香港 - 山梨総合研究所

アジアフォーラム21
ANNUAL REPORT
4.香港、中国華南・華東地域の経済産業動向について
山梨県立大学 国際政策学部
理事 波木井 昇
【はじめに】
今日は、9月にこの研究会として有志による香港、
中国華南・華東地域の調査を行ってきましたのでそ
のご報告をさせていただきます。私の方でスライド
を使いながら、全体的な報告をした後、他の参加者
の方々から感想をいただきたいと思います。私のほ
うからまず、写真等を使って報告をいたします。聞
いたり、見てきたことをそのまま申し上げたいと思
います。
【調査行程】
9 月 8 日から 12 日まで、調査地は、香港、中国広
東省の深圳、淅江省の杭州、そして杭州から、南西の方向に 160 キロくらい行った義烏
(イーウー)です。その義烏を視察し、上海を経由して帰ってきたというところです。
今回はサン宝石さんの小林社長から、義烏に巨大な屋内流通市場があるというお話があ
り、そこも今回の調査地として訪問しています。訪問先は、香港では山梨中央銀行の駐
在員事務所、そして大月精工が、深圳の北側の東莞にある長安という地区に工場があり、
廠というのは工場のことですが、その工場長さんに香港に来ていただいて少しお話を聞
いております。深圳では台湾にある信泰光学という非常に大きな光学機器メーカーの深
圳にある現地法人の工場を見学しました。それから飛行機で、浙江省の杭州に行き、甲
府商工会議所のご紹介で、神戸製鋼グループの建設機械会社コベルコ建機の杭州にある
現地法人の工場を見学しました。また、以前このアジア研究会で講師をいただいた、中
国人の先生の間接的なご紹介で中国人の方が経営している自動車用品メーカー工場を見
学してきました。それから、義烏では、サン宝石の工場、及びサン宝石が調達先として
利用している福田市場という日用品、雑貨の世界的な屋内卸売市場を見学してまいりま
した。
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【1.香港について】
まず香港です。近代的な街並みで、何年かぶりに行きましたが、非常に安定感を感じ
ました。高層住宅が建ち、海岸も少し行くとある、というところです。まず行った日に、
大月精工の東莞にある長安の工場長からお話をうかがいました。大月精工の長安工場は
97 年設立で翌年から操業を開始しており、従業員が 100 人です。今人件費が上がってい
て、10 年前の3倍くらいになっているということと、直近でも前年比 20 パーセントアッ
プということだそうです。大月精工は、精密な部品を、国内、それからアジアの拠点、
台湾、マレーシア、タイ、中国で、作っていて、海外の工場が自由に、その地域地域の
需要に合ったものを作っていると理解しています。この長安廠ではギアードモーターの
部品やデジカメ、HDD の中に組み込まれる精密な歯車といった部品を作っているという
ことで、大月精工の当面の関心事は、後でも話をしますが、広東省に出ている外国企業
で法人形態になっていない工場がかなりあって、そういう工場に対して、中国政府から
法人格として、会社の形にしてなるべく独資 100 パーセントの形にして、工場を運営し
てくださいという要請がきているようで、それがそういう形に変えるのを来年 6 月まで
にしてくださいとのことだそうです。戻ってきて、大月精工に帰国の挨拶も兼ねて行っ
たところ、長安の工場をどういうふうにするかということをいろいろ考えておられるよ
うです。ただ、地元の政府は全くそういうことを言ってきていないので、どういう風に
動いたらいいか考えあぐねているという状態です。あとでもう少し詳しく触れます。先
程の写真で、もうひとかた、大月精工が材料を仕入れている商社が香港にあって、その
商社をやっている日本の若い方も同席していました。その商社の立場から見ると、今年
から、中国と ASEAN の間の FTA が発効し、段々と関税が引き下がってきているという
中で、中国と ASEAN の貿易が増えてきていてこれからも増えていくだろうということ
を感じていると言っていました。
次に山梨中央銀行です。ビルの8階にあり、この写真は事務所から北側を見ています。
リーマンショックで景気が世界的に落ち込んで、今は回復途上にあると言われていて、
香港もこれまでは順調に回復しておりました。このところ、中国経済が減速中で、この
まま香港経済が一本足で上がっていくとはなかなか考えにくいということでした。特に
山梨中銀の方によりますと、香港経済が中国経済に連動してきているという認識がある
ということでした。それは2つ理由があり、1つは香港の株価が、上海の株価に連動し
