7号 - 宮崎学園短期大学

寛政13年飫肥藩漂着唐船について
ー「唐船漂到筆話」を中心にー
黒木 國泰
On the Chinese Ships Cast Away on the Coast
of the Obi Feudal Clan in 1801(Kansei13)
Kuniyasu KUROKI
はじめに
日向国に漂着した唐船のなかで、19世紀初頭、寛政13年(1801年)正月に相次いで飫肥
藩領に漂着した2艘の唐船については、抜け荷を目指した偽装漂着ではなかったかとの疑
惑が同時代から存在した。すでに高鍋藩関係文書の飫肥藩から高鍋藩に届いた知らせ文書
を用いた研究や、熊本藩による唐船情報収集記録を用いた研究(1)がある。小稿は未紹介
の「唐船漂到筆話」と標題が記される筆談記録文書を主たる史料として、寛政13年飫肥藩
漂着唐船について考察するものである。
ここで紹介する史料「唐船漂到筆話」を初めて手にした経緯を記したい。2001年7月17
日に台湾中央研究院中山人文社会科学研究所(現在は人文社会科学研究中心)において、
劉序楓先生から九州大学九州文化史研究所元山文庫(2)所蔵のこの貴重な複写史料のご提
供をいただいた。あらためて劉氏の九州大学大学院学生時代からの数十年に及ぶ学恩に、
記して深甚の謝意を申し上げたい。また、小稿の読みについて、校正段階で劉氏の見解を
いただいたので、註記のとおり修正した。劉氏のご厚意に深く感謝申し上げる次第である。
さて本史料「唐船漂到筆話」は、寛政13年正月に飫肥藩領に漂着した2艘の唐船の乗員
に対して、飫肥藩が筆談で問答した記録の写本である。海難報告書の「被風報単」を含め
て問答の数はすべて36であるが、問いは概ね飫肥藩側、答えは唐人側である。ここに活字
におこすに当たり、はじめに原文を記し、次に訳文を付けることとする。原文はできる限
り元の文言を復元することに努め、誤字と思える文字には( )で正しい文字を入れ、欠
落と判断できる箇所には〔 〕で補足した。訳文には、問答の頭に通しナンバーを付する
とともに、筆話者が飫肥藩側か唐人側であるかをしめした。
この「唐船漂到筆話」(以下筆談記録と略称)によると、同時期に漂着した2艘ともに
前年12月15日に出航している。ただし出港地は曖昧である。1艘は18人乗り太倉州鎮字4
甲2號彭際順商船で、正月20日に外浦に漂着した。その同日夜の物頭との筆談記録。もう
1艘は、10人乗り蘇州府通字94甲133號陳元順商船で、正月22日に外浦北方の富土村小目
井に漂着した。どちらも中国北東沿岸交易の江南平底船、沙船である。(3)ここでは、原
文にはない小見出しを付け、1 大倉州彭際順船、2 蘇州府陳元順船との筆談記録とし
て紹介することとした。
-1-
折生迫
小目井
油津港
外浦
図1.日向南部沿岸地域
出典:国土地理院作成の 20 万分の1地勢図
を 6/10 に縮小したものである。
-2-
1 大倉州彭際順船との筆談記録
問
本地是係日本國日向州飫肥縣管下、地名
叫做外浦、你們船隻什麼縁故到這里 錨、
甚麼國甚麼港門某月某日開駕到什麼地
方麼、船主貴姓大名什麼、通船有多少人
①問(飫肥藩)
この地は、日本国の日向国飫肥藩の外浦である。
あなたがたの船はなぜこの地に来たり、錨を下ろしたのか。
いかなる国、いかなる港を何月何日に出港し、いずこの地に到らんとしたのか。
船主の姓名は何か。乗組員は何名か。
答
中華國嘉慶萬歳江南大倉州鎮字四甲
二號船戸彭際順、嘉慶五年十二月十五日
出帆往膠州装載、走風而來、見山則徳來處
錨、通船十八人
張聖年 陳惠龍 黄紹元 陳永
顧文元 沈忠良 杜林 張芳亭
張三 朱發 節元 周發
張芳岩 張子發 姜裕蘭 周斈
陳傳 唐天壽
船上少水菜柴火吃米油補篷布篷當竹縄
線吃烟
②答(唐人)
中華国の嘉慶万歳江南大倉州鎮字号四甲二号船戸彭際順の船である。
嘉慶5年12月15日に出帆し、〔山東省〕膠州で荷積みする予定であったが、難風にあい、
この地にいたり投錨した。乗組員は18名である。
<人名省略>
船に飲み水、野菜、薪、米、油、篷布、篷當竹縄
線、たばこが不足している。
-3-
答
明日送給
③答(飫肥藩)
明日差し上げる。
問
通船人明日要上岸廟内焼香完愿
④問(唐人)
すべての乗組員は明日上陸して、(媽祖)廟内での焼香を終えたいと思う。
答
這事我替你稟頭目准了時力(立カ)便上、你船上牌
照有没有
⑤答(飫肥藩)
上陸のことはあなたの代わりに物頭に図ることにする。許可されたら、すぐに上陸させ
る。あなた方の船に牌照があるか。
唐人答
有
⑥唐人答(唐人)
ある。
問
我朝所禁的天主教南蠻呂宋等類帯來有
没有
⑦問(飫肥藩)
-4-
日本国で禁ぜられている天主教関係の南蛮ルソンなどの類を持ち来たっていないか。
答
没有
⑧答(唐人)
所持していない。
問
一切不許上岸、更又同日本人私下貿易等
情
⑨問(飫肥藩)
一切、上岸は許さない。また日本人との私的な貿易等も許さない。
答
没有
⑩答(唐人)
上陸も私貿易も行っていない。
問
船上若有要水菜之類、只管報出來、這里官
府的頭目在番船不計(許カ)你船開駕、你門的上
事情、頭目看顧費心、你不可奇怪、只管放心
々々、以上的規矩國法厳緊、自長﨑官府承
命便許你門回唐、長﨑就是有中華的商館、
所以将你門漂到的縁故報知明白、于今告
別、明天有什麼幹事把單報出來、番船在前
後
右正月廿日之夜取合之分
-5-
⑪問(飫肥藩)
船上に水野菜の類が不足していれば、遠慮なく申し出なさい。飫肥藩の物頭はあなたの
船の出航を許さない。あなた方の状況を物頭は心から同情して心を砕いている。あなた方
は決して怪しむ必要はない。安心しなさい。先ほどの定め(①キリスト教厳禁②上陸禁止
③私貿易厳禁)は、国法が厳禁するところである。長崎奉行の命令があれば、あなた方は
帰国が許される。長崎には中華商館がある。あなた方の漂到の理由が明らかになれば、直
ちに明日にでも回送命令が出される。曳舟が前後について長崎に向けて出航することとな
る。
右は正月20日夜の筆談記録である
永井哲雄氏(4)によると、熊本藩は日向に「唐船数百艘漂着」との情報を得たため、2
月8日に郷士「一領一匹」の竹本永八と「地士」六車文太の両名に対し、日向への出張命
令を出している。2人は翌朝出立、2月12日に飫肥城到着、翌13日に外浦の問屋武兵衛宅
に着き、武兵衛の斡旋により、外浦地頭の稲津喜左エ門が自ら書付を持参したとのことで
ある。
その「外浦地頭稲津喜左エ門書付写」所引の覚えによると、漂着日時は「正月廿日申刻比」
午後4時頃であり、早速飫肥城下へ注進あり、下記の通り、物頭五騎、筆談役三人ほかの
軍役が出張したという。また、積荷は「焼物大小木わた四袋花尖紙八拾丸」とあり、江南
から陶磁器、木綿等を積んで、山東に油粕を買いに行く中国沿海交易の江南平底船である。
凡覚
伊東五左エ門其砌問合被申候
一 物頭五騎 一 筆談役三人
一 船手役弐人 一 勘定役壱人
一 割場役壱人 一 徒士目付弐人
(賄カ)
一 番船方組小頭夜廻方筆者貯方使徒士
一 足軽百人余 一 小人拾人余
一 雑卒数々 一 石火矢三挺
兼而当浦江
召置候
一 鉄炮長柄弓并玉箱薬箱矢箱共二
一 番船拾艘
右早速馳付凡先手之人数御座候、
跡備之内より者此節人数差出不被
申候、左候而、筆談役取合候処左
之通、
-6-
一 中華國江南省大倉州出帆、膠州江
参荷積致筈之船之由
但拾八人乗
一 積荷焼物大小、木わた四袋、花尖紙八
拾丸
一 嘉慶五年十二月十五日出帆、大西
北風二被吹流漂着之由
一 唐船走込候訳ハ飯米并水薪等二切
候由、凡右之通御座候、左候而、廿
二日船番唐人六人残置、番船拾艘付
外拾弐人龍興寺江上陸致、右先手之
人数尓今相固メ被居候、尤固メ之番
人并番船不寝番二而候
この外浦地頭文書から分かることは、①先手の出役の段階で商船と判明したので、二番
手以降の出役はなかったこと。②江南太倉州を出帆し、山東省へ向かう途次に、大西北風
に流されて漂着した。(5)③ただし、錨を下ろした理由は飯米、水薪の欠乏による。破船
による漂着ではなかった。④22日には、船番6人を唐船に残し12人は上陸して龍興寺で供
応を受けていることが判明する。
つまり正月20日の筆談記録では上陸を許さないと言っていた飫肥藩が、22日には上陸さ
せて龍興寺で饗応したわけである。 これより半世紀後の安政2年(1855年)5月に飫肥藩領の折生迫に漂着した沙太壽船の
事例では、山東省で荳餅・荳油を装載して上海に向かう途中の遭難であった。このときも
飫肥藩は上陸を許さないと伝えたにもかかわらず、乗組員のはげしい上陸要求に屈して龍
興寺で供応している。(6)同じく安政2年1月10日高鍋藩漂着の宋福盛船も、江南の木綿・
白布、銀子を積んで山東で豆餅すなわち、油粕を買って帰る途上の遭難船であった。(7)
いずれも北洋沿海交易船であり、長崎貿易の船ではなかった。
一度ならず、飫肥藩は唐人の上陸を許しているけれども、とくだん幕府からの叱責を受
けた形跡はない。
2 蘇州府陳元順船との筆談記録
商船陳元順被風報單
中華國江南蘇州府通字商船陳元順玖拾
四甲玖百三十三號、今於 嘉慶五年十二月
代客到山東装載、十五日放洋、二十二日夜
-7-
大洋過大西北風吹到貴邦、吃米水少、菜全
無、望吃(乞カ)接済三項。不知貴地名、因恐話不董(懂カ)、
此上有個便知明白、萬望接済、望吃(乞カ)貴邦指
引歸國的路徑、以上報知貴人、行船拾人
⑫ 商船陳元順の被風報単
中華国江南蘇州府通字商船陳元順94甲933号。今嘉慶5年12月に客商の依頼で山東で
装載し、15日に出港、明くる1月22日夜に大西北風によって貴国に漂到した。米水が不
足、野菜も全くないので、以上三項の支給を願う。貴地での名を知らない。ために対話
が出来ないことを心配している。このような事情でありますので、切に救済を請い願う。
貴藩が帰国の路程に導いてくださることを切に願う。以上のとおりご報告する。
行船の10人 問
信牌有没有
⑬問(飫肥藩)
信牌は所持しているか。
答
明日到船上取來看明
⑭答(唐人)
明日、船上でお見せする。
問
日本長﨑地方你們有曾來麼
⑮問(飫肥藩)
日本の長崎にあなた方は行ったことがあるか。
-8-
答
不曾來
⑯答(唐人)
行ったことはない。
(⑬⑭で信牌を持っていると返答したので、長崎交易船であるかを確かめようとしたが、
そうではなかった。)
問
你們要吃飯麼
⑰問(飫肥藩)
あなたがたは食事をとりたいか。
答
便是於今早吃粥
⑱答(唐人)
今朝の粥だけでもいただければありがたい。
問
所帯貨物什麼
⑲問(飫肥藩)
積載の貨物は何であるか
答
船上客貨小木豆八十根装載、船上如今空
船到山東青口装載
-9-
⑳答(唐人)
船上に客商の貨物、
「小木豆八十根」を装載していたが、しかし船はただ今 空船であり、
山東青口で装載予定である。
問
今天上岸四人姓名年記(紀カ)什麼
問(飫肥藩)
今日、上陸した4人の姓名年齢を記載せよ。
答
翟龍元 年五十四歳 王林柯 年三十五歳
朱廷冨 年二十五歳 陳貫宕 年十七歳
答(唐人)
翟龍元 年五十四歳 王林柯 年三十五歳
朱廷冨 年二十五歳 陳貫宕 年十七歳
問
在船六人的姓名什麼
問(飫肥藩)
船上の6人の姓名は何か。
答
人名開州(列カ)(8)在船票上明白、取官票上岸点名
答(唐人)
人名は船票上に書かれている。官票を用いて上陸してから名前を確認してほしい。
- 10 -
唐人問
要大船上六人上岸同進見禮求
唐人問
船上の6人も上岸してご挨拶したいとおもう。(お礼の品々を差し上げたい。)
答
明天風波小和時節要上岸
答(飫肥藩)
明日風波が穏やかならば上岸できる。
以上正月廿三日從物頭内筆談
以上は正月23日の飫肥藩物頭との筆談記録である。
問
這ケ信牌從什麼官府發出來
問(飫肥藩)
この信牌はいかなる官府から発行されたものか。
答
江南通州發出來
答(唐人)
江南蘇州府通州が発行したものである。
- 11 -
問
昨日你報出來的單之裡玖十四甲之甲字
怎麼様
問(飫肥藩)
昨日、あなたが提出した書き付けにある94甲の甲字とは何なのか。
答
官簿上登甲號将票対號
答(唐人)
官簿に甲号と登記される〔行政上の〕票対号である。
問
自這地相距七十里南邉地、名叫做外浦、本
月二十日有漂流船、将筆通話、他話江南太倉
州鎭字商船戸彭際順、你們這ケ船戸也焼(暁)得
麼、他老大姓名張聖年、外浦也這里縣下管
下、所以老爺同辛苦、那船也你們同開麼、他
話不同開、怎麼様
問(飫肥藩)
この地(小目井)から70里南に外浦という港がある。そこに本月20日に漂流船があり、
筆談によると、江南太倉州鎮字号商船、彭際順の船であった。あなたがたは、この船戸を
知っているか。かの老大(船長)の姓名は張聖年である。外浦もこの地と同じ飫肥藩領で
あり、ゆえに、物頭はあなたがたと彭際順船とともに苦労したのだが、かの船の方々とあ
なた方は一緒に出港したのか。彼らは同時出港ではないと言っているが、どうか。
答
船戸暁得、不知他八(几カ)(9)時開
- 12 -
答(唐人)
彭際順の船は知っている。が、何時に出港したのかは知らない。
問
你聴得有同州的船漂到一定安心
問(飫肥藩)
あなたは同郷の船が漂到していることを聞いて、きっと安心しただろう。
答
多煩們心労
答(唐人)
ご心労をおかけする。
問
這里海上平日也狂波的所在、一向波浪尚且
大狂、若逢南風即時打破是實情、若有如此
你們甚不便、所以風小和便牽送那ケ外浦
同彭際順之船住、奈何
問(飫肥藩)
この地の海上はふだんから波が荒い場所である。
ひとたび波浪が激しかったり、南風にあうと直ちに破船してしまうのが実情だ。(そう
なると、たいへん困るので)したがってこの状況がたいへん良くないと考えるのならば、
風が凪いでいるときに、その外浦の彭際順の船の地に回送しようと思うが、どうか。
答
多煩們心労
- 13 -
答(唐人)
大変ご苦労をおかけする。(お願いします)
付言すると、この陳元順船との筆話の後半部分(
∼
)末尾には、聞き取り日付が記
載されていない。
先の永井「飫肥伊東鵜三郎様領内外浦地頭稲津喜左エ門書付写」の覚には、陳元順船に
ついて下記の通りの記事が見える。
一 正月廿二日、当領冨土村之内小目
井と申所之磯近く、異形之船錨を卸
候段浦役より訴出候二付、早速右二
附先手之人数差出、固メ居候内橋船
二而唐人三人荒磯江上候故、早速筆
談之もの取合候処、是又中華國江南
省蘇州之船二而十二月十九日出帆、
同廿二日大西北風二被吹流候由、積
荷者小木と申候、右場所荒磯故引船
(朱)禅宗外浦
遺(遣カ:黒木)し候、当浦江引廻、是又龍興寺境
内之内江役成二致家作、船番三人残
置七人為致上陸候、両船共二信牌持
居候処、長崎通船之船二而者無之、
商船之信牌持居候
とあり、直ちに橋船にて唐人「3人」が小目井の荒磯に上陸したという。上陸した唐人数
について「4人」とする「唐船漂到筆活」(以下筆談記録と略称)との違いがある。筆談
記録には上陸した4人の姓名が載せられているので、筆談記録の信憑性が高いとみておき
たい。さらに、出航日も「12月19日出帆」とするが、筆談記録には12月15日とあり違って
いる。
また積荷が「小木」とあり、材木を載せているかのような唐人からの返答があったと記
録されている。しかし筆談記録には「小木豆八十根」を積載していたが今は空船であると
いう。山東で購入していたというのだが、今は空船だという。ここはいささか怪しい。船
団を組んでいたとの情報もあり、江南の絹織物商品を積んでの抜け荷目的でなかったとは
いえない。「小木豆」は不明であるが、筆談記録の彭際順船の積荷「焼物大小木わた四袋
花尖紙八拾丸」に近いものがある。あらかじめ積荷を聞かれたときの言葉として用意され
ていた文言であった可能性も考えておきたい。 さらには外浦に回航されたあと、3人を船番として残し、7人が龍興寺境内につくられ
た居宅に収容されたという。ここは筆談記録にない情報である。末尾に、彭際順船・陳元
- 14 -
順船ともに「信牌」を所持しているが、長崎貿易船ではなく、中国商船としての登録「信
牌」をもつものであることが確認されている。
3 高鍋藩記録に見える飫肥漂着唐船関連の情報
高鍋藩への飫肥藩からの当該漂着唐船関係の知らせ記録は簡略である。高鍋藩『続本藩
実録』寛政13年正月の条に、
二十五日伊東様(祐民)御領内外浦湊江異国船致入船候由、為知来、外ニ弐艘相見
候様、雑説在之ニ付、福嶋湊江入船候義難計ニ付、当町代官甲斐良次郎為勘定差越
居候付、今日出立罷帰候様被仰付
廿九日昨夜当領小目井と申所へ、去ル22日唐船10人乗組漂着之段、飫肥 為知来
とある。先ず正月25日に伊東氏からの20日外浦漂着唐船についてのお知らせが届く。また
外に2艘の唐船を見かけたとの雑説があり、福島に入港する心配があるので備えた。その
後、29日の記録によると、22日に10人乗組み唐船が小目井に漂着したとの飫肥藩からのお
知らせが、前日28日の夜に入ったことが記されている。
同じく『続本藩実録』2月3日の条には、幕府からの調査員一行が飫肥藩からの帰途、
高鍋藩に立ち寄り、聞き取りを行っている記事が見える。幕府からの調査が入っているこ
とは注目すべきであろう。
二月三日最上徳内殿杉浦庄八郎殿飫肥外ノ浦江唐船漂着ニ付、此間被差越帰掛、当
町江止宿、番所役人ニ被逢度ニ付、町奉行岩村平馬罷出候処、異躰之船見掛候義ハ
無之哉、被相尋ニ付、当領遠見番六ケ所在之、見掛候者無之段、相答 ○徳内殿庄
通事之者相「逢」度被申、美々津江被帰候間、松尾嘉名江へ美々津江差越
八郎殿
候様被仰付
幕命により、最上徳内と杉浦庄八郎が、飫肥外浦漂着唐船につき調査に来ている。帰途
に高鍋に宿泊し、町奉行が応対したところ、異体船を発見していないかを問われた。そこ
で奉行は、高鍋領内に遠見番所が6箇所あり(10)、報告を受けていないと答えている。通
事に会いたいとの事であったので、1746年以来の世襲の唐通詞松尾家の松尾嘉名江に命じ
て面会させた。
次に高鍋藩記録で注目すべきことは、長崎回送に関する情報が記されていることである。
享和元年3月2日に、長崎奉行からの回送命令の報告が飫肥藩から高鍋藩に届いている。
享和元年といっても、漂着の翌年のことである。寛政13年は2月5日に享和に改元されて
いる。
享和元年三月二日飫肥外浦へ漂着唐船弐艘、薩州沖江漕廻候様、長崎
飫肥
為知来、依之福嶋江漕船差出候様、被仰付越
- 15 -
申来候段、
飫肥伊東藩への漂着唐船2艘を薩摩の沖に回漕せよとのことである。ついては、高鍋藩
福島から曳航船を差し出すよう命じられている。通常の豊後水道、関門海峡を通る反時計
回りのルートではない。薩摩沖からの時計回りの長崎送りを命じられており、珍しいこと
である。
その理由は、唐船2艘の回送であったがための負担軽減のための特例として、幕府が簡
便な回送方法を許したと理解すべきであるか。あるいは、幕府に「日州江唐船数百艘漂着
之由ニ付」との情報が入ったために(11)、北九州への抜け荷唐船(12)との関連で警戒され
たために、通常の関門海峡ルートを通しての回送をとらせなかったのであるのか、不明で
ある。記して後考を待つ。
むすび
19世紀初頭、寛政13年(1801年)正月に相次いで飫肥藩に漂着した2艘の唐船に関連し
て、この当時、多くの唐船が来航したとの風聞があり、幕府も警戒した。
ここに紹介した筆写本「唐船漂到筆話」は、もと飫肥藩の所蔵に係るものが、何らかの
事情で島原市の元山元造氏の手に渡り、さらに九州文化史研究所に保管されるにいたった
ものである。(13)来歴等に若干の難点はあるものの、関係諸史料とつきあわせると、その
記録内容の信憑性には高いものがあり、史料としての価値は高いとみるべきであろう。今
だなお、多くの不明な点を残してはいるが、3点に小括したい。
⑴ 「唐船漂到筆話」すべて36番の問答について、注目すべきは、19世紀初頭のこの時期に、
飫肥藩には会話体の中国語の文章が書ける人物がいたことである。いわゆる儒学の古典
漢文の学習のみではなかったことは、特筆すべきである。中世的な自由貿易の時代では
ないのにである。恐らくは、抜け荷唐船対策として、長崎での学習を積んだものがいた
ということである。あるいは、飫肥唐人町の華僑の存在が関係している可能性も想定し
ておきたい。
⑵ 次に飫肥藩は漂着唐船の乗員を上陸させてはいけないと認識していながら、両漂着唐
船共に上陸させていることについて確認したい。寛政3年9月1日に(14)幕府は抜荷対
処として逃走しない様「人をは上陸いたさせ番人付置、立帰り不申様致し」と改めてい
た。したがって法改正を認識していなかっただけであり、おとがめを受けることではな
かった。しかしながら小目井漂着の陳元順船では、上陸しただけでなく明らかに唐人か
らの進物を飫肥藩は受領している。(
)この記録はたいへんに危険なものだといえる。
⑶ 第3に、通常の反時計回りの長崎回送ルートを取らせなかった件である。
国家的には、唐船については抜け荷に対する取り締まりが重要課題であった。しかし
ながら、多くの唐船が渡来したとの情報に対しては、商船であったと知り、安堵するよ
うな軍事的海防上の危機意識は、唐船に対してもなおあり続けたと言える。この時期の
清朝中国が攻めてくることはあり得なかったわけであるが、唐船に対する軍事的な危機
感は一貫して幕末にまで続いていったのである。
- 16 -
寛政期における国際環境としては、前世紀18世紀末からのロシアの南下政策により、わ
が国には海防上の危機意識が生まれていた。寛政4年9月3日、ロシアのラクスマンが根
室に来航し通商を要求した。海防の中心が、唐船から欧米列強の異国船へと転換する時期
である。
その様ななか、老中松平越中守定信は寛政3年(1791)9月に、唐船漂着之節手當の提
出を諸藩に命じた。このときに、新たに「隣領申し合わせ」を命じていた。さらに翌寛政
4年11月にも、大名に対し領中はもちろん、隣領等へもかねがね手配の船・人数のほか、
大筒の有無、隣藩との申し合わせ等の委細を文書で届け出るように命じている。(15)
寛政5年(1793)2月5日、前年冬の幕府命令により、高鍋藩は2月9日付で松平定信
に唐船漂流之節の手当マニュアルを提出した。(16)その中に
一 隣領より漂流舩有之候段爲知來候ハゝ、早々人數手配申付、彼方案内次第早速差
向候心得罷在候、
右之通先手當申付候得共、時宜ニ寄番頭役之者差遣可申候、尤漂流取計之義ハ、
去々年被 仰出候以後、隣領え格別申合ハ不仕候得共、非番之義是迄互申合仕候
儀候間、右漂流舩等有之候
ハ、隣領申談候様兼々申付置候、右此度被 仰出 付、取計之趣御屆申上候以上
とある。寛政3年にすでに隣領との相談をすべきことが命じられていたにもかかわらず、
格別の動きがなかったことを吐露している。高鍋藩としては旧来通りの隣藩とのお知らせ
情報の交換程度を想定しているのである。幕末期の諸藩のなかで地勢的に海防に敏感な高
鍋藩においてすら、新たな取組をしていないのであるから、幕末における海防危機の中で、
各藩の状況では危ういとの想いが、幕閣のなかにも生まれてきたであろう。ロシアに対す
る幕僚の危機意識は、後にシーボルトから高橋景保がロシアのクルーゼンステルンの書籍
を命を賭して入手しようとした「シーボルト事件」を引き起こすに到ったのである。(17)
延岡藩もまた、寛政5年2月21日延岡藩江戸留守居松田銀右衛門が、書付を老中に提出
した。(18)
さらに幕府は寛政5年3月には海防について、海防は一時のことに非ざるを以て、永久
の備をなすべく、異国船漂着取締に関し、出費上下民を虐せざることを戒むべきだという。
(19)
恒久的な無理のない海防体制を構築するように命じている。
寛政6年(1794)8月には幕府は、海辺の村や島々の地域行政を幕府が把握し、海防に
備えるために、美濃紙にしたためて提出せよと命じている。(20)
以上要するに、幕府は18世紀末において、欧米帝国主義の侵略に直面しているとの認識
の元で、藩ごとの旧来の海防体制では済まない状況を踏まえて、いち早く全国各藩に対し、
隣藩との共同による広域の備えを求め、且つ大砲など大型火器の備えを命じ、幕藩体制の
枠組みを超えた海防体制の構築に取り組もうとしたと判断できる。
一方、唐船に対しては、鄭氏滅亡後17世紀末から、抜け荷の取り締まりが中心課題とな
- 17 -
ってきた。(21)けれども、19世紀初頭のこの時期には欧米列強「異國船」対策とあわせて、
海防上の備えについて諸藩が連合するように命じ始めている。しかしながら、もとより幕
末に至るまで、幕府主導によっては海防上の幕藩体制の構造的限界を乗り越えることはで
きなかったのである。
註
⑴ 黒木國泰「近世日向沿岸漂着唐船琉球船と抜け荷関係年表」『近世日向漂着唐船・
琉球船と密貿易に関する基礎的研究』(2001年3月)文科省科学研究費補助
金基盤研究C(10610368)研究成果報告書。のち改訂して「近世日向漂着唐
船・琉球船年表(稿)」『宮崎学園短期大学紀要』第4号。
永井哲雄「江戸時代の情報収集をめぐってー寛政十三年酉二月、日向国那珂郡外浦江
唐船漂着ニ付書付写からー」『市史編さんだより』第2号、都城市企画部市史
編さん室(都城市、1996年)。
⑵ 元山文庫は、九州大学九州文化史研究所が島原半島加津佐の郷土史家元山元造氏収集
になる総数3千点の史料を昭和26年2月に譲り受けたものである(九州文化史研究所所
蔵古文書目録2、昭和32年6月)。劉序楓氏示教。
⑶ 松浦 章氏の一連の業績、『清代上海沙船航運業史の研究』(関西大学、2004年)等。
⑷ 永井哲雄前掲論文。
⑸ この唐船を山東からの帰りとする記録もある。藩法研究会『藩法集』12続諸藩(創文
社、1975年)所掲「高鍋藩
例抜書」(pp.845-6)の正月21日付飫肥藩家老から高鍋藩
家老へのお知らせ文書には、「12月15日膠州表ニて致積荷、本州え歸帆之
大風ニ被吹
流、當沖漂流、幸山を見懸候故」とあり、山東から江南への帰りと記す。ただし、『続
本藩実録』にはこの記録は採用されていない。
⑹ 黒木國泰「安政2年折生迫漂着江南沙太壽商船について(上)(下)」『宮崎女子短期
大学紀要』第21,22号。
⑺ 黒木國泰「安政2年高鍋藩漂着唐船護送日記(上)(下)」『宮崎女子短期大学紀要』
第29,30号。
⑻ 黒木ははじめ「開州」と読んで、「出航する際の通州での船票上に書かれている」と
理解したが、劉序楓氏の「開州」を「開列」の誤記とする理解に従いたい。
⑼ 黒木ははじめ「同」と理解し、「同時に出航したのか知らない」と理解したが、劉序
楓氏の「几(幾)」の読みに従いたい。
⑽ 高鍋藩内の遠見番所6カ所とは、新納・野別府の3カ所(鞍掛・甘漬・ 時)福島の
3カ所(郡本・都井・市木)、の6カ所である。
⑾ 永井哲雄前掲論文「江戸時代の情報収集をめぐってー寛政十三年酉二月、日向国那珂
郡外浦江唐船漂着ニ付書付写からー」に、熊本藩が唐船情報収集のために派遣した理由は、
熊本藩郡代に「日州江唐船数百艘漂着之由ニ付」との情報が入ったためであった。長崎
筋からの情報入手であろう。
⑿ 北部九州における抜け荷について『通航一覧』唐國總括部、濳商御刑罰。豊前叢書刊
- 18 -
行会『唐船漂流追払之記』(1961年)、劉序楓「享保年間の唐船貿易と日本銅」中村質編
『鎖国と国際関係』(吉川弘文館、1997年)など。
⒀ 前記註(2)の元山文庫目録参照。
⒁ 『通航一覧』付録巻14、海防(異国船扱方)部14、寛政三辛亥年九月朔日の条に
寛政三辛亥年九月朔日、異國船漂着の時は、先其形勢
を試み、もし敵対のきさしあらは速に打沈む可き旨、
及ひ隣領申合せ等の事を令せらる、其後海邊處置の
事によりて、觸らるヽむねしはヽヽなり、
寛政三年辛亥年九月朔日、
先頃筑前、長門、石見之沖に、異國船一艘漂流之様
子にて、無程乗はなれ候儀も有之、又地先ちかく寄
. 來り候儀も候而、彼是日数八日程之内、右之趣にて
候之處、當時者帆影も不相見趣に候、總て異國船漂
着候は、何れにも手當いたし、先船具は取あけ
置、長崎へ送り遣はし候儀、夫々可被相伺事に候
先見えかヽり、事かましく無之様にいたし、筆談役
或は見分之もの等出し、様子相試み可申候、若拒み
候様子に候はヽ、船をも人をも打砕き、無貪着筋に
候之間、彼船へ乗移り迅速に相働き、切捨等にもい
たし候はヽ、召捕候儀も尤可相成候、勿論大筒火矢
杯用候も勝手次第之事に候、筆談等も相整ひ、又
は見分等をも不相拒候趣に候はヽ、成丈穏に取計
ひ、右船をは計策を以なり共繋置、船具等をも取あ
け置、人をは上陸いたさせ番人付置、立歸り不申様
致し、早々可被相伺候、若及異議候はヽ捕へ置可被
申候、異國之者は宗門之所をも不相分儀に付、番人
之外見物等をも可被禁候、右漂流一二艘之儀にも
候はヽ、前文之通り可被相心得候、若數艘にも及ひ
候歟、又は數少く候とも、最初より嚴重に不取計し
て難成様子候はヽ、其儀は時宜次第たるへき事に
候、尤右體之
は、都て最寄領分へも早々申通し、
人數船等も取揃へ可被差出候、
但、出張之陣屋、又は小領等にて、其場に大筒之
類有合不申候はヽ、最寄之内所持之場所より、申
し談し次第早々差越、取計候様可被心得候、
右之趣可被相心得候、尤其時宜により、取計ひ一定
致しかたき事に候得共、事に臨み伺を経候ては、圖
を失ひ可申儀に付、先大概心得之趣相達候條、其餘
之作略は、時宜により可被計事に候、兼て議定いた
し置可然
は可相伺候、取計ひ行屈候儀に至り候
- 19 -
はヽ御沙汰之程も可有之候間、成丈可被心配候、尤
家來とも格別出精之者は、名前等をも可被書出事、
九月
右御禮過、萬石己上之面々居残被仰付、松平伊豆守
申渡、
同月二日、摂津守(按するに、若年寄堀田正敦)渡御書付、
同文言
右之通、萬石以上之面々江相達し候間、爲心得相達候
高鍋藩「舊例抜書」837 ∼ 838ページにも「寛政三亥年九月唐舩漂着之節手當被仰出
覚」として、ほぼ同文が掲載されている。
⒂ 『通航一覧』付録巻14、海防(異国船扱方)部14、寛政4年11月8日の条に、異国船
漂流之
取り計らひ方之儀に付、去亥年相達し候趣、領中は勿論、隣領等へも、兼て手
筈可被申合置事に候、前以議定いたし置可然筋は、可被相伺旨、去年中相達候儀にも候
