2009年1月~3月 - Université de Strasbourg

日本学術振興会ストラスブール研究連絡センター活動報告
(2009 年 1 月~3 月)
JSPS Strasbourg Office Quarterly / 2008-09 No.4
今号では、2009 年 1 月に開催した INRA-JSPS 共催ワークショップ「Molecular dialogue of bacteria with the host(邦
題:細菌と宿主の対話」の様子を中心に報告します。
INRA-JSPS 共催ワークショップ「Molecular dialogue of bacteria with the host(邦題:細菌と宿主の対
話」の開催について
本 ワ ー ク シ ョ ッ プ 「 INRA-JSPS Workshop “Molecular
dialogue of bacteria with the host”」は、2009 年 1 月 30 日に、
パリにあるフランス国立農業研究所(Institut National de la
Recherche Agronomique (INRA) )本部にて、日本学術振興
会ストラスブール研究連絡センターとフランス国立農業研究
所(INRA)
、フランス JSPS 同窓会の共催により開催され、約
90 名の日仏研究者からなる参加者を迎えて盛大に行われまし
た。
ワークショップの様子
近年の気候変動や環境破壊により新興・再興感染症の脅威がさらに高まり、また先進医療や高齢化にとも
なう日和見感染症や多剤耐性菌の増加等により、感染症および病原微生物の基礎的研究の重要性が一段と強
く認識されるようになってきています。このような状況において、微生物研究の長い歴史を持つ我が国とフ
ランスの微生物学者が、互いに協力して微生物病原性の研究基盤を強化するために、日仏ワークショップが
しばしば開かれたり、日仏の研究機関の間で学術交流協定が締結されています。このような日仏の病原微生
物学分野の交流を一層促進するものとして、今回日本学術振興会の対応機関であるフランス国立農業研究所
(INRA)との共催で本ワークショップを開催したものです。
本ワークショップでは、日仏の微生物研究における代表的研究者(計10名)を招いて、両国の卓越した微
生物研究者がさまざまな病原微生物を例に、感染症成立の鍵となる「宿主と病原体の相互作用」に関する最
先端の知見を発表し情報交換が行われました。この日仏ワークショップにより、研究者レベルでの研究協力
がさらに促進されるとともに、両国間の感染症研究における協力体制も構築され、今後両国における感染症
研究の基盤強化や共同研究の活発化が期待されます。
なお、本ワークショップの模様は、website Canal-U を通じて、インターネット同時中継で配信および録画
が行われました(http://www.canalc2.tv/)。
1
招待講演者によるセッション討議に先立ち、ワークショップの仏側オーガナイザーである Dr. Eric Oswald
による開会の宣言の後、オープニング・スピーチとして日本側から在フランス日本国大使館の米谷光司参
事官、小野 JSPS 理事長(中谷陽一 JSPS ストラスブールセンター長代読)、フランス側から共催機関である
INRA 国際部長の Dr. Bernard Charpentier、INRA 微生物学・食物連鎖学研究部長の Dr. Emmanuelle
Maguin からそれぞれ祝辞をいただくとともに、これまでの日仏学術交流および INRA-JSPS 間の共同研究、
研究交流について述べられた。
オープニング・スピーチ:米谷参事官(左上)
、中谷センター長(右上)
、Dr. Charpentier(左下)
、Dr. Maguin(右下)
オープニング・スピーチに引き続き、日仏の研究者から最新の研究成果に関する講演が行われました。以
下、講演の概要を報告します。(日仏講演者の報告内容の概要は、日本側講演者の先生方によるものです。
)
午前の部①:司会- Pascale Cossart(Institut Pasteur)
講 演 者 : 笹 川 千 尋 ( 東 京 大 学 ) “Shigella exploitation and
subversion of host cellular function”
笹川教授の講演では、病原細菌の示す高度に進化した腸管感染
システムについて、赤痢菌をモデルに解説が行われた。具体的に
