弁護団の声明

2007年(平成19年)1月24日 16:00
司法解剖記録開示請求弁護団
弁護士 池永 満 弁護士 讃岐 真嗣 弁護士 橋本 良実 遺族による司法解剖記録開示請求に対する開示措置に関する声明
1、当職らが、佐賀県山中の車内で発見され司法解剖に付された父子2遺体の遺族、ま
た、福岡県内の病院での処置中に急死し司法解剖に付された患者(女性)の遺族の代
理人として、2007年(平成19年)1月9日、前者につき佐賀地方検察庁、後者
につき福岡県警筑紫野警察署(その後事件の送致を受けた福岡地方検察庁)に対して、
それぞれ司法解剖記録の開示請求をした件について、同年1月11日佐賀地方検察庁
において、また、本日1月24日に福岡地方検察庁において、司法解剖記録の全部に
つき開示を受け、コピーを入手しました。
2、今回の開示請求は、刑事・民事の訴訟の手続とは無関係に、遺族固有の知る権利を
根拠として公然と行ったものであり、両地検が遺族の気持ちを正面から受けとめ、速
やかに開示にふみきったことは、画期的であり積極的に評価できるものです。
3、しかしながら、今回の個別的開示によって、司法解剖記録の遺族への開示請求を権
利として保障し、捜査当局の開示を義務付ける法律上の制度が確立したわけではあり
ません。
そこで、今後とも、遺族の希望があれば、同様の開示請求を積極的に行い、非開示
の対応がなされた場合には、行政訴訟を提起し、遺族への司法解剖記録の開示が法的
に整備されるまで尽力していく所存です。
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*解説 : 司法解剖記録開示の現状と今回の開示措置の意義
1 現在、司法解剖記録は、刑事訴訟法47条の「訴訟に関する書類」に該当し、公判
開廷前には公にされないのが原則とされています。
しかしながら、当然に捜査上の理由を根拠として遺族に対しても開示されないこと
は、全く道理を欠くものです。
そこで、法務省刑事局による2000年2月4日付通知により、不起訴確定後には、
被害者が被害回復のための損害賠償請求権行使等をするのに必要がある場合等に、証
拠として代替性のない司法解剖記録等に限り開示する運用となり、さらに2000年
6月施行の犯罪被害者保護法により公判請求後以降は司法解剖記録を含む刑事記録の
開示が認められるようになりましたが、依然として、不起訴になるか公判請求される
かが不明な捜査段階では開示しない扱いが原則となっています。
ところで、行政機関が保有する情報に対する開示請求権を定めている2つの法律を
見ると、情報公開法では個人に関する情報は非開示情報(5条1号)とされており、
個人情報保護法では個人情報の定義自体を「生存する個人に関する情報」と規定して
いるために(2条2項)遺族が死者の情報の開示を請求できる場面が厳格に限定され
ているほか、この2法でも犯罪捜査等に関する情報を原則として不開示情報としてい
る(5条3号、14条5号)ため、これらの法律による開示請求の途も閉ざされてい
ます。
したがって、現在の法制度の下では、長期間にわたることも稀ではない捜査期間中、
主に被害者の立場として、肉親の死因究明にもっとも関心を有する遺族が、司法解剖
記録を知ることができないのが原則となっており、例外的に捜査機関の恣意によって
事実上開示されるのを待つしかないが現状であります。
2 このような現状に対して、当職らは、①遺族による肉親の死因を知る権利は、憲法
13条の幸福追求権の一内容として当然に保障されていること、②遺族が肉親の死因
情報にアクセスするのを公権力が妨げてはならないという意味で憲法21条の知る権
利としても保障されていること、③家族は社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会
及び国による保護を受ける権利を有すると規定する国際人権規約B23条も、肉親の
死因を知りたいという感情を法的保護に値する権利であると認めるものと考えられる
こと、④民法の家族法などの現行の国内法でも、家族を社会の基本単位として法的保
護の対象としていること、⑤近年の犯罪被害者の刑事手続きへの参加・犯罪被害者へ
の情報開示を促進する刑事関係の各法規の改正・創設等といった流れからは、被害者
である遺族への司法解剖記録の開示を法的権利として制度的に保障するのが、現在の
国民感情を含めた趨勢に合致することなどから、遺族による肉親の死因を知る権利と
いうものは法的保護に値する権利であると考え、この権利の保障を全うするためには、
捜査期間中においても、司法解剖記録の遺族への開示を原則として、例外的に必要性
のある場合にのみ開示時期の制限ができるという、現在の原則・例外を逆転させる必
要があると考えました。
3 そこで、当職らは、従来行われてきた、捜査機関の自由裁量による事実上の開示を
内々に求めるのではなく、司法解剖記録を保有する機関に対して、司法解剖記録開示
請求書を送付するとともに、この開示請求とそれに対する捜査機関の回答についての
事実を記者会見により公にし、さらに非開示の場合には直ちに行政訴訟の提起をする
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準備をして今回の請求手続きを行ったところです。
したがって、今回の各検察庁による開示は、開示の権限を有する行政機関が、公の
形式をとった開示請求に対して、開示する旨の回答をしたものであるので、これは、
遺族による司法解剖記録の開示請求権を認める姿勢を公にしたものであると評価でき、
今後の司法解剖記録開示の原則開示の運用や、開示請求権の法的制度の整備に向けて
の礎となる意義を有するものであります。
以上
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