ているようになってきているということがあるようです。その分、逆に香港の株価を今
後見ていく上で、わかりにくくなっているということもあるようです。それからもうひ
とつが、香港は観光産業も重要な産業ですが、中国経済が高成長してきたので、中国か
らの観光客が増えています。年間 200 万人から 300 万人の人が来ているようです。そう
いう方々がいて、中国本土から観光客で来るときにも、例えば不動産を探しに来たりし
て、中国からの不動産投資や、銀行口座の開設というようなものが増えているそうです。
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前から言われていますが、中国人の方は、万が一の場合に備え、資産を国外で保有する。
香港で不動産という形、あるいは銀行口座という形で資産を保有しているということが
増えているという事だと思います。中国本土の富裕層が投資目的で香港で不動産を購入
しているので、その結果香港の不動産価格が上昇し、山梨中銀が入っているオフィスビ
ルも家賃が上がっているという事です。香港人が、価格が上がってしまったマンション
を買えなくなっているので、香港政府は、不動産物件の価格規制を検討中だそうです。
不動産の他に中国人が香港に来て買うものは、特に、貴金属では金製品が多く、粉ミル
クなども買いに来るようです。また、香港は、国際金融センターとしての地位を確立し
ていますが、香港の国際金融センターとしての地位がどう変わりつつあるのかというこ
とに関心があったので聞いてみたところ、リーマンショックで外資系金融機関では大量
解雇があり、一時的に失業率が上がりましたが、その後、外資系金融機関では雇用が戻
り始めているという事です。次の2つの点から、香港の国際金融センターの地位はそん
なに変わっていないのではないかということです。
一つ目は、これは約3年前からですが、香港で、日本円や米ドルを持っていくと、香
港で人民元建ての銀行口座が開設できるということです。一日2万元まで預けられると
いうことで、これは香港をまだ中国から見て外国としますと、中国国外で人民元が取り
扱われる、香港でそういうことができるということで多くの人が人民元はこれから価値
が上がっていくだろうと思うと、価値が上がる通貨で資産を所有するということは合理
的だろうと思われますので、日本円やドルを人民元に替えて銀行口座を持つということ
が増えていると、そういうことを外銀が扱っている。外銀にとっては香港でそうするメ
リットがあるのだろうと思います。それが一つ目です。上記のような人民元の口座開設
というのは法人はできないということです。
もう一つは、中国の人民元建ての国債を香港で個人向けに販売している、外銀が販売
を扱っているという点で外銀にとってメリットがある、ということです。中国国内より
も香港で販売する人民元建ての中国国債の金利が若干高めに設定してあるようで、そう
いうこともあり、かつ、人民元の価値が上がっていくと予想すると、人民元建ての資産
を持つということから、中国国債も香港で人気があって売り出すとすぐに売り切れてし
まうという状況です。国債の販売も香港に来ている外銀が取り扱っているので、外銀に
とっては香港でそういうことができるという点で香港にいるメリットがあるという、そ
ういう事だろうと思います。
【2.中国について】
(1)華南地域
次に、香港から陸路で深圳に向かいます。車で行って、入国審査で降りて、深圳側に
入った所でスライドのような風景があったわけです。深圳は特に新しいビルがどんどん
建っている印象でした。このアジア研究会の最初の海外調査が 2001 年だったと思います
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が、そのときにも深圳に行っております。その時に見たのがスライドのような街並みだ
ったという印象がありますが、こういう古いものがあると同時に、すぐ近くに新しい街
がある、新しいビルがある、モダンなデザインのビルができている。漁村から工業都市
になっているのですが、9年くらい前と比べても、さらに新しくなっているという印象
を持ちました。やはりこういう新しいモダンな建物は東京や北京など、大都市にあるよ
うな感じだと思いますが、そういうものが深圳にも建っているということです。このよ
うな高層住宅も、さらにどんどん建っているということです。
深圳は、副省級市という市で、あとで出ますが、北京や上海は省級市という言い方を
しています。深圳は 80 年から経済特区が設置され、中国の中で、いち早く外資導入をし
て工業化が進んだという事はみなさんもご存知のところと思います。企業を誘致して、
