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乳がん・甲状腺がんの受診から診断、 治療、経過観察への流れがわかり

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乳がん・甲状腺がんの受診から診断、
治療、経過観察への流れがわかります。
1
乳がん
は じめに
電離放射線曝露も、乳がんのリスク要
因とされています。しかし、これらの
乳がんは、乳腺に発生する悪性腫瘍
リスク因子の多くは除くことが非常に
で、日本人女性の最も患う可能性(罹
難しいため、乳がんの発生を止めるこ
患率)の高いがんです。20年ごとに2
とはなかなか困難です。従って、乳が
倍に増加し、現在1年間に7万人以上
んによる死亡を少なくするためには自
の女性が乳がんにかかり、1.5万人以
己検診やマンモグラフィ検診などによ
上が乳がんで亡くなっています。しか
る早期発見、早期治療が大切です。
も、罹患率、死亡率ともに増加の一途
乳がんの治療は、手術、抗癌剤・ホ
をたどっています。日本人女性の乳が
ルモン剤・分子標的治療薬などによる
んの罹患率は30歳代から増加し始め、
薬物療法、そして放射線療法などをう
40歳代後半から60歳前半までが非常に
まく組み合わせて行います(集学的治
高く、その後は次第に減少します。一
療といいます)。かつて、乳がんの手
方、男性の乳がんは、女性の乳がんの
術は乳房、胸の筋肉、わきの下や鎖骨
100分の1程度の比較的まれながんで
の下のリンパ節を切除することが当然
すが、男性がかかることもあります。
と考えられていました。しかし、多く
乳がんの発生・増殖には、性ホルモ
の臨床試験の結果をふまえ、乳がんの
ンであるエストロゲンが重要な働きを
手術は次第に縮小化し、後で述べるよ
しています。初経年齢が早い、閉経年
うな乳房温存手術やセンチネルリンパ
齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が
節生検などが標準治療として行われる
遅い、授乳歴がないことなどはエスト
ようになってきました。一方、乳がん
ロゲンの体中のレベルが高くなるため
に対する薬物療法も大きく変わってき
リスク要因とされています。また、高
ました。乳がんに対して使える薬剤の
身長、閉経後の肥満、飲酒により乳が
種類、数が増加し、それに伴い、乳が
んリスクが高くなること、また、運動
んの治療成績もよくなっています。薬
により乳がん予防効果があることが知
物療法は再発、転移に対する治療や手
られています。その他、一親等の乳が
術後の再発、転移の予防のために用い
ん家族歴、増殖性の良性乳腺疾患の既
られます。また、手術の前に使われる
往、マンモグラフィ上の高密度所見、
こともあります。術後薬物療法は再発
2
Breast Cancer
のリスクの大きさや乳がんの性質に
のリンパ節がはれてないかを診ます。
よって選択され、再発を予防し、治癒
再発乳がんに対しては延命と症状の緩
2)レントゲン撮影(マンモグラ
フィ)
和を目的に種々の治療が行われます。
マンモグラフィは乳房を装置に挟ん
を目指して行われます。一方、転移、
九州大学病院では、
乳がんに対して、
で圧迫しX線撮影する検査です。触診
根拠に基づく医療(Evidence based
では見つからないような小さながんが
medicine(EBM)
)の実践に努めると
見つかることがあります。
ともに、患者さんやご家族とのコミュ
ニケーションを大切にする優しい治療
3)超音波(エコー)
を心がけています。乳がんの診療は病
皮膚にゼリーを塗ってプローブをあ
気の性質だけでなく、患者さんの家族
てて観察する検査で、腹部や婦人科の
構成や社会的背景、
治療による身体的、
超音波と同様です。
精神的、経済的影響など、それぞれの
ベッドサイドで手軽に検査でき、数
患者さんにとって大切な事柄を考慮し
ミリの小さなしこりを見つけたり、し
て行う必要があります。そのためにさ
こりの性質が詳しくわかるのが最大の
まざまな専門分野、さまざまな職種の
特徴で、がんかどうかの診断に大きな
スタッフ(医師や看護師、薬剤師、ソー
一役を担っています。
シャルワーカーなど)が協力し、最善
の治療が行われるよう、チーム医療に
努めています。
4)乳腺のその他の画像検査
しこりががんであるかどうかや、病
変の広がりを診断するために、MRIや
診断
CT検査なども有用です。
1)視触診
5)穿刺吸引細胞診と生検(針生
まず乳房を観察し、左右差、くぼみ
検、切除生検)
や隆起、発赤などがないかを診ます。
しこりなどの病変が見つかり、がん
次に、乳房にしこり(腫瘤)がないか、
の可能性が考えられる場合は、しこり
