増殖を抑制する 。
図7
(文献13より引用)
血管平滑筋および血管内皮細胞でのエストロゲンの作用
ERα
アンドロステンジオン
テストステロン
エストロゲン
直接作用
アロマターゼ
ERβ
間接作用
?
VSMC
VEC
血清コレステロール↓
応答遺伝子↑
(一酸化窒素,プロスタサイクリン)
(文献14より引用)
Ca代謝とArterial Stiffness
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クアウトしたマウスでも認められることから,エ
ストロゲンの血管平滑筋細胞増殖抑制作用はERα
やERβを介するものではないと考えられている。
最近では,細胞膜にエストロゲンレセプターがあ
り,それが重要な役割を果たしている可能性,さ
らにレセプターを介さないnon-genomic actionが注
目されている。
以上,まとめると,PTHは動脈硬化と骨量減少
を促進し,エストロゲンは抑制する(図8)。加齢に
伴いPTH過剰とエストロゲン欠乏が生じることか
ら,高齢者では動脈硬化が促進され,一方では骨
粗鬆症が発症するものと考えられる。
1.動脈硬化と骨粗鬆症との間には関連がある。
2.骨粗鬆化は動脈硬化の独立した危険因子と考
えられる。
3.加齢に伴い骨組織から動脈壁へのCaの移動が惹
起される。
4.加齢に伴うPTH過剰状態,エストロゲン欠乏
状態がカルシウムの骨から動脈壁への移動(Ca
shift)の主因と考えられる。
5.カルシウムは動脈硬化のinitiationに関与する
triggerと考えられる。
6.動脈硬化の危険因子が存在する際には,動脈
内皮細胞へのCaの流入が起こり,その結果
atherogenesisが促進されると考えられる。
図8 動脈硬化と骨粗鬆症の成因におけるエストロ
ゲン欠乏の役割
加齢
エストロゲン欠乏
↑血管壁への
カルシウム流入促進
↑骨からの
カルシウム移動促進
動脈硬化
骨粗鬆症
Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.4 2003
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