無料低額診療事業について 社会福祉法人・無料低額診療事業とは 歴史的背景 基準と運用 課題 生活困窮者支援事業 「無料低額診療事業と MSW の役割り」 済生会泉尾病院 医療福祉課 課長補佐 町原 誠治 「無料低額診療事業」について、歴史的背景、 基準と運用、課題、生活困窮者支援事業につ いて説明する。 社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難 無料低額診療事業施設とは? 者のために無料又は低額な料金で診療を行う 社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者の ために無料又は低額な料金で診療を行う事業 事業。生計困難者が経済的理由で必要な医療 言い換えれば・・・・・ を受ける機会を制限されることのないように 生計困難者が経済的理由で必要な医療を受ける 機会を制限されることのないように無料又は低額 な料金で診療を行う事業 *対象者の「自立・助長」が目的 無料又は低額な料金で診療を行う事業であ る。 左記のような歴史的背景をもつ。 無料低額診療事業の歴史的背景 事業の指定機関となれば、固定資産税等が非 1945年(S20) 1946年(S21) 1947年(S22) 1950年(S25) 1951年(S26) 1957年(S32) 1974年(S49) 1989年(H1) 2000年(H12) 2001年(H13) 終戦 GHQ指令「公的扶助に関する覚書」 ⇒*医療保護法、救護法廃止 「日本国憲法」制定 「生活保護法」制定 「社会福祉事業法」制定 ⇒*第1種、第2種(無料低額診療事業) 社会福祉事業としての位置づけ 無料低額診療事業基準制定 無料低額診療事業の『新基準(10基準) 』制定 無料低額診療事業廃止論→見直し 社会福祉基礎構造改革「社会福祉法」制定 無料低額診療事業基準改正 課税となる。 「無料低額診療事業」の基準と運用 無料低額診療には10の基準と運用がある。 【基準】 「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難 者のために無料または低額な料金で診療を行 う事業について」 また、年度ごとに運用の各々を紹介し課題を 検証する行政監査がある。 平成13年7月23日厚生労働省社会・援護局長通知 ○基準1~4 ⇒ 必須項目 ○基準5~10 ⇒ 選択項目 ※病院は2項目以上 診療所は7・8のいずれか に該当すること 済生会のMSWの役割 済生会のMSW(医療ソーシャルワーカー: Medical Social Worker)は、一般的なMS 社会福祉の立場から患者の抱える経済的、心理的、 社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進 Wの業に加え、無低事業への業務の参画も担 を図る( 「医療ソーシャルワーカー業務指針」 )ことに加えて、 『生計困難者の医療へのアクセス窓口』としての役割 う。 がある。 ※診療 費を減免することが役割ではない。 左記は基準1~基準3の説明。 基準① 低所得者、要保護者、行旅病人、浮浪者等の生活 困難者を対象とする診療費の減免方法を定めて、こ れを明示すること。 基準2が診療費の減免についての規定であ る。 基準② 生活保護法による保護を受けている者及び診療費の10%以上 の減免を受けた者の延数が取扱い患者の総延数の10%以上 であること。 基準③ 医療上、生活上の相談に応ずるために医療ソーシャルワー カーを置き、且つ、そのために必要な設備を備えること。 基準3は日本史上初めてMSWの設置を義務 付けた法表記である。 左記は基準4~基準7の説明である。 基準④ 生活保護による保護を受けている者その他の生計困難者を対 象として定期的に無料の健康相談、保健教育等を行なうこと。 基準⑤ 老人、心身障害者、その他の特別な介護を要する特殊疾患患 者等を常時相当数収容する体制を整えること。 基準⑥ 生活保護法による保護を受けている者、その他の生活困難者 のうちで日常生活上特に介護を必要とする者のために常時相 当数の介護者を確保する体制を備え、かつそのために 必要 な費用を負担すること。 基準⑦ 当該診療施設を経営する法人が特別養護老人ホーム、身体障害 者療護施設、肢体不自由者更生施設、重症心身障害児施設 等の施設をあわせて経営していること、又は当該診療施設が これらの施設と密接な連携を保持して運営されていること。 各々の基準について、内翰(ないかん)とい う運用上の解釈が定められている。 左記は基準8~基準10の説明である。 基準⑧ 夜間又は休日等通常の診療時間外においても一定期間、外 来診療体制がとられていること。 