は、赤痢菌の III 型分泌装置を通じて宿主細胞へ分泌される一連の
エフェクター(病原因子の一種)と標的宿主細胞因子の相互作用、
およびそれらの感染成立に果たす役割に関する最新の知見が発表
された。
2
講演者:Philippe Langella(INRA)”Faecalibacterium prausnitzii,
a novel anti-inflammatory commensal bacterium identified by
gut microbiota analysis of Crohn’s disease patients”
Langella 博士の講演では、腸内に終世共存する細菌群は、腸内フ
ローラと呼ばれ、病原細菌の増殖や定着を阻害するのみならず、腸
管および生体の恒常性維持にも極めて重要な役割を果たしているこ
とについて解説が行なわれた。腸内フローラの一つ、
Faecalibacterium prausnitzii を例にして、その菌体成分には抗炎
症作用を示す物質が含まれ、その物質はクローン病をはじめとする
さまざまな腸管炎症性疾患の治療へも応用可能であることが示唆された。
午前の部②:司会- 堀口安彦(大阪大学)
講演者:Pascale Cossart(Institut Pasteur)”Listeria monocytogenes :
in depth analysis of the bacterial entry process into cells to
understand the crossing of the intestinal and placental barriers
during infection”
リステリア菌の非貪食性宿主細胞への侵入には、リステリアの
InlA, InlB タンパク質が関わる。Cossart 博士の講演では、リステリ
アがこれらのタンパク質を利用して、どのようなメカニズムにより
宿主細胞への侵入を果たしているかについて、最近の知見とともに
概説した。
講演者:永井宏樹(大阪大学)”A Legionella E3 ubiquitin ligase
and its function in infected host cells”
レジオネラは IV 型分泌系を利用して、多数のエフェクター
タンパク質を宿主細胞内へ輸送する。このようなエフェクター
のなかに、複数の U-box ドメインを持つ、他に例をみない構成
の U-box タイプ E3 ユビキチンリガーゼである LubX がある。
永井教授の講演では、エフェクターLubX のレジオネラ感染に
おける機能について、その宿主内標的因子を含めて議論した。
講演者:Stéphane Méresse (Université de la Méditerranée)
”Manipulation of host cell functions by Salmonella effectors”
細胞内寄生細菌であるサルモネラは、III 型分泌装置によって細
胞内に移行するエフェクターを利用して Salmonella-containing
vacuole (SCV)と呼ばれる特殊な空胞内で増殖している。今回、
Méresse 博士の講演では、新規エフェクターを同定し、この分子は
通常は微小管に沿って動く分子モーターを積極的に SCV に集める
ことで、SCV と宿主コンパートメントにおける膜構成成分のやりと
りを制御していることが示唆された。
3
午後の部①:司会- Stéphane Méresse(Université de la Méditerranée)
講演者:François Vandenesch(INSERM) ”Panton-Valentine
Leukocidin from Staphylococcus aureus: more than just a pore”
黄色ブドウ球菌の気道感染では、Panton-Valentine ロイコシジ
ン(PVL)産生株が高頻度に回収される。このことは PVL が菌の上
皮細胞への付着に関与している可能性が考えられる。Vandenesch
博士の研究では、PVL のシグナルペプチドが、上皮細胞に豊富に
存在するヘパラン硫酸と結合することを見だした。シグナルペプ
チドは細菌が PVL を分泌したあとに菌体上に残される。したがっ
て、菌体に残ったシグナルペプチドが、菌の付着因子として働く
ことが示唆された。
講演者:堀口安彦(大阪大学)”Structure and molecular actions
