BRICs生みの親 ~ジム・オニールの視点

情報提供資料 2010年11月
GSAM会長
ジム・オニールの視点
G20 後の事実
今週、いろいろな人と話しをしていて人々は(もしかすると私も含めて)果たして世界経済とグローバル市場を
本当に理解しているのかわからなくなりました。別な言い方をすると、なぜ、こと中国に関係することとなると、
十分に知識のある多くの人々のあいだでこれほどまでに意見が分かれてしまうのでしょうか。
例を 2 つ挙げてみましょう。木曜日に、私は BBC の番組 Today にゲストとして招かれ、そこで G20、中国の政
策や通貨、およびその他の問題について意見を述べました。私の前に話をした BBC の経済記者は、ソウルに集
まった首脳たちの間に漂っていたかなり陰鬱な雰囲気について説明しました。次に私が話す番になって、基本的
にその番組のコーナーで耳にしたことにはほとんど同意しないと述べました。急いで BBC の経済記者は立派な
方だと思います、と付け加えましたが。同日遅くに社内の電話会議で、再び中国の通貨の話題になりました。そ
こで、私が人民元は過去 5 年間にかなり上昇したと言ったところ驚き、私のことを中国の宣伝マシンと勘違いし
た人もいたようです。
私の知る限り、またゴールドマン・サックスの経済調査部の元同僚たちにも確認しましたが、中国が 2005 年夏
に人民元の固定相場制を廃止してから、人民元の対米ドル・レートは 20 パーセント上昇しました。名目貿易加
重ベースではおよそ 14 パーセントです。インフレ調整済みの実質貿易加重為替レートは過去 5 年間で昨日現在、
19.5 パーセント近くまで上昇しました。どう考えてみても、これはかなり大幅な変動です。
「通貨戦争」を言い立てる人々の話や盛り上がっている話を聞いていると、中国は自国の通貨を一切変動させて
こなかったのかと思ってしまいます。
通貨戦争とは何か
率直に言って、私には何のことだかさっぱりわかりません。しかし、この言葉はいとも簡単に飛び交っているの
です。
フリー百科事典のウィキペディアによると、戦争とは「極端な攻撃性、社会的混乱と適合、多数の死者に代表さ
れる組織的な武力衝突の現象」と定義されます。この前に通貨という言葉を付け加えると、この表現が不用意に
使われていることについていささか違和感を覚える人もいるのではないかと思います。少なくともそう思いたい
です。
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数週間前のことですが、米国当局が実際に人民元買いの直接介入を検討することは可能だと思うかどうか、米国
のある元政策立案者に尋ねてみました。私は口には出しませんでしたが、もし答えが「イエス」なら、通貨戦争
と言われているような事態に近づく可能性もあるのではないかと思っていました。しかし、即座に「ノー」とい
う答えが返ってきました。
通貨に関するこのような議論は、歴史が作られていくのを目の当たりにしている中で起こっているのです。65
億人以上の世界人口のうち中国やインドを中心に非常に多くの人々が、比較的短い期間に真の貧困から抜け出し
つつあります。ウィキペディアの戦争の定義を考えると、どうしてこのようなことを不用意に口にすることがで
きるのでしょうか。
じっくり考えていただきたい私見を挙げてみました。
1.
前述のとおり、人民元は過去 5 年の間にインフレ調整済みで 20 パーセント近く上昇しています。
2.
人民元の名目対米ドル・レートも約 20 パーセント上昇しています。
3.
この上昇の一部は比較的最近のことです。今年夏以来、対米ドルで 2~3 パーセント上昇しています。
4.
年初来 10 カ月間の中国の貿易黒字は GDP 比約 3.2 パーセントです。ピーク時からは半分以下、実際には 3
分の 1 以下に減少しています。
5.
同じく、経常黒字も現在は GDP 比 5 パーセント程度と危機前のピーク時からほぼ半減しています。
6.
中国の今年の輸入は年率で前年比 4,000 億米ドル増に近づいています。私がよく言うように、これはギリシ
ャ経済より大きな規模です。
7.
このような改善が単に景気循環要因によるものかどうかはまだわかりませんが、構造的な改善の可能性もあ
ります。
8.
これが景気循環要因による改善にすぎない場合、中国はこれを構造的な改善にするための対策(現在の計画
以上に大幅な為替レートの切り上げなど)を断行することが予想されます。
9.
上記 7 と 8 の 2 点に関連し、中国は G20 にかかわりなく、経常黒字を GDP 比 4 パーセント未満に減少させ
ることをコミットしたのではないかと推測されます。
10. 中国当局は今年、長い間計画していたとおり人民元を 5 パーセント切り上げ(そのうち半分は実施済み)
、
2011 年にはさらに 5 パーセント程度切り上げることをおそらく検討しているはずです。
11. G20 首脳会議で多くの成果を期待していたコメンテーターはいささか認識が甘いのではないでしょうか。重
大事となった「G」会議は 1985 年のプラザ合意が最も有名ですが、歴史的にもごくわずかです。そういう
ことが何度も起こると期待するのは非現実的でしょう。
12. いずれにしても、多くの場合、
「G」首脳会議では、一般的に事前に開催される財務相会議から経済問題をそ
のまま持ってくることが慣習になっています。各国財務相はその考えを 2 週間前に明らかにしているのです。
13. 今度はフランスが G20 議長国になるので、国際通貨制度の改革についてさまざまな案が示される見通しで
す。
14. SDR(特別引出権)が IMF の計算単位としての主な目的以外で果たすことのできる役割について議論が進む
ことは大いにありえます。特に、世界の首脳や IMF が新たな現代世界を代表することを本当に考えているの
であれば、全面的に交換可能になるのを待たずに、人民元を SDR の構成通貨の 1 つにすべきでしょう。
15. 変動通貨であることや使用制限がないことは SDR の構成通貨になるための条件ではありません。SDR が導
入された当初は、多くの通貨で資本規制が行われていました。
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16. 人民元を SDR に含めることにより、中国は人民元の使用開放をますます進めていくものと思われます。香
港の誰もが証言するように、これは非常に楽しみなことです。
17. 人民元が大幅に過小評価されているということはもはや明白ではありません。実際、ゴールドマン・サック
スの経済調査部の評価モデルは、人民元が過小評価されていることを示していません。
18. 「人民元過小評価信者」の唯一の論点は、中国の外貨準備の水準と伸び率です。しかし、中国に投資を行い、
同時に通貨投機の方法も見つけようとしている人が多いため、ここでも、中国の「基礎」収支は経常収支を
上回っていることを認識する必要があります。
19. 最後になりますが、私は、ほかの一部の先進諸国が享受している「輸出国」にまもなく米国も仲間入りする
のではないかという予感がしています。その大きな要因が中国とその他の BRICs 諸国です。
中国に関する記事に注意しながら、楽しい週末をお過ごしください。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:11 月 13 日)
本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
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クス経済調査部(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・
部門の視点を反映するものではありません。本資料はゴールドマン・サックス経済調査部が発行したものではあ
りません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ
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