乳頭からの分泌や出血がないか、わき
に細い注射針を刺して細胞を吸いとっ
3
乳がん
て 調 べ る 穿 刺 吸 引 細 胞 診 に よ り、
80〜90%の場合ではがんかどうかの診
断が確定します。さらに多くの情報を
外 科的治療
乳がんの手術治療(初期治療の手術)
得るために太い針を刺してしこりの一
は、乳房への乳房温存手術あるいは乳
部の組織を採取したり(針生検)
、しこ
房切除術が選択されます。乳房温存手
り全体を切除して組織学的に診断する
術が不可能で乳房切除術が行われた場
こともあります。
合、乳房再建を追加する選択肢もあり
ます。また、腋窩リンパ節(わきの下)
6)遠隔転移の検査
5)
で乳がんの診断がついた場合は、
乳がんが転移しやすい遠隔臓器である
に対しては、センチネル(見張り)リ
ンパ節生検や腋窩リンパ節郭清を行い
ます。
肺、肝臓、骨、リンパ節などを、胸部・
腹部のCTや骨のアイソトープ検査(骨
シンチグラフィ)などで検査し、がん
の進展具合(病期)を調べます。
乳がんの臨床病期
⑴
0期(非浸潤がん)
:乳がんが乳管内
または小葉内にとどまり周囲に浸潤
していないもので、顕微鏡レベルの
早期がんです。
1.乳房温存手術あるいは乳房
切除術について
現在の乳がん手術には、①局所のが
んを取り除く治療、②病理結果からが
んの性質を知る検査、という2つの意
味があり、その標準的な術式は、乳房
温存手術、あるいは乳房切除術です。
⑵
Ⅰ期:腫瘍の大きさが2cm以下で、
わきの下に硬いリンパ節をふれない
早期がんです。
乳房温存手術は、乳房を部分的に切除
Ⅱ期:腫瘍が2cm以上5cm未満で、
わきの下のリンパ節に転移のあるも
のも含みます。
取り除く方法で、乳房切除術は、大胸
⑶
⑷
Ⅲ期:腫瘍が5cm以上で、周辺組織
への浸潤やリンパ節転移を伴うもの
もあります。
⑸
Ⅳ期:がんが骨・肺・肝・脳などに転
移している進行がんです。
し(大胸筋と小胸筋も残して)がんを
筋と小胸筋は残して、乳房全体を切除
する方法です。
乳房温存療法(術後に残存した乳房
への放射線療法も併用した場合)が、
乳房切除術と同等の治療成績が得られ
ることが示されました。日本において
も1990年代から乳房温存手術が行われ
4
Breast Cancer
るようになり、2000年代に入ると50%
治療法のことで、温存手術のみや放射
以上の初期乳がん患者さんに乳房温存
線治療のみの治療はお勧めできませ
手術が行われるようになりました。し
ん。
かし、乳房温存手術ではがんを取り残
乳房温存手術に適したしこりの大き
さないことが大前提であり、がんの広
さは、日本のガイドラインでは3cm
がりが大きい場合には、乳房温存手術
以下と考えられています。しかしなが
は適さず、
乳房切除術が選択されます。
ら、がんを完全に取りきることができ
九州大学病院では、病状(ステージ、
て、見栄えも良好な手術が可能と判断
しこりの大きさや広がりなど)を手術
された場合は、3cmを超えるしこり
前検査(エコー、CT、MRI、針生検、
に対しても乳房温存手術を行う場合が
細胞診)により充分に把握し、乳房温
あります。
存手術と乳房切除術の利点と欠点をご
逆に、以下①から⑤のいずれかに該
説明し、患者さんのご希望(preference)
当する場合は、乳房温存手術の適応と
等を相談しながら、ひとりひとりに最
ならず、乳房切除術をお勧めします。
適な術式を提案します。
(①2つ以上のがんのしこりが、同じ
側の乳房の離れた場所にある場合、②
2.乳房温存手術がすすめられ
乳がんが広範囲にわたって広がってい
る病気の状態(適応)につい
て
る場合、③温存乳房への放射線治療が
乳房温存手術は、ステージⅡ期(し
既往、膠原病の合併、等)、④しこりの
こりの大きさは3cm以下)までの人
大きさと乳房の大きさのバランスから
にお勧めできる手術です。また、非浸
美容的な仕上がりがよくないと考えら
潤性乳管がんの人でも選択肢の一つに
れる場合、⑤患者さんが乳房温存手術
なります。
を希望されない場合)
行えない場合(妊娠中、放射線治療の
乳房温存手術を受けた場合には、術
要(原則として必須)です。乳房温存
3.センチネル(見張り)リンパ
節生検について
療法とは、乳房温存手術と温存乳房へ
画像診断や触診などで腋窩リンパ節
の手術後の放射線治療を組み合わせた
への転移がなさそうだと判断された場
後に適切な放射線療法を行うことが重
5
乳がん
合は、センチネル(見張り)リンパ節
ければ、それ以外のリンパ節にも転移
生検を行います。そして、センチネル
がないと判断できますので、腋窩リン
リンパ節に顕微鏡検査で転移がなけれ
パ節郭清を省略できます。一方、セン
ば、リンパ節の郭清を省略することが
チネルリンパ節に転移がある場合は、
可能です。