of Pasteurella multocida toxin”
堀口教授の研究において、パスツレラ症の原因菌である
Pasteurella multocida が産生する毒素(PMT)の結晶構造解析
に成功した。PMT の作用機構はこれまで不明であったが、解明
された構造から、毒素の標的分子は宿主細胞膜に局在するものと
細胞質に局在するものの2種類存在する可能性が示唆された。ま
た、PMT の作用の本態が Cys-His-Asp の活性中心で構成される
チオールプロテアーゼ様酵素活性であることが予想された。
講 演 者 : 阿 部 章 夫 ( 北 里 大 学 ) ”Functional analyses of the
Bordetella type III effectors”
百日咳菌に代表されるボルデテラ属細菌は、感染宿主の気道に
長期定着を確立し、感染を成立させることが知られている。気道
への定着は III 型分泌装置に依存した現象であることが報告されて
いたが、この分泌装置によって宿主に移行するエフェクターにつ
いては長らく不明であった。阿部教授の講演では、BopC、BopX
と呼ばれるエフェクターを同定し、BopC は細胞傷害の誘導、BopX
は IL-10 の産生増強に関わるエフェクターであることを明らかに
した。
コーヒーブレイク中の一コマ
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午後の部②:司会- 阿部章夫 (北里大学)
講演者:林哲也(宮崎大学)”Genomic view on the parallel
evolution of enterohemorrhagic Escherichia coli strains”
大腸菌は基本的にはヒト・動物の腸内常在菌であるが、ヒト
に対して明らかの病原性を有する菌株(病原性大腸菌)も存在
する。病原性大腸菌の中にも様々なタイプの菌株が存在し、そ
れぞれ異なった疾患を惹起するが、腸管出血性大腸菌(EHEC)
と呼ばれるグループは、重篤な合併症を伴った出血性腸炎を引
き起こし、大規模な集団感染も発生しているため、世界的のも
大きな問題となっている。林教授の講演では、代表的な 4 種類
の腸管出血性大腸菌 O157、O26、O111、O103 の全ゲノム解読、これらの EHEC と他の大腸菌とのゲノム
比較の結果、およびその解析から明らかとなった EHEC のパラレル進化のメカニズムを紹介した。
講演者:Eric Oswald(INRA) ” Genotoxic Escherichia coli strains
in the gut”
腸内に常在する大腸菌の中には、易感染性宿主での日和見感染
や尿路感染症などの腸管外感染症を起こす株も存在するが、基本
的には非病原性あるいは弱毒性であり、腸内フローラの一員とし
て宿主と共生関係にあると考えられている。しかし、Eric Oswald
の研究グループは、腸内常在の大腸菌の中に宿主細胞のゲノム
DNA を切断する物質を産生する菌株が存在することを発見した。
Oswald 博士の講演では、このゲノム傷害物質(genotoxin)産生
性大腸菌発見の経緯、遺伝子解析から明らかになったポリケタイド/非リボゾーム性ポリペプチド性物質と
しての物質的特性、培養細胞での毒性等が紹介された。さらに、プロバイオティックスとして使用されてい
る大腸株も本物質を産生すること、本物質産生大腸菌と発ガンとの関連性を今後検討する必要があることな
どを指摘した。
また、ワークショップの前日の 1 月 29 日には、パリ郊外の Jouy-en-Josas にある INRA の研究所に訪問し、
同研究所内の実験装置、研究室を見学すると同時に、同研究所に所属する INRA 研究者からフランスにおけ
る最先端の微生物・細菌研究の報告が行われました。
INRA 研究棟前にて、日本人講演者と
INRA 研究者と記念撮影
研究室を訪問する日本人講演者ら
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INRA 研究所施設の一つ
研究所敷地内を移動する日本人講演者ら
ワークショップの開催にあたり、共催機関である INRA の Dr. Bernard Charpentier(国際部長)、Dr. Yves
GRIVEAU(国際課長)
、Mme. Wanda FASORI(国際交流専門官)、Mme. Carole MURAT(国際交流課職員)