漁村から、国内で最も裕福な都市になっています。ちょうど 2010 年ですので、経済特区
ができて 30 周年です。街のあちこちに 30 周年を記念するような横断幕が見られました。
先程申し上げましたが、山梨県内の中小企業で広東省にいる企業の、かなり大きな関心
事項は、法人の形ではない状態で工場が運営されている場合、それを法人格にしなけれ
ばならないという状況についてです。深圳の北の東莞というところも外国企業を入れて、
発展を遂げています。東莞にも大月精工をはじめ、山梨県の企業がいくつかあります。
広東省独特の来料加工制度というのは、深圳や東莞などにある小さな地元政府である郷、
鎮が、工場を建設して、従業員は地元政府が募集し、工場を運営する外国の企業は、郷、
鎮に人頭税を払い、原料や機械は生産物を全部輸出することを条件に無税で持込みが可
能だというものです。現在ある外資系企業の工場は、現地法人として運営されている工
場もあれば、法人格になっていない工場もあるようで、そういう工場を株式会社の形に
するという指導が来ているということです。北京政府は、法人経営でない工場だと、法
人税が入ってこないということがあるのだろうと思いますが、税収確保の面からも、法
人格にしてもらおうということがあるようです。来年6月までになるべくそうするよう
にという指導が来ているようです。なるべく独資の必要があるようですが、独資の場合
には、1億円くらいの資本金が要求されているようです。それをどうやって集めるかと
いうことと、既に工場がある場合は機械、設備を現物出資の様な形で資本金に算定でき、
その場合にはどのように評価するかということも県内企業がこれから考えていかなけれ
ばいけないということです。会社の立ち上げには最低資本金として1億円相当がかかる
ということで、日系企業の中には、資金集めが難しいということで撤退を決めたところ
も出ているということですが、地元政府の郷・鎮は、この北京政府の動きに対して静観
しているというような状況です。
深圳は台湾系の光学機器メーカー、亜洲光学という会社の工場の見学に参りました。
これはニスカさんの紹介です。非常に大きな敷地の中にはグループ会社もいつくか入っ
ていて、入口で手続きをして入っていくわけですが、スライドの左に見える建物は従業
員の宿舎です。左側の方に工場が広がっています。ここの総経理は、元リコーの方だそ
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うです。この方が現地法人の社長さんです。この会社がやっていることですが、日本の
カメラメーカー数社から委託を受けて、日本のカメラメーカーのブランドを冠したデジ
タルカメラのデザインから生産までを行う、それを ODM と言い、かつては OEM が多か
ったと思いますが、ODM の D は、デザインで、例えば日本のキャノンが最低限の基本
スペックを提示すれば、後のデザインから設計までをこの会社がやって、キャノンのブ
ランドをつけたものをキャノンに納品している、そういうことを日本のカメラメーカー
複数社相手にやっているということです。1 万人近い工員さんたちが工場の中で働いてい
るということと、それからかなりたくさんの機械、比較的高そうな機械が多数置いてあ
って、非常に忙しいという印象です。を受けました。それだけ規模が大きいという印象
です。この会社の場合は主に光学機器ですが、エレクトロニクス分野や光学機器でこう
いう OEM や ODM をやっている会社のことを EMS と言っていると思います。Electronic
Manufacturing Service です。この会社も主に光学機器系の EMS で、世界有数の EMS
です。かつでは OEM でしたが、今は ODM の方がメインの様な印象があります。同社を
含め、台湾系の EMS4 社が世界のデジカメの6割を生産しています。驚いたと言ってい
いと思いますが、日本のカメラメーカーはほとんどすることがないというか、この会社
が電子回路だけは外部、主に日本から買ってきているようですが、それ以外のものはほ
とんど、この会社の内製かあるいはグループの会社で作っていて、そうした部品と日本
から買った電子回路を組み立ててデジカメを作っているという事で、キャノンとかニコ
ンの名前があっても、それは日本のメーカーはほとんど生産に関与していないというの
が驚きでした。それだけブランドで食べていっているのだろうと思いますが、驚いた感
じを持ちました。
この会社の特徴は、台湾にいる経営者の人がかなり先を見る目がある方のようで、今、
この台湾の会社の関連企業が、深圳にある会社の関連企業と言ってもいいと思いますが、