腋窩リンパ節郭清を行う必要がありま
センチネルリンパ節生検とは、腋窩
す(4参照)。
リンパ節の中で最初にがん細胞がたど
り着くと考えられるリンパ節(センチ
ネルリンパ節)を摘出し、がん細胞が
4.腋窩リンパ節郭清について
手術前に腋窩リンパ節(わきの下)
あるかどうか(転移の有無)を顕微鏡
に転移があると診断された場合は、腋
で調べる検査です。九州大学病院で
窩リンパ節郭清を行います。一方、手
は、センチネルリンパ節を、放射線同
術前に腋窩リンパ節に転移がないかま
位元素
(わずかな放射線を発する物質、
たは疑いと診断された場合は、まずセ
アイソトープ)および色素を併用して
ンチネルリンパ節生検(3参照)を行
用いて同定(見つけだすこと)してい
い、センチネルリンパ節への転移の有
ます。放射線同位元素のみや色素のみ
無を調べます。転移があった場合は腋
を用いてセンチネルリンパ節を同定す
窩リンパ節郭清を行います。
るよりも、両者を併用する方法がより
リンパ節郭清とは、リンパ節が含ま
適していると、乳癌診療ガイドライン
れる脂肪をひとかたまりに切除するこ
にも述べられています。
とです。切除後に脂肪の中に埋まって
具体的には、手術前日に乳輪に微量
いるリンパ節を取り出して転移の有無
の放射線同位元素を注射し、また手術
を病理検査で調べます。腋窩リンパ節
直前に色素を注射し、放射線が検出さ
を郭清する意味は2つあります。1つ
れたり、色に染まったりしたリンパ節
は腋窩リンパ節への転移の有無、およ
(センチネルリンパ節)を摘出して、転
びリンパ節の転移の個数を調べるとい
移の有無を手術中(約30分程度)に、
う「診断」の目的です。もう1つは、
病理の専門の医師が、顕微鏡で調べま
再発を防ぐという「治療」の目的です。
す。
リンパ節郭清を行うことでリンパ節の
センチネルリンパ節にがん細胞がな
6
転移の個数がわかり、転移個数に応じ
Breast Cancer
て再発の危険性が高くなるため、術後
塩水を徐々に入れて皮膚を伸ばし乳房
の治療方針を決めるうえで腋窩リンパ
の形に膨らませます。その後、エキス
節郭清は重要な方法です。
パンダーを人工乳房(シリコンででき
たもの)に入れ替えるという方法です。
5.乳房再建について
乳房切除術の時にできた傷で再建の手
乳房再建とは、乳房温存手術が不可
術を行いますので、新たに傷はできま
能で乳房切除術が行われた場合、手術
せん。人工乳房は非常に安全でその後
によって失われた乳房を乳腺外科医と
の検診にも影響しません。しかし感染
形成外科医が連携して再建する方法
を起こした場合は、エキスパンダーや
で、現在保険診療となりました。乳房
人工乳房をいったん取り除いて感染を
再建の方法については、①組織拡張器
治療し、感染が完治しないと再建を再
(エキスパンダー)を用いた人工乳房
開できません。
による再建、②自科組織による再建、
②自科組織による再建
があります。乳房を再建することによ
患者さんの体の一部の組織を胸に移
り、温泉に入れない、バランスが悪い、
植する方法で、お腹の組織を移植する
等の精神面や肉体面の問題が改善する
方法(腹直筋皮弁法)と、背中の組織
可能性があります。また乳房を再建す
を移植する方法(広背筋皮弁法)があ
ることで再発が増えたり、再発の診断
ります。腹直筋皮弁法ではお腹の筋肉
に影響したりすることはありません。
を一部取るので、腹筋が弱くなり、腹
また、乳がん手術の後からでも再建手
壁瘢痕ヘルニアを起こす場合がありま
術を行うことは可能ですし、乳がんの
す。お腹の手術を受けた方や、将来妊
進行の程度によっては、別の時期に再
娠・出産を予定されている方には適し
建手術を行うことが望ましい場合もあ
ていません。広背筋皮弁法は将来妊
ります。
娠・出産を予定されている方にも可能
①組織拡張器(エキスパンダー)を
用いた人工乳房による再建
乳がん手術と同時に、エキスパン
ダーという皮膚を伸ばす袋を胸の筋肉
で、しばらく使われなくなった筋肉が
時間とともに萎縮(廃用性萎縮)し、
再建した乳房が小さくなることを加味
して形成されます。
の下に入れて、その袋の中に生理的食
7
乳がん
参考書
術前に行っても、手術後に行っても生
1.日本乳癌学会/編:乳癌診療ガ
命予後という点では差がありません。
イドライン1治療編2011年版、金
病状の進行状況に従い、適切な治療ス
原出版株式会社、2011
ケジュールを計画することが大切で
2.日本乳癌学会/編:患者さんの
す。
ための乳がん診療ガイドライン
2012 年 版、金 原 出 版 株 式 会 社、
2012
3.標準的な乳房温存療法の実施要
手術後の薬物治療(ホルモン治
療、抗がん剤治療、ハーセプチン
治療)
項の研究班/編:患者さんのため
①再発予防の治療がなぜ必要か?