間、兼々手配いたし置候船人數、其外大筒有無、并一體之心得方、隣領申合之趣等、委
細書付にて可被差出候、尤不時に御役人御用序等之
も可有之候間、右様の
、相越手配之様子見分いたし候事
早速人數差出し、手配備之様子等見分を請候様可被致候、
但、前々より右手配、且隣國之申合等、仕來候場所之儀は、右前々より之取計之
次第、并去年相達し候以後申し談等之趣も、可被書出候事、 右之通、海邊領分有之萬石以上之面々江可被達候、
十一月
例抜書」p.838にもほぼ同文が掲載される。 とある。また前掲高鍋藩「
なお、『文恭院殿御實記』巻13寛政4年11月にも簡略であるが記載が見える。
⒃ 藩法研究会『藩法集』12続諸藩(創文社、1975年)所掲「高鍋藩
例抜書」pp.838-
840)。『続本藩実録』巻8、寛政5年3月8日の条に、2月9日に幕府に手当を届けた情
報が高鍋に届いた旨記載されている。それより前3月3日の条に、「異國船唐舩漂着之
取計帳面出来諸士惣出仕披見心得居候様可申達旨被仰付」と、この手当取り計らい帳
面を藩士総出で確認し、抜かりなきように取り組んでいる様子が記される。
⒄ 呉秀三『シーボルト先生その生涯及び功業1』(平凡社、1967年)。
⒅ 黒木國泰「延岡内藤藩の幕府領細島漂着唐船対処マニュアルについて(上)(下)」『宮
崎女子短期大学紀要』第27,28を参照。延岡藩『
文書』のうち「漂着一式」に、
寛政5年3月3日異国船唐船漂着之節、取計帳面出来、諸士惣出仕、披見心得
居候様、可申達旨被仰付
8日唐船漂着之節、御手当被準御並、2月9日御届被差上候段申来
寛政5年4月2日、異国船漂着の際の手配について、江戸留守居松田銀右衛門
から御届書差し出し。
とある。
なお、中村質編『開国と近代化』(吉川弘文館、1997 年)第三節の大賀郁夫「幕末期
譜代藩の海防政策と「地域的動向」ー日向延岡藩を中心にー」は、延岡藩が「海防政策」
を積極的に展開していくのは文久期に入ってからとする。延岡藩『
- 20 -
文書』等による
知見に学ぶべき点が多い。しかし、延岡藩が独自に「海防政策」をもつことは、もと
よりありえない。
⒆ 『通航一覧』附録巻14寛政5癸丑年3月446上に「近年度々備向之儀被仰出候事に候、
勿論一時之儀にも無之、永久之備に候得者、往々手當怠りなく、いつとても手筈屆候様
相心得、人數・船方調練等、兼て獵抔之
相試、武器修理等も不怠心掛、常々無油斷儀
勿論に候、船見番所等取立候にも、後來之處勘瓣いたし可被申付候、出張所等は繒圖を
以可被伺候、一旦之被仰出之様に相心得、當時俄に嚴重に候ても、後々難行届様にては
甚以如何に候、且又右等之用度に付、用金等之沙汰に及ひ、下々難儀いたし候儀なとは
有之間敷事に候、此等之趣、よく々々可被相心得候、 右之通、海邊領分有之萬石以上
之面々江、可被相觸候、」とある。また、『文恭院殿御實紀』巻14寛政5年3月17日の条に、
「けふ萬石以上の輩に令せられしは。異船漂流用意の事さきざき仰出されしかど猶届か
ざる所もあるよし聞こゆ。」に続き、『通航一覧』の上記文の要旨が記載される。したが
って、上記の命令の日付は寛政5年3月17日だと考えられる。
⒇ 高鍋藩は寛政6年8月27日に江戸で留守居が呼ばれて命じられている。
寛政6年(1794)9月 16 日 8月 27 日江戸ニ而御留守居御呼出、御領分海辺附
村々国郡村名、順能相認、他領境之分ハ、隣村誰領等申所委細相認、差出候様被
仰付、若御領分之内嶋在之候ヽ、是又委細書付差出候様、尤美濃紙相認可差出被
仰付(高鍋藩『続本藩実録』巻8)
黒木國泰「鎖国と海防2」宮崎学園短期大学『教育研究』第7号(平成23年3月)など。
後 記
台湾中央研究院院士の曹永和先生が 2014 年9月 12 日に逝去され、また元国史館館長の
張炎憲先生が、2014 年 10 月3日にアメリカ合衆国フィラデルフィア Philadelphia にて客
死なさった。両先生からの長きにわたる学恩とご厚誼に深く感謝し、ご冥福を祈りたい。
- 21 -
保育フェスティバルの運営と
保育フェスティバルにおける大型遊具の製作と活用
守川 美輪
Making of the childcare festival,
And making and using of large toys at the childcare festival
Miwa MORIKAWA
1.はじめに
本学保育科は平成20年10月25日(土)・26日(日)に本学交流センターにおいて第1回
保育フェスティバルを開催した。以降継続して開催し、今年度は平成26年10月25日(土)
に本学交流センター・平成26年11月29日(土) にイオンモール宮崎イオンホールで開催
した。初年度は手探りで進行し、来場者は運営担当の学生・教員より少ない位であったが、
7年間で次第に運営もスムーズになり、1・2年生の協力態勢が出来て、内容も一層充実
してきた。近年、保育フェスティバルの楽しさが地域の方々に伝わって来たのか、本学で
の来場者は150名を越え、イオンモール宮崎イオンホールでの来場者は350名を超えるまで
になった。
著者は保育科に所属し、1年目から運営に関わり、平成23年∼平成25年は保育フェステ
ィバル担当として企画運営を行った。平成26年は新たな担当者の補助的な役割で企画運営
に関わった。著者は美術担当のため、会場の装飾作成や製作コーナーの企画と準備、学生
指導を行った。また、会場に置く遊具の製作、学生が行うゲーム用の遊具の製作や製作指
導を行った。
本稿ではまず、保育フェスティバルの運営について述べる。次に、大型遊具の製作方法
と活用について報告する。幼児が数名同時に遊べるものを大型遊具とする。大型遊具は継
続して使用できるので、どんな遊具があるか教職員や学生に知って頂き、来年度以降活用
して頂ければ有難い。また、本稿が次年度以降の保育フェスティバル運営の参考、または
他大学・短期大学において、新たに乳幼児と保護者対象のイベントを開催する際の参考に
なれば幸いである。
2.保育フェスティバルの運営
⑴ 保育フェスティバルとは
保育科学生がグループで行うイベントである。現在は、会場を0・1歳児の部屋、2
歳以上児の部屋、製作コーナーに分けて実施している。0・1歳児の部屋では主に親子
遊びを行う。2歳以上児の部屋では主にゲームや運動遊び、表現遊びを行う。製作コー
ナーでは、幼児向けの製作を行う。
⑵ 目 的
保育科の授業等で習得した専門知識や技術を形にして披露することで、多くの方に本
- 23 -
学を知ってもらうこと、そして、学生の企画力、共働力、実践力を高め主体的に取り組
むことを目的としている。また、近年保育フェスティバルは地域の方々に喜ばれ、地域
に貢献する活動となっている。
⑶ 保育フェスティバル委員会運営とリハーサル実施
保育フェスティバル委員を保育科1・2年生各6クラス(1クラス40名程度)の中から、
各クラス4∼6名選ぶ。保育科1・2年生は合同で担当の部屋の遊びの企画・運営をす
る。(例:保育科1年A組と保育科2年A組が協力)専攻科福祉専攻(1クラス50名程度)
からは8∼ 10名選ぶ。また、「ボランティア実習Ⅰ・Ⅱ」履修学生で、「保育フェステ
ィバル」参加を希望する学生も受け入れる。(10名程度)
次の表に「保育フェスティバル委員会及びリハーサルの時期と内容」及び「保育フェ
スティバル委員会運営とリハーサル実施上の留意事項」について記す。時間については
平成26年度実施の反省をふまえ、修正を加えている。また、委員会については、平成25
年度実施の反省をふまえ、平成26年度実施より1回増やした案を示した。
保育フェスティバル委員会及びリハーサルの時期と内容
回
時期
時間
内 容
前期オリエンテーション
「保育フェスティバル委員記入用紙」(※1)配布 第1回
4月下旬
60分
1・2年顔合わせ、クラス代表者決め、連絡先交換
担当決め(0・1歳児対象、2歳以上児対象のどちらにするか)
内容話し合い
「保育フェスティバル活動希望調査」(※2)配布説明
「保育フェスティバル委員会及びリハーサル予定」(※3)配布
第2回
5月下旬
40分
内容調整(各クラスの内容の重複を避ける)
内容の詳細決定、購入または借用物品決定
(「保育フェスティバル活動希望調査」に詳細を記入)
20分
プログラム案(※4)配布(記載の誤りや内容変更希望があれ
ば受ける)
材料配布説明
「1,2年生の役割分担記録」(※5)配布回収
60分
めくり式プログラム作成用紙配布
「1,2年生の役割分担記録」提示
「保育フェスティバル保育指導案」(※6)配布
第3回
第4回
6月下旬
登学日
後期オリエンテーション
「保育フェスティバル保育指導案」回収
「保育フェスティバルリハーサル希望日時記入カード」(※7)
配布提出
第5回
「保育フェスティバル実施要項(本学)」(※8)配布留意事項・
分担説明
「イオン交通調査」(※9)配布
「本学保育フェスティバルまとめと今後の課題」(※10)配布
10月中旬
40分
保育フェスティバル前々日 リハーサル実施日時場所を掲示し、リハーサル実施(各クラス
まで
2回)
- 24 -
保育フェスティバル前日
(本学)
午前中 めくり式プログラム回収
会場設営13:00 ∼
前日リハーサル14:00 ∼
保育フェスティバル当日
(本学)
保育フェスティバル10:00 ∼ 15:00
会場片づけ15:00 ∼ 16:00
10月末日まで
「イオン交通調査」回収
「本学保育フェスティバルまとめと今後の課題」回収
第6回
本学保育フェスティバル反省
「保育フェスティバル実施要項(イオン)」(※11)配布留意事
項・分担説明
11月中旬
40分
保育フェスティバル前日
(イオン)
荷物の運び降ろし14:40 ∼ 15:00、16:20 ∼ 16:40
保育フェスティバル当日
(イオン)
搬入8:30 ∼9:00
会場設営9:00 ∼ 10:00
保育フェスティバル10:00 ∼ 15:30
搬出・荷降ろし・片づけ15:50 ∼ 18:00
保育フェスティバル委員会運営とリハーサル実施上の留意事項
前期オ
学級主任に「保育フェスティバル委員記入用紙」を配布し、クラスアワーで選出
リエン
する。意欲のある学生の立候補が望ましい。
テーシ
クラスの2年生保育フェスティバル委員が全員男子学生だった場合、委員会に出
ョン
会せず、準備が遅れ、結果として1年生に任せるということが2年連続であった。
各クラスで保育フェスティバル委員を選出する際、女子学生を1名以上選ぶよう
学級主任に伝えておく。
第1回
前年度のチラシ(プログラム)を配布し、概要を説明する。
対象の選択において、学生は2歳以上児対象の方がやりやすいと考えていること
が多いので、0・1歳児対象の遊びの例や魅力、就職後の活用等について大いに
伝えてから選ばせる。
内容話し合いに適宜教員が入り、遊びの例を示す。
「保育フェスティバル委員会及びリハーサル予定」を配布し、計画的に準備でき
るようにする。
「保育フェスティバル活動希望調査」配布説明する。(5月末日までに提出)提
出日までに担当教員が相談を受ける。
第2回
「保育フェスティバル活動希望調査」をもとに2年生から、1年生に向けて説明
し、1年生から意見やアイディアが出せるようにする。
「保育フェスティバル活動希望調査」に目を通しておき、内容の重複があれば、
変更の検討をする。
内容が少ない場合は内容を充実させ、詳細を記入させる。
導入や展開、まとめについて意識させ、遊びの流れがよくなるようにする。
材料用具については購入担当者が確認しながら聞き、材料の色や大きさ、素材な
どを把握し、「保育フェスティバル活動希望調査」に記入する。
- 25 -
第3回
プログラム案を作成しておき、記載事項の誤りを修正する。また、他クラスの内
容を知った上で、内容変更できるようにする。
役割分担を決め、「1,2年生の役割分担記録」に記入し提出させる。
プログラム案を作成する際、設営に手間取るクラスは午前中1番目か午後1番目
とする。自由遊びは前後の時間担当のクラスが受け持ち、設営した遊具で遊べる
ようにする。また、幼児用マットなどの物品が2つの部屋で上手く使えるように
する。
材料は後日、受け取るよう伝える。材料配布の際、箱にクラスを記し置き場を示す。
余った材料は返却するよう伝える。
リハーサルは後期から実施する。1年生は授業の関係でリハーサル参加が難しい
ので、2年生が主体となって頑張れるように励ます。また、前日リハーサルは1・
2年生合同で実施することを伝える。
第4回
めくり式プログラム用紙を配布し、製作させる。(保育フェスティバル前日午前
中までに担当教員に提出)朝1番目の担当クラスは「自由遊び」の製作もするよ
う伝える。
「保育フェスティバル保育指導案」を各クラスに配り、「1,2年生の役割分担記
録」を見ながら、言葉掛けや保育の流れや立ち位置等について記入できるように
する。「保育フェスティバル保育指導案」は当日または後期オリエンテーション
で提出させ、コピーを取った後返却する。
後期オ
「保育フェスティバル保育指導案」回収
リエン
「保育フェスティバルリハーサル希望日時記入カード」を学級主任から2年生及
テーシ
び専攻科福祉専攻保育フェスティバル委員に渡してもらい、保育フェスティバル
ョン
委員が後期時間割を見て記入できるようにする。(当日中に担当教員に提出)
第5回
「保育フェスティバル実施要項(本学)」には、設営・撤去の学生の動きとその
指導担当者を明示し、スムーズに動けるようにする。
留意事項説明においては、過年度の反省や参加者アンケートに記入された賞賛や
要望等を伝え、学生が意欲を持って規律よく取り組めるようにする。
受付や製作コーナーの分担があるので、昼食休憩をいつとるか各クラスで決めさ
る。
「イオン交通調査」(10月末日までに提出)をクラス代表学生に配布し、記入さ
せる。トラックへの積み込み・会場への搬入、搬出・短大での片づけを短大バス
乗車者が担当する。人手が必要なので、各クラス2名は短大バスに乗るようにし
てほしい旨説明する。(当日手配する中型バスを短大バスと呼んでいる)
イオンの催しによっては駐車場の使用を制限される場合があるので、その際は送
迎や公共交通機関の利用を勧める。
「本学保育フェスティバルまとめと今後の課題」(10月末日までに提出)をクラ
ス代表学生に渡し、反省点や改善すべき点を明らかにすることで、イオン会場で
のフェスティバルに活かしたい旨伝える。
- 26 -
リハー
前々日までのリハーサルはクラス毎に、教員1∼2名と2年生保育フェスティバ
サル
ル委員で行う。実施内容にふさわしい教員が担当する。音楽を使う場合は音楽担
当教員が入る。
リハーサル担当者は、「保育フェスティバル保育指導案」のコピーをリハーサル
指導者に渡しておく。
リハーサル指導者は第1回と第2回の両方を担当できるようにする。2名とも交
替する際は「保育フェスティバルリハーサル引き継ぎメモ」(※12)を活用する。
リハーサルは子どもに参加を呼び掛けるところから練習する。1回目には学生は
戸惑う場面があるが、課題が明確になるので、次に向けて修正することができる。
前日リハーサルは会場においてプログラム順に14:00から1クラス30分間で行う。
予定時間を「保育フェスティバル実施要項(本学)」に記す。
前日リハーサルは1・2年生合同で行い、各部屋2名が指導をする。学生は20分
前には会場に来て、1・2年生で打ち合わせをする。
前日リハーサルは設営・片づけを含み、片づけ場所を決め、設営時の子どもへの
声掛けの練習もする。活動をリードする学生とその他の学生の立ち位置や声掛け、
伴奏や演技の確認をする。
第6回
「本学保育フェスティバルまとめと今後の課題」をもとに、イオンの保育フェス
ティバルに向けて修正すべき点があれば伝える。
「宮崎学園短期大学保育フェスティバルアンケート」(※13)に寄せられた感想
を紹介し、修正すべき点を伝えるとともに、参加者が喜んでいることを伝え、意
欲を高める。
「保育フェスティバル実施要項(イオン)」を配布し留意事項・分担を説明し、
自分のクラスの動きが把握できるようにする。特にイオンからの会場への出入り
の方法や使用する駐車場などは詳しく伝え、学生が守れるようにする。
各クラスで使用する物品が破損している場合は、修理しておくように伝える。
- 27 -
以下、配布資料の項目を示す。
- 28 -
⑷ 教職員の役割
保育フェスティバル担当は保育科教員5名(内リーダー1名)とした。役割の多くを
保育フェスティバル担当が務めた。保育フェスティバルは宮崎学園短期大学広報部が統
括している。広報部長が起案書作成、保険の手配及び対外交渉を行った。
委員会開催 3名
留意事項説明会実施
3名
実施要項作成 1名
学生配布用資料印刷 1名
チラシデザイン及び立て看板作成 1名
バス・トラック手配及び県庁投げ込み 1名
受付係学生指導 2名
製作コーナー指導 1名
来場者アンケート作成及び集計 1名
リハーサル実施調整 1名
各クラス(2年生)リハーサル指導
6名
前日リハーサル指導 4名
バス乗車者名簿作成及びイオン昼食費 1名
配布
使用物品一覧作成及び物品購入 1名
前日設営指示 8名
⑸ 保育フェスティバル留意事項
学生に説明する留意事項はこれまでの保育フェスティバル実施後の反省や、参加者ア
ンケート結果から整理して「保育フェスティバル実施要項」に記し、第5回委員会で伝
えている。次に示した留意事項は「平成26年度保育フェスティバル実施要項」に示した
内容を、平成26年度保育フェスティバルで得た参加者アンケートをもとに修正したもの
である。
- 29 -
服装は長袖(半袖可)、長ズボンの清楚な私服とエプロンとする。
靴は運動靴かローファーにする。(スリッパ、ハイヒール、ブーツ、クロックス禁止)
薄化粧、長い髪は結ぶ、ピアスは外す、マニキュアは消す。
保育者としてふさわしい言動となるよう、自覚を持ってのぞむ。
学生は会場内飲食禁止・携帯禁止・写真撮影禁止(学内では会場の端で飲料を飲む程
度はよい。イオンではバックヤードで飲料を飲む程度はよい。従業員休憩室を使って
よい。)
喫煙所であっても喫煙は禁止。
服 装 な ど
イベント用荷物は本学では食堂の入口から入って左机の下または奥机の下に置く。自
分の荷物はロッカーへ。貴重品は各自で管理。
イベント用荷物はイオンでは倉庫に置く。0・1歳児の部屋は裏の小さな物置に置く。
自分の荷物は倉庫に。貴重品は各自で管理。
昼食はエプロンをはずし、マナーを守って、静かにとる。昼食休憩は大人数で行動し
ない。
担当時間外は混雑しないよう会場から出る。
現地集合者は従業員入口から入り、担当教員または警備員の指示に従い、「入店証」
を下げた上で会場に入る。(イオン)
全員揃ったクラスは担当教員からで昼食代を受け取る(クラス代表者)。(イオン)
担当時間終了後退場する場合は、「入店証」を下げ、通路を通って従業員入口に降り、
警備員の指示に従って退出時間を記録し「入店証」を返却した上で退出する。(イオン)
担当の交替、出演等の指示は出さない。各自時間を守って、交替、スタンバイする。
身近に子どもさんがいらしたら、ぜひご案内ください。
保育フェスティバル実行委員4名で担当する。(イオンは7∼8名で担当)
担当時間の10分前には会場に入り、交替の準備をする。
受け付け時もエプロン着用。気持ちの良い挨拶、明るい笑顔で対応する。
受 付
ホームページ等のため写真を撮影させてもらいたい旨お伝えする。
受付表記入後アンケート、プログラム等が入った袋をお渡しする。
子どもの名前をシールに記入してお渡しし、左腕や肩に貼ってもらう。
進学相談希望があれば、担当者に伝える。
会場を出る参加者にはアンケート記入をお願いし、アンケート回収時にお礼を言う。
お手洗い、授乳室の位置を把握しておき、すぐに答えられるようにする。
本学の会場では親子の飲食は認める。
担当時間の10分前には会場に入り、交替の準備をする。
やさしく参加を呼び掛ける。幼児以外も製作できる。(小学生、高校生、大人)看板に「ど
製作コーナー
なたでも製作できます」と書いておくとよい。
イベントの開始時にはそちらに参加するよう呼び掛ける。
安全に留意する。意識して机上を整頓する。ちりは拾ってちり入れに。
混雑していない場合は、複数製作も認める。
製作材料について色画用紙や紐を適切な大きさに切っておくなど、下準備をしておく。
スタッフ全員がつくり方を学んでおく。
お客が増えたら、学生は席を譲る。
交替の指示はしない。各自時間を守って、交替、スタンバイする。
- 30 -
教 員
出来るだけ、活動的な姿とする。ネームプレートをつける。
イオンでは倉庫内で休憩する。会場の椅子に座らない。
イオンでは写真撮影禁止。(イオン事務室で撮影許可を得た者のみ写真撮影可)
1年生と2年生共同で担当する。
担当時間の10分前には会場に入り、交替の準備をする。
各クラスめくり式プログラムを製作する。朝一番の担当クラスは「自由遊び」のめく
り式プログラムも作成する。
めくり式プログラムは担当クラスが忘れずめくる。
優しく参加を呼び掛ける。
安全に留意する。
各 部 屋
イベント時には使わない玩具は端に寄せ、片づけておく。
0・ 1歳児の会場では、自由遊びの時間には準備してある遊具の中から、好きな遊具
を選んで広げてよい。遊んでいない遊具は片づけてよい。見えないように布で覆うの
もよい。
イベント終了後はサッサと片づける。ここまでが演技。
2歳以上児の会場では、前の催しが終わったら、次のイベント担当クラスは準備をす
るが、保育フェスティバル委員1,2名は次の遊びの紹介をするなど、楽しんで待て
るようにする。
2歳以上児の部屋は通常靴を履いたまま活動する。靴を脱がせた場合は忘れず履かせる。
歌を歌う場合は歌詞を書いて示すと良い。
子どもは預からない。(近くにいる教員に相談)
玩具の持ち帰りがないように注意する。
イベントのお土産に首に掛けるようなメダルなどは避ける。(そのまま遊ぶと危険な
ため)
⑹ プログラム
ここ4年間のプログラムを示し、各回の説明、解説をする。
第4回保育フェスティバル 平成23年10月22日(土)・12月3日(土)10:00 ∼ 15:00
時 間
時 間
0・1歳児
2歳以上児
10:30 ∼ 10:45 ふれあいあそび
10:30 ∼ 11:00 はらぺこあおむし
10:45 ∼ 11:00 親子で運動あそび
11:00 ∼ 11:10 エプロンシアター
11:10 ∼ 11:35
ペープサート、エプロンシ
11:10 ∼ 11:40 さかなつり ボーリング
アター
11:40 ∼ 11:55 さわってあそぼう
11:40 ∼ 12:10 くまさん探検隊
12:05 ∼ 12:20 コロリンリンボトル
12:10 ∼ 12:40 エプロンシアター
12:40 ∼ 12:55 ふれあいあそび
12:45 ∼ 13:15 運動あそび
13:00 ∼ 13:15 ボーリングゲーム
13:15 ∼ 13:25 エプロンシアター
13:25 ∼ 13:40 ふれあいあそび
13:25 ∼ 13:55
13:50 ∼ 14:05 ふわふわ夢の国
13:55 ∼ 14:10 ゲーム
- 31 -
キックスナイパー パクパクキャンディ 輪投げ
14:20 ∼ 14:00 クレヨンお絵かき
時 間
14:40 ∼ 14:55 手あそび歌 絵本の読み聞かせ
時 間
製作コーナー
製作コーナー
10:00 ∼ 11:20 牛乳パック羽子板
10:00 ∼ 11:20 折り紙リース
11:20 ∼ 12:30 風船ふたさん
11:20 ∼ 12:30 クリスマスツリー
12:30 ∼ 13:40 紙のお店ごっこ
12:30 ∼ 13:40 紙コップ天使
13:40 ∼ 15:00 ケーキ屋さん
13:40 ∼ 15:00 折り紙サンタさん
第4回では、2年生は0・1歳児の部屋と2歳児の部屋の両方の内容を企画運営した。
2年生は両方の企画を準備しなければならず、負担が大きかった。その反面両方の運営
をしたという充実感があった。1年生は出来そうな遊びと製作を担当した。様々な内容
を盛り込みすぎ、担当時間が短く、あそびが細かく分断されたのが問題であった。製作
コーナーは時間ごとに内容を変えて実施したが、子どもが作りかけの時には完成させた
ので、交替に時間がかかった。
第5回保育フェスティバル 平成24年10月27日(土)10:00 ∼ 15:00・12月1日(土)10:00 ∼ 16:00
時 間
時 間
0・1歳児
10:00 ∼ 12:00 親子ふれあいあそび
2歳以上児
10:00 ∼ 11:20 アドベンチャーゲーム
12:00 ∼ 13:00 手づくりおもちゃであそぼう 11:20 ∼ 12:10 アニマルゲームス
13:00 ∼ 14:00 アドベンチャーワールド
12:10 ∼ 13:20 メダルゲットだぜ
14:00 ∼ 15:00 親子ふれあいあそび
13:20 ∼ 14:10 モンキッキージャングル
15:00 ∼ 16:00 アドベンチャーワールド
14:10 ∼ 15:30 シアターと製作あそび
終日:製作コーナー 風船ぶたさん ケーキ屋さん
第5回では、1・ 2年生合同で企画運営し、0・1歳児の部屋と2歳児の部屋のどち
らかを担当した。1年生が経験を積むいい機会となった。各内容の時間を1時間程度と
し、自由遊びを含めて、ゆったりと活動できるようにした。10:00 ∼ 10:30頃までは
来場者が少ないので、10:00から担当するクラスの時間を長く設定した。0・1歳児の
部屋を希望するクラスが少なく、開催時間が長かったので、0・1歳児で「アドベンチ
ャーワールド」を2回実施した。製作コーナーは内容を2つに絞り、2ヶ所で終日実施
した。どちらの製作も好評であった。
第6回保育フェスティバル 平成25年10月26日(土)・11月30日(土) 10:00 ∼ 15:30
時 間
0・1歳児
時 間
2歳以上児
10:00 ∼ 11:30 一緒にあそぼう
10:00 ∼ 11:40 アニマルランド
11:30 ∼ 12:30 動物コロコロ
11:40 ∼ 12:00 ミニコンサート
12:30 ∼ 13:30 親子ふれあいあそび
12:00 ∼ 13:00 汽車でGo♪
13:30 ∼ 14:30
手づくりおもちゃで一緒に 13:00 ∼ 14:10 迷路で誰に会えるかな
あそぼう
14:10 ∼ 14:30 ミニコンサート
14:30 ∼ 15:30 一緒にあそぼう
14:30 ∼ 15:30 キッズアドベンチャー
終日:製作コーナー さかな釣り(4種)
・クリスマス飾り(4種)
- 32 -
第6回では音楽科の学生が2歳以上児の部屋で2回ミニコンサートを実施した。製作
コーナーは、内容が適切でなかったのか、製作に取り組む子どもの数が少なかった。
第7回保育フェスティバル
平成26年10月25日(土)10:00 ∼ 15:00・11月29日(土)10:00 ∼ 15:30
時 間
0・1歳児
時 間
2歳以上児
10:00 ∼ 10:30 自由遊び
10:00 ∼ 10:30 自由遊び
10:30 ∼ 11:30 親子ふれあい音楽遊び
10:30 ∼ 11:30 三匹のやぎのガラガラドン
11:30 ∼ 12:30 親子で遊ぼう
11:30 ∼ 12:30 汽車に乗ってGO!
12:30 ∼ 13:30 自由遊び
12:30 ∼ 13:30 自由遊び
13:30 ∼ 14:30 段ボールランド
13:30 ∼ 14:30 アニマルアドベンチャー
14:30 ∼ 15:30 親子ふれあい遊び
14:30 ∼ 15:30 おどってあそんでウォッチッチ!
終日:製作コーナー 風船ぶたさん
第7回では来場者の少ない10:00 ∼ 10:30と多くの親子が昼食のため会場を出る
12:30 ∼ 13:30を自由遊びの時間とした。自由遊びにおいてはその前または後の担当
クラスが環境設営をし、担当学生は、設営したおもちゃで子どもが遊ぶことを援助した。
2歳以上児の部屋の活動場所を広げるため、製作コーナーを1ヶ所に絞って実施した。
ここ4年間の中で最も時間分けがすっきりとした。1・2年生が合同で企画運営する
ことで、前年の内容を踏まえたものが出てきている。その例として、動物をテーマにし
た「アニマルゲームス」→「アニマルランド」→「アニマルアドベンチャー」がある。
前年に製作した遊具の一部を継続して使い、新たなアイディアで遊具を作り足している。
また、「汽車でGo♪」→「汽車に乗ってGo !」は汽車に乗って次のゲームを目指すと
いうアイディアを継続している。「キッズアドベンチャー」→「三匹のやぎのガラガラ
ドン」は平均台やマット、跳び箱等を使ったサーキット遊びという共通点がある。
製作コーナーについては、試行錯誤が続いている。「風船ぶたさん」は風船に顔、足、
尾をつけ、紐で引いて連れ歩けるので、会場外でそれを見た親子が製作したいとやって
来ることが期待できる。学内での保育フェスティバルでは、午前中に入場した親子が午
後まで留まる場合が多かった。午後からの来場者が少なかったので、午後は製作コーナ
ー参加者が少なかった。
- 33 -
⑺ タイムスケジュール
平成26年度のタイムスケジュール(イオン)を示す。7年間で最もすっきりとした形
となった。どのクラスも受付製作と各クラスのプログラムが30分以上離してある。また、
どのクラスも11:00 ∼ 14:00の間に1時間以上の昼食休憩時間が取れるようにしている。
時間
10:00 ∼
11:00
11:00 ∼
12:00
12:00 ∼
13:00
13:00 ∼
14:00
14:00 ∼
15:00
15:00 ∼
15:30
受付製作
時間
10:00 ∼
D組
10:30
10:30 ∼
E組
A組
B組
C組
11:30
11:30 ∼
12:30
自由遊び
A組
自由遊び
福祉専攻
ボランティア
親子ふれあい
音楽遊び
A組
三匹のやぎの
ガラガラドン
D組
親子で遊ぼう
C組
汽車に乗ってGO!
