早稲田大学 文化構想学部 世界史 講評

早稲田大学
文化構想学部
世界史
講評
〔総合分析〕
出題形式
マーク・記述併用
試験時間
60分
特徴・その他
例年通り一つのテーマにそった出題。全体が「世界史の中の学問・教育」をテーマとし
て構成されている。10年の「思想・宗教」と同系統のテーマである。09年は「戦争」
、
08年は「都市」
、07年は「人の移動」であった。昨年見られた年代に関する細かい出題
は消えて難易度は昨年に比べやや軟化。問題数は昨年の38問から42問と増加。
〔大問別講評〕
番号
出題内容
〔Ⅰ〕 オリエントの古代文字
コメント
難易度
ロゼッタ石とベヒストゥーン碑文に関する問題。楔
標準
型文字は昨年に続いての出題。ベヒストゥーンが
「ペルセポリスの北方」というのはやや不自然(西
方というべき)だが、解読者ローリンソンで確定で
きる。
〔Ⅱ〕 地中海世界の教育の場
空欄補充・語群選択問題ともに全て教科書レベル、
易
それも太字項目ばかりである。10年度の第2問は
「中世のキリスト教」だったが、本年度も似た設定
だった。
〔Ⅲ〕 アラブの学問
第3問にイスラーム関係というのも昨年と同じ。記
標準
述式は簡単だが、設問4の正誤判定はやや細かい。
イスラームの「固有の学問」(設問では「アラブの
学問」と表現)と「外来の学問」の判別は混同を起
こしやすい項目である。Cのウは「プラトン」が誤
り。
「アリストテレス」が正しい。
〔Ⅳ〕 科挙関係史
設問2の歴代王朝が古典解釈の基準とした学説と
標準
いう問には難点がある。問題文に「南宋」とあるか
ら「朱熹」しかありえないが、朱熹の学説が科挙に
採用されたのは元代で、「歴代」というにはふさわ
しくない。設問5のイの黎氏による簒奪は難しい
が、消去法で対処できる。設問6のエは「光緒新政」
でくくられる諸改革として把握できていれば難し
くない。
〔Ⅴ〕 東南アジア現代史
アンボイナ事件・スカルノ・ホセ=リサールは基本
中の基本。ただ設問4のフィリピン独立の1946年は
やや意外な出題である。設問5のベトナム現代史は
頻出項目。ウは「ベトナム共和国」ではなく「ベト
ナム国」が正しい。
標準
番号
出題内容
コメント
〔Ⅵ〕 19世紀西欧における歴史学の ヴォルテール・ヘーゲル・1793年はすべて定番項目。
展開
難易度
易
1793年は年号というより「1793年憲法」という固有
名詞である。設問5の正解「唯物史観」と紛らわし
い語句に「弁証法的唯物論」があるがこれは哲学の
認識論であって歴史観とは別物。
〔Ⅶ〕 実存哲学と核廃絶運動
問題文の文脈は出だしが実存哲学で途中から核廃
標準
絶とやや唐突。設問4のパグウッシュ会議は、2009
年秋のバラク=オバマ米大統領のノーベル平和賞
受賞に関係する時事問題としてだれもが注目して
いた分野のはず。設問5のイの世界貿易機関(WT
O)は国連の専門機関ではない。
〔Ⅷ〕 ルネサンス(図版)
昨年のⅧ番の北京の宗教建築に比べれば取り付き
標準
やすい分野のはず。設問1のブルネレスキは定番だ
(一部難)
が、マザッチョは難しい。ただ「三次元世界を再現」
という表現から「透視図法」を連想できれば人名は
関係なく正解できる。「アテネの学堂」の所在地も
難しい。ラファエロ=「聖母の画家」というレベル
では対処不能である。
〔総合コメント〕
今年はやや易化したが、一つのテーマにそった出題はすっかり定着し、さらに古代オリエントに始まる
前半のテーマ配列は昨年とよく似ている。過去問を丁寧にこなした受験生はほっとしたと思う。ここの
ところ続いていた地図問題の出題はなかった。地図は見にくいものが目立ったので地図が苦手の受験生
には今年は助かったに違いない。しかし、来年復活する可能性は高いので準備が肝要である。昨年の中
国の民族問題などのように時事問題と関連する出題が毎年見られ、今年は核廃絶がそれにあたる。2009
年秋のバラク=オバマ大統領のノーベル平和賞関連であることは明らかである。今後の世界情勢にもよ
るが、このまま行けばチュニジアやエジプトでの長期政権崩壊関連は要注意である。イスラーム世界の
政治潮流(パン=スラブ主義・アフガーニー等)とからめ徹底的におさえておくべきである。アフリカ
とここのところ出題真空地帯となっているのでそろそろまとまった出題が予想される。来年も一定のテ
ーマにそった出題と思われるが、テーマがどのようになるかは別として、設問の内容の大半は教科書レ
ベルに違いない。ひたすら幅広く、基礎的事項を徹底的にマークしておきたい。