の乳房温存療法ガイドライン、金
手術によって取り除くことができる
原出版株式会社、2005
4.Jay R. Harris
他:Diseases
of the Breast(14版)、2009
のは目に見えるしこりです。目に見え
ないがん細胞は体に残っていて(微小
転移といいます)、それが時間ととも
に大きくなり再発という形で現れるこ
内 科的治療
とがあります。乳房以外の臓器に転
乳がんに対する治療手術前の抗
がん剤治療
治す)することは非常に難しくなりま
腫瘤が大きい(3cm以上)ある場
れる場合は、根治をめざして手術後に
移・再発すると、病気を根治(完全に
す。再発の危険性が低くないと考えら
合や、リンパ節転移がある場合は、手
薬物治療をお勧めします。
術の前に抗がん剤治療を行う場合があ
②手術後のホルモン治療
ります。手術前に抗がん剤治療を行う
ホルモン治療は腫瘍にホルモン感受
利点は、しこりが小さくなれば、乳房
性(女性ホルモンの影響を受けて育つ
温存手術が可能となる点、また薬の効
タイプ)がある場合に行います。ホル
き目を乳房のしこりで確認できる点で
モン治療は女性ホルモンやその働きを
す。ただし5〜10%程度の方では抗が
ブロックすることによりがんの増殖を
ん剤に反応せずしこりが大きくなって
抑えます。閉経前の方と閉経後の方で
しまうことがあります。抗がん剤を手
は薬が異なります。閉経前の方はがん
8
Breast Cancer
細胞に女性ホルモンが働かないように
タイプ」
「がんが血管・リンパ管に入っ
する薬(抗エストロゲン剤)を5年間
ている」「しこりが大きい」「がん細胞
毎日内服します。また、卵巣の働きを
の表面にHER2(ハーツー)という蛋
休めて生理をとめる薬(LH-RHアゴ
白がある」などが目安になります。抗
ニスト)を4週間もしくは12週間に1
がん剤はおもに3週に1回点滴しま
回、お腹の皮下脂肪に注射します。閉
す。どの抗がん剤を使うかは再発する
経後の方は卵巣からは女性ホルモンは
危険性、患者さんの体の状態や希望と
ほとんど出ませんが、副腎からでるア
相談して決定します。抗がん剤の治療
ンドロゲンというホルモンを脂肪組織
は3ヶ月〜約半年かかります。
からでるアロマターゼという酵素が女
主な副作用は脱毛・吐き気・骨髄抑
性ホルモンに変化させます。このアロ
制(免疫力の低下)などがあります。
マターゼを抑える薬(アロマターゼ阻
脱毛は抗がん剤開始から約2週間ぐら
害剤)
、または抗エストロゲン剤を5
いで始まり、体中の毛が抜けます。た
年間内服します。最近は10年間内服し
だし、すべての抗がん剤が脱毛するわ
た方が良いというデータも出てきてお
けではありません。そして、抗がん剤
り、内服期間が変更となる可能性があ
の治療を終了すると、髪質が変化する
ります。
ことはありますが、また生えてくるこ
副作用は抗がん剤に比べると軽いの
とがほとんどです。吐き気については
ですが、更年期症状に似た、ほてり・
個人差があります。抗がん剤投与前に
発汗・けだるさが出ることがあります。
アレルギー防止や吐き気止めのお薬を
また特にアロマターゼ阻害剤を内服し
点滴し、点滴終了後も数日間、吐き気
た時は骨粗しょう症・関節が痛くなる
止めを内服していただきます。抗がん
ことがあります。
剤の種類によっては吐き気が出ないも
③手術後の抗がん剤治療
のもあります。最近は効果の高い吐き
再発の危険性が比較的高いと考えら
気止めが開発されており、以前に比べ
れる場合、またはホルモン療法の適応
かなり抑えることが可能になりまし
がない場合に行います。具体的には
た。骨髄抑制は点滴後1週間から2週
「リンパ節転移がある」「がん細胞の顔
間後に起こります。抗がん剤治療によ
つきが悪い」
「ホルモン剤が効かない
り細菌・ウイルスと戦うための白血球
9
乳がん
が減り、感染に対する抵抗力が落ちま
がこれ以上進行しないようにするこ
す。抗がん剤治療中は十分な栄養をと
と、転移によって出る痛みなどの症状
り、風邪を引かないような工夫が必要
を和らげ、なるべく日常生活を支障な
です。
く送ることができるようにすることが
④手術後のハーセプチン治療
治療の目標となります。治療にあたっ
がん細胞の表面にHER2(ハーツー)
ては治療効果と副作用のバランス、そ
という蛋白が見られる方が対象です。
して何よりも患者さん自身のご意見が
ハーセプチンはこのHER2からの増殖
重要です。日ごろから担当医とよくコ
信号を抑える、
新しいタイプのお薬(分
ミュニケーションをとり信頼関係を築
子標的治療薬)です。3週間に1回の
くことが非常に大切です。
点滴を1年間続けます。副作用はホル
モン剤・抗がん剤と比べ軽いですが、
初めての治療のときに発熱・血圧低下
放 射線治療
が見られる場合があるのと、心臓の働
乳がん領域における放射線治療に
きを抑えることがあり、投与前・投与
は、大きく分けて下記の3つの目的が
中に心臓の状態を定期的に調べる必要
あります。
があります。
①乳房温存手術後の、温存した乳房
への放射線治療
再発に対するお薬の治療
手術を行った後にしばらくしてか
ら、体の中に残ったがん細胞が徐々に