ミャンマーで、レンズの研磨を行っていて、5千人を雇ってやっているということで、
多分先を見る目がある、そういう感じの会社です。
(2)華東地域
次は華東地域です。省都は杭州です。上海を中心に北に江蘇省、南に浙江省で華東を
形成しています。行ったのは南の浙江省で、浙江省は、第2次、第3次産業が発達して
いて、統計的に見ると、中国で最も豊かな省です。順番がありますが、1人あたり GDP
で、直轄市を含めた省級行政府の順位では、上海や北京、天津が上をいっていますが、
その次が浙江省や江蘇省ということで、省の中では、浙江省が1人あたり GDP が一番高
い所のようです。簡単な歴史ですが、鎌倉時代に、日本の栄西が中国の宋の時代に行っ
た時に、浙江省から茶の種子を日本に持ち帰り、その時は九州のお寺に蒔いたそうです
が、そういう関係があるので、静岡と浙江省は今姉妹省・県関係にあるということです。
この杭州に行ったわけですが、高層住宅建設ラッシュというものが見られました。これ
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は次に出る神戸製鋼のコベルコ建機の工場に行く時にバスから見た非常に細長い高層の
住宅がにょきにょき建っている。大規模工場団地の周辺にこういうものが建っているわ
けですが、こういうものがあちらこちらに住宅群が見えるという感じでした。農民が地
元政府の大規模工場団地の開発計画に応じて、農地を手放すと、工場団地の一角に立て
られる高層住宅の中にずっと住むことができるようで、かつ、地元政府から、農業をあ
きらめるということで所得補償金が支払われるような形でそれで生活していけるように
なっているようです。中国では、大都市周辺や大都市と地方都市を結ぶ高速道路や高速
鉄道の整備がハイペースで進んでいるという印象で、例えば、中国とインドというのは
これからの世界経済を引っ張っていくというような言い方をされていますが、インフラ
の点ではインドがかなり遅れていて、中国が早いという感じがあります。
次は神戸製鋼グループの建設機械メーカーの話です。このようなものを組み立ててい
ます。13 トンから 40 数トンの重さのものまでを作っているようで、神戸製鋼の子会社な
のですが、鉄はどうしているのかと聞くと、ほとんど神戸製鋼製ではないようです。よ
り安い、おそらく中国の中で入る韓国とか中国製の鉄を使っているようです。
今、中国が道路とか鉄道を作ったり、あるいは資源開発で鉱山を掘ったりしているの
で、油圧ショベルという物が非常に売れている状況です。日系企業でこういった会社が
いくつかあるのですが、非常に生産計画も強気の見通しを立てているという感じです。
この会社の資本構成ですが、コベルコ建機と豊田通称と中国の投資会社が出資していま
す。ここに生産台数の数字がありますが、かなり増えてきていて、2010 年が 2009 年の
倍近い数字になっていて、2011 年も、2010 年の倍近い目標で、かなり需要は高いという
ことと、春節(通常2月の始め前後)以降の4ヶ月間で年間需要の4割くらいが売れて
いるということです。ナガシマさんが言うには、メーカーが提示する価格の8割くらい
で最終的に販売するようですが、中国ではメーカーがつけた価格そのままで売れている
ようでした。韓国系や欧州系の機械もあり、特に韓国系のものは、少し経つと壊れてし
まい、耐用年数が短いということで日本のものが非常によく売れているという事です。
それから、中国系の自動車部品メーカーを訪問しました。従業員 70 名。車の中のシガ
ーライターに差し込んで電灯をつけたり、USB の充電器のようなものを作っている会社
でした。新しい、日系企業の多くが入るような工場団地ではなく、狭い道をどんどん入
っていたところにある非常に古い工業団地の一角でした。先程の神戸製鋼の企業が入っ
ていた世界とは違う世界に入って行ったような感じです。70 人の人がいろいろな作業を
やっていて、スライドは USB の充電器で、あと、これはシガーライターに差し込んで電
灯がつくものです。今のは杭州です。
次に杭州から義烏に車で参りました。
杭州の南、160 キロほどの所にありますが、人口が 70 万人で、中国の中では小都市か
と思いますが、働きにきている周りの市街、州外、外国からの人を含めると 200 万人く
らいの人口になっているようですが、もともとは 70 万人くらいです。スライドのような
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5階建てくらいの建物が細長く並んでおり、その中にブースがあって日用雑貨品の卸売