D組
13:30
F組
13:30 ∼
14:30
15:30
2歳以上児の遊び場
福祉専攻
12:30 ∼
14:30 ∼
F組
0・1歳児の遊び場
自由遊び
F組
段ボールランド
B組
親子
ふれあい遊び
C組
E組
E組
アニマル
アドベンチャー
ボランティア
おどってあそんで
ウォッチッチ
製作コーナーは終日実施し、「風船ぶたさん」を製作する
- 34 -
自由遊び
⑻ 会場設営
平成26年度の設営図を示す。
- 35 -
- 36 -
⑼ 広 報
平成26年度年の広報先を示す。
チ ラ シ 配 布 先
子育て支援センター(子育て交流センター・子育て広場含む)
箇 所
各配布数
40
20
保健センター
6
20
県庁記者クラブ
1
20
宮崎市清武地域子育て支援センター
1
100
附属みどり幼稚園(教職員+園児+子育て支援活動)
1
300
附属清武みどり幼稚園(教職員+園児+子育て支援活動)
1
180
宮崎学園短期大学(教職員+学生+子ども音楽教育センター)
1
800
宮崎国際大学(教職員+その他)
1
100
150
2
会場でプログラムとして配布
1
100
(イオン)
1
300
ボランティア実習等での活動先で配布(宮崎市民プラザ)
1
50
(宮交シティ紫陽花ホール)
1
50
保育実習Ⅱ実習先
その他
800
計 4000枚
「忍ケ丘だより 第71号」案内掲載
「後援会だより 第22号」案内掲載
「宮崎学園短期大学ホームページ」案内掲載
「秋の忍ケ丘祭 パンフレット」プログラム掲載
イオンモール宮崎入口大型ポスター掲示
⑽ 当日運営
教員については下記のように担当を決めた。本学では午前9:30 ∼ 12:30、午後12:30 ∼
15:00及び片づけとし、午前午後で交替をした。イオンでは早朝7:00 ∼ 11:00、昼11:00 ∼
15:00、夕方15:00 ∼ 19:00とし、保育フェスティバル担当教員は終日、その他の教員は
交替で勤務した。早朝担当は搬入及び設営、夕方担当は搬出及び片づけを含む。
総括 1名 受付 1名 0・1歳児の部屋 1名
写真撮影 1名 進学相談・報道対応 1名 2歳以上児の部屋・救護(イオンのみ)1名
教員の担当内容は下記の通りである。
製作担当は学生が留意事項に沿って実施できるようにすることと、机上の整頓に心が
ける。
各部屋担当は学生が留意事項に沿って実施できるようにすることと、安全に遊べるよ
うに気をつける。自由遊びの時間に音楽を流す。また、部屋の照明と空調が適切なも
のとなるようにする。
受付担当は学生が留意事項に沿って実施できるようにすることと、不審者が入らない
- 37 -
よう気をつける。(親子連れ、進学希望の高校生・保護者が対象)また、本学におい
ての授乳室の照明と空調が適切なものとなるようにする。
イオンでは救急箱は午前中担当が保健室から借り受け、個別に持ち込む。午後担当が
個別に持ち出し保健室に返却する。
⑾ 参加者アンケート結果
参加者アンケートについては平成25年度保育フェスティバルにおいて、受付で配布し、
回収した「宮崎学園短期大学保育フェスティバルアンケート」の記述を整理して示し、
考察をする。
会 場
来やすかった。(イオン)普段忙しいが、通りがかりでいろんな体験が出来
てよかった。(イオン)
楽しい雰囲気だった。手づくりおもちゃが自宅での遊びのヒントになった。
手づくりおもちゃに感動した。今まで遊んだことのない手づくりおもちゃが
環 境
あり、子どもも興味を持っていた。おもちゃの作り方が勉強になった。手づ
くりのおもちゃに好感を持てた。
子どもが興味を引くものがたくさんあった。
準備が大変だったと思うが楽しかった。
年齢にあった遊びで楽しめた。工夫があってよかった。色々なプログラムが
あり、楽しかった。手遊び歌が参考になった。クオリティの高さにびっくり
内 容
した。子どもがとても喜んでいた。実際の楽器の演奏を聞かせたかった。子
どもが季節の製作を楽しんでいた。ピアノの演奏が上手でびっくりした。小
学生が喜んで参加した。年齢別にプログラムが用意されていて兄弟がいる親
としては助かった。
お姉さんお兄さんに遊んでもらって楽しかった。学生がいきいきと子ども
と遊んでいた。学生の声掛けがよかった。育児の参考になった。学生が子
援 助
どもにとてもよくしてくれた。学生が心のこもった遊びをしてくれた。学
生が一生懸命対応してくれた。学生が積極的に相手をしてくれた。学生が
優しかった。1歳児が2歳以上児のプログラムに参加したが、しっかり見
守ってくれて、のびのび遊べた。
子どもの反応を見ることができた。日々のストレスからの解放になった。人
見知りが激しい2歳児で心配だったが、夢中で遊んでいた。保育園に行って
親として
いないので、雰囲気が味わえた。子どもが帰りたくないと言ったので、とて
も楽しかったのだと思う。母親と離れて楽しく遊んでいてよかった。久しぶ
りに手遊び歌や親子触れ合い遊びができて面白かった。入園前の良い体験が
できた。親子で楽しめた。同年代のお友だちと遊ぶ機会になった。
卒 業 生
参 加
先生方にお会い出来て嬉しかった。学生の皆さんは人前に立って発表する
練習をたくさんしてほしい。
昨年も参加した。来年も来たい。毎年参加している。両方参加して良かった。
- 38 -
場 所
駐車場が分かりにくい。(本学)人が多くてごちゃごちゃしてい
た。ベビーカーは外に置くべき。(イオン)
時間になっても催しが始まらなくてどうしたらいいか分からな
かった。食事スペースがあるとい。プログラムを会場内にも掲
運 営
示するとよい。月1回くらいあると楽しい。内容が素晴らしい
ので回数がもっとあるとよい。手づくりおもちゃを販売すると
ころがほしい。時間の設定があったが、自由に遊ばせてもらい
たかった。大人が多かったので子どもが少し怖がっていた。
平均台の下にもマットを敷いてほしかった。おすすめ絵本コー
ナーがあるとよい。製作コーナーでは「どなたでも作れます」
の張り紙があるとよい。作品づくりの掲示板やパネルがあると
要 望
環 境 よい。ミニコンサートのピアノの向きを子どもたちに手が見え
るようにするとよい。コンサートの際、歌詞を掲示すれば皆で
歌えた。おもちゃがもうすこし欲しかった。1歳未満児が安心
していられるスペースがあるとよい。
製作が1つしかなかったのは残念。
製作コーナーが増えるとよい。
手遊び歌など体を使うものが多いとよい。歌って踊れる内容が
内 容 あるとよい。0歳以上児対象のコンサートがあるとよい。親子
向けの体験学習がもっとあるとよい。幼稚園のプレ体験のよう
なものがあるとよい。
学生の元気がもう少しあってもよい。絵本の読み聞かせは絵の
学 生 へ 大きい本を使い、読む人の表情など工夫したらよい。
学生がもっと声をだすと楽しい雰囲気になるのでは。
環境においては、手づくりおもちゃが評価されている。内容については、年齢別のプ
ログラム及び、楽しい活動が評価されている。学生の援助においては、子どもと向きあ
い優しく楽しく丁寧に関わっている姿が参加者から喜ばれた。親としては、子どもが同
年齢の子と遊ぶ良い機会になったことや、親と離れて子どもが遊んでいたことが喜ばれ
ている。
要望においては、すぐに改善できる点については、担当の学生に直接伝えたり、「保
育フェスティバル留意事項」に示したりして改善している。製作コーナーについて拡大
の要望がある。平成25年度はミニコンサートを実施したが、平成26年度は実施していな
い。来年度以降短時間でもプログラムに入れるとよいのではないか。
保育フェスティバルの回数を増やしてほしいという要望がいくつかある。実施する側
は本学とイオンの2回実施で充分であると感じているが、現在「ボランティア実習Ⅰ・Ⅱ」
で実施しているような「小規模な子育て支援活動」ならば、多少拡大できるであろう。
⑿ 学生の感想
学生の感想については平成25年度本学保育フェスティバル終了後に「保育フェスティ
バルのまとめと今後の課題」を配布し、回収した記述から、整理して示す。
- 39 -
学生の記述のうち、提言の部分はすぐに「保育フェスティバル学生留意事項」に記す
などして修正したが、それだけに終わっていた。今回、学生の準備に関わる課題が明ら
かになった。
まずは、保育フェスティバルに向けての学生の準備を計画的に行えるようにすること
である。製作物ができていなかったり、リハーサル当日になって親子遊び等の内容を決
めたりするクラスがある。また、リハーサル時に初めて、演じる順番や、立ち位置、役
割分担について考えるクラスがある。充実したリハーサルを実施するために、学生の計
画性を高める手立てが必要である。
次に、1、2年生が話し合ったり、打ち合わせをしたりする機会を設けることである。
2回のリハーサルは2年生を対象にして行い、1年生は前日リハーサルになってようや
く保育フェスティバルの内容や、自分の役割を知ることになる。これを改善し、1、2
年生がもっと協力できるようにしたい。
準備物製作や子ども達が楽しめるように考えるのが難しかった。
準備がなかなか進まなかった。計画的に準備をすればよかった。
準備について
初めてのことで分からないことが沢山あった。
(1年生)
準備する個数などあらかじめ決めて、計画的に製作すればよかった。
跳び箱についてどれを何段運ぶのか戸惑った。詳しい情報を共有してお
けばよかった。皆が積極的にしたので、スムーズに出来た。
設営について
物を直すスペースが狭かった。担当の部屋の設営をしたかった。
リハーサルまでに準備が出来ていなかった。
学生同士で話し合ってリハーサルに臨めばよかった。
しっかりした考えを持ってリハーサルに臨めばよかった。
リハーサル実 1度目のリハーサルで指摘されたことを2度目のリハーサルで改善できた
。
施について
リハーサルに全員が出られなかった。1年生は前日リハーサルからしか
参加できなかった。よい練習になった。立ち位置の確認ができた。本番
さながらにリハーサルが出来てよかった。
学生の人数が少ないかもしれないと思った。
(運動遊び)
当日実施の難 子どもの相手が大変だった。人見知りをして話しかけても反応のない子
しさについて どもがあった。考えていた通りの進め方が難しかった。
1年生がステージ発表と時間が重なり大変だった。
良く動けた。臨機応変に対応できた。子どもたちに自然に声掛けできた。
とても楽しく子どもと触れ合うことができた。笑顔で子どもと接するこ
とができた。子どもたちが多くて、やる気がでた。
当日実施の良
子どもたちが喜ぶ姿を見ることができた。
かったことに
想像以上に成功できた。思い通りにならなかったが、子どもたちが満足
ついて
そうで安心した。
物品を一つにまとめて置き、他のクラスと共同で使うものは事前に置く
場所を確認しておき、無事に進められた。
- 40 -
次回に向けて
安全面の確保がもっと必要である。難しいゲームを修正したい。
役割分担を明確にして、スムーズに動けるようにしたい。てきぱき行動
したい。臨機応変に対応できるようにしたい。
反応のうすい子にも声掛けをしていきたい。
自分達も楽しんでしたい。子どもたちが楽しめるようにしたい。
子どもが興味をもってくれる環境をつくりたい。良い雰囲気でできるよ
うにしたい。子どもが飽きないように様々な工夫をしたい。
提 言
アンケート(学生)は匿名の方が書きやすい。
保育フェスティバル委員は意欲ある学生がなるとよい。1・2年生でも
っと協力したい。
自分達で使わない風船プールが出ていた。片づけておいてほしかった。
前のクラスのおみやげのメダルを首から掛けている子がいた。危険そ
うなものをおみやげにしないでほしい。
⒀ 平成26年度保育フェスティバル入場者
平成26年10月25日(土) 宮崎学園短期大学交流センター 192名
他大学生
幼保教員
1
5
1
9
2
その他
他短大生
2
学生保護者
1
大人 112名
本学学生
高校生
77
中学生
15
参加者家族
10
小学生
18
5∼6歳
9
3∼4歳
14
2歳
1歳
0歳
14
こども 80名
14
平成26年11月29日(土) イオンモール宮崎イオンホール 372名
他大学生
幼保教員
その他
- 41 -
他短大生
4
学生保護者
3
大人 187名
本学学生
高校生
174
中学生
7
参加者家族
20
小学生
54
5∼6歳
27
3∼4歳
43
2歳
1歳
0歳
34
こども 185名
0
2
1
0
0
3
3.大型遊具の製作と活用
⑴ 著者が製作したもの
① 「ワカサギ釣り」「フェルト布のドーナツ」(注1)
ワカサギ釣りは穴の
開いた木箱の中に木製
の魚を置き、フックの
ついた棒または紐で釣
り上げて遊ぶ。
フェルト布のドーナ
ツは、シンプルな形の
もの、鈴をつけて音がでるもの、ボタンをつけて繋げて遊べるものがある。木製の柱
に通して遊ぶことができる。幼児はトングでつかんだり、かごに入れたりして遊んだ。
特にトングが人気で、1歳以上児で遊ぶ姿が見られた。
② 「おなかがすいたかばくん」
段ボール箱を使って製作した「か
ばくん」の口に、ジャガイモに見立
てたおじゃみを投げ入る。幼児用の
玉入れ遊びから発想した。
幼児の能力に応じて、距離を変え
たり、口を開け閉めする間に投げ入
れたりして遊ぶことが出来る。「か
ばくん」の上顎にあたったおじゃみ
は、口の中におのずと入るので、失
敗が少ないという効果もあった。歯
ブラシに見立てた柄付きタワシを使って幼児が歯を磨く真似をする姿があった。「か
ばくん」はピンク色に着色し、かわいらしい姿となった。箱の後ろに小さな扉を付け
て、中のおじゃみを取り出せるようにしている。
③ 「コロピョン」(注2)
透明なホースと木玉を使ったお
もちゃである。1歳以上の幼児が
熱心に遊ぶ遊具となった。
左側はまっすぐ飛び、右側は木
玉がカーブしながらホースの中を
転がり飛び出して、小さな鉄琴を
- 42 -
入れた箱に落ち、音が鳴る。小型のものは0歳児から遊ぶことができた。
写真左は簡易型で、木製の支えでホースを固定した。写真右は普及型で、身近にあ
るもので製作した。ハンガーネット2枚で透明なホースを挟み、木玉にゴムを通した
もので固定している。どの遊具も反対側からも木玉を入れたり、出口をふさいで木玉
を沢山入れたりして遊ぶ姿があった。
④ 小さなお家
コピー機梱包材の段ボールで
製作した。底のない大きな段ボ
ールの上部を台形に切り、屋根
とした。壁面と屋根は水性アク
リル塗料で着色した。屋根に通
した紐を結べば立体的に固定で
きる。
窓やドアをつくり、カーテン
をつけた。カーテンは取り外して洗濯でき
る。壁面の一方を切り、下部を折ってテー
ブル状に紐で固定し、商品に見立てたおも
ちゃを並べてお店ごっこができるようにし
ている。
1歳以上の幼児が喜んで入って遊んだ。
実際の活用場面では保護者がカーテンの一
部を取り外していた。外から見守るために
はどこかは開けておくとよい。
オレンジ色の屋根、壁が白の家には、周
囲に春から初夏の草花を描いた。ツバメ、
三毛猫、リス、ネズミも描き、見ても楽し
いものとした。蝶やバッタ、カマキリ、テ
ントウムシなど昆虫もいる。
屋根が青で壁が白い家には、周囲にヒマ
ワリ、朝顔、キキョウなど夏の花を描いた。靴箱と水道を描き、保育園の様な外観と
した。壁には七夕飾りや、きゅうりを栽培している様子を描いた。一方の窓は鎧戸と
し、上下に開け閉めできるようにした。ベッドやテーブルに見立てることができる箱、
小さな布団、紐で引く車などをつくり、「保育園ごっこ」ができるようにした。
④ さかなつり
魚はフェルトでつくり、面ファスナーで釣りあげ
られるようにした。釣り竿は竹割箸をフェルトで包
んでいる。釣り糸の先には、ペットボトルのふたを
中心にして、丸く切ったフェルトの中央部分に面フ
ァスナーと紐を縫いつけたもので包んでいる。池は
布を楕円に切り、中表にして縫いつけた後、返して
- 43 -
端を押さえた。
⑤ ゲートゴルフ(注3)
資料(注4)にゲートゴルフのゲ
ート、クラブ、ボールの製作方法が
掲載されていたが、そこから発想し
てゴルフ場の環境(クラブハウス、
池、草地、斜面、動物、樹木)を加
えた。2歳以上児が繰り返し遊んだ。
⑥ 小さなペットボトルを使ったタワー
容量125mlペットボトルを使って
遊べるものを製作した。段ボール板
を四角や丸に切り、水性アクリル塗
料で着色した。写真左側の塔は東京タワーである。板に番号
を付け、順に積み上げる。丸いタワーは板の大きさを変えた。
子どもは板の大きさに構わず積み上げることが多かった。そ
っとボトルを置き、そっと板を重ねて、最後まで積み上げて
遊んだ。板を中心に置かず、斜めに傾く場面も多かった。
⑦ コロコロ・ゴーロゴーロ
前記「コロピョン」の発展で発想し製作した。ホースをゆ
るいカーブを描くように木製の土台に固定した。木玉を受け
る台に大きめのアルミ製漏斗を乗せる。木玉は透明なホース
の中をゆっくりと転がって落ち、漏斗の受けで何度もゴーロ
ゴーロ回転しながら木箱に落ちる。このゴーロゴーロ回るのが特徴である。ホースの
右端は木玉を入れやすいように斜めに切った。1歳以上の幼児が繰り返し遊んだ。直
接漏斗に木玉を落として遊ぶ姿も見られた。
⑵ 著者の指導で学生が製作したもの
① キャタピラ
資料(注5)を見て製作した。窓があるので進路が見える。側面の端を紐状のゴム
で留めているので、丸い形を保ち遊びやすい。2歳以上児が喜んで遊んだ。
② サッカーゴール
資料に掲載されていたサッカーゴールの作成例から発想して製作した。全面を緑色
で塗り、白でネットを描いた。キーパーの動かし方によって難易度に差をつけること
- 44 -
ができた。新聞紙を巻
いて輪にし、それを3
個組み合わせて製作し
たボールを使う。保育
フェスティバルでは、
キーパーの練習をした
いねずみさんが、子ど
も達にシュートをしてもらうという設定で遊んだ。
③ もぐらたたき
この遊具は『段ボール箱に穴を開け、そこに牛乳パ
ックを差し込んでもぐらたたきをする。』といった記
述を読んで製作した。牛乳パックの中に巻いた新聞紙
を詰め、丈夫にした。ハンマーも牛乳パックに新聞紙
を詰めて製作した。土台の後ろ側の面は開いており、
手を入れて下からもぐらを押し上げる。
保育フェスティバルでは、いたずらもぐらさんが畑
を荒らすので、懲らしめてほしいという設定で遊んだ。
2歳以上児が喜んで遊んだ。一度に二人で遊べるが、
子ども二人だと危ない場面があったので、子ども一人
か親子で遊ぶのが望ましい。
この遊具は壊れやすいのが難点である。もぐらが土台から抜けて下に落ちるので、
もぐらの頭に少し大きめの段ボールを貼りつけたが、これもしばらくすると取れてし
まった。糸や針金でしっかり留めるとよい。
④ 動物ゴール
学生が資料を見て製作していたものに、補強の仕方
等を指導した。子どもが手をついてくぐれる位の大き
さである。保育フェスティバルでは0・1歳児の部屋
でボールを転がして入れるゴールにして遊んだり、2
歳以上児の部屋で運動遊びサーキットのスタート地点
として使ったりした。運動遊びのスタート地点として
適しているのか、喜んでくぐり、何度もチャレンジす
る姿があった。
⑤ 動物立体パズル
学生が動物パズルを製作したいということで、共に製作した。学生は平面の絵のパ
ズルをイメージしていたが、立体的に製作したらと助言した。組み立てて遊ぶが、学
生のアイディアでキリンの口を薄く開け、木の葉型に切った色画用紙をえさに見立
て、「キリンさんに木の葉を食べさせよう。」と言って遊ぶことができた。
箱をばらばらに置いて、全体像をイメージさせて組み立てるという遊びを想定して
いたが、幼児教育担当教員から「出来上がりの写真を見せた方がよい。」というアド
バイスを受け、全体像の写真を見せてから組み立てた。
- 45 -
立体的に組み立てるのは幼児
には難しいようで、全体を気に
せず積み上げる姿があった。心
理学担当教員から「立体的にと
らえるのは、幼児にとっては簡
単ではない。」という話を聞く
ことができた。
キリンのパズルは平成26年度
の保育フェスティバルでは会場
入り口の装飾として活用した。
⑥ 輪投げ
竹を使った輪投げを製作した。輪切りにした太い竹を土
台に接着し、 輪切りにした細い竹を差して分解して運べ
るようにした。輪はチラシを巻いてセロハンテー
プで固定している。また、保管用の布袋を製作し
た。2歳以上児の遊び場で活用した。
⑦ 音の出る箱(木玉落とし)
穴から木玉を落とすと、音が鳴る遊具である。
音楽療法担当教員が使用していた段ボール製のも
のを参考にした。
桐材で木箱をつくり、一面に楽器を出し入れす
る大きな開口部がある。他二面に木玉を落とす丸い穴をいくつか開けた。上面だけに
穴を開ける予定であ
ったが、学生のアイ
ディアで、側面にも
穴を開けた。その面
を上にすれば、箱の
高さを変えて遊ぶこ
とができる。
箱の中には鉄琴
(音毎に板が分かれているもの)を入れた。空き缶や太鼓などを入れてもよい。木玉
は木地のままの他、毛糸で編んで包んだもの、刺繍糸で巻いたもの、コルク玉にペン
キで着色したもの等を使った。毛糸や刺繍糸で包むと音がよく響いた。
幼児が喜んで遊んだ。大きい玉はなかなか落ちない時もあったが、穴の大きさの違
いに気付くと、大きな穴まで滑らせて落とした。製作後気付いたが、持ち運びがしや
すいように、側面に持ち手穴を開けておけばよかった。
- 46 -
4.まとめ
第1回保育フェスティバルは手探りの状況で開催したが、毎年の反省をもとに改善を重
ねた結果、先を見通した計画的な運営ができるようになった。本稿「保育フェスティバル
の運営」は次年度以降の参考となる。修正を重ねてきた「保育フェスティバル留意事項」
については、学生に説明する機会を持ち、それを学生がよく守っているので、会場での学
生の姿は素晴らしいものとなっている。
本学の保育フェスティバルの大きな特徴は0・1歳児対象の遊びを提供しているところ
である。それが出来ているのは本学の音楽療法担当教員の力によるところが大きい。歌い
ながらの親子遊び、音付け絵本、リズムムーブメントなど学生が自然に取り組み、リハー
サルにおいて充実した指導を受けている。また、本学で開催している「子育て支援セミナ
ー」の経験から、運動マットでゆるい傾斜を付けた坂道などの環境を設営したり、0・1
歳児向けの手づくり玩具の活用をしたりすることが出来ている。
保育フェスティバルでは1・2年生が協力してプログラムを担当している。このことで、
1年生が経験を積む良い機会となり、前年度経験した内容を継続・発展させて取り組むプ
ログラムが見られるようになった。プログラムの内容は学生の意見を聞きながら決めてい
るので、教員が思いつかないような新しい取り組みが出来ている。それも保育フェスティ
バルの面白いところである。また、早い段階からやりたい内容や歌や手遊びのタイトルな
どを聴き取り、内容一覧表を作って内容の重複がないよう調整をしているので、プログラ
ム構成がよくなっている。
学生が経験を積むと同時に教員も経験を重ね、学生を信じて援助できるようになった。
第1回リハーサルで形が出来ていなくとも、最後は出来るだろうという予測のもとに指導
できている。準備が遅れているクラスもリハーサルを経て自覚し、空き時間や早朝に練習
をするなどして、当日はよい内容となっている。
大型遊具については著者が楽しんで製作し、保育フェスティバルで活用出来ている。他
では見ない玩具もあり、好評を得ている。何より、来場した子どもが楽しく遊んでいる姿
を著者が目にすることができるのは大きな喜びである。
保育フェスティバルに関わる学生が大型遊具を目にすることで、就職後の遊具製作の参
考になるのではないかと期待している。また、著者の助言を得て、学生自身が大型遊具を
製作することで、製作に関わる知識や技能を向上させ、達成感を得ることができている。
保育フェスティバルに来場した保育者が遊具の写真を撮影している場面がある。保育の場
において、何らかの参考にして下さっているのではないかと期待している。
5.今後の課題
保育フェスティバル委員が見通しを持って計画的に準備できるようにすることと、1・
2年生の協力体制を一層深めることが今後の課題である。本稿2「保育フェスティバルの
運営」(3)「保育フェスティバル委員会運営とリハーサル実施」で示したように、保育フ
ェスティバル委員会を1回増やすとよいと考える。第4回委員会において、「保育フェス
ティバル保育指導案」を各クラスに配り、「1,2年生の役割分担記録」を見ながら、1,
2年生委員で話し合いを行い、言葉掛けや保育の流れや立ち位置等について、話し合いな
がら記入してはどうか。そうすることによって、1年生が自分達の役割を早い段階で知る
- 47 -
ことができ、2年生にとっても、保育の流れや立ち位置等を意識した上でリハーサルに臨
むことができるのではないかと考える。
製作コーナーは好評ではあるが、運営に関しては模索中である。平成26年度に1ヶ所で
午前・午後ともに同じ内容で実施したが、場所を2ヶ所にするべきか、午前と午後で内容
を替えるべきか今年度実施の反省をふまえながら、検討していくとよい。
平成25年に実施したミニコンサートが好評であった。0・1歳児と2歳以上児のプログ
ラム両方に音楽鑑賞活動を入れ、音楽の楽しさを味わうとともに、歌詞を示して、親子で
一緒に歌ったり、楽器を使って共に演奏したりするとよいと考える。音楽が得意な学生で
グループをつくって実施するとよい。「ボランティア実習」「音楽療法関連科目」を選択し
た学生のなかからミニコンサート担当(6名程度)の希望者を募ってもいいかもしれない。
ミニコンサートは「音楽教育に強い」宮崎学園短期大学にふさわしいプログラムとなると
考える。
保育フェスティバルに関する教員からの感想で、「保育フェスティバルに関わる学生数
が減り、クラス全体で盛り上げていこうとする姿がない。」というものがある。実際その
通りで、保育フェスティバル委員は素晴らしい内容の実践を行っているが、それが他の学
生にあまり伝わっていない。保育フェスティバルに関わる学生が少なくなった理由は、イ
オンでの実施に昼食補助費を渡しているので、経費削減のために委員の数を減らして来た
からである。委員の数を減らす一方で、「ボランティア実習」履修者を活動させており、
そのボランティア履修者を学生の希望通りに受け入れたため、平成26年度は平成25年度に
比べて学生数が10名以上の増加となってしまった。保育フェスティバルに関わる学生数に
ついて、どの程度ならば適切だと言えるのかは今後の課題である。
本学保育科では資格免許取得のため、授業科目が多く、1年生は特に時間割上空きコマ
がほとんどない。また、遠距離通学の学生やアルバイトをする学生も多いため、放課後に
保育フェスティバル委員会を開催する時間が持てない。そのため、1ヶ月に2∼3回実施
している水曜4限の「ガイダンスアワー」から40 ∼ 60分の時間を使い、保育フェスティ
バル委員会を実施している。このガイダンスアワーを使っての委員会実施には委員の欠席
が少ないという利点があり、今後も継続していきたい。しかし、保育フェスティバル委員
会の時間を確保するためにその都度学年会との調整が必要となっている。ガイダンスアワ
ーの年間計画に保育フェスティバル委員会の予定を入れることができれば、学生に委員会
開催日を早い時期から明確に示すことができ、より計画的な保育フェスティバルの運営が
できると考える。
著者は、保育フェスティバルはこれまで経験を重ね、充実した内容で実施できるように
なり、好評を得ていると感じている。これからこの保育フェスティバルをどのようなイベ
ントにしていくのかが今後の課題である。宮崎学園短期大学としてふさわしい保育フェス
ティバルの実施回数、実施内容、使用会場、実施規模や経費さらに宮崎国際大学や宮崎市
と協力できないか等については今後の課題である。
注1 『教育研究第8号』宮崎学園短期大学 平成24年3月発行32頁∼ 34頁 「イベント
会場を彩る幼児のための手づくりおもちゃ」で報告した。
注2 『教育研究第9号』宮崎学園短期大学 平成25年3月発行29頁∼ 31頁 「透明なホ
- 48 -
ースと木玉を使ったおもちゃ『コロピョン』製作」で報告した。
注3 『教育研究第10号』宮崎学園短期大学 平成26年3月発行 「見て美しく遊んで楽し
い手づくりおもちゃ∼ゲートゴルフ∼」で報告した。
注4『いまいみさのハッピー手作りおもちゃ』「作ってあそぼう!⑯ゲートゴルフ」2014
年1月19日(日)毎日小学生新聞 6頁上段掲載
注5 『遊べる段ボール工作ア・ラ・カルト』石倉ヒロユキ著 小学館 2007年発行62頁
∼ 65頁「ごろごろダンゴムシ」
- 49 -
幼児音楽教育におけるピアノ指導法の研究
「ブルグミュラー 25の練習曲」から
池田 敦子 田中 幸子
Research of Piano Teaching Method in Childhood Music Education
From“A Performance of F.Burgmuller s 25 Etudes”
Atsuko IKEDA Sachiko TANAKA
キーワード:ブルグミュラー、標題音楽、ピアノ学習、練習曲
1、はじめに
保育士、幼稚園、小学校、中学校音楽教員の採用試験は「弾き歌い」を含めたピアノ実技
が課題として指定される事が多い。初等科音楽教育法には、音楽の目標と理念は「表現及び
鑑賞の活動を通して、音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育てるとともに、音楽活動
の基本的な能力を培い、豊かな情操を養う。
」と書かれている。学生は生徒に音楽活動を通
して、さらに聴きたい・弾きたい・歌いたい、など音楽の楽しみを感じさせ、音楽の素晴し
さや美しさを感じ取り、それを表現出来るような演奏能力を児童・生徒に指導しなければな
らない。
筆者は宮崎学園短期大学でピアノ指導を実施し、音楽科の教科では「伴奏法」
、初等教育
科の教科では「音楽Ⅰ・Ⅱ」
、保育科の教科では「器楽Ⅰ・Ⅱ」
、を担当している。音楽教育
において即戦力として働ける保育士、幼稚園、小学校、中学校音楽教員を目指し指導をする
中で、コースにより演奏力が違うのは当然とおもわれたが、どの学科も楽曲の構成面や、リ
ズム感、
和声感、
メロディー感、
フレーズ感などの表現の技能面に弱さを感じた。学生自身が、
音楽の良さ、楽しさを感じ、それがわかる感性、それを表現できる技能が足りないのである。
そこで5年程前から音楽科「伴奏法」
、初等教育科「音楽Ⅰ・Ⅱ」
、保育科「器楽Ⅰ・Ⅱ」
の授業時間の内少しを使い、標題音楽のブルグミュラー作曲「25の練習曲」を教材として、
演奏力、音楽力を培う試みを実施した。
本論は「ブルグミュラー 25の練習曲」から数曲を選び、指導の立場から有効性を考察し
たものである。
2、ブルグミュラーについて
ヨ ハ ン・ フ リ ー ド リ ヒ・ フ ラ ン ツ・ ブ ル グ ミ ュ ラ ー〔Johann Friedrich Franz
Burgmuller, 1806-1874 12月4日〕は南ドイツのレーゲンスブルグで誕生。
父 は ヨ ハ ン・ ア ウ グ ス ト・ フ ラ ン ツ・ ブ ル グ ミ ュ ラ ー〔Johann Augusut Franz
Burgmuller1766-1824〕で若いころからワイマールの劇場などの音楽監督を歴任し、デュ
ッセンドルフでは指揮者として働きライン音楽祭を創設、1821年に初代デュッセルドルフ
市音楽監督に就任した音楽家である。弟のアウグス・ヨーゼフ・ノベルト・ブルグミュラ
ー〔August Josef Norbe〕とフリードリヒはデュッセルドルフで両親から音楽の指導を受
- 51 -
けながら育った。フリードリヒはチェロとピアノの演奏、ノベルトは作曲とピアノの才能
を開花させた。
実力派の父はフリードリヒが17歳の時に他界。音楽家としての道を地道に歩み始めた。
1834年28歳の時にパリに移り住みピアノ教師をしながら、600曲近くのピアノ小品やバレ
ー音楽「パリ」
、舞台用オーケストラ作品、歌曲なども書いた。
エチュードは「25の練習曲」op100、
「12の練習曲」op105、
「18の練習曲」op109の3冊
を残している。その中でも「25の練習曲」は最も有名な曲である。
3、
「25の練習曲」授業内容
筆者がまず演奏し、
以下の事を取り入れイメージなど感覚的なこと、
演奏テクニック、
音楽の理解を深めた。さらに曲の望ましい演奏について明確な表現と、それを習得す
るための練習についての知識、研究姿勢を持たせ、音楽力と演奏力の上達につなげた。
演奏がどんなふうに聴こえたか感じ取る。
標題からのイメージを考える。
同じ標題の曲を調べ、鑑賞する。
音楽用語を理解し、どの様に演奏するか考える。
曲の構成を読み取り、和声感、リズム感、旋律感なども考える。
標題からのイメージに合った演奏をしているか確かめながら演奏する。
メロディーと伴奏に分けてバランスを考えながら演奏する。
曲の分析をする。
○「25の練習曲」第3番「牧歌」
「パストラール」
◎演奏がどんな風に聴こえたかは、ほとんどの学生が「穏やか。広々とした感じ。
」等
であった。
◎牧歌とは羊飼いに代表される牧童の歌や羊飼いを題材とする田園的な風景を描写し
ているのだから、標題からのイメージは広い草原に、羊や馬を穏やかに楽しく世話
をしている牧童が歌っている様子である。
◎同じ標題では、アレクシス・エマニュエル・シャブリエ〔1841−1894パリ〕作曲の「牧
歌」とフランツ・リスト〔1811−1886バイロイト〕作曲の「牧歌」を取り上げた。
シャブリエの「10の絵画ふう小品」第6番「牧歌」はオーケストラにも編曲されと
ても評価されている。この曲ものどかで魅力的な曲である。筆者が演奏し標題音楽
を感じ取ってもらったスイスの田園的な風景を感じさせる美しい曲のリストの「巡
礼の年第1年スイス」から第7曲「牧歌」も鑑賞する様指導した。
◎音楽用語を理解する。
Andantino
〔アンダンティーノ〕ほどよくゆっくりよりやや速めに dolce cantabile 〔ドルチェカンタービレ〕愛らしく、歌うように
cresc.