増え、再発という形で現れることがあ
②進行乳がんに対する乳房切除後
の、放射線治療
③転移、再発乳がんに対する放射線
治療
ります。がん細胞は全身に広がってい
ると考えますので、原則として全身治
九州大学病院には、これらの治療に
療すなわちお薬の治療を行います。薬
対応できる施設基準を満たした放射線
の治療は、がんの広がりや乳がんの性
治療装置と、放射線治療専門医が在籍
質に応じて選択されます。がんが乳房
しており、外科での手術療法、化学療
以外の臓器に転移している場合には病
法と併せて、集学的な治療を受けるこ
気を完全に治すことは困難です。がん
とができます。最初に、上記の3つの
10
Breast Cancer
治療目的について説明し、最後に放射
総線量50グレイ(グレイとは放射線量
線治療に伴う副作用について説明しま
の単位)を25回(平日5日間、合計5
す。
週間)にわけ、1回線量2グレイ照射
します。1回の照射時間は1分程度で
①乳房温存手術後の放射線治療につ
いて
通院の時間以外は通常の生活が可能で
す。毎日照射することでがん細胞が次
現在では、腫瘍の大きさが3cm以
第に少なくなっていき、途中に長期の
下の乳癌においては、積極的に乳房温
休みを入れると放射線治療の効果が薄
存療法(乳房と乳頭を残して乳がんを
れます。数日程度の休みは問題ありま
切り取る手術)が試みられています。
せん。
また乳房温存手術においては手術後の
さらに、病理診断結果の所見によっ
放射線治療により乳房内の再発が約1
ては、切除前に乳がん病巣があった場
/3に減少することが証明されていま
所に追加照射(ブースト照射)を行う
す。現在までに乳房温存手術後に放射
場合があります。ブースト照射では、
線治療を省略してもよい条件ははっき
1回線量2グレイで追加線量は10グレ
りとわかっておらず、放射線を当てる
イを照射します。
側の腕が上げられない、妊娠中や膠原
病にかかっている、既に同側の乳房に
②進行乳がんに対する乳房切除後の
術後放射線治療
放射線を当てたことがある、等の特殊
近年になり、乳房切除術(乳房を全
な事情がある場合を除き、原則として
て切除してしまう手術)の後でも、胸
乳房温存手術を受けられた患者さん全
壁やリンパ節などから再発の危険性が
員に、温存した乳房への術後放射線治
高い場合は、抗がん剤やホルモン療法
療をお勧めしています。
に加えて、術後に放射線治療を行った
具体的な治療手順としては、手術終
方がよいということがわかりました。
了後、手術創が治癒し、摘出標本の病
具体的には、再発の危険性が高いと
理診断結果が判明した後(術後補助化
される、わきのリンパ節の4個以上転
学療法が必要な場合は化学療法終了
移があった患者さんや、腫瘍が大き
後)
、放射線科を受診し、治療計画を立
かった(5cm以上)の患者さんでは、
てます。通常は温存した乳房全体に、
抗がん剤やホルモン療法の他に放射線
11
乳がん
治療を行うことで再発のリスクを下げ
ることができます。
治療は、手術終了後、手術創が治癒
ます。
骨転移に対しては、ホルモン療法、
抗がん剤治療などの全身療法に加え、
し、摘出標本の病理診断結果が判明し
骨 病 変 治 療 薬(ゾ レ ド ロ ン 酸、抗
た後(術後補助化学療法が必要な場合
RANKL抗体など)による治療を行い
は化学療法終了後)
、放射線科を受診
ます。さらに大腿骨頚部、腰椎、胸椎、
して頂き、治療計画を立てます。腫瘍
骨盤などに体重が加わる部位に溶骨性
があった側の胸壁と鎖骨上窩に総線量
転移(骨が溶けて弱くなり骨折の危険
50グレイ
(グレイとは放射線量の単位)
性がある)がある場合や、痛みの伴う
を25回(平日5日間、合計5週間)に
骨転移の場合は、放射線治療が有効で
わけ、1回線量2グレイ照射します。
す。治療は病巣の状況に合わせて総線
1回の照射時間は1分程度で通院の時
量20〜37.5グレイを5〜15回に分割し
間以外は通常の生活が可能です。
て照射します。
③転移、再発乳がんに対する放射線
治療
局所再発(胸壁、リンパ節)に対し
ては、全てを摘出可能であれば手術療
乳がんの脳転移、骨転移、局所再発
法も選択肢に上がりますが、不可能な
(胸壁、リンパ節)に対して、放射線治
場合はホルモン療法、抗がん剤治療な
療を行う場合があります。
どの全身療法に加え、再発した病巣部
脳転移に対しては2つの放射線のか
分に集学的治療の一環として放射線治
け方があり、
1つは全脳照射といって、
療を行うこともあります。病巣の状況
脳全体に放射線をあてる方法、もう一
に 合 わ せ て 総 線 量 40〜50 グ レ イ を
つは定位照射といって、病巣のみに放
20〜25回に分割して照射します。
射線をあてる方法です。治療には通常
の放射線治療装置に加え、ガンマナイ
フと呼ばれる装置を使います。
最後に照射線治療に伴う副作用につ
いて述べます。
全脳照射の場合、病巣の状況に合わ
乳がん手術後の乳房や、胸壁に行う
せて1回線量2〜3グレイを10〜15回
照射線治療に伴う副作用としては、皮
照射します。また定位照射(ガンマナ
膚炎、倦怠感、放射性肺炎などがあり