基準⑨ 済生会では基準9に「済生丸」という瀬戸内 海離島の巡回船が代表例としてある。 地区の衛生当局等との密接な連携のもとに定期的に 離島 、へき地、無医地区等に診療班を派遣すること。 基準⑩ 特別養護老人ホーム、身体障害者療護施設、肢体不自由者更 生施設、重症心身障害児施設等の施設の職員を対象として 定期的に保健医療に関する研修を実施すること。 昭和62年に事業の抑制論が生じた。 昭和62年無料低額診療事業の 抑制 • 各種医療保障制度の整備等の社会情勢 の変化に伴ない、その必要性が薄らぐ • 新規開設は認めない • 既存病院の規模の拡充は認めない • 無料低額診療事業の基準を厳格に遵守さ せ、場合によっては医療法人等への切り 替えを強く指導する 左記はその経緯の概略である。 1989年(平成元年) 6月 福祉医療制度存続全国緊急大会開催 福祉医療制度存続に関する要望書 以後全国福祉医療セミナー(現全国大会)開催 抑制論に対し、存続の必要性を訴える様々な 働きが生まれた。 左記はその経緯の概略である。 • 1990年(平成2年) 福祉八法改正 無料低額診療施設は、存続 基準等の変更はなし • 1992年(平成4) 全国福祉医療施設協議会 設立 左記は、上記の流れを受けて、無低事業の必 無料低額診療事業施設に関する通知等 要性と期待を併せた行政からの通知などであ 1995年(H7) 「外国人に係る医療に関する懇談会報告書」 1998年(H10) 「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」 2000年(H12) 「ホームレスの自立支援方策について」 ⇒無料低額診療施設の積極的活用を図る 必要がある。 2000年(H12)「社会的援護を要する人々に対する社会福祉 のあり方に関する検討会報告書」 2001年(H13)「 済生会第三次基本問題委員会」 2004年(H17) 「人身取引対策行動計画」 2005年(H18) 「社会福祉法第2条第3項に規定する生活困難者の ための無料又は低額な料金で診療を行う事業に おける人身取引被害者等の取扱について」 る。 社会の流れを踏まえ、無低事業は様々な系譜 福祉医療・無料低額診療事業とは • 歴史を振り返ってみると、 慈善的な取り組みとして始まり、 その理念を継承しつつ今に至って いる。 ・・・といえる。 をたどる。 少しずつではあるが、大阪において無低事業 大阪の無料低額診療施設 病院 診療所 計 市内 13 4 17 市外 11 9 20 の指定をとる医療機関は増加している。 計 24 13 37 平成23年11月1日現在 その傾向は全国的にも増加している。 全国の福祉医療施設数の変化 左記にあるように、増加したのは平成20年 2008(平成20)年10月7日 政府答弁書 • 無低事業を「低所得者等に対する必要な医 療を確保する上で重要」と、事業の重要性を 認める答弁書を閣議決定した。答弁書では、 事業の抑制を打ち出した2001年の通知につ いて「届出の不受理を求めるものではない」と 明記。基準を満たした医療機関から届け出が あれば「いずれも受理されるべきもの」とした。 の政府からの答弁が理由の一つと考えられ る。 最近の無低施設の推移 増加している内容をみると、比較的診療所の 増加が顕著である。 無料低額診療事業の課題 ○平成13年(昭和49年)の基準での運用 ⇒・その間の医療制度の変化・診療報酬改訂により、制度と現場 が乖離(「基準にない」「対象患者としてカウントできない」患者への 対応の問題…質や評価の問題) ○全額施設負担による事業展開 ⇒・元々制度にとらわれない柔軟な対応が可能 であった ○生活困窮者支援事業とは? ⇒ゆとりのなさ対象者を幅広くとらえ直して、ホームレス、スラム街 の居住者、刑務所からの出所者、DV被害者、在留外国人等の 生活困窮者全般を対象とする。 ⇒病院・施設において 対象者の来院・来所を待つだけでなく、関係 職員によるチームを編成して、巡回診療、訪問看護、無料健康相 談所の設置等、施設外に積極的に出て活動する。 ⇒対象者の把握、円滑な支援活動、対象者の状況に応じた適切 なアフターケアなどの観点から、地域における関係機関やボラン ティア団体、マスコミ等との連携を強化 左記は、無低事業の医療機関の課題の一部で ある。 済生会では、社会貢献の一端として生活困窮 者支援事業を全国的に展開している。 無低医療機関の連携が重要である。 無低の今後の方向性 • 無低の灯を紡ぎ 続ける意志の 共有 • 必要と し救われている人が一人 でも 存在する限り無低の意義は あり 済生会の救療済生の精神をこれからも紡ぎ続 ける必要がある。
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