〔クレッシェンド〕だんだん強く
tenuto
〔テヌート〕音符の示す長さいっぱいにのばす
diminuendo
〔ディミヌエンド〕だんだん弱く
dim.e poco rall 〔ディミヌエンド・エ・ポコ・ラレンタンド〕
だんだん弱く、少しだんだんゆるやかに
- 52 -
◎曲の構成を頭に入れ流れを考える。
形式は「前奏ABA´コーダ」の3部形式 8分の6拍子 ト長調
前奏〔1小節目∼2小節目〕
2小節の短い右手だけの前奏は、やわらかく歌う様に演奏。レガートと示してあ
るがここはモルトレガート的に前の音と次の音が少し重なって弾く位の感じで奏
し、自分の音が滑らかに歌えているかどうかきちんと確かめながら奏す。
A〔3小節目∼ 10 小節目〕
3小節目メロディーラインの前打音は、指や手の力をぬいて音が硬くならない様
レガートに歌って弾く。和音伴奏はト長調の主音の保続音をメロディーとのバラ
ンスを考えてピアニッシモで奏すが音が浮かない様に注意する。
5小節目の装飾音はテンポが変わらない様に装飾音は前に出し、やわらかく、美
しく奏す。
9小節目から大きさを出していく。伴奏も属調のニ長調に変わっている。
10 小節目の4拍目は、2オクターブの開きがあるので音を見てきちんと奏す。
その後にある8分休符も音楽の流れの一つなので大切に扱う。
B〔11 小節目∼ 18 小節目〕
メロディーはやや大きさをもって 15 小節目の Cis に向かってクレッシェンドを
していく。15 小節目は表情豊かに奏す。伴奏の和音はメロディーとのバランス
や響きを確かめながら奏す。内声伴奏Dの保続音は、左手の1の指が硬くならな
いように気をつけリズム、テンポを正確に取り、柔らかく、やさしい音で奏す。
15 小節目の左手Bの連打音、16 小節目の右手 Es の連打音はスタカート、レガ
ート、指使い、音量など注意し気持ちをこめてていねいに奏す。それから美しく
歌いディミヌエンドしていく。18 小節目の伴奏Dの音のタイ、8分休符を意識
する。
A´〔19 小節目∼ 26 小節目の1拍目〕
19 小節目から静かで甘くやわらかいテーマに戻る。
22 小節目からだんだんメロディーは上行、伴奏は下行しながらクレッシェンド
で盛り上がり、25 小節目のフレーズの終わりはディミヌエンドで丁寧に歌う。
コーダ〔26 小節目の2拍∼最後〕
だんだん弱く、少しゆるやかでやわらかなスタカート、ピアニッシモで美しく消
えるような音で曲を閉じるため、鍵盤からの手のはなし方、ペタルの足のあげ方
にも注意して意識的にゆっくりする。
◎「伴奏法」
「音楽Ⅰ、Ⅱ」
「器楽Ⅰ、Ⅱ」の授業では自分のイメージに合った演奏を
発表し、
「伴奏法」の授業ではメロディーと伴奏にわけ、連弾としても勉強し伴奏の
指導も行った。
◎曲の分析を行った。
〔1〕
○第15番「バラード」
◎演奏がどの様に聴こえたかは、
「はじめのハ短調の和音から神秘的に曲に入っていく
感じが魅力的だ」等であった。
◎バラードとは19世紀の自由な形式のピアノの小品で、ロマン的な物語をあつかい、
- 53 -
それに音楽を付けキャラクター・ピースのひとつとしてこの名称を使っている。又
この曲はシューベルトの「魔王」のイメージをダブらせて解釈する事もある。標題
からのイメージは、神秘的でドラマチックな物語である。
◎同じ標題では、フレデリック・フランソワ・ショパン〔1810−1849パリ〕作曲の「バ
ラード第1番 作品23 ト短調」とフランツ・リスト作曲の「バラード2番 ロ短調」
を取り上げた。
ショパンは作品の中で代表的な4曲のバラードを書いている。筆者がバラードの1
番を演奏し標題音楽を感じ取ってもらった。規模も大きく壮大なリストのバラード
も、鑑賞する様指導した。
◎音楽用語を理解する。
Allegro con brio〔アレグロコンブリオ〕元気に速く。
mistrioso
〔ミステリオーソ〕神秘的に。
animato
〔アニマート〕活気をつけて
simile
〔シミレ〕同様に。
◎曲の構成を頭に入れ流れを考える。
形式は「前奏ABAコーダ」の3部形式 8分の3拍子 ハ短調
前奏〔1小節目∼2小節目〕
ハ短調の主和音のみの前奏。1,3,5の指に神経を使い音の粒をそろえる。弱く
軽く、響きをよく聴きながら静かに、スタカートで神秘的に奏す。
A〔3小節目∼ 30 小節目〕
3小節目からの左手メロディーはレガートで奏し、主和音の後のAの音で表情を
強くもつ。
19 小節目からクレッシェンドで音楽が流れ、24 小節目からのハ短調主和音のア
ルぺージォで下降する音は、明瞭でしっかり奏す。28 小節目∼ 30 小節の和音は
フォルテで鋭くアクセントをつけ響かせる。8分休符はフェルマーターに気をつ
ける。
B〔31 小節目∼ 56 小節目〕
重苦しいハ短調から、甘く明るいハ長調になる。メロディーは右手になり、美し
くドルチェでレガートに奏し、左手の伴奏はさらにやわらかな音量で奏す。
45、46 小節目は下降するスタカートが速くならない様気をつけ、音楽が活気も
って流れる。53 小節目∼ 56 小節目はオクターブのユニゾンを意識し、単調では
あるが、力強い効果をもって奏す。
A〔57 小節目∼ 86 小節目〕
57 小節目からふたたび重苦しい第1主題の場面が展開される。
コーダ〔87 小節目∼最後〕
インパクトのあるユニゾンがフォルテで入る。縦の線が決してずれることなく力
強く明瞭に奏す。92 小節目からの終結部は弱く dimin. なのに最後の音はスフォ
ルツァンドのハ短調の主和音で暗く謎めいたものを感じさせる。
◎「伴奏法」
「音楽Ⅰ、Ⅱ」授業では自分のイメージに合った演奏をし、
「伴奏法」の
授業ではメロディーと伴奏にわけ連弾としても勉強し、伴奏の指導も行った。 - 54 -
◎曲の分析を行った。
〔2〕
○第20番「タランテラ」
◎演奏がどの様に聴こえたかは、
「フォルテで始まるユニゾンの序奏から情熱を感じ
る」等であった。
◎タランテラとは、南イタリアの8分の3拍子や8分の6拍子の舞曲である。
毒蜘蛛のタラントゥラにかまれた時にこの踊りで治るという伝説がある。標題から
はくるくる狂ったように速く踊るイメージが思いうかぶ。
◎同じ標題では、フレデリック・フランソワ・ショパン作曲の「タランテラ作品43
変イ長調」とフランツ・リスト作曲の「巡礼の年」第2年第3曲「タランテラ ト
短調」を取り上げた。ショパンの「タランテラ」はロッシーニの歌曲「踊り」に基
づいた曲である。4小節の序奏に8小節単位のフレーズがいろいろ変化されながら
進む、楽しい曲である。筆者が演奏し標題音楽を感じてもらった。
リストの「
「巡礼の年」第2年は「第1曲ゴンドラをこぐ女」
「第2曲カンツォーネ」
「第3曲タランテラ」であるが「タランテラ」は単独で演奏される事が多い。
スケール大きな華やかな曲である。鑑賞する様指導した。
◎音楽用語を理解する。
Allegro vivo 〔アレグロ ヴィーヴォ〕速く、快活に
eggiero 〔レッジェーロ〕軽く
dimin.e poco riten 〔ディミヌエンド・エ・ポーコ・リテヌート〕
だんだん弱くだんだんおそく
◎曲の構成を頭に入れ流れを考える。
形式は〔前奏ABA´CA´コーダ〕の小ロンド形式 8分の6拍子 ニ短調
前奏〔1小節目∼8小節5拍目〕
1∼4小節目のユニゾンはフォルテ、クレッシェンド、スフォルツァンド、ディ
ミヌエンドをインパクトをもって2回くりかえし、6∼8小節目の重音を情熱的
に奏す。休符のフェルマーターを大切にし、音楽の流れに緊張感を持って奏す。
A〔8小節6拍目∼ 16 小節5拍目〕
アフタクトを意識する。4小節を1つのフレーズとして奏す。
伴奏の付点4分音符は、正しく拍子を取り、動きの早い右のメロディーを支える。
13 小節目からクレッシェンドして盛り上がりをみせる。メロディーのリズムも
大切に奏す。
B〔16 小節6拍目∼ 24 小節5拍目〕
軽快なリズムのメロディーを左手の付点4分音符で静かに支え、21 小節目から
の分散和音ではクレッシェンドで大きさを出していく。
A´〔24 小節6拍目∼ 32 小節5拍目〕
フォルテで情熱的に演奏、29 ∼ 32 小節目までの分散和音の伴奏とメロディーの
リズムを明瞭に奏す。
C〔33 小節目∼ 48 小節目〕
ニ長調になり気分が明るく変わる。1フレーズずつ軽く華やかな雰囲気で奏す。
- 55 -
40 小節目の装飾音を大切に、41 小節からの前打音は、拍の前に弾き指の力をぬ
いて硬くならないよう丁寧に奏す。
コーダ〔56 小節目∼ 66 小節目〕
コーダの始まりの 56 ∼ 60 小節目はユニゾンではないが前奏が浮かび上がりイン
パクトがある。62 小節目からは、だんだん弱く、少し遅くだが、最後の2小節
は正しいテンポでいきなりフォルテで強烈に終わる。
◎「伴奏法」
「器楽Ⅰ、
Ⅱ」の授業では自分のイメージに合った演奏を発表し、
「伴奏法」
の授業ではメロディーと伴奏にわけ連弾としても勉強し、伴奏の指導も行った。
◎曲の分析を行った。
〔3〕
○第22番「舟歌」
「バルカローレ」
◎演奏がどの様に聴こえたかは、
「穏やかな波の上に自分が居る感じがする」等であっ
た。
◎「バルカローレ」はもともと「ゴンドラの歌」とも言いう。通常8分の6拍子で、
まれに8分の12拍子などもあり、比較的ゆっくりした曲である。標題からは、静か
に揺れ動く波の上でゴンドラをこぐ船頭さんが歌っている様子である。
◎同じ標題では、ピョトル・イリイチ・チャイコフスキー〔1840−1893ペテルブルク〕
作曲の「船歌」
、フレデリック・フランソワ・ショパン作曲の「バルカローレ 作品
60嬰へ長調」を取り上げた。チャイコフスキー作曲の「舟歌」はピアノ曲集「四季
作品37」の第6曲〔6月〕である。美しく叙情的なメロディーは心に残る曲である。
筆者が演奏し標題音楽を感じ取ってもらった。
ショパン作曲の「バルカローレ 作品60 嬰ヘ長調」は、ピアノ独奏曲として彼の
大傑作である。8分の12拍子で、舟歌の感じを雄大で美しく仕上げている。鑑賞す
る様指導した。
◎音楽用語を理解する。 Andantino quasi Allegretto〔アンダンティーノ・クアジ・アレグレット〕
アンダンテより速く おおよそアレグレットのように
dimin,e riten
〔ディミヌエンド・エ・リテヌート〕だんだん弱く、遅く
in tempo
〔イン・テンポ〕正確な速さで
lusingando
〔ルジンガンド〕愛らしく、やさしく
perdendosi
〔ペルデンドシ〕だんだんゆっくり、だんだん消えるように
◎曲の構成を頭に入れ流れを考える。
形式は「前奏ABAコーダ」の3部形式 8分の6拍子 変イ長調
前奏〔1小節目∼ 12 小節目〕
12 小節の長い前奏である。4小節の3つのフレーズは、美しい波を思い浮かべ
て奏す。1∼2小節、5∼6小節のユニゾンはピアニッシモでささやくように。
3∼4小節、7∼8小節のクレッシェンドでの和音進行は指使いに注意し、手首
を柔らかく腕の動きを使ってレガートに奏します。和音は音がずれたりしないよ
う注意深く聴きながら奏す。8小節の左の前打音は拍の前に奏すが、音が残るよ
うにペタルの踏み方に気をつける。
A〔13 小節目∼ 20 小節目〕
- 56 -
左の波のリズムは大切にきざむ。右のメロディーは歌うように奏す。2つのフレ
ーズは変イ長調からハ短調に和音進行が変わっているのを意識して、ニュアンス
を変えて奏す。
B〔21 小節目∼ 31 小節目〕
変イ長調でゆったり、美しいメロディーが波のリズムに乗って流れる。28 ∼ 29
小節のスフォルツァンドは意識する程度、ディミヌエンドは確かめながら、スタ
カートはあまり鋭くなく、前打音も指先に力を入れないで軽く奏し、ディミヌエ
ンドエ ポーコ ラレンタンドにつなげる。
A ´〔32 小節目∼ 39 小節4拍目〕
36 ∼ 37 小節のクレッシェンドはバスの下降を意識し和音を正確に奏す。
コーダ〔39 小節目5拍目∼ 47 小節目〕
4小節の2つのフレーズはやさしく甘いメロディーと、前奏を再現したメロディ
ーでだんだん弱く、だんだん遅くしながら音楽を閉じる。
◎「伴奏法」
「音楽Ⅰ、Ⅱ」
「器楽Ⅰ、Ⅱ」の授業では自分のイメージに合った演奏を
発表し、
「伴奏法」の授業ではメロディーと伴奏にわけ連弾としても勉強し、伴奏の
指導も行った。
◎曲の分析を行った。
〔4〕
○考察
音楽科「伴奏法」、初等教育科「音楽Ⅰ、Ⅱ」、保育科「器楽Ⅰ、Ⅱ」の共通目標の
ひとつは「弾き歌い」である。歌唱においてまず演奏者は、歌詞を理解し、作曲者の
伝えたいことを表現しなければならない。
作品の解釈を明瞭にするためには音楽力、演奏力が必要である。5年程前から感性
と技能向上のためブルグミュラー作曲「25の練習曲」を教材の一部として使用した。
内容は同じだが、科、コース、により進み方は大きく違った。音楽科の「伴奏法」は
半期で25曲全部勉強できたが、保育科、初等教育科は、2,3曲であった。
しかしブルグミュラー作曲「25の練習曲」を教材の一部として使用したので、鑑賞
により全体を通して曲想を感じ取る能力、標題音楽から標題に合った音楽表現、音楽
表現するための技能向上、音楽用語を理解する事により音楽の自然な流れを把握、曲
の構成を考えることにより楽譜力を養い、曲の分析をすることにより作曲者の適切な
作品解釈の向上、メロディーと伴奏をわけて演奏することで無意識な演奏でなく、音
楽を立体的に把握することが出来た。これらの事は、「弾き歌い」にもつながる能力
である。
学生が入学時と確かに違うことは、授業アンケートにも書かれていたが「演奏、弾
き歌いをする上で演奏内容の明確化が出来た」事である。この勉強が本場での指導内
容の明確化につながる事が大切である。 ブルグミュラー作曲「25の練習曲」をできるだけ授業に取り入れて学生のピアノ技
術の向上に力を注ぎたいと思う。
今後は残りの曲も文章化することを課題とし研究していきたい。
- 57 -
- 58 -
- 59 -
- 60 -
- 61 -
- 62 -
- 63 -
- 64 -
参考文献
1〕初等科音楽教育法〔改訂版〕
、10−11pp、音楽之友社〔2011〕
2〕飯田有抄・前島美保:ブルクミュラー 25の不思議、76−80pp、音楽之友社〔2014〕
3〕永富和子:もっと楽にピアノは弾ける、−ピアノが大好きになる練習法―
97pp、185−186pp、264pp、
〔1996〕
4〕音楽科・表現の指導:その技術と展開 福岡教育大学音楽科、238−241pp音 楽之友社〔1982〕
5〕千蔵八郎:名曲事典 427pp、465pp、466pp、550pp、557pp、559pp、673pp、
679pp、音楽之友社〔1976〕
参考楽譜
1〕松本倫子編:新こどものブルグミュラー、全音楽譜出版
2〕春畑セロリ:ブルクミュラー 25の練習曲、音楽之友社 3〕種田直之:25の練習作品100、
ウィーン原典版、音楽之友社 36pp
50―51pp、56―57pp、60−61pp
4〕北村知恵:ブルクミュラー 25の練習曲、全音楽譜出版社
5〕六島礼子:ブルクミュラー 25の練習曲、ショパン出版
6〕井内澄子:ブルクミュラー・25の練習曲、カワイ出版
- 65 -
日本の伝統文化と作法
倉永 愛子
The Japanese tradithional arts and manners.
Aiko KURANAGA
1 はじめに
今日まで大切に受け継がれてきた日本の伝統文化。その一つに茶の文化がある。各地に
茶園が広がるその風景は実に美しいものがある。今年は栄西の800年遠
にあたるが、そ
の栄西が記した「喫茶養生記」の序に、「入宋求法前権僧正法印大和尚位 栄西録す 茶
は養生の仙薬なり。延齢の妙術なり。山谷之を生ずれば其の地神霊なり。人倫之を採れば
其の人長命なり。」とある。日本ではすでに奈良、平安時代には一部の貴族の間で茶が飲
まれていたとされるが、この鎌倉時代に活躍した栄西の存在無くして、日本の茶の湯の文
化は語れないといわれている。
そして、その栄西と時を同じくして、鎌倉幕府の初代征夷大将軍源頼朝は、源氏の出で
ある源遠光父子(一世小笠原長清)に武家の礼儀作法を作らせ、これが800年に及ぶ小笠
原流礼法の始まりとされる。
その伝書の中に、「水は方円の器に随う心なり」という言葉がある。また、礼法の躾和
歌には、「足も手も みな身につけて つかうべし 離れば人の 目にや立ちなん 不躾
は 目にたたぬかは 躾とて 目にたつならば それも無躾 仮初めの 立居にもまた すなおにて 目にかからぬぞ 躾なるべき」とあり、社会人として当たり前のことを自然
に振る舞い、品格というもの、その極意を記しているといえる。互いの人間性を尊重し相
手を気遣い思いやる心遣いを、その時、所、相手に応じて自分の立場をわきまえ慎み、目
に立たない自然な形でさりげなく、言葉や所作でその真心を伝えるということ、その根本
理念。日本に古来より伝わる儀礼、受け継がれてきたその文化、そしてその根底にある心
と形の礼法。あくまでも相手を敬い、周りへの気遣いを根本に据え、しかも合理的で少し
の無駄もない美しく写るその基本的な立ち居振る舞いとその内なる精神を、今日に伝わる
茶道にも見ることができる。
鎌倉、室町、安土、桃山と続く武家社会の中で、織田信長、豊臣秀吉に仕えた千利休に
よって完成された日本の伝統文化・茶道。千利休の茶道の心得とされる「四規七則」。そ
の根底にもまさにこの「心と形の礼法」と相通じる精神が流れているといえるのではない
だろうか。
本稿では、鎌倉時代から伝承されてきた小笠原流伝書の教えを紐解きながら、心と形の
礼法とその極意について考察する。
2 日本の節句行事
日本の礼儀作法について紐解くとき、代々大切に受け継がれ語り継がれ守られてきた「文
化」がしっかりとそこに存在し、その精神その心が形・作法として継承されてきたもので
-
-67
1-
-
あることが分かる。まずは、今日まで伝承されてきた文化「日本の節句行事」について述
べていきたい。
⑴ 正月
年の始めの正月を祝うおめでたい思いを、人々は「歳神様」をお迎えする儀式として昔
から大切にしてきた。新しい一年の初めを迎えるにあたり、各地で年末年始の風習や各家
庭の決まり事があり、商店街にはその土地ならではの迎春の風景があった。正月について、
次のように記されている。
「正月の飾りとして門松を飾り、清浄な場を画するものとしての注連縄を張ります。松
は常緑樹でその形の良さからも大切にされ、竹は風雪に耐えること、素直な伸びの中に節
(父子)を有することから大切にされてきました。門松は一夜飾りを嫌って31日に飾るこ
とはなく、29日は苦待つといって避け、28日までに用意しました。また昔の東京は水の利
が悪いため、防火の意味からも長い竹を中心に松の小枝を添え、水盛、砂盛をして高張り
提灯で正月を迎えました。裏木戸などには松の小枝を釘付けし、正月7日に取り外して松
が明けます。注連縄は天岩戸の故事に発し、天照大神が岩屋にお隠れにならないように縄
を引き渡したことから、清浄な地域を示す意味が込められています。左撚りにした縄に紙
垂(しで)を挟みます。」とある。
ここで述べられている、「天岩戸」並びに「天照大神」ゆかりの地、宮崎県高千穂町と
その周辺の地域では、現在でも正月に限らず年間を通して、各家々の入り口には注連縄が
張られているのが常のこととされ、その佇まいは実におごそかである。まさに清浄な地域
を示す所以といえる。
「床飾りはめでたい掛物を掛けて、熨斗三方を正面に据え、両側に燗鍋を飾ります。熨
斗は、昔は縁起を祝うため、儀式の最初に進めました。熨斗とは鮑を引き延ばしたもので、
鮑熨斗のこと。
三方中央にある熨斗の上に飯の高盛を置き、
三方の四隅に小松が飾られます。
武家社会では、大切な道具の中心である鎧の前に具足餅を飾り、女子にとって大切な鏡
の前に鏡餅を供え、心を新たにする正月を祝いました。また屠蘇の肴として喰積(くいづ
み)を飾ることも行われました。」と記されている
小笠原家の正月の床飾りを見ると、正面の床にめでたい三幅対の掛物と熨斗三方、蝶飾
りをつけた燗鍋が飾られ、右脇床には鏡餅、手前には喰積、左の脇床には具足飾りと具足
餅、年始に訪れる門人のための杯なども置かれている。
「鏡餅には、普段遣っている鏡を休ませ、労をねぎらう意味があり、後ろには手鏡が置
かれています。また、仏壇、神棚、かまど、荒神棚などにも供えるが、床の間に飾るもの
ではありません。具足餅は、鶴を表す丸い餅に、亀を表す六角の餅を重ね、昆布と穂俵を
据え、橙に根小松を植え、海老を抱かせて水引で結びます。喰積は三方に奉書紙を敷き、
米を盛って銀杏や干し数の子、干し柿などの保存食を飾ります。」と記されている。
一般に正月を迎える準備として、床の間に松竹梅や南天など縁起の良い花を生け、鏡餅
を飾る家庭も多いのではないか。それぞれの意味を正しく理解して正月を迎えなければな
らないようである。
⑵ 婚礼
室町時代に整えられた武家の婚礼式とはどういうものであったか、具体的に詳しく記さ
-
-68
2-
-
れている。
「嫁迎えの式とされ、婿方の家で行われてきました。婚礼式には、陰陽合盃の式として
陰の式と陽の式があります。陰の式は神に捧げる正式で、飾りは清楚にし、衣服はもちろ
ん、器に至るまで白(銀)を用います。対して陽の式は人としての式であり、色直しの式
であることから衣服は紅色を用い、器などもすべて色物(赤、金)を用います。」とある。
まさに今日の結婚披露宴の席で行われる「お色直し」の所以はそこにあったのである。
「陰の式では酌人、配膳役ともに動作をする場合は、すべて左に廻ります。盃ごとは、
本膳では嫁、婿、嫁の順に酌をします。二の膳では逆に婿、嫁、婿の順に酌をします、三
の膳では嫁、婿、嫁の順に酌をします。陽の式ではすべて右廻りとなり、盃ごとも婿から
始まります。これらは『古事記』の天の御柱の伝承によっています。いずれの式でも三度
ずつ九度盃を差すことから『三三九度の盃』と称されます。『鼠尾・馬尾・鼠尾』といって、
初めは細く、中太く、また次第に細くと、酌をするにあたって粗相のない方法を教えたも
のです。」とある。
今日の婚礼で行われている三三九度の酌の仕方は、ともすると形だけの酌になっている
場合が多いのではないだろうか。この三三九度の意味を理解した上で、「そび・ばび・そび」
と心を込めた祝の酌をしたいものである。
この伝書の中で、「迎え小袖」というくだりがあり、目を引く。それは、「新郎の家の側
で、嫁女を暖かく迎え、いかにも待ち受けているのだという心遣いを込めて、新郎の家紋
を付け、嫁のゆき丈に合わせて仕立てて贈る小袖をいう。」とある。当時の結婚は、政略
結婚が多かったはずである。当然、新婦は自分の親兄弟や親戚と今生の別れとなることを
覚悟の上で、輿入りしたのではないかと思われる。一度も訪れたことのないその長い道中
での胸の内は不安な思いばかりが募り、おそらく命がけの輿入りだったに相違ない。まだ
顔も知らぬ新郎のもとへ輿入りするのである。
新郎の家で準備されたこの「迎え小袖」の贈りものに込められる迎える側の暖かい心遣
いが、いかに新婦の心のささえになったことか、心温まる気遣いがそこにある。
⑶ 人生通過儀礼
人の誕生から死に至るまでの一生の折々の中で、その節目ごとに営まれるのが人生の通
過儀礼である。「成人式、結婚式といった通過儀礼に於いても、親、子、友人、職場の上司、
同僚など、多くの人々の祝う心が交差して初めて人生の通過地点を今歩んでいるのだとい
う実感が生まれる。それはとりもなおさず、自分は今生きているのだという自覚であり、
己の生を大切にしたい。」という覚悟に繫がる。
1)「懐胎の祝」
妊娠五ヶ月目に腹帯を結ぶ儀式。妊婦は保温と胎児の成育を安定させるために木綿
の腹帯を巻く。また赤飯を炊いて近所に振る舞う。帯祝いは、これから生まれてくる
赤子を最初に認識する儀式であり、江戸時代凶作の時でも帯祝いをした赤子は間引い
てはいけなかった。妊娠五ヶ月目はちょうど胎児が胎動を始める時期でもあり、まさ
に生命が妊婦の中に宿っているという自覚の時でもある。この腹帯を浅黄に染めて、
新生児の産着とする。これは洗濯を繰り返して柔らかくなった腹帯で新生児の肌を労
ったもので、まさに母親のやさしい心遣いに包まれるのである。
-
-69
3-
-
2)「お七夜の祝」
誕生から7日目で新生児は産屋を出て、ほかの人と対面する。この日に名前をつけ
ることが多く、檀紙や奉書紙に、誕生年月日、名前、命名年月日と命名者を記すもの
である。
3)「お宮参り」
男子は30日目、女子は31日目に行う。この日、赤白の鳥の子餅(赤飯)に肴を添え
て贈る。産髪をあたる真似として櫛で髪をなで、祝の膳の後に氏神様にお参りをして、
男子に破魔弓、女子に羽子板を献じるものである。
4) 「喰初の祝」
生後100日目を色直し、120日目を喰初としていたが、今日では110日目に色直しと
喰初の祝を行うのが一般的となる。喰初は箸揃え、箸初めとも称していたが、これは
武家の女子の用いた言葉であった。また、喰初のことを色直しともいい、これは色の
ある小袖を着せて祝ったことによるものである。本膳を小さくした膳を用い、大根と
赤餅が用意された餅の膳で、養い親が「ぬるで」の箸を取り、赤児に食べさせるまね
をするもので、健やかに育ち一生食べ物に困らないように願いを込めて行われた。「真
菜の祝」「箸揃えの祝」ともいい、ちょうど歯が生え始める頃と重なり、健やかに成
長していることを祝う儀式でもある。
5)「初誕生」
日本人には誕生日を祝う風習はあまりなかった。古くから正月がくると自動的に年
齢を一つ加えたからである。年をとるというのはそういうことであったようだ。しか
し、赤児が初めて迎える誕生日だけは盛大に祝うのである。一年という時の流れを育
ってくれた祝いの気持ちと、ちょうど独り立ちして歩き始める赤児の旺盛なエネルギ
ーを目を見張る気持ちで祝う。この日は餅をつき、力餅などといって赤児に餅を背負
わせて歩かせる。また、子の将来を占う方法として、男子には農具やそろばん、筆な
どを、女子には物差しや針箱などを前に置き、どれをつかむかで将来の職業を占った
り、話し合ったりする。双方の父母を招いてささやかな宴を持ち、皆でその子の健や
かな成長と幸せを祈り、祝う晴れやかなうれしい儀式である。
6)「髪置の祝」
現在の七五三で男女とも3歳の11月15日に行われ、産毛を取り、この日から髪を伸
ばし始めるという儀式。髪置の親は男子であれば男性、女子であれば女性に頼む。広
蓋に水引12筋、熨斗12本、綿一把、紙縒り7筋、鋏を添えて髪置の親の前に置く。髪
置の親は若児の傍らに寄って、恵方に向かわせ、鋏を取って左の髪を三度、右の髪を
三度、中の髪を三度、挟むまねをする。次に綿を額より後ろに撫でかけて、熨斗7筋
を取って水引で結ぶものである。綿帽子は白髪とも呼ばれ、このように若児の頭に綿
帽子を付けるのは、長寿を願う意味とされる。11月の吉日15日は氏神の収穫祭を指す
のであり、この祭日に氏神様に詣り子どもの成長を祈願した。
7)「袴着の祝」
古くは男児7歳、現在は5歳の年に行う祝で、吉月良辰を選び、子孫が繁栄してい
て寿命長久の人を因(ちなみ)の親として依頼し、袴の腰を宛て紐を結んだ儀式で、
着初めともいった。素襖、袴、扇、畳紙、手拭、刀を広蓋に用意し、素襖は浅黄、薄
-
-70
4-
-
柿色などで縫い目には松竹鶴亀定紋を置く。若児は白衣で出て碁盤に乗る。恵方に向
かって素襖を着せ、袴は因の親が当てる。現在は、紐付きの着物から紋服などに着替え、
角帯を締めて袴をはかせる。この袴着の祝は平安時代から行われており、「源氏物語」
「吾妻鏡」「貞丈雑記」「千代鏡」「大諸礼集」にも描かれている。「ごちゃっこ」とも
いい、女子も袴を着ていた時代には男女とも行っていた。碁盤を使用することも古く
からの習わしであったことが分かる。
碁盤の持ち出し方の作法について、「重い物、また大きな物の場合には、立つとき
に注意を要します。不用意に腰を折って物を持つと腰椎を損傷することがあり、跪座
から静かに立ち上がることが大切です。進めるときは、左側の人は左手を碁盤の中程
に据えて右手で角を持ちます。右側の人は、右手で碁盤の中程に据え、左手で角を持
ちます。体を正面に向けて、姿勢が崩れないように低い姿勢で持って、中を上座とし
て足を揃えて進み出ます。主客の間に縦になるように進めます。徹するときも両人が
並んで進み出て、主客の間から碁盤を手前に引き寄せ、進めるときと同じ持ち方で徹