イフ)の場合は通常1回の照射で済み
ます。皮膚炎はほとんどの患者さんで
12
Breast Cancer
照射した部位に限られて見られます
of the Breast(14版)、2009
が、重篤なものではありません。その
他、頭髪の脱毛や吐き気、めまい等は
なく、白血球減少もほとんど起こりま
臨 床研究・治験
せん。かつては心臓に放射線があたっ
臨床研究(臨床試験)とは、新しい
てしまうことにより心筋梗塞などの病
薬剤もしくは治療法の開発のために、
気が心配されましたが、現在では放射
患者さんや健常な人に対して試験的に
線治療の技術が高まりほとんど問題に
治療を行う研究のことです。現在使用
なりません。
されている多くの薬剤や治療法、診断
脳転移に対する全脳照射の場合は、
や治療に用いる機器なども、国内およ
だるさ、むかつき、食欲不振、頭痛等
び海外での臨床研究によって有効性が
の副作用が生じる場合もあります。し
認められて導入され、さらに改善され
かし照射が終われば副作用もほとんど
進歩してきました。現在の治療は、こ
消失します。照射により頭髪は抜け、
れまでに行われた臨床研究の上に築か
生えそろうまでに数ヶ月かかります。
れたといっても過言ではありません。
臨床研究の目的は、新しい薬剤や治
参考書
療法の安全性や効果を評価することで
5.日本乳癌学会/編:乳癌診療ガ
す。しかし、
「臨床」研究の対象はヒト
イドライン1治療編2011年版、金
であるため、倫理性を確保することが
原出版株式会社、2011
もっとも重要です。そのため、臨床研
6.日本乳癌学会/編:患者さんの
究には「科学的に妥当な方法」で質の
ための乳がん診療ガイドライン
管理と保証を行うことが必要とされて
2012 年 版、金 原 出 版 株 式 会 社、
います(1)。さらに、ヒトは個人の違い
2012
(個体差)が大きく、評価を困難にして
7.標準的な乳房温存療法の実施要
いることが少なくありませんが、こう
項の研究班/編:患者さんのため
した複雑な状況を克服するために、科
の乳房温存療法ガイドライン、金
学的な尺度を用いて評価する方法が
原出版株式会社、2005
8.Jay R. Harris
他:Diseases
「臨床研究」です。治療の対象となる
患者さんとその治療法を選び、必要と
13
乳がん
されるデータの選定とその記録・表現
を閲覧することができます。
の方法、集められたデータの解析を工
また、2008年に厚生労働省が新たに
夫し、多くの人にわかりやすく表現す
設けた「先進医療」の「高度医療評価
る必要があります。したがって、あら
制度」により、一定の条件下で未承認
かじめ入念に準備され吟味された研究
薬や適応外薬を用いた医師(研究者)
の「デザイン」がとても大切です。
主導型臨床研究を保険診療下で実施で
臨床研究には、医師(研究者)が中
きるようになっています。これらの研
心となって行う医師(研究者)主導型
究内容や、参加している医療機関の一
研究と、新薬の申請を目的として製薬
覧を厚生労働省のwebサイトで閲覧
会社が中心となって行う製薬会社主導
することができます。
型研究(治験)とがあります。それぞ
さまざまな施設やグループで議論さ
れ研究の段階に応じて大きく3つの段
れたプロトコールが各施設の倫理審査
階(相あるいはフェーズ)があり、第
委員会での承認を受け、研究への参加
1相、第2相、第3相と進みます。第
が可能となります。研究の対象となる
1相では、少数を対象として主に毒性
患者さんに、医師や研究コーディネー
の評価を行い、至適用量や投与スケ
ターから参加することのメリットやデ
ジュールを検討します。第2相では、
メリットが十分に説明され、患者さん
より対象人数を増やし安全性と有効性
の自由意志に基づく選択が可能となり
の評価を行います。第3相では、さら
ます。研究結果はデータマネージャー
に対象人数を増やしそれまでの標準治
が収集して管理し、専門の統計家が解
療との比較が行われます。乳がん領域
析を行います。このように、臨床研究
における臨床研究グループには、全国
では患者さんを多くの関係者で支えま
規模のJCOG、CSPOR、JBCRG、
す。そのため、多くの人材と資金を必
WCOG、九州を中心としたKBC-SG
要とします。現在、国は医療機関と連
などがあり、さまざまな臨床研究が進
携して臨床研究を推進すべく環境の整
行・計画中です。現在国内で行われて
備を進めていますが、臨床研究の実施
いる臨床研究(医師主導型臨床研究と
には医療資源の投入だけではなく患者
治験の一部)に関して、がん情報サー
さんの善意の協力が必要不可欠である
(2)
ビス「がんの臨床試験一覧」
14
で情報
ことはいうまでもありません。前世代
Breast Cancer
から受け継いだものを発展させて次世
代への贈る、そんな「思い」が必要と
されているのかもしれません。
⑴
helsinki08_j.html
⑵ 国立がん研究センター
報サービス
がん情
http://ganjoho.jp
ヘルシンキ宣言
http: //www.med.or.jp/wma/
15
甲状腺がん
悪くなると声がかれることもありま
