水族館における環境教育プログラムが 子供の感受性に与える影響 生態応用研究室 研究の背景 佐藤 朱香 近年、子どもの教育において積極的かつ主体的に生き抜くための「生きる力」の修得が重要な到達目標とされ ている(文部科学省, 1996)。そして、生きる力を育成するためには「自然体験活動」などが有効であること (自然学校評価委員会,2008)や、親の生きる力が子どもに影響を及ぼすことなどが明らかにされている(蓬 田, 2003)。また、子どもの生きる力の構成要素である“感受性”を豊かにし、環境問題に対する見解や考え方 を育み、持続可能な社会を目指した実践力を育てる必要があることが求められている(環境教育指導資料小学校 編,2007)。それらに貢献する教育資源として水族館が挙げられており、五感を通した感動体験や驚き・発見が 子どもの心の成長につながる可能性は報告されている(堀,2003・高田,2006)。しかし、その具体的効果は明 らかにされていない。 目的 子どもの生きる力の要素のひとつとされる“感受性”が、「水族館」の活用により向上を図れるか明らかにす ることを目的とした。さらに、地域差が生きる力育成へ与える影響の測定を試みた。 方法 5 5.0 5.0 4 4.0 4.0 2.0 河川講座 水族館講座 Q4-9 河川N=23,水族館N=28 Q2-23 Q3-3 Q3-6 Q3-19 Q3-21 Q4-9 Q4-11 (p<0.05:*、p<0.01:**、p<0.001:***) 図2:河川講座と水族館講座 に参加した東京家庭の生きる力 ・Q4-2のみ水族館講座の方 が有意に高かった。(p= 0.0042) ・その他はすべて河川講座の方 が有意に高かった。 東京 福島 東京N=28、福島N=9 (p<0.05:*、p<0.01:**、p<0.001:***) 図3:水族館講座の東京家庭と、教育目的で 来館した福島家庭の生きる力 Q2-12 Q2-18 Q2-19 Q2-23 Q3-2 Q3-3 大きな声であいさつできる 0 0.0 ものを作ったり、絵を描いたりすることが好き Q4-8 1 1.7 ものごとを工夫して取り組むことができる ものごとを工夫して取り組むことができ る Q4-2 3.1 4.0 3.9 3.9 3.7 3.6 3.6 3.6 3.6 3.5 3.2 3.1 3.0 3.0 3.0 3.0 2.9 2.9 2.8 2.6 2.6 1.9 1.8 空や景色などを見て、感動している 翌日のしたくや準備をすることができる Q3-12 3.1 3.6 3.1 3.1 3.13.4 2.83.4 2.5 絵や写真などを見て、感動している 子どもと動物や植物のことをよく話題に する Q3-11 3.0 2 3.7 子どもが寝る時刻を決めている 子どもと季節や天気のことをよく話題に する Q3-10 2.6 3.8 子どもと動物や植物のことをよく話題にする 子どもを美術館や音楽会に連れて行く こと Q3-2 2.6 3.7 子どもと季節や天気のことをよく話題にする 絵本や本の読み聞かせをする Q2-1 ものを作ったり、絵を描いたりすること が好き もっと深く学んでみたいことがらがある 0.0 2.5 3.3 3.9 子どもの前で配偶者とけんかしてしまう 1.0 3.2 3.7 子どもにお手伝いを頼む 3.1 絵本や本の読み聞かせをする 2.9 3.6 園の他の保護者と、園の方針や先生について、 話すことがある 2.2 2.1 3.5 地域の活動や行事に積極的に参加している 3.0 グループや集団のなかでもうまく行動している 3.2 家族やまわりの人に「ごめんなさい」と 言える 3.6 ものを作ったり、絵を描いたりすること が好き 2.6 1.8 3.0 子どもが寝る時刻を決めている 1.0 3.5 3.1 ごはんの時に、家族で会話を楽しむ 3.1 子どもの前で配偶者とけんかしてしまう 3.5 子どもにお手伝いを頼む 2.0 3 3.0 子育てについて、気軽に相談できる人がいる 3.0 園の他の保護者と、園の方針や先生に ついて、話すことがある 結果 「生きる力」に関する質問紙調査を実施し、各講座におけるプログラムの効果測定を行った。 また、異なる講座間で比較することにより、参加家庭の特徴を調査した。 ・北区環境大学事業における調査(家庭参加型講座の参加者対象) 調査は、河川における環境教育講座(2013年5月19日・2014年5月18日)と水族館に おける環境教育講座(2013年9月22日・2014年9月28日)で質問紙により実施した。 河川講座では23名、水族館講座では28名から回答を得た。 ・福島の水族館における調査(来館者対象) 同様の質問紙調査を2014年8月27日に実施した。51名から回答を得た。 図1:講座の会場(河川) 東京 福島 Q3-6 Q3-11 Q3-12 Q3-21 Q4-4 Q4-5 Q4-8 Q4-9 Q4-12 東京N=28、福島N=14 (p<0.05:*、p<0.01:**、p<0.001:***) 図4:東京の水族館講座と 福島の水族館(「感じる力」高群)来館者の家庭の様子 ・Q3-6のみ東京の方が有意 ・Q3-6のみ東京の方が有意に高かった。 に高かった。(P=0.0042) (p=0.0082) ・その他はすべて福島の方が有 ・その他はすべて福島の方が有意に高かっ 意に高かった。 た。 考察 ○教育目的で福島の水族館に来館する家庭 課題 ・教育目的で水族館に来館する家庭の特徴として「Q3-19」のように福島の方が家族での団らんが多いこ とがわかる。頻繁に親子での会話の場をもつことによって子どもの現状が把握しやすくなり、教育もしやすく なると考えられる。また子どもにとって一番身近な社会は家族であり、日常会話や「Q3-3」などの家族と の交流の中で、社会的規範やマナーを学ぶことができ、それが「Q4-11」のような“あいさつする力”の 向上につながっている経緯が考えられる。 ○「感受性」の向上が子どもの「生きる力」のその他の要素へ与える影響 ・“感じる力”が高い子どもは“発見・工夫する力”や“あいさつする力”も高い傾向があることから、豊か な感受性が正の影響を与えていると考えられる。その背景には、「Q3-2」「Q3-11・12」のよう に、本の世界や家族との会話から影響を受けて子どもの感性が育まれ、“発見・工夫する力”が向上する経緯 が考えられる。また「Q2-18・19・23」というように、親の他者への接し方を日常的に目にしている ことや、親と一緒に地域活動に参加しているために、社会的規範が芽生えて“あいさつする力”が身について いることも考えられる。 〇生きる力アンケート・分析について 本研究では、因果分析をしていない。より大規模な質問紙調査と因果分析によって、より詳細な考察が可能とな ろう。また、「生きる力に関するアンケート」のみを使用して調査を行ったが、今後は親や子の自然体験の量に ついて問うアンケートも用いることで、地方と都会に住む家庭の生きる力をより詳しく示せる可能性がある。 〇水族館の教育施設的位置づけについて 調査を通して、現在水族館はまだまだ教育施設として認知されにくい現状であることが分かった。今後、効率的 に周知していくことができればさらに教育効果を高められる可能性がある。
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