が行われています。小売りは観光客向け以外はほとんどしていない所です。この建物は
地元政府が作りました。中にブースがたくさんあって、このブースの使用権を販売する
のですが、地元の人や他の省から来た人たちがブースの使用権を買って、ブースの中に
商品を置いて、卸売をやっている状況です。広いブースもあれば狭いブースもあり、ス
ライドのこの辺は比較的小さなブースだと思いますが、小物のアクセサリーを売ってい
る感じです。こちらはプラスチックのケース入れみたいなものを扱っている業者だと思
います。
かつての農村から、どうやって自分のところを発展させていこうかというところで、
地元の政府も考えたのですが、我々日本人は中国のイメージというものは大きな市も小
さな自治体も製造業を誘致するために工業団地を整備することが多いというものですが、
ここの場合は、製造業の誘致ではなく商取引を自分たちのところに集めたという感じで、
日用品雑貨の卸売市場、先程の写真は福田市場というところなのですが、そういうもの
が市内にいくつかあるわけです。卸売市場を多数整備建設し、日用品雑貨品取引の世界
的な中心地になる事に成功したということです。この中心が、先程の写真があります福
田市場で、5階建ての広大な屋内市場で、サッカー場6面の広さ、8万軒のブースがあ
りました。アフリカや、世界中から毎日 20 万人くらいのバイヤーが来ているということ
で、日本の 100 円ショップを開設する時に、商品をここで集められるということです。
HP を見ていると、そのためのコンサルタントをやっているような人もいるわけで、極端
に言えば、日本で 100 円ショップを始めたい人は自分で行かなくても、コンサルタント
経由で、コンサルタントが福田市場で商品を集めて日本に送ってくれるようなそんな感
じになっている印象があります。日本の量販店や DIY というお店で売っている中国製の
製品は、その多くが義烏で仕入れられているということです。福田市場の中は、ものす
ごく活気があります。この義烏にサン宝石が工場を持っています。2006 年に義烏に進出
したということで、買い付けや検品、金属加工、アッセンブル、袋詰めなどをやってい
ます。もともと東莞にあったメタル加工部門を義烏に移したということで、サン宝石が
甲府で扱っている商品のほとんどは、この福田市場で仕入れて工場で加工して袋詰めし
てこちらに持ってきているということです。200 人超の従業員の人がいるのですが、バス
で 12 時間かかる、湖南省というところから多くの方が来ているということです。家族や
子供を湖南省に残して、母親が働きにきているということです。
義烏から上海まで、鉄道を利用して移動しました。「和諧号」という中国の新幹線の車
両が時速 200 キロで走っています。義烏から上海まで2時間半ですが、ほぼ時間通りの
運行でした。
【おわりに】
最後に、上海への電車の中で、中国の若い人と接する機会がありました。中国の大学
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の英文科を卒業し、現在は杭州にあるスペインの塗料メーカーで品質管理の仕事をして
いるそうですが、スペイン語を勉強すると仕事上役立つので、毎週末 30 分この新幹線の
電車に乗って上海まで行ってスペイン語を勉強しているということでした。スペインの
会社は多くの日本企業と違って、現地法人の幹部は中国人に任せているのですが、スペ
インからは技術者だけが来ているようです。品質管理をやっているので、スペイン語が
できるとスペイン人の技術者との意思の疎通がよりスムーズになるということもあり、
勉強しているそうですが、日本企業のことも知っていて、日系企業はいわゆる経営の現
地化が遅れていて、中間管理職から上のほうはなかなか上がっていくのは難しいと聞い
ているので、日本企業への就職は考えなかったという事を言っていました。英語で話ま
したが、この中国の若い人は、結構英語が良くできて、しっかりしているという印象を
持ち、こういう人がいると、中国もなかなか脅威だなという印象を持ちました。
最後になりますが、ひとつ思ったのは、やはり中国もどんどん変わっているという事
です。さきほどの深圳のカメラメーカーのことをお話しましたが、かつては日本のカメ
ラメーカーがああいうことは国内でやっていたと思います。もう日本の中ではできない
という感じがしていますが、これを台湾系の企業がやっているということが印象に残っ
ています。こういう調査に行くのは山梨の企業や山梨の発展のためになればというのが
一つの目的ですが、義烏が行った製造業ではない形での地域の発展がうまく成功したと