は じめに
す。
甲状腺は頸部の正中下方で、喉頭・
ここに発生するがんは一般に4種類
気管の前面を取り囲むように位置する
のものに分けられ、それぞれに特徴が
器官です。蝶のような形をしており、
あります。なかでも、分化がんと呼ば
全身の細胞の機能・代謝を調節する甲
れる乳頭がんと濾胞がんが大部分を占
状腺ホルモンを分泌します。
めます。これらのがんは、一般に腫瘍
甲状腺がんは初期の症状はほとんど
の増大は穏やかで中高年の女性に多い
ありませんが、咽喉頭異常感症のため
(男性の3〜4倍)とされています。10
精査を進めた時に偶然発見されること
年生存率も90%以上との報告が多く、
があります。しかし、実際には、発見
全身に発生する他のがんと比較して予
されたきっかけは甲状腺のしこりや、
後の良いがんの一つと考えられます。
転移リンパ節がしこりとして触れたも
このほかには、髄様がん、未分化が
のが多いようです。また、甲状腺のす
んがあります。髄様がんには遺伝性の
ぐ後ろには反回神経という声帯の運動
ものとそうでないもの(弧発性)があ
に関わる神経が存在しているため、が
ります。未分化がんは全体の1%以下
んがこの神経を巻き込み神経の働きが
と数は少ないものの、急激な増大、転
分化がん
移をきたすことが多く、最も悪性度が
髄様
がん
未分化がん
1.4%
1.6%
腫瘍の
一定
穏やか 穏やか
増大
しない
急速
頚部リ
ンパ
節転移
多い
乳頭
がん
頻度*
治療
その他
ろ ほう
濾胞
がん
85.7% 11.3%
多い
少ない
多い
外科的治療
16
このように、性質の違うがんが発生
する可能性がありますので、どのタイ
プのがんであるかを診断することが重
要です。その結果によって、治療方針
が変わってきます。
集学的治療
血行性 家族性 分化がんの
転移が に発生 一部が未分
するこ 化転化する
多い
とがあ ことがある
る
*甲状腺外科学会の統計(2001年)による
高く予後が悪いがんです。
診断
超音波検査
エコー検査とも呼ばれています。超
Thyroid Cancer
音波を用いて、内臓の様子を観察する
の場合は、良性と悪性の鑑別が難しい
検査方法です。甲状腺癌においては、
ことがあります。
甲状腺内の腫瘍の有無や周辺のリンパ
節への転移を観察します。体に害のな
血液検査
い検査なので、比較的頻繁に用いられ
甲状腺ホルモンや脳下垂体から分泌
ます。検査を担当する人の経験や技量
される甲状腺刺激ホルモンなどが測定
に左右されることがありますが、非常
されることがありますが、甲状腺癌で
に有用な検査であると考えられます。
は一般に正常範囲です。また、サイロ
グロブリンと呼ばれるたんぱく質も測
CTスキャン
定します。この物質は、甲状腺ホルモ
レントゲンを用いて、人体の輪切り
ンの合成に関わる蛋白質ですが、甲状
像を見る検査です。甲状腺癌において
腺の腫瘍がサイログロブリンを産生す
は、甲状腺の腫瘍の有無やリンパ節へ
る時、甲状腺刺激ホルモンで甲状腺が
の転移を観察します。造影剤を用いな
刺激された時、及び炎症や腫瘍によっ
い「単純CT」と造影剤を静脈注射しな
て甲状腺組織が破壊された時などに血
がら撮影する「造影CT」があります。
中濃度が上昇します。したがって、サ
通常、1回の検査で両方の撮影を行い
イログロブリンが上昇していても甲状
ます。造影剤を用いることにより、腫
腺癌であるとは言えませんが、根治手
瘍の存在がより明確になります。
術後に数値が上昇してきた時は、再発
の可能性があります。しかし、この他
穿刺吸引細胞診
の要因でも変動することがあります。
甲状腺に細い針を刺し、細胞を採取
します。腫瘍の細胞を直接検査できる
核医学検査
ため、この検査で癌細胞が検出されれ
放射性同位元素を用いて、甲状腺の
ば、100%に近い確率で癌と診断され
形態、機能を検査します。癌の診断に
ます。ただし、癌細胞が検出されない
は、ヨウ素、タリウム、ガリウムなど
場合に、癌を否定できるわけではあり
が用いられます。九州大学病院では
ません。腫瘍の細胞が取れていない可
SPECT と CT の 撮 像 を 同 時 に 行 う
能性があるからです。また、濾胞腫瘍
SPECT/CT装置を4台備えており、
17
甲状腺がん
SPECT単独に比べてより正確な診断
場合、外科切除以外の化学療法や放射
を得ることができます。また、2台の
線治療の効果があまり期待できないた
PET/CT装置も完備しており、甲状腺
め周囲臓器(頸部血管、気管、食道等)
がんの再発や治療効果予測などに役立
への浸潤を伴う進行症例に対しても浸
てています。
潤部位の合併切除を積極的に行い、完
全切除となるように努めています。
外 科的治療
治療手術による腫瘍摘出が治療の第
一選択です。悪性腫瘍の場合には頸部
内 科的治療
最近、甲状腺分化癌に対してソラ
郭清術を同時に行うこともあります。
フェニブ、甲状腺癌(分化癌・未分化
症例の大半を占める乳頭癌や濾胞癌
癌含む)に対してレンバチニブが開発
は、第一に手術です。一方、未分化癌
されました。いずれも腫瘍が増殖する
は、手術を中心として放射線治療や化