します。碁盤の石は白を上座に、黒を下座に置きます。」とある。
樋口清之氏によると、「男の子はそれまで髪の毛を剃っていたので、之をいよいよ
伸ばし始めて後ろでくくり、碁盤の上に乗って四方に向かってお辞儀をする。なぜ碁
盤に乗るのかというと、勝負に勝てるようにということなのである。」とし、平木健
介氏は、「5歳以下の子どもを幼児、5歳以上の子どもを童という。・・・このとき、冠
を着けた子どもが碁盤に乗って、四方に向かって神に祈ったという。勝負を争う碁盤
の上で祈ることで、人生の様々な局面での勝利を願ったのである。」と著書の中で記
している。
碁盤に纏わる記述は思いの外多く、その碁盤の目から碁石に至るまで様々な意味を
表していることが分かる。
現代社会に於いて、各家庭では碁盤を囲み談笑する姿はほとんど見られなくなって
いる。情報機器が生活の中心になっている中、家族は無言で、ひたすらパソコンや端
末機の画面と向き合う時間に多くを費やしてはいないか。碁盤を囲んで、親子がゆっ
くりと向き合い潔く勝負に挑み、すがすがしい時間を共有し、その中で交わした言葉
の一つ一つが互いの心にほのぼのとした灯火となって、親子にとって掛け替えのない
大切な一時となる。このように大切な意味を持ってきた碁の文化。そのかけがえのな
い一時を気付かせてくれる碁盤ではないだろうか。
袴を着せてもらった男児が、碁盤から「えいっ」と元気よく飛び降りて、めでたく
儀式が終了する。男児の健やかな成長、健康と幸せを皆で祈り見守る大切な儀式であ
るといえる。
8)「帯直しの祝」
帯直しは女児7歳の11月15日に行う。小児用の紐付き着物から本式に着替え、初め
て帯を締めることから、帯解きあるいは紐落としともいう。帯の親は子孫が多い女性
に頼むことになる。帯は帯の親から贈られ、白地一筋、紅梅一筋または好みの色物二
筋、模様は宝づくしや鶴亀などを縫い織りにし、常の帯より細くして、着物を添える
こともある。介添えは女児を敷紙の上で、恵方に向かわせ、着物を女児に着せ、帯を
取って二重に回して後ろで両締めに結ぶ。帯の親は女児の前に跪座して仕上げの直し
-
-71
5-
-
を行い、懐紙を女児の懐中に入れ、扇を持たせる。広蓋には着物一重ね、その上に帯
一筋、小扇、懐紙、熨斗、小松が添えてある。よろずの徳を司る歳徳神のおられる方
角、玉女という恵方に向かって儀式は行われる。
9)「元服式」
元服については古くは「聖徳太子伝暦」、「続日本紀」には聖武天皇の元服が記され
ているようである。この儀式がいかにめでたく大切な儀式であったことか知ることが
できる。元服の年齢は一定していなかったが、皇太子は11歳から17歳までに行われ、
親王もこれに準じていた。加冠を行うことによって一人前の大人として認められる儀
式。柳の台の上で式は執り行われる。公家社会では後世まで冠であったが、武家では
烏帽子を用いた。元服したものは冠者というが、武家では加冠の人を指して烏帽子親
という。元服者は柳の台の上に跪座して烏帽子を被せてもらう。天皇家は正月の1日
から5日までの間に式を行い、一般でも正月に多く行われた。 3 礼法の基本
新渡戸稲造は著書「武士道」で、「最も著名なる礼法の流派たる小笠原宗家[小笠原清務]
の述べたる言葉によれば『礼道の要は心を練るにあり、礼を以て端座すれば兇人剣を取り
て向かうとも害を加ふること能はず』と云うにある。換言すれば、絶えず正しき作法を修
むることにより、人の身体のすべての部分及び機能に完全なる秩序を生じ、身体と環境と
が完く調和して肉体に対する精神の表現にいたる」と記され、「心がいかに大事であるか、
そしてその心に伴う正しい作法を身につけていくことは、人として大事なことである」と
している。
小笠原清忠氏は著書の中で、立ち居振る舞いと行動の教養について、次のように述べて
いる。
「振る舞い」という言葉は、『徒然草』の「二百三十一段」に「大方、振る舞ひて興あるよりも、
興なくて安らかなるが、勝りたる事也。客人の饗応なども、ついでおかしきように執り成
したるも、誠に良けれども、其事となくてとり出でたる、いと良し」と記され、ことさら
に派手な動きをすることを「振る舞い」としています。また、「振る舞い酒」のように、
もてなしの意味を持っている場合もありますが、一般的に「振る舞い」は、美しい動作を
意味し、「立ち居振る舞い」には、自然の美しい動作から、体の合理的なこなし方までが
含まれます。
さらに、人の持つ教養について、「言語や動作を通じて第三者に響くもので、豊かな知
識や学問的深さがあっても、社会人として普段の交際ができない人は失格だ」とし、「教
養という言葉の中には、豊かで広い社会的常識、円満な情緒性も含まれており、行動に伴
う教養が備わっていることが社会人として最も大切である。言語動作は、今日では自由す
ぎるほど平等であるが、平等だけでは社会生活は成り立たない。経験者と未経験者、教え
る立場と教わる立場、いろいろな立場の違いがあり『時・所・相手』に合わせられる教養
を身につける必要がある。相手を大切にするということは、自分を大切にすることから生
まれる。」と述べている。
まさに、本学の建学の精神「礼節:自他の人間性を尊重し、かつ己を律する精神」その
ものであるといえる。
-
-72
6-
-
4 自然体の体得
基本的な立ち居振る舞いについて、小笠原清忠氏は著書「一流人の礼法」の中で、いか
に「自然体」が大事なことであるかについて、次のように記している。
「作法の基本は、心のあり方とその心を合理的に表した形に有ります。その形が第三者
に気持ちよく美しく感じられるためには、正しい自然の姿勢、つまり『自然体』が必要と
なります。『自然体』とは、心と身体全体が調和を保ち、最も合理的に働いている状態の
形であり、心の動きも伴い、骨格や筋肉も本来の機能そのままに使える状態なので、常に
正しい姿勢を保っています。」そして、「真に優れた人は、ただ立っているだけなのに、何
かが違う・・・と思わせるオーラのようなものを放っているのですが、これこそまさに、心
のあり方とそれを自然に表現できる一流の『自然体』を体得している人なのです。」とし
ている。
以下⑴∼⑸は礼法の大切な動きであり、立ち居振る舞いの基本となるもので、いずれも
呼吸に合わせて動作をしていくのである。
⑴ 立つ
立つということは人間の宿命であり、基本中の基本となる姿勢で、立った姿勢で大切な
ことは、「力学的に安定している。筋肉にかかる負担が少ない。内蔵の諸器官を圧迫しない。
正しい脊柱に添っていること。」立った姿勢で大切なのは足の踏み方で、つま先が開いて
踵を閉じると重心が踵に来て胴体は後ろに反ってしまうことになる。両足は平行に付ける
ように踏んだ方が良い。
体はまず腰が正しく据えられなければならない。その腰の上に胴体が乗り、胴の上部に
は肩がある。無理のない胴の上には頭が据えられる。うなじを真直ぐにして、耳が肩に垂
れるように、あごの浮かないように、襟の空かないようにして、背筋を真直ぐに、自然な
脊柱の形態に添って、さらに肩を落として、呼吸は胸に留めずに、腹に落とし平静に保ち、
内臓や諸器官を圧迫しないようにする。
腰に意識を持たせ、腰の線が崩れないようにする。昔より、第五腰椎を「腰眼」といっ
て大切にし、袴の腰板の部分にあり、姿勢の最も重要な部位としていた。手は自然体で、
下に伸ばす。指先は口元と同じく開いているとだらしなく見える。こころもち手の平をく
ぼませて、小指に意識を持たせる。体の重心は、土踏まずの少し前辺りにくるのが正しい
姿勢である。
⑵ 座る
立つ姿勢と同様に非常に重要なのが、座る姿勢である。畳や床に座ることもあれば、椅
子に座る場面もある。しかしそこがどこであれ、その座っている姿勢ひとつで、周囲の空
気を一変させてしまうものである。座るという姿勢の中にも、次の行動に移るための姿勢
の跪座や、座った状態での方向転換、座ったままでの歩みなど、習得すべきことは多岐に
わたる。
どの姿勢も「立つ」と同様、心の動きを伴い、身体の骨格や筋肉の本来の機能そのまま
に正しい姿勢を保つことが大切である。
-
-73
7-
-
1)正座
事務的な仕事をする下級武士の間から事務機能や対応の必要に応じて生まれたと云
われている。それが次第に上級武士にまで広がり日本特有の正座として完成したと云
われている。正座の大切な要は、背骨をまっすぐに伸ばしていること。ひじを張らず、
猫背にならないように、横から見たときに、肩の中央に上腕があるようにし、ひじか
ら下、前腕と手のひらを静かに腿の上に置く。立つ姿勢と基本は同じく、うなじをま
っすぐ、耳が肩に垂れるように、あごが浮かないように、襟のすかないようにする。
上体の重心は腿の真ん中にくるように、やや前傾に座るようにする。自分から見て腿
が短く見えるように座る。足の親指だけを重ねて足は自然に寝かせるようにし、踵は
開くようにする。足の裏全体を重ねると腰が浮き、上体も曲がることになる。
2)跪座
座った姿勢から何か行う場合にこの姿勢をとる。足の指先を爪立てて、ひざを突い
て膝頭は開かない。上体を静かに両踵の上に軽く据える。この姿勢で大切なことは、
踵を開かないように閉じてつけること。両方の踵が緩むと、腹筋の締まりも緩くなり
構えのバランスが崩れてしまうことになる。踵を締めて腹筋を伸ばし、静かな呼吸を
保つ。呼吸を詰めないようにして、背筋を伸ばし肩を自然に落として力を入れないよ
うに注意する。
手の置き所は、両手を一度ぶらぶらさせて、腿の上にぽんと置いた位置が良いとさ
れている。掌はやや含みを持って指の開かないようにしておく。正座と同じく頭部が
胴体にしっかり乗っていることが大切で、頭の芯から棒を通せば胴の中心を抜けてい
くように心がける。立ったりお辞儀をしたりする時に頭部が前に落ちたり、逆にあご
が浮いたりすることのないように常に気をつける。足首の角度は踵よりも前になるよ
うにする。跪座は、低い姿勢での動作や立ったり座ったりするときに必ずこの姿勢に
なる基本の形。どんな時にでも役に立つ基本姿勢である。香の煙の漂うような静かな
立ち居振る舞いが求められる。
正座から何か行おうとするとき、必ず必要となる動作「正座から跪座」、風のない
日に立ち上る煙のように静かに上体を浮かすようにして立ち上がる動作「跪座から立
つ」、水の中に沈んでいくが如く「立った姿勢から座る」動作。いずれも、その一連
の動作の流れの基本には、本来身体に備わった各骨格、各筋肉の働きと常なる呼吸を
伴った「自然体」の形があり、その無駄のないよどみのない静かな凛とした美しい心
を伴った動きが、相手の心に写るのである。
3)椅子の座り方
最も頻繁に行われる所作の一つである。その行い一つにも、歴然とした品格の差が
現れてくる。椅子に腰掛けた姿勢は正座と同様に、太腿が短く見えるようにやや前傾
することが大切である。深々と腰掛けるのではなく、やや浅く腰掛けるのがポイント
で浅く掛けるようにすると、立ったり座ったりする動作も行いやすくなる。また、人
の話を伺う時は、より浅く腰掛け直すくらいの気持ちを持ちたいものである。
両手は自然に、腿の付け根の辺りに載せる。手を組むと安心感はあるが注意力は散
漫となる。記憶をしたり、考えたりする時には、ある程度の緊張が必要となるので、
大切な商談や大事な話の時などでは手を離してひざの上に置く正しい姿勢をとるよう
-
-74
8-
-
にする。
ひざは閉じる。ひざが開くのはつま先が開いているからである。足を組んだり、女
性は斜めに横に流すのが美しいとされているようであるが、いずれも親しい友人など、
気楽な間柄の場合に限られる。大切な用件の場や上位の方の前ですることではない。
また足を組んだり足を流す場合、人の方へ足を向けないように注意する。
椅子には下座から腰掛けるのが正式で、下座脇に立ち、勧められてから座るが、自
分が上位者である場合は椅子の正面に進んで掛ける。椅子に掛けていても、正しい姿
勢とは、背筋がまっすぐ伸びていて、うなじを真直ぐにして、耳が肩に垂れるように、
襟が空かないという基本は同じである。
4)椅子に座る、椅子から立つ
椅子に座るとき、大切なことは、上体をできるだけ前後に動かさないように、まっ
すぐに保ちながら静かに腰を下ろすということである。しっかりとした足腰がないと、
椅子にドスンと座る格好になってしまう。また、一見静かに座っているようでも、上
体を前に屈体させて前後のバランスを取ってゆっくり座っているのが大半であるが、
体を揺らすのは美しい動作ではない。理想的には、上体は可能な限りまっすぐのまま、
静かに水に沈んでいくように椅子に腰を掛けていく。
逆に椅子から立ち上がるときも、上体はまっすぐにしたままで立ち上がる。大半の
人は上体を相当前かがみにして立ち上がろうとするが、椅子から立ち上がる動作は、
座る動作よりもさらに足腰の筋力が必要であり、普段から稽古が必要である。反動を
使わない、前傾しない静かな自然体の動作に品が宿る。
⑶ 歩く
日本古来の歩みの美しさとは、「地に足が着いた」歩き方で、静かに歩むその姿は、裾
ははだけることがなく、上体も両手もほとんど動かさず、そして空気の乱れもない。時と
場合に応じて様々な歩き方がある。その基本はすべて同じで、重心は常に中心、足は平行
に踏む。そして呼吸に合わせて足を運ぶ。歩くときの姿勢も、正しい姿勢とは、背筋がま
っすぐ伸びていて、うなじを真直ぐにして、耳が肩に垂れるように、あごの浮かないよう
に、襟の空かないという基本は同じである。
1)日常の歩き方
日常の歩き方こそ、品が求められる。歩き方の基本は、姿勢よく、前後にぶれない
ように歩くこと。姿勢を正しくして歩くには、両手の小指を伸ばし、呼吸に合わせて
歩行することが大切である。
身体の関節は上下運動、前後運動、左右の動きの調節をしてくれる。歩行は腰から
足の運びであるので腿で歩くようにするとぶれずに美しい歩き方になる。
足は平行に踏み一本の線をまたぐようにして運ぶ。内股、外股は美しくなく、一本
の線を踏んで歩くと千鳥足となる。手は自然に身体を中心として前後に真直ぐに振る。
体がかがんでいると手は前で横に振れ、不自然である。
吸う息で一歩、吐く息で一歩、少し早く歩く場合には吸う息二歩、吐く息二歩で歩
く。特に履き物を引きずって歩かないように注意する。視線の先も真直ぐに、首を振
ったりしないように注意する。階段も呼吸で歩くようにすると楽に上がれる。すべて
-
-75
9-
-
の動作は呼吸に合わせて行うとよい。
2)膝行膝退
膝行膝退とは、膝だけで歩く進退で、仏前などで座布団に座ったり座っている人の
前で行う動作である。座っている人の手前まで立ち進むと、相手を見下ろす形となり、
何か物を渡す場合も、頭の上を覆うような姿になり失礼である。このため、低い姿勢
で進んだり退いたりする作法が必要なのである。
膝行は、まず跪座の姿勢になり、下座の足から勧める。膝退は上座の足から退いて
いく。踵は開かず、身体から離れないことが大切である。手を床に付ける膝行膝退も
あるが、これは体重を手で支えるという動作ではなく、手を見えるところに出して、
危害を加えませんという殿中での作法からきたものである。前かがみになりやすいの
で、立って歩くのと同じで姿勢よく、前後左右にぶれることなく進退するようにする。
⑷ 廻る
廻る動作とは、方向転換や向きを変える動作である。実用上の動作でありながら、一流
の作法を心得た者の動きには、優雅さや品、美しさがあらわれる。
廻る動作には、立って廻る動作と座りながら廻る動作がある。どちらも基本は腰を中心
とした身体の中心線で廻るということが重要で、重心が崩れた状態で廻ろうとするとバラ
ンスを崩して見苦しい所作になってしまうのである。無駄な動きをせず、自然な流れの中
で向きを変えられるようになると、非常に美しい所作となる。美しく廻るためには足腰の
鍛錬が欠かせない。
日常の生活の中で鍛練を積み、筋力を鍛えていたとされる当時の武士達の姿を彷彿とさ
せる立ち居振る舞いの一つであるといえる。
1)立って廻る
公的な場面では、方向転換をすることは多い。立っている時の廻り方には、「開く」
と「廻る」がある。足を引いて方向を変える「開く」に対して、足を被せるようにし
て方向を変えるのが「廻る」となる。廻り方の原則は、常に上座の方に向かって廻る
ことである。下座側に廻ると、上座に背を向けることになり、失礼になるのである。
足を浮かせずに、沿わせるように一連の流れの中で足を動かしていく。一動作、一動
作はっきりと構えが崩れないように腰を中心にして廻ることが重要で、大切なのは重
心の移動である。
2)座って廻る
座っている状態での方向転換は、畳の上での様々な場面で必要となる動作である。
立っての方向転換と同様に、座っている状態で方向転換する方法も二通りある。開い
て廻る方法と、回転させるようにして廻る方法である。座って開くときは、腰を少し
だけ浮かせて90度開き、動きの途中でも背筋を伸ばし、身体の中心線で廻るように心
がけて足を揃える。座っての廻り方では、手を腿に置いたまま跪座となり、廻る方向
の膝を少し上げ、もう片方の膝で押していく感じで廻っていく。バランスを取るのが
難しく足腰の鍛錬が必要であるが、その動作は美しく、熟練してくると、90度から
270度くらいまで一度に廻ることができるようになる。左右どちらにも廻れることも
大事である。
- 76
10 -
実際にこのように動作をすることで、全身の神経が集中し身体の各筋肉を駆使して
バランスを取りながら廻っていることが実感できる。無駄のない美しい動作であるこ
とが分かる。
⑸ 礼
「礼に始まり、礼に終わる。」身近であり、大切な作法の一つがお辞儀である。その動作
一つで、その人となりや人格までもが表れる。言葉では言い尽くせないものが、その動作
で伝わってくる。
お辞儀とは、相手に自分の頭を差し出すようにすることで「敵意がない」ことを表現し
たのが由来と言われており、飛鳥時代から奈良時代にかけ、中国の礼法を取り入れる際、
身分に応じたお辞儀の形が制定されて始まったとされている。
日本で行われている頭を下げて体を屈する礼は、主に中国・アジア圏で多く見られる形
である。西洋では挨拶として握手をしたり、帽子を脱いで挨拶をしたりするが、その本質
は同じで、「敵意がない」ことを示す動作なのである。社会生活でお辞儀をする機会はた
くさんあるが、「時・所・相手」によってお辞儀の仕方は変わる。しかし、どんな場合で
も共通するのは「相手を敬う心を持つ」ということで、お辞儀の途中のどこで止まっても
お辞儀としての心が示され、気持ちが相手に伝わることが大切である。「心のこもったリ
ーダーの礼は、百万の言葉よりも人々の心を打ち、鼓舞し、感動をも与える力を持ってい
るのです。」と記される。
1)お辞儀の基本
お辞儀は「三息」で行うのが原則で、「三息」とは「吸う、吐く、吸う」の呼吸動
作を言う。吸う息で上体を傾けて屈体し、吐く息の間そのまま止めて、再び吸う息で
上体を起こすと、自ずとゆったりとした礼になる。これを「礼三息(れいみいき)」
と言う。「動く動作には吸う息、止まっている動作には吐く息」が基本である。呼吸
に動作を合わせれば、人間同士の呼吸であるので自然と息が合うことになる。深い礼
でも、浅い礼でも呼吸は同じで、「礼三息」はどんな相手に対しても折り目正しく、
相手への敬意と誠意が表れる。「礼三息」は、立礼、座礼ともに共通する呼吸であるが、
相手と呼吸を合わせるという意味合いを持っている。ややもすると屈体するときより
も起きるときの方が早くなるが、相手との心の結びつきは上体を起こすときが大切で
ある。
2)立礼の三態
お辞儀は角度で行うものではなく、身体的な長さなどを用いて行う。正しい姿勢が
基本で、頭は胴体に据えたまま、体を腰から曲げていく。屈体させるときに首が落ち
たり、前に出たりしないように正しい姿勢を維持する。ひじを張らないように注意し、
ひじは常に体につけている気持ちで、ひじから指先が常に真直ぐであることが大切で
ある。また背筋を真直ぐにすることも大切で背が丸くならないように注意する。意識
して呼吸に合わせてゆっくりと戻るようにすると気持ちのこもった礼になる。
体を屈すると手は自然と前に出てくる。指先が前に出た辺りで止めるのが浅い礼と
なる。浅い礼と深い礼の中間にあたるのが普通礼である。指先は膝の少し上にくるあ
たりまで下がる。深い礼は、さらに体を屈するに伴い自然と手は腿を滑り、指先が膝
- 77
11 -
頭に付くところまで下げる。手は最初は側面に近いところから徐々に前へ来るのが自
然である。このように、礼とは本来、角度で行わない。体型や腕の長さにより個人差
が生じるものなのである。
3)座礼の基本
立礼と同様に、座礼に於いても屈体の礼が基本で、背筋を伸ばし、真っ直ぐに正し
く座ってお辞儀をしてこそ、相手に響くお辞儀になる。呼吸に合わせることも基本的
に同じである。
手は、上体を屈体することにより、自然についてくるものである。上体を前屈して
いくと、手が膝の上にあると窮屈で不自然になるので、手は自然と腿の脇に落ち、さ
らに前屈することにより、手は前に進んでくる。このときに腕は膝から離れずに膝に
擦れながら添って動いていく。
胸部が膝についたときが、一番深い礼(合手礼)になる。このとき、両手の指先は
つき、人差し指と親指でできた三角形の延長上に鼻が来るようになる。手の形は、親
指と小指でしめ、少し丸みを持たせるようにする。ちょうど、水を手ですくう時の形
で、ひじは張らずに腿に付けるようにする。手の位置が鼻の位置より前に出ると、ひ
れ伏すという形になってしまう。
「九品礼」といって、九つの基本礼を浅い礼から順に「目礼」「首礼」「指建礼」「爪
甲礼」「折手礼」
「拓手礼」
「双手礼」
「合手礼」「合掌礼」がある。合掌礼は神仏に対
する最も深い礼となる。
一般的には会釈として指建礼(しけんれい)、普通礼として折手礼(せっしゅれい)、
拓手礼(たくしゅれい)、そして深い礼として双手礼(そうしゅれい)、合手礼(ごう
しゅれい)がある。立礼と同じく、礼は呼吸に合わせて行うものである。
4)座礼の五態
座礼の使い分けにより、心を表現することができる。
ア「指建礼」
手は腿の両側に下ろした位置が最も自然で、両手を膝の両側におろし、ひじを
軽く伸ばし指先だけを畳に付け、上体を少し屈体した形である。片手指建と両手
指建がある。お焼香などで隣の方に「お先に」と挨拶するときなどに使われる。
イ「折手礼」
さらに体を屈すると、手のひらが床に付く。両手のひらを床に付けるが、
「こ
の時、男性は指先を前に向けるが、女性は手首を前にして、指先を後ろに向け
る。これは男女の骨格の違いから来るもので、女性はこの形の方が自然体だか
らである」とある。
ウ「拓手礼」
さらに屈体していくとひじが折れ、手が膝の横前に出る。同輩に対する礼で、
茶道などで多く使われている礼である。
エ「双手礼」
拓手礼からさらに屈体していくと、両手は前に移行して行く。同輩に対する
深い礼であり、目上の人にも用いる。
オ「合手礼」
- 78
12 -
一般的に最も丁寧な深いお辞儀とされる。両手の指先が付くまで、また胸が
膝に付くまで体を屈する。体は踵から浮かさないで、ひじは張らないように、
膝から離さないように注意する。
5)座礼の仕方
形の表れやすい座礼には、深遠なる心の面持ちが宿る。座礼の仕方も立礼と同じで、
浅い礼でも深い礼でも基本的に同じである。立ってする礼と座してする礼の違いだけ
で、礼三息「吸う・吐く・吸う」の呼吸のタイミングで屈体から止まり、直る。屈体
するとき、手を先に出して、後から体を屈するのではなく、「手は体の影」とし、バ
ラバラな動きをせず、手と体は一体で動かす。また、起き上がるときは、逆に体が先
で手が遅れてくるのではなく、必ず、手と体を一体で動かすようにする。
座礼の場合も、立礼と同じく、大抵の人は屈するときよりも戻るときの方が早くな
ってしまいがちである。戻るのが早いと軽々しく見えてしまうものである。呼吸に合
わせて戻れば早く直ることもないが、意識的にゆっくりと上体を戻すようにすると気
持ちのこもった座礼となる。
5 おわりに
小倉城庭園書院の間に於いて行われた「袴着の祝」と「帯直しの祝」
。実に古式ゆかしい
厳かな儀式であり、筆者も直接携わる機会を得ることができた。
まだあどけない男児、女児をさりげなく促しながら上段の間に導き、その家族や関係者が
見守る中、弓馬術礼法小笠原教場で学んできた者たちの介添え(心を形にする礼法の基本と
なる動作、立つ・座る・歩く・廻る・礼)で進められた。儀式の最後は「式三献の事」で、
本親から帯の親に贈られるお礼の品が披露されて、無事に終了した。何よりも、小人たちの
晴れやかな表情が印象深く、
清々しい思いが心に残る。余情残心、
その場に居合わせた者皆が、
祝福と共に言葉では言い尽くせない、
暖かな思いに包まれたのは云うまでもないことである。
古来より、新年を迎える正月の祝事など四季折々の年中行事や節句行事、冠婚葬祭等々各
地域の風習や食文化、季節ごとの祝いやその応対の仕方に至るまで、それぞれに関わる年長
者によって、次世代の後継者に正確にしかも細かい気遣いに至るまでしっかりと伝承されて
きていた。
しかし、近年日本では少子高齢化・核家族化が急激に進展する中、一歩踏み込んだ地域の
つながりや、異世代間の交流が希薄化してきている現状は否めない。また、今日の情報化社
会にあっては、何か事に当たるとき、自宅でも、必要と思われる情報を瞬時に、その師範役
として手元の情報機器から容易に確保できるのである。今や小学生であっても、情報機器を
駆使できる時代である。ひと昔前までは、想像すらできなかったそのめざましい技術の進歩
には目を見張るものがある。確かに情報は必要である。知ろうとする事は大事である。しか
し、何かが失われ始めているのではないか。街を行き交う人たち、交通機関に乗り合わせた
人たち、横断歩道を歩く時でさえ、じっと情報機器の画面を見つめている。
「お先に」
「どう
ぞ」といった言葉の掛け合う姿、会釈と共に笑顔ですれ違う姿は、ほとんど見かけなくなっ
てきた。何か忙しそうで言葉も掛けにくい。
「袖振り合うも多少の縁」
といった時代は遠い昔の話となったのであろうか。先人達が築き、
これまで大切に語り継がれてきた日本の伝統的な文化、そしてその背景となる心。今こそ、
- 79
13 -
折に触れて次の世代の若者たちに、そしてこれからの子ども達に、情報機器の画面だけでは
伝えることのできないもの、気付くことのできないもの、大切な暖かみのあるものを伝えて
いかなければならないのではないだろうか。
この掛け替えのない日本の美しい文化を、そしてその心を「今」丁寧に一つ一つ地域・家
庭・教育の場などでしっかりと語り継いでいくこと、伝承していくことの意義は大きい。
幼い頃から、元気よくあいさつができて、家庭では家の手伝いを進んで行い、当たり前の
ことを当たり前にできることに喜びを感じる体験を日常的にさせていくこと、そして、心を
形に表すということは具体的にどのようなことなのか、どのような心がどのような形に表れ
るのかということを折に触れて教え、気付かせていくことは、特にこれから必要な時代にな
ってくると思われる。
子どもたちに、
「時、所、相手」にあわせて心を伴った行動を、教養として身に付けさせ
ていくこと、その役割を担ってきたのは、これまでは家族であり年長者であり、地域社会で
あった。人としての有るべき姿の軸となる生きる姿勢を、しっかりと身につけさせていくこ
と。今や、その役割の一助を教育「教え育てる」場が担っていかなければならない時に来て
いる。
幼稚園や学校での生活に於いて、幼児、児童生徒の指導者である教師自身が、まずは正し
い立ち居振る舞いを子ども達に示しながら、当たり前のことを当たり前に振る舞える事の大
切さ、心を形に表す礼法を教え示していくことが求められる。周囲の大人から目にして学ん
だ動作、言葉、その根底となる心のありようが、子ども達の心に直に伝わり、その大人達の
生き方その姿が、やがてはその子どもたちの心、品格を磨き育てていくことに繋がるのであ
る。その責任と役割は実に大きいということができる。
「礼節」の学舎である「明教庵」和室の床の間には、
「美在心」の掛け軸が掛かる。ここで
学ぶ学生達が、それぞれの自己を磨き修養的教養なるものを身に付けて卒業し、次世代の子
ども達の良き手本となり、美しい心、生き方、その姿を堂々と示していってくれることを期
待し、更なる研究を進めていきたいと考える。
【参考文献】
新渡戸稲造、1938「武士道」岩波文庫
小笠原清信、1985,『しつけの事典』東陽出版.