いうことは、それをそのまま山梨県でどうかということは難しいと思いますが、少し知
恵を出して斬新なこと、変わったことをやっていかないと、これからはなかなか大変で
あるという印象を持って帰ってまいりました。大雑把な話でしたがとりあえず私からの
報告は以上です。ご清聴ありがとうございました。
次に、行った方々に感想などをお願いしたいと思います。風間会長、渡辺理事長、早
川副理事長の順にお願いします。
【風間会長】
波木井先生がお話して、ほとんどそれに尽きるわけですが、私は、今回の旅は今まで
の視察の旅の中では一番勉強になったというか気合が入ったというか非常に良かったと
思っております。というのは、日本国内でも最近の中国はなかなか製造業もいろいろと
レベルも上がってきている、相当いいよということですが、結局これは日本が変わらな
ければいけないということになってきたと感じました。日本が「ものづくり」から「価
値づくり」に変わっていかなければいけないと思います。今から 30 年、40 年前、45 年
位前から 20 年位前まで、日本はものづくりをやってきました。私が世の中に出て、諏訪
精工で働いていたのですが、その当時、今から 45 年位前、ちょうど、先程先生がおっし
ゃった、カメラの組み立てのデジカメの工場と同じような情景が、諏訪にあったのです。
諏訪でオリンパスやヤシカ、三協精機、もあったわけですが、ちょうど似ているのです。
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それは、日本のものづくりが、今現在中国でどんどん展開されている、そういうことに
なってきているのだと痛切に感じました。日本が 30 年、40 年前のことを引き続き現在も
これからもやっていくと当然中国にやられてしまうのです。これは給料が違うのです。
向こうでは大体月に3万円くらい、高くてもせいぜい4万円くらいだと私は思います。
日本はその3倍も4倍も給料を払っているわけなので、当然同じことをやっていれば中
国に負けてしまいます。それと同時に、向こうの人たちは目がすごくいいのです。サン
宝石さんの義烏の工場の照度は、日本の3分の1くらいの暗さで、我々はどうも暗くて
仕方がないなと思ったら向こうの人はそっくり見えてしまう。聞いたら視力が 2.0 以上だ
ということです。田舎から出てきた人などは夜は蝋燭で物を見ているから、暗いほうが
良く見えるということなのですね。日本も昔は結構良かったのです。そうしたら日本の
今の若者が競争しようとしても、ものづくりではだめだから、日本は価値づくりの方向
へ転換していかなければいけないということをつくづく感じたところです。それと、先
程デジカメのところでもありましたが、デジカメのような量産ものは日本で作るのでは
なくて、中国に行く。日本にはデジカメのいろいろな素子があるのですね。例えばレン
ズの所の CCD。中国ではそういう高精細なものは作れないので、そういう要素を日本で
作って提供して、それを価値作づくりにする。部品を作って組み立てるようなものはこ
こでやればいいかなというようなことを、深圳の開発工場や、杭州の中国の人がやって
いた田舎の工場を見てきました。あれを日本でやっても勝てるわけがない、そういうこ
とは、中国でやるべきです。日本で過去 20 年、30 年前にやってきたことは中国に行くの
で、我々は頭を切り替えなければいけないとつくづく感じました。
それと、中国は交通インフラをすごい勢いで造りつつあります。あと 10 年か 15 年く
らいたてば中国はすごく交通が便利になります。今は、ある地域間を行ったり来たりす
るのはすごく時間がかかって、先程の話でもバスで 12 時間かかって、杭州で働いている、
それがまた週末帰るとしたらバスで 12 時間かかる。これは普通の道を走っているので 12
時間かかります。深圳から杭州は飛行機で飛んだ時に、晴れたところが結構ありまして、
下を見ると山に筋がたくさん通っているのです。これが高速道路と鉄道だというのです。
これを今盛んに造っている。その結果、コベルコの抗圳の工場が先程波木井先生が言っ
たように、今年は 6,000 台で来年は 11,000 台で、その次は 2 万台です。これがコベルコ
だけ売れているのかというとそうではなくて、コマツも日立建機も同じように売れてい
るという。これはなぜ売れているかというと、インフラ造りがすごいのです。ある意味
では日本と中国が分業体制というか、日本が何をやる、中国がこういうことをやる、当
然うまく住み分けをしながらやるということである意味では私が直感で感じたのはもの
づくりから価値づくりへ日本が転換しなければいけないということを今回の視察旅行で
