扶養(親に対して) 創業100年 司法書士 岸本司法総合事務所 岸 本 和 平 http://kishimoto-shiho.jp 最近の話ですが、A(長男)さんから相続登記のご依頼を受け分割協議書 等必要書類を作成してお渡しし、登記を完了する予定でしたがうまくいきませ んでした。分割協議書の内容は「Aが全財産を相続する」というもので、財産 はAの父親(B)が残した土地約50坪(その土地の上にはAが建物を建て所 有している)と 預金は約金1000万円程でした。Aは父親と約30年ほど 同居し90数歳で死亡するまで、奥様の協力を得て苦労をし、扶養をやり遂げ ました。死亡前の数年間、Bは認知症を患いその療養看護までしたのだから当 然という気持ちでしたが他の相続人3人の内1人が反対しました。 民法には扶養義務として・夫婦相互間(民752.760)・親の子(未成 熟子)に対する(民766)・直系血族及び兄弟姉妹相互間(民877.1項) ・前者・以外の三親等内の親族で特別の事情がある場合(民877.2項)が 規定されています。 一般的には上記の扶養義務には軽重があるとされ・の親に対する扶養義務 は・の夫婦間や・の親の子に対する扶養義務より軽く、自己の地位相応な生活 を犠牲にすることなく、給与し得る最低生活費を支払うことで足りると考えら れています。 上記例のような子が親を扶養する場合(私的扶養)は一般的に公的扶養(介 護保険法、生活保護法等)より優先すると考えられています。 上記例(引取扶養)の場合、前半は親が生活費の一部を負担して同居してい たので扶養に当たらないかもしれませんが、後半の数年間は認知症の発病、療 養看護をしたので、その負担に対して兄弟姉妹が均等に費用を分担し支払う義 務が発生すると考えます。 「引取扶養については、経済給付の代物弁済・現物給付とみて、他の扶養義務 者に対しその負担を請求し得る。扶養審判事件で引取扶養を金銭に換算した裁 判例は見当たらなかった。特に看護を要するような扶養権利者(親)の場合に は、引取扶養をしている扶養義務者(子)の労力を交通事故における近親者付 添費用に準じる、あるいは、看護のための実働時間をパート相当給与で評価す ることにより他の金銭扶養を行う扶養義務者(子)の分担割合を決める際の参 考とすることもあろう」(判例・先例 親族法 扶養 中山直子著) 上記例の解決の為の参考として、中山直子(千葉家庭裁判所判事)の著書を 記載させていただきました。扶養費用の求償権は通常の裁判の判決でなく家庭 裁判所の審判で決定されます。 実際には上記例でAさんに「しばらくの間話し合いをやめて待ってみましょ う」と助言をしました。4~5ケ月経過したところ、異議を唱えた弟が折れて 同意を得られ無事相続登記が出来ました。後で聞いたところ、Aさんは後日他 の相続人の方々に現金を分配されて仲良くやっているとのことでした。 上記例の事前の対策としては、公正証書遺言を作成しておくのも良いでしょ う。又、死因贈与や生前に相続時精算課税控除を受けて贈与する方法も考えら れます。 しかし、最近では死亡直前の公正証書遺言や色々の対策が相続人間で問題に なり争われる事件が多くなっていると聞いております。無理のない公平な分配 をして、それぞれの相続人が満足できるのが良いと思います。特に「○○が全 財産を相続する」という遺言をする場合には問題が起こりやすく他の相続人へ の配慮をされる方が良いと考えます。 私の身近には、親に対する扶養で苦労されている友人や親戚等数多くおりま す。そのような方には真面目な方が多く適切な対応ができない場合があります。 その労苦に報いる為にも私見ですが民法に扶養分として「相続人の内、親を扶 養した者は相続財産の1/2を限度として相続できる。その残りを相続人は法定 相続分の割合で相続する。相続人間で協議できなければ家庭裁判所が審判で決 定する」を加えていただきたいと考えます。 民法の寄与分の解釈では扶養に対応できません。又、この規定があれば多く の方々の労苦に報われますし社会保障等の損失や家族は家族で面倒を看るとい う本来の人間としての方向に向かうのではないでしょうか。 しかし、現実には扶養については特別な配慮がなされてない面がありますの で相続前の話し合いにより円満に相続できるように公正証書による遺言を作成 されることをお勧めします。 私事ですが今年になってホームページを開設しました。日住サービス様に本 寄稿文を掲載させてもらえるようになり5年になりますが、今までの全寄稿文 を掲載いたしましたのでご一読下されば幸いです。直面されておられる事案に 対しての寄稿文を読まれれば少しは解決の足しになると考えております。 (株)日住サービス 不動産投資情報 2012年 5・ 6月号
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