小笠原忠統、1986、『小笠原流 礼法入門』中央文芸社.
小笠原忠統、1988、『日本人の礼儀と心』ダン社.
鈴木敬三、1995、『有識故実大辞典』吉川弘文館.
木村尚三郎、1996、『作法の時代 小笠原流を生かす』PHP研究所
小笠原清忠、1998、『帯直し式』小笠原教場
古田紹欽、2000、『栄西 喫茶養生記』講談社
小笠原清忠、2001、『袴着』小笠原教場
小笠原清忠、2007、『小笠原流礼法入門』ハースト婦人画報社
小笠原清忠、2008、『一流人の礼法』日本経営合理化協会.
前田紀美子、2008、『やさしさが伝わる日本の礼法』玉川大学出版部
- 80
14 -
保育の技術としての音・声・音楽
∼2年間の保育音楽・療育音楽による保育者育成の可能性∼
中武 亮子
Sound, Voice and Music as Skills of Nursery School Teachers:
The Possibilities for Training Nursery School Teachers through
the teaching of nursery and therapeutic music in Junior College
Ryoko NAKATAKE
はじめに
筆者は、平成15年度より、宮崎学園短期大学保育科において保育音楽関係の授業ととも
に、
「こども音楽療育士」
及び、
「音楽療法士2種」
取得のための授業を担当している。また、
本学付属の
「こども音楽教育センター」
において音楽教育及び、
音楽療法の実践を行っている。
保育の現場において、音や音楽は子どもの発達と密接に関係している。このことは、保
育の現場では、登園時から降園時まで音や音楽に溢れていることからも言える。保育の中
で音や音楽を使うのは、楽器を演奏することや、歌を歌ったり手あそびを行ったりするこ
と自体が目的ではない。対象となる子どもの心身の発達に合った遊びの中に音や声、音楽
を取り入れていったり、子どものあそびの中にある音や声、音楽を保育者が見つけてやり
とりをしたりすることによって、それらの音や声、音楽が子どもたちの五感を通して豊か
に広がり、結果として子どもたちの感覚や心身を豊かに育てていくことが目的であると考
える。日頃、筆者自身が音楽療法を実践する中で、心身の障がいのために、他者の考えや
思いを受け取ること、自分の周りの環境を捉えること、また、自分の思いや考えを表現す
ることが難しい子どもたちが、音や音楽の活動を通して表現の力を発揮していることを目
の当たりにしている。松井紀和は音楽を治療の道具として用いる意味について10の項目を
挙げて述べている(松井2000:2-9)
。また、音楽療法で使う音楽とは、
「人間の音楽的活動凡
てを含むものであり、後に明らかな音楽活動に発展するような幼児のリズミカルな運動、
発声、音を楽しむような反復行動等原始的な行動形態から、歌う、跳ぶ、はねる、楽器を
楽しむような音楽活動、さらに高度な芸術音楽の創造、演奏、鑑賞、舞踏等まで凡てを含
むものである。
」と述べている(松井2000:12)
。実際に筆者が音楽療法の実践を行う中でも、
対象者とセラピストがお互いに出す音や声、音楽、表情や身体の動きを言葉の代わりのコ
ミュニケーションの道具として使う。こどもの育ちは、障がいのあるなしにかかわらず、
すべての子どもに共通のものであることから、保育においても同様に、音や音楽を用いた
豊かな感性の育ちが期待できると考える。
石橋裕子は、
「子どもに意欲的な表現をうながすためには、保育者自身の充実した表現の
体験の積み重ねがなければならない。
」
(石橋2009:50)
、
「保育者は子どもと多くの表現を共
有する。こどもから多くの表現を受け取り、子どもに向けてたくさんの表現をするからで
ある。表現を共有しながら、子どもたちは、保育者の姿から多くのことを学ぶ。
」
(石橋裕
子2009:50-51)と述べている。子どもにとって、毎日出会う保育者の存在は生活のすべてで
- 81 -
あるといっても過言ではない。それならば、豊かな表現力を持つ保育者が担当するクラス
の子どもたちが豊かな表現力を持つ子どもに育つであろうことは予想できる。しかし、筆
者は近年、将来保育者として子どもの前に立つ本学の学生の中に、例えばものの大きさを
表現するときに声や身体を適切に使うことができない、手あそびで指の先まで気持ちのこ
もった表現ができない、子どもにどのような声掛けをしたらよいかわからないなどといっ
た表現力の弱い者が少なからずいることを感じている。
そこで筆者は、多感覚による音楽療法の手法を用いた保育音楽、療育音楽の2年間の授
業で、学生を、将来出会う子どもたちの表現を豊かに引き出すことのできる保育者に育て
る手立てを具体的に考え、実践したいと考える。
Ⅰ 研究の目的
本稿においては、本学保育科の学生が2年間に受講する保育音楽・療育音楽関係の科目
の中で、保育に必要な音楽の表現技術を身につけていく過程を考察するとともに、保育者
としての音楽表現技術獲得の可能性を検討する。
Ⅱ 研究の方法
1.本学保育科の2年間で開講する保育音楽・療育音楽関係の授業における学生の現
状について検討するとともに、学生に保育者として身につけてほしい保育音楽の技
術について具体的に項目化する。
2.1.の項目を基に「あそびと音楽Ⅱ」を受講している保育科1年生及び「こども
音楽療育演習(こども音楽療育士取得のための科目)」を受講している保育科2年
生への「保育音楽の表現技術に関するアンケート(自己評価)」を行う。
3.学生が自分自身の保育音楽の表現技術を自己評価したそれぞれの結果を平均した
数値を表やレーダーチャートで可視化する。
4.3.の結果を比較、検討し、保育科の学生が2年間で身につける保育音楽の表現
技術の獲得の過程と「こども音楽療育」関係の授業で保育音楽の技術を高める可能
性を探る。
Ⅲ 本学の保育音楽、療育音楽関係の授業における学生の状況
1.2年間の保育音楽・療育音楽の内容及び保育科学生の現状
⑴ 保育科1年生の授業科目と取り組み
「あそびと音楽Ⅰ」前期15コマ
授業目標:幼児の様々な音楽活動を実践し、音や音楽を五感で感じる中で、それらが
幼児の心身の発達に関係することを学ぶ。また、発達に合った遊びをグル
ープで展開する中で、音や音楽によって幼児の主体的な表現を促す手法を
習得する。
授業内容:手遊び、歌唱(幼児の歌・季節の歌)、絵本の読み聞かせ、楽器演奏、幼児
の遊びの実践
- 82 -
「あそびと音楽Ⅱ」後期15コマ
授業目標:幼児の様々な音楽活動を実践する中で、自らが音や音楽を多感覚に感じる
ための心身の動きを獲得する。また、発達に応じた様々な音楽活動を自ら
が展開し、幼児の主体的な表現を促す手法を習得する。
授業内容:手遊び、歌唱(幼児の歌・季節の歌)、絵本の読み聞かせ、楽器演奏、幼児
の遊びの実践及び展開の方法
「保育内容の研究表現(音楽表現)
」前期5コマ
授業目標:幼児の発達に合った様々な音楽遊びを自らが展開する中で、幼児の主体的
な表現を促す音や音楽の表現技術を習得する。
授業内容:打楽器による基本的なリズムの練習及びアンサンブル、音付け、楽器の音
や CD の音楽を聴きながら動いたり、絵を描いたりする活動、絵譜による
ワーク、絵本の音付け
保育科1年の学生は「あそびと音楽Ⅰ・Ⅱ」の授業の中で、手遊びや季節の歌、楽器に
よる演奏、音楽を聴きながら動くこと、絵本の読み聞かせなどを経験している。また、
「保
育内容の研究表現」の授業の中では、楽器の音や音楽を聴きながら動くとともに、身体の
動き、子どもの遊び、さまざまな素材・場面に合った楽器の音を出すこと、楽器の音やC
Dの音楽を聴きながら絵を描くといった即興的な活動も多く取り入れている。
さらに、夏季休業中から後期にかけては自主実習やボランティアに参加したり、付属の
幼稚園において4日間の実践指導を受けたりするなど、
保育の現場を経験している。しかし、
音楽を使って子どもと遊ぶ機会のある学生はまだ多くない。
⑵ 保育科2年生の授業科目と取り組み
「保育指導法Ⅲ」
(前期5コマ)
授業目標:幼児の発達に合った様々な音楽遊びを自らが展開する中で、幼児の主体的
な表現を促す手法を習得する。
授業内容:楽器や歌唱、身体の動きによる乳幼児の音楽遊びの実践的展開。
保育科2年の学生は「保育指導法Ⅲ」の授業の中で、1年次に身に付けたことを応用し
た音楽活動をグループで考え、実践していくことで、現場で使える力を身につけることを
目指している。さらに、2年生はここまでに2週間の保育所実習、7日∼ 10日の施設実習、
4週間の幼稚園教育実習といった保育・療育の現場を体験している。しかし、実際には音
楽技術や意欲に大きな個人差があり、実践力が身についているとは言い難い状況もある。
⑶ こども音楽療育士取得を目指す学生の授業と取り組み
本学保育科は2年生約210名の定員のうち、毎年約30名∼ 40名(今年度42名)が、卒業時
に「こども音楽療育士」あるいは、
「音楽療法士2種」の資格を得て卒業する(平成26年度
は「こども音楽療育士」のみの開講)
。これらの資格は選択制であり、通常より多くの科目
を履修することになるため、
「保育士資格」及び、
「幼稚園教諭2種免許」を2年間で取得
する本学のカリキュラムの中では、多くの学生が取得することは難しい。しかし、そのよ
うな中でも音楽療育・療法関係の科目を選択する学生は意欲的で、
音楽に対する興味も深く、
- 83 -
それまでの保育音楽関係の科目に加えて、音や声、音楽やそれらを伴う遊びや動きの豊富
な体験をしている。また、これらの専門科目を受講する2年次は、保育現場での実習を通
した多くの経験から、子どもの発達と結びつけた実践的な授業が展開できるのも特徴であ
る。以下が、その科目と授業目標である。
「こども音楽療育概論」
(前期15コマ)
授業目標:障がいのあるこどもの音楽療育に関する基礎・専門知識について学習する。
心身の発達過程と音楽的発達との関係、音楽と遊びとの関係、音楽療育の
意義と障害種別の具体的援助方法について学ぶ。
授業内容:楽器の音や CD の音楽を聴きながらの身体表現、絵譜による、身体の動き
を伴ったワーク、絵本に音付けをし、演じる
「器楽活用法」
(後期15コマ)
授業目標:保育や療育の現場で、遊びの中で楽器を活用するための奏法を学ぶ
指導内容:基本的なリズム練習、様々な楽器の奏法、絵譜による楽器表現、様々な素
材や物への音付け、コード奏の実際、合奏
「身体表現及び即興演奏法」
(後期15コマ)
授業目標:保育者が、音や音楽と、子どもの心身の発達の関係を理解した上で音楽の
遊びを展開するための技術と身体の動きについて学ぶ。また、子どもの動
きや発する声、音を瞬時に捉え、即興的に返す表現法を学ぶ。
授業内容:ピアノの音による発達的身体表現、CD の音楽による身体表現、絵譜によ
る声と身体の表現、絵本の登場人物になっての動き(演じること)及び音
付け
「こども音楽療育演習」
(後期15コマ)
授業目標:障害のあるこどもを対象とした音楽療育の実践方法に関する基礎と専門知
識・技術技能について学習する。発達の援助のための音や音楽の使い方、
障害種別、形態別(個別、集団など)の療育の具体的方法、楽器の活用法
や身体活動と音楽との関連を視野に入れた実践方法について学ぶ。
授業内容:音楽療法で行われる活動の実際(楽器の奏法、音付け、声の使い方、歌唱法、
即興演奏法等)、グループで音や音楽を使った子どもの遊びを創作する、
「こども音楽療育実習」
(後期15コマ)
授業目標:宮崎学園短期大学こども音楽教育センター及び学外の実習先において、障
害のあるこどもたちとの交流を通して障害児を理解し、更に、音や音楽を
使った音楽療育の具体的実践方法を学ぶ
授業内容:本学付属の「こども音楽教育センター」で行われる音楽療法の実践に参加し、
子どもの音楽活動の記録を書くことにより子どもへの対応や音や音楽の使い
方を学ぶ。
- 84 -
以上の科目のうち前期には、
「こども音楽療育概論」において理論を学び、後期に理論を
基に「子ども音楽療育演習」で実践を行う。また、後期には同時に、音と動きの関係を実
際に体験して自分自身の表現の幅を広げていくことを「身体表現及び即興演奏法」で、様々
な楽器の奏法を学んで技術を高めていくことを「器楽活用法」で行っている。
2.保育音楽の表現技術の自己評価アンケート及び可視化
本学保育科の学生に、卒業までに身につけて欲しい保育音楽の表現技術として、具体的
には以下のようなものがあると考える。
①正しい音程や曲に合ったテンポ、リズム、はっきりとした言葉や声で歌唱ができる。
②子どもの様子を把握しながら楽器の弾き歌いができる。
③鍵盤楽器や打楽器で、子どもの遊びや曲に合った音を出すことができる。
④子どもの動きや活動の目的に合った音付けができる(絵本・パネルシアター・身体
やものの動き等)。
⑤子どもの発達に合った手あそび歌で、子どもとコミュニケーションを取ることがで
きる。
⑥豊かな表情のある、はっきりとした声で、絵本の読み聞かせができる。
⑦音や音楽に合った身体の動きができる。
⑧音・音楽や声による即興演奏ができる。
⑨子どもの発達に合った遊びが実践できる。
これらの項目をそれぞれ5段階のレベルに分けた自己評価アンケートを行った(資料1
−①、資料1−②)
。学生は授業の最初に自己評価をし、その結果を踏まえて自分が授業の
中で意識しながら身につけていく感覚や身体の動き、それにともなう技術が明確になると
考える。また、授業の最後に再度自己診断することで、自分の成長を確認することができ
ると考える。
Ⅳ 結果及び考察
以下は、学生の音楽技術の実態を知る手掛かりとして、
「保育音楽の表現技術に関するア
ンケート」を行った結果である(表1)
。対象は、
「あそびと音楽Ⅱ」を受講している保育
科の1年生206名と「こども音楽療育士」取得を希望している保育科の2年生41名である。
1.保育科1年生の自己評価から
1年生の結果の平均を見ると、
「歌唱」
、
「手遊び」
、
「絵本の読み聞かせ」において「3」
ポイントを越えている。これは、最も基本的で大切な技術として「あそびと音楽Ⅰ」
、
「あ
そびと音楽Ⅱ」の授業において力を入れて行っている活動であり、学生も比較的自信を持
って行える活動であると認識していることが分かる。
「弾き歌い」については「器楽Ⅰ(ピ
アノのグループレッスン)
」の授業の中で入学後に始めた学生がほとんどであるため、もっ
と低い評価を予想していたが、2.5ポイントを越えており、同授業の成果が出ていると考え
られる。筆者の授業の中でも、活動の中で使う機会を増やしていくことで、実習に向けた
応用力や即興力を身につけさせていきたい。
「楽器演奏」
、
「身体表現」については3に近い
ポイントではあるが、
「音と動き」という、保育音楽の中でも核となる活動に直接つながる
ので、後期の授業の中で具体的な場面や活動を設定し、実践的な活用法を指導していきた
- 85 -
いと考える。
「即興演奏」
、
「発達に合った遊び」については、実際の保育現場においては一
瞬一瞬の子どもとの関わりが、ほぼこのことに関係していると考えられるが、1年生にと
っては意味の捉えにくい、また、技術的に難しいと考えている活動であると思われる。こ
のことについても後期の授業で指導者が意識して、
学生に、
あらゆる活動の中での即興性や、
発達に合った遊びを行う意味を伝えていくことで、理解が深まっていくと考える。
2.こども音楽療育演習を受講する保育科2年生の自己評価から
同じアンケートのこども音楽療育を受講する2年生の結果を見てみると、どの項目を見
ても1年生よりもポイントが高くなっている。2年生になると保育現場での経験が豊富に
なるため、保育への理解が深まることでかえって評価が下がることも考えられたが、自己
評価の結果からは、これらの保育音楽の技術が、実際の保育に必要なこととしての認識が
上がるとともに、実習やボランティア等の現場で活用できたことで、自信が持てたのでは
ないかと考えられる。
表1.保育音楽の表現技術についての学生の自己評価
項目
歌唱 弾き歌い 楽器演奏 音付け 手遊び歌
クラス
保育科 1 年の平均
3.29
2.57
2.97
2.66
3.35
こども音楽療育演習
3.47
3.12
3.0
2.89
3.97
受講生(保育科 2 年)
絵本 身体表現 即興演奏 発達に合った遊び
3.22
2.89
2.24
2.75
3.75
3.28
2.83
3.06
(保育科1年生206名、保育科2年生41名)
3.自己評価の可視化
自己評価アンケートの結果は、学生全員が現状とそれ以降の成長が視覚的に分かりやす
いようにレーダーチャートに記入したものとともにファイルに綴じて、自分の強みや課題、
目標を確認しながら授業に臨んでいる(資料―2)
。レーダーチャートによる可視化を行っ
たことで、今まで学生が漠然と捉えていた、または全く意識していなかった自分の音楽技
術を意識し、向上させるために具体的な取り組みがしやすくなると考える。ただし、その
取り組みには指導者の定期的な働き掛けが必要である。
以下は、保育科1年生の平均と、
「こども音楽療育演習」の授業を受講している保育科2
年生の平均をレーダーチャートで表したものである(図①、図②)
。保育科1年生では、
「弾
き歌い」
、
「即興演奏」
、
「子どもの発達に合った遊び」の部分がへこんでおり、指導者にと
っても今後の授業で何を重点的に指導していくのかという意識付けの参考になると考える。
また、保育科2年生では、全9項目において3ポイント近く、またはそれ以上の数値が見
られるが、現場で保育を行っていくためには、さらに自信を持って場に合った音や声、音
楽を使いこなしていくための技術や感性を身につけるための授業を指導者が工夫していく
ことや、卒業後も本学において研修会を開催するなどして、継続的な研鑽の場を設けてい
くことが肝要であると考える。
- 86 -
図1.保育科1年生の自己評価平均値
図2.こども音楽療育演習受講生(保育科2年生)の
自己評価平均値
続いては、保育科1年生と「こども音楽療育演習」受講者(保育科2年生)の平均値を重
ねて表したレーダーチャートである。どの活動においても保育科2年生の数値が高いこと
が一目でわかる。今回は保育科1年生と「子ども音楽療育演習」を受講する2年生の比較
であるが、今後は1年生が2年生になった時の数値、さらに、こども音楽療育関係の科目
受講後の数値を比較することにより、こども音楽療育関係の科目を受講する意義について
検討することが可能になる。
図3.保育科1年生とこども音楽療育演習受講生(保育科2年生)の自己評価平均値の比較
Ⅴ 保育音楽・療育音楽による保育士養成の可能性
1.歌唱、手あそび、絵本の読み聞かせ
この活動は、今回のアンケートの結果で比較的良い評価を得ているので、学生が自分の
強みとして自信を持って行い、指導者としては「あそびと音楽Ⅰ・Ⅱ」の中で、さらにレ
パートリーを増やしたり表現の工夫をしたりできるように意識しながら指導していく。具
体的には声の出し方、顔の表情や身体・手指の動き、言葉の意味の理解や表現、発達年齢
に合ったものを提供できるようになることなどである。
2.楽器演奏と身体表現
楽器演奏は、合奏のように形の決まった演奏とともに、即興的に自由に演奏したり、学
生同士がお互いに音を聴きあいながら合わせていくアンサンブルができることを目指した
- 87 -
いと考える。具体的には様々な楽器の種類、奏法、音、それぞれが持つ音の意味を理解し、
子どもの動きや活動に合った、心身に伝わる音が提供できるようにすることである。
身体表現は、聞こえてくる音を聞き取り、意味を理解し、柔軟に動くことによって行わ
れると考える。この「音と動き」の関係は人の生活の中に常にあるものである。保育や療
育を行う時にも、子どもの発達と身体の動きの理解や、見えるもの、聞こえるものと、動
きとの一致が求められる。大きなものは大きく、小さなものは小さく、自分の身体を感じ
ながら表現することは簡単ではないが、そこに音があると、時には他者と体をぶつけるよ
うな体験も可能になり、表現が広がる可能性が大きい。このような活動には多彩な音と身
体表現が必要になってくるが、1年次には「あそびと音楽Ⅰ・Ⅱ」
、
「保育内容の研究表現」
の中で、音とそれに伴う身体の動きの種類を多く知らせることができるのではないかと考
える。2年次の「保育指導法Ⅲ」では、それらのバリエーションを増やしていくことを目
指していく。
子ども音楽療育の科目である「器楽活用法」では、楽器奏法の技術やリズムの練習、様々
な楽器によるアンサンブルを繰り返し行う。同じく「身体表現及び即興演奏法」の中では、
多種、多様な音に合わせて動くこと、動いているものや人に合った音を付けていくことを
繰り返し行っていく。
3.即興演奏、音付け、子どもの発達に合った遊び
これらの活動は他のすべての活動に関係してくる。子どもの動きは予測のできないもの
であり、それに応じて遊びの中でも保育者は常に即興的な動きをしている。
「こども音楽療
育演習」の中では、楽器演奏や歌唱、身体表現などの基礎的な技術を応用して、子どもの
発達に合った遊びを創造していくことを目指すが、その中で使う音や音楽、声もほとんど
即興的なものである。これらの力は、1年次から多彩な音の体験をしていく中で培ってい
けると考える。
4.弾き歌い
保育音楽の表現技術の一つである「弾き歌い」は、保育現場の中で最も子どもたちの身
近で行われている。保育・療育の音楽活動の中では、楽譜に書かれたとおりに音符を追っ
て弾いていくだけでは遊びが成立しないし、子どもが楽しさを感じることもできない。同
じ歌でも、曲に合った、子どもの動きに合った、場面をあらわす、子どもに話しかける時
のB.G.M.としてなどと、場に応じて弾き分けたり、子どもが歌ったり楽器を演奏したりし
やすいように支えたりするには、多彩な音やリズム、気持ちや身体の動きも必要になる。
すべての保育音楽、療育音楽の授業において1年次から少しずつ弾き歌いを行うことで、
実践的な力を獲得することを目指す。また、この技術を高めるためには「器楽Ⅰ・Ⅱ」の
授業に負うところが大きいので、同授業における学生の動向や技術の習得も視野に入れて
いきたいと考える。
5.まとめ
保育音楽、療育音楽の授業内容や学生の状況を振り返り、保育者として必要な音楽技術
と具体的に照らし合わせ、授業の中で補っていく課題を見直して改めて確認できたことは、
- 88 -
これらの音楽技術の総合性である。子どもたちと音楽活動をする時に使う技術はどれか一
つではなく、総合的なものである。それに伴い、保育者の使う感覚は多感覚でなくてはな
らない。榊原洋一は、アメリカのNICHD(国立子ども健康発達機構)の調査から「子ども
の発達におしなべて良い影響を与える因子として明らかになったのは保育者の感受性であ
った。
」という結果を紹介している(榊原:2009 2-3)
。また、
「
“子どもに寄り添い、受け
止める”
行動は、
このNICHDの調査における保育者の感受性の要件の半分を満たしています。
つまり、子どもが出しているサインに敏感に気が付くということです。しかし残りの半分
は、子どもの出しているサインに気が付き、さらにそのサインの性質を見抜き、適切な対
応うすることなのです。
」とも述べている(榊原2009 3)
。山下恵子は、乳幼児期に重要な
「音や音楽を使った活動で高められる力」として、人を信頼し、人へ期待し、自分から人
への働きかけを行い、相互に繋がりを感じることのできる力である「つながり力」
、事物や
事象を自分の身体に感じ、受け止められる様々なリズムやテンポを増やし、次には、感じ、
受け止めたことを外界に向かって身体で表現していく力である「からだ力」
、体性感覚や五
感などの色々な感覚を使って、音や音楽を感じとることのできる力である「かんかく力」
、
子どもたちの遊べるものが増え、
遊べる人が増え、
自ら遊びを作り出す力である「あそび力」
という4つの視点をあげている(山下2014:27-28)
。
子どもたちがこれらの力を獲得し、発揮する手助けをするのが保育者であり、子どもに
寄り添い、受け止めた先にある「子どもの発達の可能性」を磨いていくために、保育者に
は、自分自身の感受性を高めていくことが求められる。本学の学生が自分の中にある力に
気付き、2年間で伸ばしていく手助けをすることが、保育音楽、療育音楽の可能性を信じ、
授業の中で筆者が行うことであると考える。
今後さらに、本学で23年間続けてきた「こども音楽教育センター」における地域の子ど
もたちとの音楽教育及び音楽療法と、その実践研究で生み出してきた手法により行ってき
た保育音楽、療育音楽の授業の意義について考察し、研鑽を深めていきたいと考える。
おわりに
今回のアンケート記入に、学生が全員、真剣に記入してくれたことにまず感謝する。さ
らに、筆者自身が本学において、授業の中で保育士の養成を行うことの一端を担っていく
ことの意味について考えた。核家族化がますます進む中で、子育て中の保護者が真っ先に
頼れるのが地域の保育所、幼稚園等が行う「子育て支援」のシステムであろうと考える。
そこで地域の子どもたちや保護者の支援をするということを考えたときに、保育者養成を
行うことは本学が地域の子育てに、間接的ではあるが大きな比重で関わっていることにな
る。現在、地域の保育現場の保育者は、多くが本学の卒業生である。つまり、本学におけ
る保育者養成について考えることは、地域の子どもたちについて考えることにつながる。
この責任の重さを感じながら日々、保育者となる「人」を育てていきたいと考える。
最後に、今回の執筆に当たり、御助言をいただいた山下恵子先生、アンケートの実施及
び取りまとめにご協力いただいた、片野郁子先生、後藤祐子先生、中武紋子先生、中武詩
織先生に心よりお礼申し上げます。
- 89 -
参考文献
石橋裕子 2009 『保育内容表現』
北大路書房
榊原洋一 2009 『小児保健―子どもに活かす病気と発達の理解―』
建帛社
松井紀和 2000 『音楽療法の手引き』
牧野出版
山下恵子 2014 「第4章 音楽療法実践の領域 Ⅰ.障がい児のための音楽療法」
『音楽療法ハンドブック』
星雲社
- 90 -
資料1-①
平成 26 年度 保育音楽の表現技術に関するアンケート ①
保育科
質問項目
好き
年
苦手
クラス
評
価 の
NO.
氏名
視 点
自己評価
a)強み b)課題
正しい音程や曲に合ったテン
①
a)
歌唱について
ポ、リズム、はっきりとした
54321
b)
言葉や声で歌唱ができる。
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
ピアノの弾き
子どもの様子を把握しながら
a)
54321
歌いについて
楽器の弾き歌いができる。
b)
鍵盤楽器や打楽器で、子ども
楽器の演奏に
a)
の遊びや曲に合った音を出す
ついて
54321
b)
ことができる。
音付けについ
子どもの動きや活動の目的に
a)
54321
て
合った音付けができる。
子どもの発達に合った手あそ
手あそび歌に
a)
び歌で、コミュニケーション
ついて
54321
b)
を取ることができる。
豊かな表情のある、はっきり
絵本の読み聞
a)
とした声で、絵本の読み聞か
かせについて
54321
b)
せができる。
身体表現につ
音や音楽に合った身体の動き
a)
54321
いて
ができる。
即興演奏につ
即興による音・音楽や声の演
b)
a)
54321
いて
奏ができる。
子どもの発達
子どもの発達に合った遊びが
b)
a)
54321
に合った遊び
授業目標
b)
実践できる
①
②
- 91 -
b)
資料1-②
平成 26 年度 保育音楽の表現技術に関するアンケート ②
保育科
質問項目
好き
苦手
年
評
クラス
価
NO.
