平成 23 年 5 月 11 日 知財高裁 審決取消訴訟 平成 22(行ケ)10291 担当:大竹 ★Keywords: 手続、文献、進歩性 ★手続の経緯 平成14年 9月13日 特許出願(特願2002−268643号) → 出願後に名義変更(富士通→スパンション インク) 平成18年10月20日 拒絶理由通知 平成18年12月12日 手続補正 平成19年 3月15日 拒絶査定 平成19年 6月 4日 拒絶査定不服審判請求(不服2007−15618号事件) 平成19年 6月 4日 手続補正 平成22年 4月26日 拒絶審決 ★本件発明 【請求項1】 第1の端子,第2の端子および制御端子を有し,メモリセルアレイとは別に設けられた複数の不 揮発性メモリセル(符号10∼13)と, 該複数の不揮発性メモリセルの第1の端子に対して所定レベルの電圧を印加するレベルシフト 回路(符号2)と, 前記複数の不揮発性メモリセルの第2の端子にそれぞれ設けられた複数のスイッチ用トランジ スタ(符号40∼43)とを備えることを特徴とする不揮発性メモリ回路。 ★争点 周知例として挙げられた文献(甲3)に、審決が主引用例とした引用例1(甲1)よりも多く本願発 明の構成を備えた発明が記載されている場合に、甲3を主引用例とする拒絶理由を通知し、これ を十分に考慮した上での補正及び反論の機会を与えるべきであるか否か。 1/2 転載禁止 (甲3は,拒絶理由通知には記載されず,拒絶査定において周知例として文献番号のみが記載さ れたものであり,審決もこれを周知例2として記載して,拒絶査定を維持した。甲3は、不良アドレ スを記憶する回路に不揮発性半導体メモリセルを用いることを示している) ★裁判所の判断(下線は当所による) 原告の主張は,甲3記載の発明が本願発明のいかなる構成を備えているかに関する具体的な 主張を欠いている。また,進歩性を否定する根拠となる発明が記載された公知文献は,一つに限 定されるものではなく,複数存在し得るのであって, 他に公知文献として引用するのにふさわしい 文献が存在するかどうかは審決が引用した公知文献に基づく進歩性の判断やその手続の適法 性に影響を及ぼすものではない。したがって,仮に,審決の引用例1以外に公知文献として引用 するのにふさわしい文献が存在するとしても,当該文献を引用例とする拒絶理由を通知する必要 はない。 審決が引用例1を主たる公知文献として取り上げた以上,訴訟では,これに基づく本願発明の 進歩性判断の誤りについて審理判断されれば足りる。 「不良アドレスを記憶する回路に不揮発性半導体メモリセルを用いること」は,特開平7−2542 98号公報(乙1),特開2001−14883号公報(乙2),特開2000−315395号公報(乙3)に 記載されるように,本件出願当時,周知技術であったと認められる。審決では,甲3は,周知技術 が記載された文献として例示されたにすぎないものであって,引用例として用いられたものとは認 められないから,甲3を引用例とする拒絶理由通知がされなかったことに違法はない。 ★検討 主引例の選択に関し、審査基準では「論理づけに最も適した一の引用発明を選び」や「引用する 関連先行技術を決定する場合には、実施例も勘案の上、最適の関連先行技術(主引用発明)を選 択する。主引用発明は、通常、請求項に係る発明と、技術分野あるいは解決すべき課題が同一 又は近い関係にあるものを選択する。」と記載されており、補正によって新たな限定事項が追加さ れた場合に主引例を差し替えることの要否等については触れられていない。 この点につき、近年、周知技術として追加した文献が容易想到性判断において実質的に核心的 な先行技術となっている場合には、新たな拒絶理由を構成するという判断が知財高裁判決で相 次いで示されているが(例えば、木質合成粉の製造方法事件判決(知財高裁平成 18 年 12 月 20 日判決 平成 17 年(行ケ)10395 号等)、これらの判例は、何れも周知技術として追加した文献が 重要な技術的意義を有する構成を開示している場合のものである。 よって、本件判例は、周知技術を示すものとして示された文献が、容易想到性判断における核 心的な構成を開示するものでなければ、仮に本願発明の構成が多く備わっていたとしても、これを 引用した拒絶理由を通知して反論の機会を与える必要は無い点を確認したものと考えられる。 以上 2/2 転載禁止
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