非常に強く感じました。
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【渡辺理事長】
印象はいろいろ持ちました。たいてい風間さんがおっしゃってくださったのですが、
2つ3つの印象を申し上げます。ひとつは先程の亜洲光学ですね。台湾企業が中国へ出
ていって、そこで OEM,ODM をやっている。そこの企業を見たときにやはり驚きました。
さきほど波木井先生が説明してくださったように、こういうものを作れという基本仕様
の設計図が一枚いくとあとは全部向こうで賄っている。そして世界中にそれを販売して
いるという事です。キャノンのケースがありましたが、キャノンに何パーセントくらい
のお金がいっているのかなと思うと、おそらく相当だと思うのです。キャノンはそうい
う意味でブランドだけで大儲けをしている。そういうことです。バリューチェーンとい
う言葉があります。商品の企画や設計、それに応じた部品等の調達、組み立て加工、そ
れからマーケティング。一番付加価値が高いのは、商品を開発する所で、一番低いのが
組み立てるところ、儲かるのが流通ですね。そうすると、その流通に耐えられるだけの
ブランドを持っている国は強いのだなと、当たり前のことですが現場で見て驚かされた
ということです。ブランドだけで大儲けができるというこのビジネスは非常に面白いも
のだと思いました。バリューチェーンの理屈は知っていたのですが、現場で見せられて、
そういうことなのだなと改めて思わされたということです。ですから、どう言ったらい
いのか、日本が、基本的なこういう商品を作れという設計をして、これを台湾企業に出
すわけです。台湾企業は製造の現場の中国に行って、そこで作って世界中に送っている
とこういう図柄になるわけですが、この図柄だけを考えると一番楽なところを日本がや
らせてもらって、一番儲からない所を中国がやっている。こういう理屈になるのだろう
と思います。こういうことをいつまでも中国がやっていたのでは、自前の技術は果たし
て育つのだろうかと中国に対して危惧を持ちました。それはもちろん中国の政府も感じ
ていて、外資に依存するのではなく、できるだけ外資の企業でやっているものを、自国
で技術吸収をして民族系企業を育成しようという方針を出しているわけですが、現場に
行ってみるとそんなに簡単なことではないだろうなと思わされました。これがひとつの、
理屈としてはわかっていることなのですが、現場で見せられてやはりこういうことだっ
たなと確認ができたことです。
それから、義烏ですが、そこで感じたことは、中国は経済発展の成長率が非常に高い
がゆえに労働市場が段々逼迫してきて、沿海部では給料がどんどん上がっているという
世相です。これは新聞にもよく載っています。従って政府もまた労働集約的な製品とい
うのは沿海部ではなく、内陸でやっている。沿海のほうはより付加価値の高い技術製品
を作っている、そういう風に誘導しているのだと聞いているわけですが、しかし義烏に
行ってみて、やはりそんな理屈にはなっていないなということを感じました。今見せて
もらったような、サッカーのピッチが 600 面入るほどの、安物の巨大なマーケット、背
後には無数の、湖南省あたりからやってきた出稼ぎの農民がいるわけです。圧倒的な迫
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力だろうと思いますが、まだまだ労働市場が逼迫してきて、賃金が急上昇してきて産業
転換が起こるという段階とは、そういう理屈はあるのですが、現場を見せられるとまだ
まだそこに至るまでは、かなり時間がかかるだろうなと義烏を見て思ったわけです。こ
の義烏の印象が2番目です。
そして3番目ですが、風間さんもおっしゃっていましたが、コベルコに行ったときに
はやはり驚かされました。今、先生も数字を出してくれましたが、すさまじい売上なわ
けです。年々、倍倍倍と二乗で伸びているわけです。こんな商品は日本国内にはいくら
捜してもめったにありません。しかもコベルコは中国のシェアで3位だそうです。1位
はコマツ、2位は日立建機、3位がコベルコです。いずれも倍倍で伸びているのだろう
と思います。これはやはり中国の成長の激しさというものが、その背後にあるというこ
とは言うまでもありません。作れば作るほど売れる。増設増設増設とやっているようで
すが、到底追いつかないようです。かつての日本の高度経済成長時代もこんなことだっ
たろうなと思い出させるほどの激しさでした。しかし一方、いろいろ聞いてみますと、
付加価値の6割はやはり日本からやってきていて中国コンテンツは4割だそうです。僕