の 視 点
氏名
自己評価
正しい音程や曲に合ったテ
①
歌唱について
ンポ、リズム、はっきりとし
54321
た言葉や声で歌唱ができる。
②
③
④
ピアノの弾き歌
子どもの様子を把握しなが
いについて
ら楽器の弾き歌いができる。
楽器の演奏につ
いて
音付けについて
54321
鍵盤楽器や打楽器で、子ども
の遊びや曲に合った音を出
54321
すことができる。
子どもの動きや活動の目的
54321
に合った音付けができる。
子どもの発達に合った手あ
⑤
手あそび歌に
そび歌で、子どもとコミュニ
ついて
ケーションを取ることがで
54321
きる。
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
絵本の読み聞
かせについて
豊かな表情のある、はっきり
とした声で、絵本の読み聞か
54321
せができる。
身体表現につい
音や音楽に合った身体の動
て
きができる。
即興演奏につい
即興による音・音楽や声の演
て
奏ができる。
子どもの発達に
子どもの発達に合った遊び
合った遊び
が実践できる
授業目標の達成
自分の立てた授業目標につ
度
いての評価
54321
54321
54321
54321
授業の感想
- 92 -
授業で学んだこと
- 93 -
保育実習における評価の“ズレ”の分析
佐々木 昌代 久松 尚美
Analysis of Discrepancies found in the Evaluation of
Training Programs in Child-care and Welfare Facilities
Masayo SASAKI Naomi HISAMATSU
Ⅰ.はじめに
本学保育科では、保育士資格および幼稚園教諭二種免許状取得のための実習(必修)は、
①第1回保育所実習(
「保育実習Ⅰa」
:1年次学年末)
、②幼稚園教育実習(
「教育実習」
:
2年次5月末∼6月初旬)
、③施設実習(
「保育実習Ⅰb」
:2年次夏季休業期間中)
、④第
2回保育所実習(
「保育実習Ⅱ」
:2年次11月前半)の順に行っている。当然ながら、学生
はこれら4回の実習を通して学びを積み重ね、保育者としての実践力を身に付けていく。
これまでの学生の自己評価によると、①では、保育現場の実際を知るとともに、実習で
の学び方を学ぶ。例えば、保育を参観する中で浮かんだ疑問を保育士に尋ね、説明や指導
を受けたことを記録することで保育理解をすすめるといったことである。②では、研究保
育をやり遂げることから子どもの発達過程を捉えるとともに、具体的な保育の知識や技術
を身に付ける。そのためには、事前に準備した遊びを部分保育として実践し、子どもの反
応や幼稚園教諭のアドバイスによって自分の子ども観や保育理解を修正し、研究保育の計
画・実践に反映していく。③では、困難を抱えた入所児・者が懸命に生きている姿から自分
自身について振り返り、保育者としての生き方を捉え直す。所謂、自己覚知である。特に、
小学校・中学校教諭免許状取得のために他学科の学生が同じ時期に施設での介護等体験実
習を実施するようになってからは、保育実習においては入所児・者一人一人を尊重する保
育者としての姿勢の獲得こそより重要であると分かった。④では、それまでの実習での学
びを総動員して、一人前の保育者として実習を全うする。
このように、実習から戻った学生たちに教えられたり気付かされたりして、以降の実習
指導を改善するヒントを得てきた。しかし、最近は様子が違ってきている。実習での学び
が不明確なばかりか、目的意識が希薄なまま実習に臨んだのではないかと思われる学生も
目につくようになった。さらには、欠席や遅刻についての連絡・報告のルールを守ってい
ない学生、研究保育指導案や日誌を約束通りの日時に提出できない学生も見られるように
なった。
「実習先ではこういうことはしないように」といった禁止事項のエピソードは豊富
になったが、学生の実習での学びを認め、実習で得た気付きを集約して次の学年の実習指
導に活かすというようなことは難しくなった。
よって、
保育士養成課程の改訂に伴って実習指導が
「保育実習指導Ⅰ・Ⅱ」
として拡充され、
実習評価票についても評価内容を具体的に示すなどの改良を行ったことを契機に、あらた
めて学生の①∼④実習における学びについて検討することにした。実習ごとに実習評価票
と学生の自己評価について分析し、相互の“ズレ”を実習指導上の課題として以降の実習
に向けたガイダンスや次の学年の実習前指導に反映させてきた。また、実習評価票を改良
- 95 -
する手がかりともした。
そこで、本研究では、保育士資格取得のための3つの保育実習(①「保育実習Ⅰa」
、③
「保育実習Ⅰb」
、
④「保育実習Ⅱ」
)を通した実習の積み重ねにおける学生の学びについて、
実習評価票と学生の自己評価の“ズレ”から検討することにした。
Ⅱ.研究の目的・方法
本学保育科平成24年度入学生が保育士資格取得のために履修した3つの保育実習に関し
て、評価票(実習先による学生の学びの評価)と自己評価(学生自身による学びの評価・
振り返り)を集約、分析し、実習先と学生自身の評価の“ズレ”及び3つの保育実習間の
評価の“ズレ”から、保育実習指導の課題を把握することを本研究の目的とする。
対象とした3つの保育実習
「保育実習Ⅰa」(第1回保育所実習)(以下、Ⅰaと略す。)
実習期間:平成 25 年2月 12 日(火)∼ 25 日(月)
実 習 先:140 保育所
履 修 者:188 名
(200 名履修したが、自己評価未提出者を除いた。)
「保育実習Ⅰb」(施設実習)(以下、Ⅰbと略す。)
実習期間:平成 25 年度夏季休業期間
実 習 先:51 施設(乳児院1 児童養護施設9 障がい児・者支援施設 41)
履 修 者:183 名
(188 名履修したが、病気により実習期間を変更した者、自己評価未提出者を除
いた。)
「保育実習Ⅱ」第2回保育所実習)(以下、Ⅱと略す。)
実習期間:平成 25 年 11 月5日(火)∼ 18 日(月)
実 習 先:137 保育所
履 修 者:183 名
(188 名履修したが、病気により実習期間を変更した者、自己評価未提出者を除
いた。)
Ⅲ.結果及び考察
1)実習態度、日誌についての評価
出勤時刻(Ⅰa、Ⅰbでは出勤・退勤時間としていたが、Ⅱより出勤に絞るととも
に時刻に改めた。)については、評価票、自己評価ともにⅡで低下しているが、評
価票に30分前出勤と明記したためである。実習先よりは「ここまで要求していない。」
とのコメントがあり、予め実習先より着替えや準備の時間を含めて早めの出勤時刻
が指示されているにも関わらず一律にそれより30分前に出勤と考えてしまう、状況
に応じた判断ができない学生の様子も見られ、余裕を持っての出勤についての指導
は再考すべきである。
欠席しないことが前提であるが、万一欠席した場合は、実習先への連絡と学校への
報告を徹底するように指導している。極限られた学生ではあるが、徹底できていな
- 96 -
い。なかには、連絡の有無について実習先との“ズレ”があり、連絡や報告を怠っ
たことを自覚して、反省する様子がうかがえない者がいる。このことは、毎年度、
Ⅰaの反省としてⅠbの前指導で、Ⅰa、Ⅰbの反省としてⅡの前指導で学生全体
に繰り返し指導し、個別指導も行っているが、徹底できていない。なお、欠席、遅
自己評価
評価票
Q1-①
Q1-②
Q1-③
Q1-④
Q1-⑤
Q1-⑥
Q1-⑦
Q1-⑧
2.00
2.50
図1 実習態度、日誌についての平均点(Ⅰa)
- 97 -
3.00
刻、早退した場合の連絡・報告及び補充については、皆勤した学生には不要のこと
であるので、Ⅱより、実習態度ではなく、出勤状況について確認する項目として別
途設定し、該当する学生だけが回答するようにした。
挨拶や服装、言葉遣い、勤務態度、指導(指導・助言)を受ける態度、日誌の提出
期限についても、自覚に欠ける学生がいる。評価票を工夫したことで、実習先より
徐々に改善が認められた学生と改善が認められなかった学生を判別でき、事後の個
別指導に繋がった。また、学生としては改善できたとしているが、不適切なままだ
ったとする評価票との“ズレ”も認められる。自分なりにできたではなく、実習先
に伝わる努力、意欲、実践が求められていることを理解させたいが、実習先の指導
や評価にも温度差があり、学生の言い分や思いもきちんと受けとめた上で指導する
必要がある。総合評価についての理由、コメントとして「誤解された。」「そんなつ
もりではなかった。」と学生が自己評価に記載していることもある。
指導を受ける態度について、Ⅱより勤務態度と指導・助言を受ける態度に分けたと
ころ、評価票、自己評価ともに指導・助言を受ける態度の評価が高い。やはり、実
習先の指導・助言に素直に従うより、自らすすんで意欲を示すことの方が難しいよ
うである。
日誌の記述(誤字・脱字)については、Ⅰa、Ⅰb、Ⅱの何れでも、評価票、自己
評価ともに、もっとも評価が低い。3つの実習すべてにおいて誤字・脱字が目立っ
た(少なくならなかった)と評価された学生もいる。辞書の使用を促しているが、
実行できていない。根気強く、習慣化する指導が必要である。
Ⅰa、Ⅰb、Ⅱのすべての項目で、評価票の評価より自己評価が低い。最後の実習
であるⅡに至っても、十分に評価差は縮まっていない。社会人として、一人前の保
- 98 -
育者として、自分自身を厳しく評価しているようにも思われるが、自信のなさの現
れであれば、実習先の評価の伸びを伝える必要がある。況してや、自己評価通り、
全実習の総括であるⅡにおいても、適切な態度ではなかった、守っていないことが
多かった、十分に留意していなかったが解消されていないのであれば、実習先より
指摘される「学生としての甘えは捨てて実習を行ってほしい」ということであろう。
Ⅱより、学生としてではなく先生(保育者、職員)として実習に臨むことを明確に
するために、言葉遣い、挨拶や服装、勤務態度、指導・助言を受ける態度の評価基
準から「実習生として」を削除した。TPOに応じて容儀を正すことも、出勤時刻
や提出期限を守ることと同じく、実習生だからと寛容に許されてよいことではない。
2)実習内容についての評価、総合評価
子ども(利用児・者)への関わりについては、Ⅰa、Ⅰbでは自己評価が評価票を
上回っているが、Ⅱでは評価票が上回っている。さらに、実習を重ねるごとに、自
己評価が低下している。子ども(利用児・者)一人一人の個人差や発達の違いを考
慮した関わりを意図して、高いレベルを求めていたためではないかと思われる。
先生方(指導者やスタッフ)への質問については、
Ⅰa、
Ⅰb、
Ⅱの何れでも、
評価票、
自己評価ともに、もっとも低い評価となっている。評価票は実習を重ねるごとに僅
かながら評価が上がっているが、自己評価は伸びていない。積極的に先生方へ質問
する姿勢は、意欲的に実習に臨む姿勢(勤務態度)とともに、実習において一番に
実践してほしいことであるので、これまで以上に保育実習指導Ⅰ・Ⅱで質問力向上
に取り組みたい。
- 99 -
- 100 -
- 101 -
Ⅰaにおいて、
あまり質問できなかったことを反省した学生は、
今後の課題として「子
どもの活動を見るだけでなく、先生方の動きをもっと見て学ぶ。どうして今、先生
が○○したのか考え、分からない場合には積極的に質問する。
」ことを挙げている。
日誌について「毎回活動が違って難しかったが、先生に質問すると丁寧に指導して
くださり、日誌が書きやすくなり、具体的に書くことができた。
」として、
「⑨日誌
の書き方について先生方の指導を受け、
適切な内容を記述するよう努めた。
」
をA
(5)
とした学生は「もっと自主実習に行き、子どもへの接し方を教えていただく。
」こと
を今後の課題に掲げた。言って聞かせる実習指導では、学生を受け身の状態にして
主体性を引き出さない。このような実習体験からの気付きや課題をタイミングよく
捉えて、実践に繋げていく実習指導にしていかなければならないが、実習指導担当
者としてもっとも苦慮するところである。実際、Ⅰaの自己評価の集約から得られ
た学生の有意義な気付きや課題も、他の学生に紹介して行動に移すよう促すところ
までであった。
- 102 -
知識、技術(保育技術)の獲得については、Ⅰa、Ⅱに比べ、Ⅰbの自己評価が高い。
障がい児・者への援助や児童養護施設での中高校生への支援などは、施設実習でな
ければ体験的できない。また、援助、支援のあり方を理解していなければ利用児・
者と関わりにくい。そこに、学びの実感を持てたようである。Ⅰa、Ⅱでは、保育
技術を身に付けようとする前に、先生方より保育を任されるのを待たずに自分から
担当を買って出るべきであったとの反省が低評価になっていると思われる。
安全や衛生面への配慮については、Ⅰa、Ⅰb、Ⅱの何れでも、自己評価が評価票
を上回っている。子ども(利用児・者)の命を預かる保育現場において必須の配慮
として、具体的に学べたとの思いが評価に現れたのであろう。
評価票ではⅠa、Ⅱで総合評価が項目別評価の平均点より高く、Ⅰbで等しいが、
自己評価ではすべて総合評価が低い。加えて、Ⅱにおいても自己評価の総合評価が
伸びていないことから、保育実習を積み重ねても学生が十分な達成感や満足感を得
られていないことが危惧される。
総合評価との相関が高い項目別評価内容についてみると、
Ⅰaでは、
実習先
(評価票)
、
学生(自己評価)ともに「先生方に質問」
「保育技術の習得」が挙がっているが、実
習先は「チームワークの理解」
「乳幼児の発達の理解」
「日誌の誤字・脱字」がより意
識されているのに対して、学生は「一日の流れの理解」
「欠席などの連絡」となって
いる。実習に臨むに当たって、保育所の生活の流れを理解するとともに、複数担任
である保育所では保育士の連携が大切であるので実際にどのように連携が取られて
いるのか見ること、年齢ごとに編成されたクラスを順に経験することで子どもの発
達段階を具体的に掴むことを十分に説明したつもりであったが、学生の意識は質問
するという実習の方法にばかり向いてしまったようである。実習指導において、質
問することを強調し過ぎて、実習で何を学ぶかが相対的に希薄になっていなかった
か検討する必要がある。
同様に、Ⅰbでは、実習先、学生ともに「前日までの反省を生かす」
「施設、利用児・
者の理解」
「指導者やスタッフに質問」が挙がっているが、実習先は「チームワーク
の理解」
「知識、技術の習得」
「言葉遣い」がより意識されているのに対して、学生
は「個性や特性に応じた対応」
「日誌の誤字・脱字」
「日誌の提出期限」となっている。
実習に臨むに当たって、
「自己覚知」
「一人一人への対応」に主眼を置いて学生を指
導してきたが、学びの具体性に欠けていた。実習中は、その時、その場で利用児・者
に対応することを通して、実習先が挙げる「チームワークの理解」
「知識、技術の習
得」
「言葉遣い」について体験的に学び、実習を終えて「自己覚知」に至り、保育に
おいて一人一人に対応していくことが大切なのだということに思い至る。特に、
「チ
ームワークの理解」は、24時間体制の入所型の施設では、職員やスタッフの連携が
重要である。連携の在り方を学ぶことは、保育所以上に、施設実習において必須の
ことであった。また、実習先は記録することより話すこと、言葉遣いにより敏感な
ようである。学生より年長の利用者がいることが影響していると思われる。実は、
平成26年度より、
「前日までの反省を踏まえて、より適切に利用児・者に対応しよう
とする姿勢が見られた」は短い実習期間で課題とするには難しいと考え、評価内容
から省いた。実習先にも学生にも強く意識されていることから、あらためて、評価
- 103 -
内容に掲げなければならない。
同様に、
Ⅱでは、
実習先と学生が挙げている評価内容がほぼ共通している。学生に「事
前に先生方より十分な指導を受け、準備を整えて(研究)保育に臨んだ」が追加さ
れているだけである。実習先と学生の総合評価の観点が等しく、実習で学生がもっ
とも腐心する研究保育と日誌が観点に挙がっていることから、最後の締め括りに相
応しい意識で学生が実習を行ったことがうかがえる。ただし、評価の観点が相応し
いのであって、評価そのものが相応しいのではない。むしろ、相応しい観点であっ
たがために、最後の実習にも関わらず厳しい総合評価点となったのかもしれない。
同様に、Ⅰa、Ⅰb、Ⅱを見通して学生の実習を通した成長をみようとするとき、
Ⅰbに日誌についての評価内容を含めるべきであるし、Ⅱに先生方(指導者やスタッ
フ)のチームワークの理解についての評価内容が含まれるべきである。評価票の改
訂に際しては、個々の実習ごとに行うのではなく、学生が履修するすべての実習を
見通して行わなければならないことがよく分かった。以降の評価票改訂では必ず留
意したい。
学生(自己評価)によっては、実習内容ごとの評価に比べて、総合評価を厳しく評
価する傾向がある。例えば、Ⅰbにおいて、総合評価についての理由、コメントに「一
生懸命取り組んでも、間違いや失敗がたくさんあった。たくさん失敗して、指導を
受けて反省して、それでも学ぼうと頑張ったので、自分のなかではC(3)がふさ
わしいと思う。
」と書いた学生は、実習先よりはB(4)を受けている。また、Ⅱに
おいて「0歳児∼5歳児までの子どもと積極的に関わることができてよかったが、
疑問に感じたことをもっと積極的に質問すればよかった。日誌は、誤字・脱字が多
かったので、調べたり見直したりすればよかった。
」と書いた学生は、総合評価をD
(2)と自己評価しているが、
実習先よりはA(5)を受けている。評価票より高く“ズ
レ”て自己評価している学生に目を奪われがちであるが、実習先よりきちんと評価
されているにも関わらず自己評価が低く“ズレ”ている学生への指導も忘れてはな
らない。
Ⅳ.まとめ
保育士資格取得のための3つの実習を通して評価票と学生の自己評価の“ズレ”から学
生の実習での学びについて検討したところ、保育実習Ⅰa、保育実習Ⅰb、保育実習Ⅱご
とに振り返ったり、評価票(実習先による学生の学びの評価)と自己評価(学生自身によ
る学びの評価・振り返り)を互いに擦り合わせることなく別々に分析したりしたのでは見
出せなかった実習指導上の課題を明らかにできた。
特に、以下については、次年度の保育実習指導に向けて早急に改善することが必要と思
われる課題である。
評価票に30分前出勤と明記した余裕を持っての出勤時刻の指導については、状況に応
じた判断ができていない学生の様子から再考すべきである。
欠席などの連絡・報告を怠っていたり、適切な容儀で実習に臨んでいたか否かについ
て実習先とのズレが生じていたりする学生に対しては、実習先の評価にも温度差があ
るので、学生の言い分や思いもきちんと受けとめた上で指導する必要がある。
- 104 -
実習を行う態度について、実習全般において意欲的に臨めていたかどうかを評価する
「勤務態度」と具体的に指導を必要とする場面で素直に実習先の指導に従っていたか
どうかを評価する「指導・助言を受ける態度」に、保育実習Ⅱより分けたところ、意
欲的に実習を行うことがより難しいことがあらためて明らかになった。
学生としての甘えは捨てて先生として実習に臨むことをより明確にすべきであるの
で、実習態度などの評価基準から「実習生として」は今後も削除する。
実習中の質問力向上にはまだまだ指導の余地があるが、学生を受け身の状態においた
指導では効果は得られにくい。学生が実習を通して把握した課題をタイミングよく捉
えて、主体的に取り組む姿勢を引き出す必要がある。しかしながら、質問という方法
論を強調しすぎると、肝心の実習で「何を学ぶか」という目的意識が希薄になる。
評価票の改訂も学生が履修する実習を見通しながら行わなければならない。今回の
“ズレ”の分析からは、保育実習Ⅰbに日誌についての評価内容を含め、保育実習Ⅱ
に保育士のチームワークの理解についての評価内容を含めるべきであることが示唆さ
れた。また、保育実習Ⅰbの「前日までの反省を踏まえて、より適切に利用児・者に
対応しようとする姿勢が見られた」は必要な評価内容であることが確認された。
評価票より高く“ズレ”て自己評価している学生に目を奪われがちであるが、実習先
よりきちんと評価されているにも関わらず自己評価が低く“ズレ”ている学生への指
導も忘れてはならない。
謝辞
評価票及び学生の自己評価を集約・分析するに当たって、宮崎国際大学の野﨑秀正准教
授に統計的な処理を施していただきました。ご協力に心から感謝いたします。野﨑先生と
十分に検討する場を確保できず生かしきれなかった分析結果については、今後研究を継続
していくなかで役立てていきたいと考えます。
参考文献・資料
1)無藤隆監修『よくわかる NEW保育・教育実習テキスト−保育所・施設・幼稚園・
小学校実習を充実させるために−』診断と治療社 2008年
2)全国保育士養成協議会編『保育実習指導のミニマムスタンダード―現場と養成校が
協働して保育士を育てる―』北大路書房 2007年
3)佐々木昌代 大坪祥子 大坪邦資「施設実習の意義を再確認する−履修後のアンケ
ート調査から−」宮崎学園短期大学紀要 第1号95-105頁 平成21年 3月
4)佐々木昌代 大坪祥子 中武亮子「実習評価における“ズレ”の分析(Ⅰ)∼第1
回保育所実習の評価票と学生の自己評価について∼」全国保育士養成協議会第52回研
究大会研究発表論文集394-395頁 平成25年 9月
5)佐々木昌代 久松尚美「実習評価における“ズレ”の分析(Ⅱ)∼保育所実習と施
設実習における評価票と学生の自己評価について∼」全国保育士養成協議会第53回研
究大会研究発表論文集 264頁 平成26年 9月
- 105 -
施設実習における評価の“ズレ”の分析
久松 尚美 佐々木 昌代
Analysis of Discrepancies found in the Evaluation of
Training Programs in Welfare Facilities
Naomi HISAMATSU Masayo SASAKI
Ⅰ 問題と目的
近年の子どもを取り巻く社会情勢の大きな変化に伴い,保育所をはじめとするその他の
福祉施設に期待される機能,及びそこで勤務する保育士に対するニーズは,年々複雑化,
多様化してきている。児童虐待の増加が社会問題となって久しいが,児童養護施設に入所
する児童においても,被虐待児の占める割合の増加が著しい。また,社会的養護を必要と
する児童においては,障がい等のある児童が増加しており,2008 年の調査では,児童養
護施設に入所している児童のうち,障がいのある子どもの割合は 23.4% となっている(厚
生労働省,2009)。児童養護施設において,入所する被虐待児の増加及び障がいのある子
どもの増加が見込まれるなかで,子ども達への対応として,社会的養護の量・質ともに拡
充が求められている。久松・野坂(2014)は,宮崎県内の B 児童養護施設における調査
において,全国集計 53.4% をはるかに上回る 73.3% の児童が被虐待経験を有していたこと,
また,乳児院から B 児童養護施設への措置変更児童数の多さを全国との比較によって示
した。さらに,全国集計を 23.4% も上回る 62.2% の児童に何らかの障がいがあり,うち発
達障がいが 42.2% と高い割合を占めていることも明らかとなった。
以上のように児童養護施を例に挙げてみても,入所する児童の援助,及び児童の保護者
に対する支援に際して求められることなど,施設職員として必要とされる専門性は多岐に
わたることが想定される。
このような施設の厳しい現実に対応すべく,専門性を深める授業と実習事前事後指導の
充実が求められることとなるが,実習前指導の内容として,実習に臨むにあたってのマナ
ーや最低限のルール,実習を成立させるための基本的な事項の確認に力を注がざるを得な
い現実がある。また,事前事後指導のあり方として,本学では 210 名以上を一斉授業とい
う指導方法で行わなければならず,学生一人一人の思いを受け止める機会や成長したとい
う実感を,実習担当教員が持ちにくいことも問題点として挙げられる。この問題点を補う
重要なデータとなるのが「評価票」及び「自己評価」である。
これらは,単に実習の評価のためのデータにとどまらず,実習の振り返りや今後の課題
を見いだす指標となり,事後指導の充実を図るものとなる。
そこで本調査では,保育実習Ⅰb(施設実習)における「評価票」
(実習先による学生評価)
及び「自己評価」
(学生自身による評価・振り返り)に着目し,双方の“ズレ”から今後
の実習指導の課題や改善すべき点を見いだすことを目的とする。
--107
1 --
Ⅱ 方 法
1.調査対象者
保育士資格取得を希望し,「保育実習Ⅰb(施設実習)」を履修した M 短期大学保育科
平成 25 年度入学者を対象とした。
平成 25 年度入学者
実習期間:平成 26 年度夏季休業期間
実習先:42 施設(乳児院 1,児童養護施設・児童自立支援施設 10,障がい児・者施設 31)
履修者:210 名(211 名履修したが実習期間を変更した者を除いた。)
2.調査対象
平成26年度保育実習Ⅰb「評価票」(実習先による学生評価)
平成26年度保育実習Ⅰb「自己評価」(学生自身による評価・振り返り)
項目は以下の通りである。
Ⅰ.出勤状況について(欠勤・遅刻・早退の日数と,連絡,補充について)
Ⅱ.実習態度・日誌についての 7 項目(表 1.に示す)を 3 件法で評価
Ⅲ.実習内容についての 9 項目(表 2.に示す)を 5 段階で評価
また,以下に示す前年度の保育実習Ⅰb(施設実習)を比較対象とした。
平成 24 年度入学者
実習期間:平成 25 年度夏季休業期間
実習先:40 施設(乳児院 1,児童養護施設 9,障がい児・者施設 30)
履修者:186 名(188 名履修したが疾病や実習期間を変更した者を除いた。)
Ⅲ 結果及び考察
1.評価票と自己評価との比較
【1】実習態度・日誌について
実習態度・日誌について評価の平均を表1.評価の対比を図1.に示す。
自己評価と評価票のズレが大きいのは,Ⅱ−④「勤務態度」,及びⅡ−⑦「日誌の誤字・
脱字」であった。いずれも自己評価よりも評価票の方が高くなっている。また,評価票
の方がわずかに高くなっているものとしてⅡ−③「言葉遣い」,Ⅱ−⑥「日誌の提出期限」,
が挙げられる。以上の4つの評価項目において学生は事前指導で確認した実習に臨むに
あたっての最低限のマナーを自覚し,謙虚に自己評価を行ったものと思われる。他方,
自己評価が最も高く,評価票よりも上回ったのはⅡ−⑤の「指導・助言を受ける態度」
であった。現場における具体的な場面に即してのことであり,その都度指導や助言を受
けることで,学生にとっては受け身の姿勢ではあるものの「学んだ」と捉えやすいこと
が要因と考えられる。
【2】実習内容について
実習内容についての評価の平均を表 2.評価の対比を図 2.に示す。
--108
2 --
表1
評価内容
自己評価
Ⅱ‐①
2.47
評価票
2.40
評価内容
出勤時刻(30 分前)
Ⅱ‐②
2.87
2.84
挨拶や服装
Ⅱ‐③
2.81
2.87
言葉遣い
Ⅱ‐④
2.53
2.72
勤務態度
Ⅱ‐⑤
2.90
2.79
指導・助言を受ける態度 Ⅱ‐⑥
2.91
2.95
日誌の提出期限 Ⅱ‐⑦
2.46
2.59
日誌の誤字・脱字
図1
すべての評価項目において自己評価が評価票を上回る結果となった。特に突出して自己
評価が高いのは,Ⅲ−②「積極的な関わり」,Ⅲ−①「施設,利用児・者,業務内容の理
解」,Ⅲ−③「尊重した言葉遣いや態度」,Ⅲ−⑨「安全衛生面についての配慮」であった。
その中でも,評価票との大きなズレが生じていたのはⅢ−⑨「安全衛生面についての配慮」
であり,0.74 自己評価が上回るもので,全項目の中でも最も大きなズレであった。実際に
足を踏み入れ実習させていただくことで,施設ならではの生活の場としての細やかな安全
や衛生面の配慮を目の当たりにし,現場でなければ学ぶことができないものであったと学
生が認識したと考えられる。
ズレに焦点を当てると,Ⅲ−①「施設,利用児・者,業務内容の理解」,Ⅲ−⑦「職員
--109
3 --
間の役割分担やチームワークの理解」が続いて大きなズレとなっており,それぞれⅢ−①
0.65,Ⅲ−⑦ 0.58 自己評価が上回っている。これに関しても,学生にとっては現場でなけ
れば学べない部分であるため,実習させていただくことにより学ぶことができたと評価し
たと思われる。しかし,現場においては日々試行錯誤しながら培ってきた施設独自のノウ
ハウが詰まったものであり,限られた実習期間で理解することは容易ではないと評価され
たものと思われる。
表2
評価内容
自己評価
評価票
評価内容
施設の目的、機能、利用児 ・ 者、業務内容などについて理解しようとしていた。
利用児・者に積極的に関わり、理解しようとしていた。
利用児 ・ 者を尊重し、適切な言葉遣いや態度で接していた。
利用児 ・ 者の個性や特性に応じた対応を考慮していた。
Ⅲ‐①
Ⅲ‐②
Ⅲ‐③
Ⅲ‐④
Ⅲ‐⑤
Ⅲ‐⑥
4.46
4.50
4.44
4.00
4.03
4.16
3.81
3.93
4.06
3.68
3.60
3.65
Ⅲ‐⑦
Ⅲ‐⑧
Ⅲ‐⑨
4.11
3.95
4.39
3.53 職員間の役割分担やチームワークのあり方を理解しようとしていた。
3.54 個人のプライバシーが具体的にどのように保護されているか学ぼうとしていた。
3.65 施設全体の安全、利用児 ・ 者の安全や衛生面について配慮していた。
利用児 ・ 者の援助 ・ 支援について指導者やスタッフに質問し、理解しようと努めていた。
利用児 ・ 者の援助 ・ 支援に関する知識、技術を身に付けようとしていた。
図2
--110
4 --
【3】実習態度・日誌について(平成 25 年度対比)
実習態度・日誌についてのそれぞれの平均を表3.評価の対比を図3.に示す。
項目Ⅱ−①「出勤時刻」であるが,自己評価及び評価票ともに前年度より大きく低下
している。これに関しては平成26年度の評価票に「30分前出勤」と追記したことが要因
と考えられ,そのため25年度より評価基準が厳しくなっていると推測される。学生が余
裕をもって出勤し速やかに実習に入ることができることをねらいとして追加したが,実
習施設によっては実習生が30分前に出勤することで,利用児・者及び職員にご迷惑をお
表3
評価内容
自己評価
H25
Ⅱ‐①
2.85
2.90
2.47
2.40
出勤時刻(30 分前)
Ⅱ‐②
2.76
2.80
2.87
2.84
挨拶や服装
Ⅱ‐③
2.51
2.76
2.81
2.87
言葉遣い
Ⅱ‐④
評価票
H25
自己評価
H26
評価票
H26
評価内容
2.53
2.72
勤務態度
Ⅱ‐⑤
2.54
2.71
2.90
2.79
指導・助言を受ける態度
Ⅱ‐⑥
2.89
2.90
2.91
2.95
日誌の提出期限
Ⅱ‐⑦
2.30
2.66
2.46
2.59
日誌の誤字・脱字
図3
--111
5 --
かけすることも考えられる。実習施設の状況に応じて,余裕をもっての出勤時間を融通
することが望ましいと思われるが,そうなると,評価票にある「30分前出勤」は果たせ
なくなる。よって次年度は保育実習Ⅰaの項目改善に準じ,「余裕をもって」と改めたい。
Ⅱ−④「勤務態度」は,新たに加えた項目であるため,平成26年度のみのデータとなる。
評価間のズレが最も少なく,かつ全項目の中で高い評価であったのがⅢ−⑥「日誌の
提出期限」であった。期限を守って出せたかどうかを問うものであり,判断基準が明確
であることも評価しやすく,ズレの少ない要因となっている。続いてズレの少ないのは,
Ⅱ−②「挨拶や服装」であり,この項目においても挨拶が出来ていたか,服装が適切で
あったかの判断であり,評価に迷いやズレが生じにくいものと考えられる。
評価票のみを比較してみると,平成25・26年度共に大きなズレはなく,評価項目を追
記したⅡ−①,Ⅱ−④を除いて一貫した評価であると捉えることができる。その中でも
Ⅱ−⑦を除いた4つの項目において,
平成26年度の方が高い評価を得ていることが分かる。
双方の年度において「自己評価」より「評価票」の方が高いのがⅡ−⑦「日誌の誤字・
脱字」である。誤字・脱字は,実習記録簿の記載により判断が明確であることに加え,
実習指導において繰りかえし指導していることが,自己評価の若干の低下に繋がってい
る可能性がある。学生は誤字・脱字をなくしていかなければならない現状を自覚してい
ると思われるが,結果として改善できていないことが示された。誤字・脱字をなくすた
めの実習指導の一環として「保育用語漢字試験」を実施し改善を図っているが,さらな
る工夫が必要である。
【4】実習内容について(平成 25 年度対比)
実習内容についてのそれぞれの平均を表4.評価の対比を図4.に示す。
Ⅲ−⑧「個人のプライバシーの保護」は,平成26年度に新たに設けた項目であり,そ
のため,26年度のみのデータとなっている。
全ての項目に共通することは,平成26年度の自己評価の突出した高さである。その中
でも特に自己評価が高く,かつズレが大きいのはⅢ−②「積極的に関わり理解する」,
Ⅲ−①「施設,利用児・者,業務内容の理解」,Ⅲ−③「尊重した言葉遣いや態度」,Ⅲ
−⑨「安全衛生面についての配慮」であった。
評価票のみに焦点を当て,平成25・26年度を比較すると大きなズレは認められず,全
ての項目において一貫した評価傾向にあることがわかる。その中でも双方の年度で高い
表4
評価内容
Ⅲ‐①
Ⅲ‐②
Ⅲ‐③
Ⅲ‐④
Ⅲ‐⑤
Ⅲ‐⑥
Ⅲ‐⑦
Ⅲ‐⑧
Ⅲ‐⑨
自己評価 評価票
H25
H25
4.03
3.85
4.05
3.95
3.95
4.05
3.56
3.62
3.41
3.72
3.85
3.84
3.60
3.67
3.88
3.78
自己評価 評価票
評価内容
H26
H26
4.46
3.81 施設の目的、機能、利用児 ・ 者、業務内容などについて理解しようとしていた。 4.50
3.93 利用児・者に積極的に関わり、理解しようとしていた。
4.44
4.06 利用児 ・ 者を尊重し、適切な言葉遣いや態度で接していた。
4.00
3.68 利用児 ・ 者の個性や特性に応じた対応を考慮していた。
4.03
3.60 利用児 ・ 者の援助 ・ 支援について指導者やスタッフに質問し、理解しようと努めていた。
4.16
3.65 利用児 ・ 者の援助 ・ 支援に関する知識、技術を身に付けようとしていた。 4.11
3.53 職員間の役割分担やチームワークのあり方を理解しようとしていた。
3.95
3.54 個人のプライバシーが具体的にどのように保護されているか学ぼうとしていた。
4.39
3.65 施設全体の安全、利用児 ・ 者の安全や衛生面について配慮していた。 --112
6 --
図4
評価を得た項目は,Ⅲ−③「尊重した言葉遣いや態度」,次にⅢ−②「積極的に関わり
理解する」であった。最も低い評価は,Ⅲ−⑦「職員間の役割分担やチームワークの理
解」であった。
また,平成26年度の自己評価が高いにも関わらず,Ⅲ−①「施設,利用児・者,業務
内容の理解」,Ⅲ−②「積極的に関わり理解する」,Ⅲ−⑤「質問し理解する」,Ⅲ−⑥「知
識・技術を身に付ける」,Ⅲ−⑦「職員間の役割分担やチームワークの理解」,Ⅲ−⑨「安
全衛生面についての配慮」以上6項目において,平成26年度の評価票の方が25年度より
低い評価となっている。評価票が低いにも関わらず,自己評価が高い結果についてであ
るが,実習に臨むにあたってのマナーや最低限のルール,実習を成立させるための基本
的な事項の確認に力を注がざるを得ない状況が反映されている可能性が考えられ,実習
内容について十分指導できる体制や時間の確保が望まれる。
【5】総合評価(平成25年度対比)
総合評価の平均を表5.評価の対比を図5.に示す。
--113
7 --
平成25年度の「自己評価」と「評価票」の対比をみると,自己評価が評価票より0.37低く,
26年度においては逆に自己評価が評価票より0.36高
くなっている。26年度は,25年度よりも評価票の評
表5
価は低下しているにも関わらず,自己評価が高い。
評価項目Ⅱの「実習態度・日誌について」よりも,
Ⅲの「実習内容について」の評価の方が,より強く
総合評価に反映されており,実習内容についての指
導の改善が必要なことが示唆されている。
図5
【6】総合評価の評価差 平成 25 年度対比(評価票−自己評価)
総合評価における評価票評価から自己評価を引き,そのズレを評価差とした。評価差
別に人数と割合を示したものが表6.図6.