ために必要な血管新生に働く「血管内
学療法を組み合わせた治療が計画され
皮増殖因子受容体」を阻害する分子標
ますが、進行が速いため現実には治療
的薬となります。プラセボ(偽薬)と
をすることさえ困難な場合もありま
比べて、無増悪生存期間(癌が悪化し
す。乳頭癌、濾胞癌患者さんで術前の
ない時間)を伸ばすことが証明されま
精査でリンパ節腫脹のないものに対し
した。
ては甲状腺亜全摘術または甲状腺半切
基本的には薬のみで根治させること
除術と気管周囲リンパ節郭清術を行い
は困難で、手術が不可能であったり、
ます。術前の精査で側頸部リンパ節腫
ヨード治療の効果がなかったりする症
脹のある患者さんにおいては側頸部リ
例への適応となります。
ンパ節郭清術を行っています。髄様癌
に対しては全例甲状腺全摘術と腫瘍側
頸部リンパ節郭清術を施行していま
す。未分化癌、悪性リンパ腫について
放 射線治療(ヨウ素治療)
[しくみ]
は腫瘍の大きさや進行度を考慮して手
正常甲状腺は海藻などの食物に含ま
術適応を決定しています。甲状腺癌の
れるヨウ素を原料として甲状腺ホルモ
18
Thyroid Cancer
ンをつくっています。甲状腺から発生
者さんではタイロゲン(リコンビナン
する分化型甲状腺がん(乳頭がん、濾
トTSH)を使用してヨウ素治療を行う
胞がん)も正常甲状腺と同様にヨウ素
場合があります。その際は甲状腺ホル
を取り込む性質を持っています。そこ
モン剤の中止は不要ですので、放射線
で、放射線を出すヨウ素(放射性ヨウ
科担当医と良く相談してください。
131
Ⅰ)を飲んで胃や腸から吸収さ
入院後131 Ⅰの入ったカプセルを複
せ、がんに取り込ませると、がんの中
数個飲んでいただきます。飲むのは1
から放射線を照射して治療を行うこと
回のみで、後は吸収されてがんに取り
ができます。これが甲状腺がんに対す
込まれるのを待つだけです。ただし、
素、
る放射線治療のしくみです。
131
Ⅰか
131
Ⅰ はベータ線と同時にガンマ線も
ら放出される放射線のうち、治療に関
放出します。ガンマ線は体の外まで届
与するのはベータ線と呼ばれる種類の
くので、周囲の人への放射線の影響を
ものです。ベータ線は体内では平均0.
避けるために特別につくられた個室に
6mmの距離しか届かず、その影響は
いていただきます。放射能は時間とと
がんの周囲しか及びません。したがっ
もに下がり、通常4日目以降は部屋の
て、体の外から放射線を当てる外照射
外に出ることが可能となります。九州
と異なり、がんに対してより強い放射
大学病院では北棟3階アイソトープ治
線を、より集中的、選択的、持続的に
療センターに6室のヨウ素治療用の部
照射することができます。
屋(トイレ付)を完備しています。
131
[治療の実際]
Ⅰカプセル服用約5日後にシン
チグラフィという検査を行い、がんに
131
Ⅰが
ヨウ素が集まっていることを確認しま
甲状腺組織に集まりがん病巣に取り込
す。超音波検査やCT検査などの各種
まれにくくなるため、原則甲状腺を全
検査も行い、入院期間は通常10日間前
摘している患者さんが対象となりま
後となります。治療はがんへのヨウ素
131
の取り込みが消えるまで、約1年間隔
正常甲状腺が残っていると
す。また、がんに
Ⅰを効率よく取り
込ませるため、入院前1か月間の甲状
で行われます。
腺ホルモン剤中止と2週間のヨウ素摂
九州大学病院では、1984年度からヨ
取制限を行います。ただし、一部の患
ウ素治療を施行しています。のべ患者
19
甲状腺がん
と次第に改善します。もうひとつは、
数は近年増加傾向です(図)。
比較的高いレベルの放射線を浴びるこ
(患者数)
140
とによって起きるもので、嘔気などの
120
放射線宿酔、首のまわり(唾液腺)の
100
80
腫脹や痛み、味覚障害や唾液分泌障害
60
などです。ほとんどが一時的なもので
40
20
すが、ヨウ素治療を何度も繰り返した
12
年
11
年
20
10
年
20
09
年
20
08
年
20
07
年
20
06
年
20
05
年
20
04
年
20
20
20
03
年
0
患者さんでは味覚障害や唾液分泌障害
が残る場合もあります。この治療によ
[副作用そのほか]
大きく2種類の副作用が知られてい
り脱毛が起きることはありません。胎
児への影響から妊婦や妊娠の可能性の
ます。ひとつは甲状腺ホルモン剤を中
ある女性にはこの治療を行えません。
止することによって生じる甲状腺機能
また、授乳中の女性は断乳していただ
低下症状です。倦怠感、むくみ、体重
かなければなりません。しかし、この
増加、体温低下などの症状が出現しま
治療が原因で不妊が生じることはあり
すが、治療後にホルモン剤を再開する
ません。
20
MEMO
九州大学病院がんセンター
21
MEMO
九州大学病院がんセンター
22
MEMO
九州大学病院がんセンター
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24
2016年3月
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