も初めて知ったのですが、建機というものはずいぶんハイテク製品なのです。一見した
所わからないのですが。油圧にゴミや、土が入らないようにするとか、韓国製中国製に
比べてはるかに持ちがいいということのようです。そんな事を考えるとやはりまだ、コ
アな部分というのは日本依存が依然として強いのだなと思いました。民族系企業もこれ
だけの巨大な膨張するマーケットですから、参入はしつつあるようですが、やはり安物
で品質が悪いということらしいです。ですから矛盾したことを私は言っているわけで、
中国の成長のすさまじい部分を改めて確認できたと同時に、先進国企業へのキャッチン
グアップという点からみると、やはりまだ相当の溝があるという両面を感じて帰ってき
たわけです。少人数で話し合いながら5日間旅を続けてきて、非常に印象深い旅になり
ました。
【早川専務理事】
波木井先生、風間さん、渡辺先生からのお話が既にありましたので、私からそんなに
補足することはないのですが、まず、今回の視察で中村さんにいろいろご手配いただい
て、ありがとうございました。一言お礼を申し上げたいと思います。私が感じたのは中
国の開発というか発展のスピードです。リニア関連の会にたまたま出たのですが、ある
方がが、「こんなことをしていると日本はだめになる」というようなお話をされていて、
ニューディール政策の時にアメリカはフーバーダムを作ったのですが、あのフーバーダ
ムというのは、琵琶湖の水量に匹敵するくらいの大きいダムなのです。それをたった6
年半で作ってしまった。それからエンパイアステートビルディングを作ったのですが、
1年9ヶ月で完成させてしまった。日本でも高度成長の時、ちょうど昭和 39 年ごろ、新
幹線が走ったりした時だと思うのですが、あの当時の首都高を作ったり新幹線を走らせ
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アジアフォーラム21
ANNUAL REPORT
たりしたようなスピード感がまったくない。今リニアを騒いでいるが、まだ 15 年も 17
年も先の話をしていると。こんなことでは喫茶店でお茶を飲んできたほうがいいという
話をされたことを思い出していたのですが、今回行って、上海と義烏の間、2時間半で
新幹線と同じ列車が走っているのです。乗り心地も悪くありませんでした。ひとつ違っ
たのは乗っている人たちが違うということです。マナーが悪く、座席の間に椅子を持っ
ていってまた座っているなど、いろいろ面白い光景もありました。それにしてもともか
く開発のスピードが速いです。たまたま帰ってきたあとで、知事とお会いする機会があ
りました。ちょうど知事も四川省の成都へ行って帰ってきたところでした。それで、「早
川さん、成都へ行ってきたけど驚いた」と言うのです。なぜかというと、地震でかなり
やられたわけですが、もう全部復興している。高速道路が走っていて、自転車が詰まっ
ているのではなく、自動車が渋滞していると。というような状況で既に新幹線をまた走
らせる構想も進んでいて、あのスピードには驚いたと知事も言っていました。その点が
まず第一点です。今回はものづくりではなくて、モノを売るところを見に行ったわけで
す。今まではものづくりの現場が日本から中国へ移っている、どういうことが起こるか
というと、企業は向こうに行って稼げばいいわけです。しかしここに生活している我々
は職場がなくなってくるわけです。現在失業者が 300 万人という状況になっています。
これはものづくりの現場のこととして見ていたのですが、義烏へ行ったらサッカー場が
600 面も入る大市場が形成されていて、8万社も入っている。そうすると卸売業の世界も
どうも中国に雇用の場が全部移っていく、そういうことになっていくのではないか。こ
こで生活するひとたちは職がないので極論を言えばここでは生活できない。そうすると、
本当に極端なことを言えば、出稼ぎに行かなければならない時代がくるのかなという気
もしました。大変な状況が世界で進行しているのだなという感じを強く受けました。帰
ってきてから、例えばトヨタはカローラを海外の需要のある所で生産すると言い出して、
日産はマーチをタイへ出して日本へ逆輸入している。スズキは既にインドでやっている。
そうすると日本の GDP500 兆円くらいの中の 100 兆円くらいは、車関連産業なので、そ
れがどんどん向こうへいくとこれからどうなっていくのか、地方はどうするのかなとい
う悩みも感じて帰ってきた次第です。
(平成 22 年 10 月 29 日開催)
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