である。
表6
総合評価のズレからも明らかなように,
25年度の自己評価の低さ,及び26年度の自
己評価の高さが割合でも示されている。自
己評価の方が評価票を「2」上回った(評価
差−2)割合として,平成25年度は2.7%で
あったのに対して,26年度は11.4%と高い。
さらに,自己評価の方が「1」上回った(評
価差−1)割合として,平成25年度15.1%
であるのに対して,26年度は34.8%であり,
平成26年度の内訳の中で最も高い割合を占
めている。
--114
8 --
図6
評価票の方が自己評価を「2」(評価差2)上回った割合としては,平成25年度12.9%
であったのに対して,26年度は2.4%,さらに,評価票の方が自己評価を「1」上回った(評
価差1)割合としては,平成25年度31.7%,26年度16.7%である。
双方の年度ともに,評価差「0」の割合に大きな差はない。25年度及び26年度におけ
る評価差「−1」・「1」のズレ,及びズレ幅の大きい「−2」・「2」の存在が,総合評価全
体のズレを及ぼす要因となっている可能性が示されている。これらのズレ幅の大きい学
生に対して,一人一人に対応するための個別の指導のあり方を検討する必要がある。
2.総合評価のズレの分析
平成 26 年度は,25 年度と比較して自己評価の高さが特徴として挙げられる。また,今
回は保育実習Ⅰb(施設実習)のみに焦点を当て検討しているが,平成 25 年度入学者の
自己評価における傾向としては,保育実習Ⅰ a(保育所),幼稚園教育実習においても,
自己評価の高さが際立った結果が示されている。
そこで,「自己評価」と「評価票」の総合評価差「− 2」及び「2」のズレに着目し,記
述内容及び評価項目からその要因を検討することとする。
「自己評価」における記述式の総合評価,及び「評価票」の記述式の総合所見のそれぞ
れ評価に関する文節を一部抜粋し表示した。また,学生の学びの視点をさらに詳しく検討
する材料として,実習終了後に自由記述した①利用児・者とのかかわりから学んだこと,
②利用児・者から学んだこと,③保育者・支援員から学んだこと,の 3 項目を加えて提示
する。
【1】総合評価ズレ「− 2」
平成26年度の総合評価において,評価票より自己評価が「2」上回った25名のうち,9
名を抽出し,表7.及び表8.に示す。
Aは,Ⅲ−⑤「質問し理解する」,Ⅲ−⑨「安全や衛生面の配慮」が「−2」のズレと
なっており,いずれも自己評価は「5」と評価している。ミーティングでの積極性がい
--115
9 --
まひとつであったという評価票記述から,利用者にかかわろうとする姿を評価されなが
らも,そのかかわりを通して疑問に思うことについての質問や,さらに掘り下げた質問
を自ら行い,理解することが十分されなかったと推測される。
Bは,積極的に質問できたことが双方の記述からうかがえ,Ⅲ−⑤「質問し理解しよ
うと努めた」,Ⅲ−⑥「知識,技術を身に付ける」,Ⅲ−①「施設,利用児・者,業務内
容の理解」においてズレは少ない。しかし,実習内容についての自己評価が全て「5」
と高くなっていることが,総合評価のズレの要因と考えられる。また,学びに関する記
述内容からは,記録に関する記載があるものの,実習内容の項目中に記録に関する具体
的な評価項目がないため,評価が数値として反映されていない。記録に関しては,日誌
の提出期限及び誤字・脱字における評価項目のみであるため,Bに限らず日誌の内容の
評価が,評価表や自己評価に反映されていない可能性がある。
Cにおいては,Ⅲ−②「積極的に関わり理解する」が「−3」のズレとなっている。徐々
に積極的に関われたことを自己評価にて「5」としたと考えられるが,評価票の評価は
「2」であり,「丁寧な支援が実施できていたので,もう少し元気を出せたらよかった」
という記述内容からその理由がうかがえる。しかし,学びに関する記述の中に支援員か
らの学びとして,入浴介助に関する記述があるように,Ⅲ−⑨「安全衛生面についての
配慮」においては評価票においても「4」と高い評価を得ている。実習内容についての
自己評価が高く,「−2」のズレが見られる項目として,Ⅲ−④⑤⑥⑦の項目が挙げられ,
内容としては「個性や特性に応じた対応」や「援助・支援に関する知識技術を身に付け
ようとしたか」,及び「援助支援について質問し理解しようと努めたか」,「職員間の役
割分担やチームワークを理解しようとしたか」,に関する項目であり,自己評価として
は自分なりに努力した点を「5」と評価したものと思われる。
Dでは,関わりにおける積極性に対する記述における評価としては,双方とも一致し
ている。しかし,評価票の記述に「実習中の気づきから,積極的に質問したり,記録を
丁寧にまとめられると,さらに深められる」とあるように,やはりその中身を深めるま
でには到達しなかったことがうかがえる。また,「−2」のズレとなったⅢ−⑨「安全
衛生面についての配慮」において自己評価が高くなっていることは,施設ならではの細
やかな配慮や事故防止対策を目の当たりにし,深めるまでには至らなくとも観察し,知
ることができただけでも大きな収穫であったと評価していると思われる。
Eでは,日誌の記載について,双方の記述によるズレが確認される。自己評価記述で
は,「指導をいただき改善の後,良く書けていると評価をいただいた」と記されているが,
評価票の記述には,「徐々に細かくなってきたものの,気づきの部分が少し不足してい
た」となっている。
「−2」のズレをみるとⅢ−②「積極的に関わり理解する」,Ⅲ−③「尊重した言葉遣
いや態度」,Ⅲ−④「個性や特性に応じた対応」となっており,利用児や職員との積極
的なコミュニケーションがなかなかとれず,実習終了が近づき慣れてきた頃に改善でき
-
-116
10 -
-
たことについての受け止めが,双方のズレとなって評価に現れたものと思われる。
また,Ⅱ−③「言葉遣い」,Ⅱ−④「勤務態度」,Ⅱ−⑤「指導・助言を受ける態度」の
項目が「−1」のズレであり,これらの項目に関しても上記の双方のズレとの関連が見
られる。
Fにおいて,双方で共有するのは,コミュニケーションについて記述の中で触れてい
る点である。自己評価の記述からは,試みたもののコミュニケーションがうまく図れな
かった様子がうかがえるが,評価票の記述においては,「自らコミュニケーションを図
ろうとする姿が見られなかった」とあり,試みようとする努力すらなかったと受け止め
られた可能性がある。
「−3」と大きなズレが生じていた項目は,Ⅲ−③「適切な言葉遣いや態度」,Ⅲ−⑧「個
人のプライバシーの保護」であり,いずれも自己評価は「5」と高い。しかも評価票の
記述には,「質問等もあまりなく,慣れてきて敬語でない時もみられた」とあり,この
ような言動について本人が自覚しておらず,改善点として気づいていなかった可能性が
ある。ただし,Ⅲ−⑤「質問し理解しようと努めた」に関しては双方が「3」と評価し
ていることから,ズレは生じていない。
日誌の誤字・脱字に関しても「−2」のズレがあり,記録記載に関する実習内容以前の
マナーとしての意識の低さ,自覚のなさがうかがえる。
Gは,支援の範囲と判断に苦慮したにもかかわらず,その点に関して質問したり解決
策を見いだそうと試みることが言動として示されなかったことが推測される。
Ⅲ−②「積極的に関わり理解する」,Ⅲ−⑤「質問し理解しようと努めた」,Ⅲ−①「施設,
利用児・者,業務内容の理解」の項目において「−2」のズレが見られる。また,Ⅱ−④「勤
務態度」,Ⅱ−⑤「指導・助言を受ける態度」の項目においても「−2」のズレが見られる。
自己評価の記述からは,支援の範囲を自らの判断とし,自ら質問するどころか日誌にコ
メントいただいたことに対しても,「その場で言ってもらえたら動けた」と受け身であ
り,自ら積極的に動くことが出来なかった実習が垣間見える。また,評価票記述にある
日誌の記載についても「どのようなかかわり方をしたか,日誌から伝わってきませんで
した」と評価されているが,日誌の内容に関する評価項目がないため,記述からの情報
でしかうかがい知ることができない。
Hに共通することは,笑顔と積極性である。Ⅱ−③「言葉遣い」,Ⅲ−③「適切な言
葉遣いや態度」の項目は自己評価及び評価票の双方で最も高い評価で一致している。
唯一「−2」の評価であったのは,Ⅲ−⑦「役割分担やチームワークのあり方の理解」
であり,これは評価票が低かったのではなく,学生としては十分理解できたと自己評価
して高い評価を下した結果と考えられる。職員間の役割分担やチームワークは,限られ
た実習期間の中で全てを理解するには限度があり,学生としては実際の連携の一部を見
たことで,理解できたと判断する可能性がある。
Iは評価票の記述にもあるように,「利用者に対しての言葉遣い,かかわりの丁寧さ」
-
-117
11 -
-
「アドバイスを素直に理解し関わる姿」が,実習態度・日誌についてのⅡ項目の一貫し
て高い評価へと繋がったと考えられる。しかし,実習内容についてのⅢの項目において
は,Ⅲ−⑤「質問し理解しようと努めた」,Ⅲ−⑧「個人のプライバシーの保護」を除いて,
自己評価の方が評価票を上回る高い評価となっている。
-
-118
12 -
-
表7 総合評価ズレ - 2
自己 評価
評価 票
総合 総合 b-a
評価 評価
a
b
5
3
-2
記述要約
自 己 評 価
記 述
評 価 票
記 述
欠席,遅刻,早退などなく,毎朝忘
れることなく日誌も提出していた。
得意なことを活かし,利用者と沢山の場面で関わる姿が
ありました。毎日のミーティングでは,いまひとつ積極
性が欲しいと思われるところがありましたが,その反面
利用者の側に寄り,関わろうとする姿が見られました。
実習態度:出勤状況○
日誌:提出○
かかわり:得意なことを活かして関わる○、利用者の側
に寄る○
実習態度:反省会(ミーティング)での積極性×
A
①
相手の言葉が理解できないので、どのように関わっていけばよいのかわからなかった。生活の中で、自分の
出来る事は自分で行っていた。相手が言葉を上手く話せない場合もあるので、状況を見て相手の気持ちを理
解できるようにすることが必要であると思った。
②
帰省の時期になると楽しそうに家族と会えると話しをしていて、帰省の大切さがわかった。
③
利用者の方が、支援員の方に頼りすぎないように、利用者の方へは最低限の援助を行い、実際の家庭のよう
に生活していて、利用者の方が楽しそうに生活することができていたこと。
5
3
-2
記述要約
B
積極的に質問し、お話を聞くことが
できました。研究保育や読み聞かせ
や手遊びなども積極的にできたので、
勉強になりました。
職員に良く質問し学ぼうとする意欲が見られたが、子ど
も達への関わりは、観察していることが多く、もう少し
声を出し言葉をかけて一緒に遊び、ふれあうことができ
ればよかったと感じる。
質問:積極的○
かかわり:研究保育,読み聞かせ○
質問:意欲○
かかわり:観察の多さ、ふれあいの少なさ△
①
子ども達を見守る中で、
“記録”がとても大切な存在だと知りました。子ども達と過ごす中で、興味あるもの
好きな物がわかったり、子ども達と溶け込めた事がとても嬉しかったです。
②
大型絵本を読んだ際、とても反応してくれた。心の安定が子ども 1 人ひとりにあるので、1 人ひとりに寄り
添い声かけや対応を行うこと。
③
子どもとコミュニケーションをとりながら行う。先生同士の情報交換とコミュニケーションをこまめに取り
合うこと。記録は子ども達が病気などにかかった時の大切な資料なので毎日記録し、確認を行う。
5
3
記述要約
C
-2
慣れていくうちに,その方たちと自
分から積極的に関わることができる
ようになり,自閉症に興味がもてま
した。
言葉遣い,利用者対応は丁寧な支援が実施できていたの
で,もう少し元気を出せたらよかったと思います。
かかわり:徐々に積極的○
かかわり:丁寧な支援○
実習態度:積極性△
①
会話ができたり、自分のことは自分でできる方が多くて驚きました。最初は、利用者と接するのが怖いと思
っていたけど、毎日同じ時間を過ごす中で、
「ありがとう」
「ごめんね」という言葉を聞いた時は感動しました。
話しをしている中でいつの間にか自分が笑わされていた時は楽しいと思えました。
②
利用者同士の助け合いをみて、助け合うことが大事だなといろいろな場面を見て思いました。
③
理解をするのが難しい方へ、次は何をするのかを伝える方法。入浴介助をする時は一番端っこに立って洗い
ながら浴槽を見たりして、溺れていなか危なくないか確認することが大切と教えていただきました。
-
-119
13 -
-
5
3
-2
記述要約
積極的に子ども達と関われるよう努
力をした。ほぼ毎日本を読んだり,
保育活動に一緒に参加するなど実習
内容も充実していた。
自ら子どもに寄り添って関わりをもち,細かな動きに気
づき対応されていました。実習中の気づきから,積極的
に質問したり,記録に丁寧にまとめられると,さらに深
められると思います。
かかわり:積極的努力○
かかわり:寄り添い、気づき対応○
質問:積極的△
日誌:内容(丁寧にまとめる)△
D
①
お茶を飲む、着替えをするなど、行動一つ一つにおいて、声かけが必要だと思った。
②
とにかく関わる。コミュニケーションが大切だと思った。
③
1 人ひとりとの関わりを大切にしている。職員全員が、子ども 1 人ひとりのこと(状態)を把握していた。
その日入るクラスの担当の先生が、子ども全員の特徴、気をつけることを細かく教えてくださった。
4
日誌は、始めは内容が少ないなど指
導をいただきましたが、最後は良く
書けていると言われました。
日誌に関していは、徐々に細かくなってはきたものの、
気付きの部分がもう少し不足していた感じがあります。
小さな事でも見逃さない視点が大切だと思います。職員
や子ども達に遠慮されていたのか、声かけが全くされず
心配しましたが、終わりに近づくと徐々に、子ども達へ
の声かけもできていました。
日誌:指導後改善○
日誌:内容(気づきの不足)△
かかわり:利用児や職員とのコミュニケーション×
2
-2
記述要約
E
①
家庭的な雰囲気をつくることを学びました。家庭のように家事をしたり、外で遊んでいる時など子どもたち
は学校での出来事などを話してくれました。なんでも話してくるので、一つひとつしっかりと聞くことが大
切だと学びました。
②
入所している子ども達全員で協力していたのですごいなと思いました。そして高学年が低学年のお世話をし
ていました。ここで学んだことは、協力することです。そして困っている人には手助けすることです。常に
周りの人のことも考えて行動したいと思いました。
③
実習中常に言われた事は「会話」です。茶碗を洗う時、洗濯物を干す時子どもと一緒にするのですが、黙っ
てするのではなく、会話することが大切だと学びました。そして、甘やかすのではなく、叱るときはきちん
と叱ることも大切だと学びました。
4
2
記述要約
F
-2
初めは自分から話しかけることが出
来ず会話がほとんどありませんでし
た。
最終日まで自らコミュニケーションを図ろうとする姿が
見られませんでした。日誌についても誤字脱字が多かっ
たです。質問等もあまりなく,慣れてきて敬語でない時
もみられました。
かかわり:コミュニケーションの
きっかけ×
かかわり:コミュニケーションを図ろうとする姿×
日誌:誤字脱字の多さ×
質問:あまりない×
実習態度:慣れによる敬語の欠如×
①
コミュニケーションがうまく取れず、相手の思いの受け止め方が分からなかったが、1 人ひとりの障害を聞
くことで自分も理解することができた。
②
決められたことはきちんとされており、すごいと思った。バスに乗る時や食事の時に決まった所に座らない
とパニックになる方もいるので、みんなが気にかけていた。
③
障がいに応じて、食事をとる場所、時間などをずらして対応していた。朝、顔を見るだけで、少しの変化で
も気づいていた。
-
-120
14 -
-
4
2
-2
記述要約
G
初等部が主だったので,ある程度の
ことは自分で行っていたため,あま
りすることが正直なかった。日誌の
コメントの欄に沢山のアドバイスを
書いてくださったが,その場で言っ
てもらえたら私も動けたのになと感
じました。
短い実習期間でしたので,もう少し積極さが欲しいと感
じました。子どもたちとの関わりも,特定の子のみに限
られていたので,施設にいるいろんな子どもたちへの気
持ちにふれることが十分にできなかったのではと残念に
思います。悩んだこと,困ったこと,対応に苦慮したこ
とやどのような関わり方を子どもとしたか,日誌からも
伝わってきませんでした。目標をしっかり持って実習に
臨んで欲しかったと思います。
かかわり:支援の範囲と判断△
実習態度:積極性×、目的意識×
かかわり:特定の子どもに限定×
日誌:関わり方についての記載×
①
不安でしたが、とても実習生を温かく受け入れてくれて、とても楽しい実習になりました。
②
子ども達同士で注意し合っていて、とてもよい環境だと思いました。子どもたちはとても明るいですが、自
由時間にアルバムを開いて考えている姿を見て、外見はとても明るく元気な子ども達ですが、心には悩みを
抱えているんだと感じました。
③
子どもには、担当の職員が決まっていて、その職員と子どもの信頼関係や愛着関係がしっかりしていて、大
切だと改めて感じました。また心のケアをするために絵を描いて好きな色で色塗りをして、そこから子ども
の気持ちを読み取り、その子にあった対処をしている様子を見る事ができました。
5
3
-2
元気で明るい態度で実習されており,子どもたちとも常
に笑顔で関わることができていました。
実習態度:積極的(意欲的)○
実習態度:元気、明るい○
かかわり:観察(先生方の配慮点)○、
かかわり:常に笑顔○
笑顔、視線の心がけ○
記述要約
H
常に自分でできることを探し行動す
ることができていたと思う。先生方
がどのようなことに配慮しながら保
育されているのかを考えてみるよう
にしていた。障がい児と関わる時は
笑顔で目を見ながら話することを心
がけることで心を通わすことができ
た。
①
「障がい」という言葉は、注意すること配慮することがあるだけで、保育の仕方は何も変わらないということ。
いけないことはいけないとしっかり教えなければならないので、子ども達が大人になっても困らない援助が
必要だと学んだ。1 人ひとりの性格や特徴を把握しておくことが大切。
②
話をする時は、しっかり目を見て話すこと。視線を合わせることで子ども自身も真剣に聞いてくれて理解し
てくれるので、大事なことに気づくことができた。
③
1 人ひとりに合わせた対応や姿勢があること。
5
3
記述要約
-2
毎日違う活動に参加させていただい
たので、いろいろな体験ができまし
た。
利用者に対しての言葉遣い、関わりも丁寧でした。また、
職員からのアドバイスも素直に理解して関わる姿が見ら
れました。
かかわり:さまざまな活動体験○
かかわり:言葉遣い○、丁寧な関わり○
実習態度:指導後の対応、理解○
I
①
かかわり方、話し方を学びました。利用者の方は話すことが楽しい様子で会話はとても多い実習でした。
②
1 人ひとりの特徴や個性に気付かされました。
③
入浴介助や毎食後の仕上げ磨き、ケア活動など、普段経験できない事をたくさんさせていただいた。
-
-121
15 -
-
表8.総合評価ズレ−2 (総合評価−自己評価)
自
評
A
Ⅱ - Ⅱ - Ⅱ− Ⅱ− Ⅱ− Ⅱ− Ⅱ− Ⅲ - Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ−
① ② ③
④
⑤
⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
2
3
3
3
3
2
3
4
4
4
4
5
4
4
3
5
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
4
3
3
3
Ⅳ
5
3
3
3
ズレ
1
0
0
0
0
1
0
-1
-1
-1
0
-2
-1
-1
0
-2
-2
自
2
3
3
3
3
2
2
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
3
3
3
3
3
3
3
4
3
3
3
4
4
3
3
3
3
1
0
0
0
0
1
1
-1
-2
-2
-2
-1
-1
-2
-2
-2
-2
2
3
3
3
3
2
2
4
5
4
5
5
5
5
4
5
5
2
3
3
3
3
3
2
3
2
3
3
3
3
3
3
4
3
0
0
0
0
0
1
0
-1
-3
-1
-2
-2
-2
-2
-1
-1
-2
2
3
3
3
3
2
3
5
4
5
4
4
4
4
3
5
5
3
3
3
3
3
3
2
4
3
4
3
3
4
3
3
3
3
評
B
ズレ
自
評
C
ズレ
自
評
D
ズレ
1
0
0
0
0
1
-1
-1
-1
-1
-1
-1
0
-1
0
-2
-2
自
2
3
3
3
3
2
2
4
4
4
4
2
3
3
2
4
4
2
3
2
2
2
3
3
3
2
2
2
2
3
3
2
4
2
0
0
-1
-1
-1
1
1
-1
-2
-2
-2
0
0
0
0
0
-2
2
2
3
2
3
2
3
4
3
5
3
3
4
4
5
3
4
2
3
2
2
3
3
1
3
2
2
3
3
2
2
2
3
2
ズレ
0
1
-1
0
0
1
-2
-1
-1
-3
0
0
-2
-2
-3
0
-2
自
2
3
3
3
3
2
2
4
4
4
3
4
3
3
3
4
4
評
E
ズレ
自
評
評
F
G
ズレ
自
評
H
2
3
2
1
1
3
3
2
2
3
2
2
2
2
3
2
2
0
0
-1
-2
-2
1
1
-2
-2
-1
-1
-2
-1
-1
0
-2
-2
2
3
2
3
3
2
3
5
5
5
4
4
4
5
3
4
5
3
3
3
3
3
3
3
4
4
5
3
3
3
3
3
3
3
ズレ
1
0
1
0
0
1
0
-1
-1
0
-1
-1
-1
-2
0
-1
-2
自
2
3
3
2
2
2
2
5
5
5
4
3
4
4
3
4
5
3
3
3
3
3
3
3
3
3
4
3
3
3
3
3
3
3
1
0
0
1
1
1
1
-2
-2
-1
-1
0
-1
-1
0
-1
-2
評
ズレ
I
【2】総合評価ズレ「2」
平成26年度の総合評価において,評価票より自己評価が「2」下回った5名のうち,3
名を抽出し,表9.表10.に示す。
Jにおいては,自己評価のコメントの中で,変化に対する判断や対応の難しさを記し
ている。一方,評価票記述においては,「色々なことを学ぼうと周りを見て様々なこと
を感じとった様子」「解らないことや疑問に思った事は質問できている」「利用者とのコ
ミュニケーションも慣れるに従い積極的になった」などが記されている。実習内容につ
いてのⅢの項目が自己評価と同等またはそれを上回る評価となった要因として,変化に
対する判断や対応の難しさを抱えたままにしているのではなく,積極的に質問したこと
にあるのではないかと思われる。質問することで,学生の疑問に感じている視点が伝わ
り,適切な助言をいただいたことで,それらを踏まえて関わりや実践に活かすことがで
-
-122
16 -
-
表9 総合評価ズレ2
自己 評価
評価 票
総合 総合
評価 評価
a
b
3
5
b-a
2
記述要約
J
自 己 評 価
記 述
評 価 票
記 述
実習内容は豊富であり,その各部署で 真剣に実習に取り組み,色々なことを学ぼうと周りを見
の利用者さんの対応では,変化に追い て様々なことを感じとった様子であった。解らない事や
つけない部分がありました。
疑問に思った事は質問も出来,利用者の方とのコミュニ
ケーションも慣れるに従い,自分から積極的に行ってい
る様子であった。
かかわり 変化に対する対応×
実習態度 真剣(意欲)○
質問 分からない事、疑問点○
かかわり コミュニケーション積極的○
①
心の変化や波があるので、判断して対応するのが難しいと思いました。利用者さんとコミュニケーションを
取る時に、聞き取りづらかったり分からなかったりしたので、1 人ひとりの特徴(言葉)を知る必要がありま
した。障がいに対して固定せず、臨機応変に対応しなければならない。
②
気配りをしていて、体調などを気遣ってくれていた。
③
戸惑ったり、困ったりしている時は、すぐ声をかけて対応する。
3
施設の利用者と職員がどのように関わ
っていたか,どのような支援をしてい
るか積極的に聞けたと思う。利用者と
もたくさんコミュニケーションをとる
ことができた。
5
2
質問 かかわり、支援○
かかわり 利用者とのコミュニケーシ
ョン○
記述要約
K
利用者とのコミュニケーションも日を重ねるごとに,関
わりも近づいていってました。自然にサポートする姿勢
もあり,笑顔で支援に入り,利用者からも声をかけられ
るように親しくなっていました。
かかわり コミュニケーション○、自然なサポート○
実習態度 笑顔○
①
職員と利用者の関わっている様子を拝見して、学ぶことが多かった。利用者の目を見て真剣に話を聞く職員
はすごいと感心しました。
②
利用者から話しかけたり、コミュニケーションを取ろうとしてくれて、会話ができなくても、ボディータッ
チやハイタッチをしたりすることで、利用者も嬉しそうにしてくれました。
③
1 人ひとりに合った対応、支援をしていました。
3
5
記述要約
L
2
施設実習を終えて、自分ではできてい 空いた時間も、利用者の元へ行き、常に誰かと一緒に過
た方かなと思いました。
ごしている姿が印象的でした。質問は、遠慮があってあ
まり出ませんでしたが、メモを適切に取り活用していま
した。
実習全般 ○
かかわり 常に利用者と関わっている○
質問 遠慮のためか△
実習態度 メモの適切な活用○
①
利用者の方が大きな声で挨拶をしてくださって、緊張がほぐれました。障がいを持っているからといって、
何もできないわけでもないということを改めて感じました。
②
清掃の時などに、本当に細かいところまで掃除していたので、素晴らしいなと思いました。
③
利用者の方々、1 人ひとりのことを理解することがすごく大事ということが、改めてわかりました。
-
-123
17 -
-
表 10.総合評価ズレ−2 (総合評価−自己評価)
Ⅱ - Ⅱ - Ⅱ− Ⅱ− Ⅱ− Ⅱ− Ⅱ− Ⅲ - Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ− Ⅲ−
① ② ③
④
⑤
⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
2
3
2
2
2
2
3
5
5
4
4
4
4
3
4
5
自
評
J
3
3
3
3
3
3
3
Ⅳ
3
5
5
5
4
5
5
5
4
5
5
ズレ
1
0
1
1
1
1
0
0
0
1
0
1
1
2
0
0
2
自
2
3
3
3
2
2
2
3
3
3
3
3
2
3
3
3
3
2
3
3
3
3
3
3
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
0
0
0
0
1
1
1
2
2
2
2
2
3
2
2
2
2
2
3
3
3
3
2
2
4
4
4
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
2
5
5
5
4
5
4
5
5
5
5
1
0
0
0
0
1
0
1
1
1
1
2
1
2
2
2
2
評
K
ズレ
自
評
ズレ
L
きたのではないか。また,関わることでさらに疑問点や知りたいという意欲にも繋がる。
そのような関わりを繰り返し,利用者をさらに深く知ることで,より良いコミュニケー
ションが図れるようになるのではないかと思われる。このような一連の行動が,真剣に
実習に取り組む姿勢や意欲と受け止めていただけたのではないかと思われる。
Kで共通することは,積極性と良好なコミュニケーションである。評価票の記述に「自
然にサポートする姿勢」「笑顔で支援に入り,利用者からも声をかけられるように親し
くなっていた」とあるように,利用者や職員との良好な人間関係が築けたことが,各評
価項目の評価の高さに繋がったものと考えられる。
Lは,評価票の記述に「空いた時間も利用者の元へ行き,常に誰かと一緒に過ごして
いる姿が印象的でした」と記されている。このコメントから,受け身の姿勢で実習する
のではなく,休憩時間を惜しんで利用者とコミュニケーションをとり,心から関わりを
持ちたいという自然な思いが伝わってくるようである。資格取得のために行かねばなら
ない実習と捉えるのでなく,今目の前にいる利用者と関わりを持ちたいという気持ちが
全面に出て,その想いが施設の指導者に伝わったのではないかと考えられる。
6.本調査のまとめと今後の課題
本調査では,
「評価票」
(実習先による学生評価)及び「自己評価」
(学生自身による評価・
振り返り)に着目し,双方の“ズレ”から今後の実習指導の課題や改善すべき点を見いだ
すことを目的とした。その結果,以下の 5 点を見いだした。
①「日誌の誤字・脱字」を減らす対策
誤字・脱字が減少し,改善が確実に認められる対策が必要である。
②評価項目における「日誌の内容」の追記
日誌に関する現行の評価項目では,提出期限と誤字・脱字に関する2項目であり,日
誌の内容を評価する項目がない。そのため,記述欄に日誌の内容に関するコメントがな
ければ,内容についての評価はわからない状態である。よって,日誌の内容についての
項目を追記する必要がある。
③評価項目における「前日までの反省を踏まえた関わり」の追記
-
-124
18 -
-
限られた実習期間ではあるが,その中で積み重ねた学びや反省を翌日に活かすことで,
利用児・者とのより良いコミュニケーションや関わりに繋がる。一日の学びや反省を意
識することにより,日誌の記録や質問内容も深まることが期待される。
④実習内容について十分指導できる体制
実習に臨むにあたってのマナーや最低限のルール,実習を成立させるための基本的な
事項の確認に力を注がざるを得ない状況である。実習内容について指導できる体制,時
間の確保が必要である。
⑤個別指導が必要な学生に対する指導
「自己評価」「評価票」を十分に検討し,個別指導が必要な学生に対応する。
これらの課題や改善すべき点を実習指導の充実を図る手掛かりとし,具体的な実習内容
の検討や評価項目の改訂に繋げていくことを今後の課題としたい。
引用文献・参考文献
久松尚美 野坂 敬.(2014).
児童養護施設における社会的養護の役割と課題の地域性.宮崎学園短期大学紀要,6,
63-33.
厚生労働省.(2009).
児童養護施設入所児童調査結果の概要.厚生労働省雇用均等・児童家庭局.
宮崎県福祉保健部 .(2013).
平成25年度版宮崎県の福祉と保健.社会福祉法人宮崎県社会福祉協議会.
佐々木昌代 久松尚美 .(2014).
実習評価における“ズレ”の分析(Ⅱ)―保育所実習と施設実習における評価票と学
生の自己評価について―.全国保育士養成協議会第53回研究大会ポスター発表.
山田朋子・那須信樹・森田真紀子.(2011).
保育士の質向上につながる評価票ベースの継続的実習指導.中村学園大学・中村学園
短期大学部研究紀要,43,133-142.
-
-125
19 -
-
編 集 委 員 会
委員長 後 藤 多 津 子
委 員 米 田 千 穂
渡 邉 尚 孝
木 村 匡 登
宮崎学園短期大学紀要 第7号
平成 27 年3月発行
発行所 宮崎学園短期大学
〒 889-1605 宮崎県宮崎市清武町加納丙 1415 番地
電話 0985(85)0146 ㈹
印刷所 株式会社 エスアイエス
〒 880-0852 宮崎県宮崎市高洲町 50-4
電話 0985(27)8899