らをはじめ、各種資料をご提供いただいた日本の大学及び研究機関(東京大学医科学研究所、大阪大学微生
物病研究所、北里大学、宮崎大学、東京海洋大学、京都大学)より多大なるご協力・ご支援をいただきまし
た。この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
学術セミナー及びストラスブール大学(UDS)との Joint Seminar の開催
ストラスブール日仏大学会館と共催で、日仏の研究者を招待して、様々なテーマで学術セミナーを開催しています。ま
た、フランスの大学を訪れる日本人研究者を支援する一環として、ストラスブール大学との UDS/JSPS ジョイントセミ
ナーも開催しています。2009 年 1 月から 3 月までの間に、以下のセミナー4 回を日仏大学会館等にて実施しました。
1 月 14 日/第 72 回学術セミナー
講演者:Dr. Charles HETRU (CNRS 主任研究員)
講演タイトル:「自然免疫システム:昆虫から人へ」
”Le système immunitaire inné, de l’insecte à l’homme”
免疫系は、適応免疫系と自然免疫系に大別される。演者らのグループは、研
究の遅れていた後者について、ショウジョウバエをモデルとした研究で、バク
テリアを識別する Toll Pathway を発見、抗菌作用を持つペプチド生産の機構を
解明した。さらに、Toll のホモログ TLR を哺乳類に発見し、バクテリアやウイ
ペプチド生産の機構を説く Dr. Charles
HETRU
ルスの治療への応用が研究中である。
3 月 12 日/第 73 回学術セミナー
講演者:Dr. Philippe ANDRE (ルイ・パストゥール大学講師)
講演タイトル:「食中毒の危険:特にリステリアについて」
”Les risques d'intoxications alimentaires et Listeria monocytogenes”
食品中毒は、人類にとっていつも変らぬ社会問題である。演者は、食品中毒
に関わる食品の種々の物理化学のパラメーター、食品中毒を引き起こす主たる
バクテリア、食品汚染のメカニズムについて解説すると共に、食品中毒予防の
食品中毒を引き起こすメカニズムを説く
Prof. Philippe ANDRE
ための食品衛生についての助言を行った。
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3 月 18 日/第 74 回学術セミナー
講演者:Dr. Saïd GHANDOUR (CNRS 主任研究員)
講演タイトル:「チロイドホルモンによって損傷を受けたミエリンの修復は可能
か」
”Réparer la myéline dans la sclérose en plaques grâce aux hormones
thyroïdiennes ? ”
ミエリンは神経線維を包み、神経伝達が効率的に行われるために重要な役割を
果たしている。ミエリン鞘の損傷は、神経伝達に致命的で、髄鞘が破壊される多
発性硬化症は、治療法が確立していない。演者らは、ネズミをモデル動物として
用いて、チロイドホルモン投与が、破壊されたミエリン鞘の修復に有効であるこ
ミエリン鞘の修復について説く Dr. Saïd
GHANDOUR
とを核磁気共鳴を用いて示した。
3 月 26 日/第 24 回 USD/JSPS ジョイントセミナー
講演者:吉川佳広 研究員 (産業技術総合研究所)
講演タイトル:「分子の自己集合と分子間力の測定」
“Molecular Self Assembly and Interaction Force Measurement : Scanning Probe
Microscopic Study”
分子デバイスを実現するには、機能性分子を目的通りに基板上に配置すること
が必要となる。演者は、有機分子を用いてナノ構造を制御しつつ規則的に配列す
る手法の開拓を目指し、ビピリジン誘導体がつくる自己組織化単分子膜について、
走査型トンネル顕微鏡で解析した。また、走査型プローブ顕微鏡(SPM) 探針を
ビピリジン誘導体がつくる自己組織化単
分子膜について説く吉川研究員
キチナーゼの基質吸着部位で修飾し、キチン表面に対する吸着力をフォースカー
ブ測定により求めた。
3 月 31 日/第 75 回学術セミナー
講演者:Prof. Keiko HATAE (日本家政学会理事長)
講演タイトル:「食の嗜好:日仏比較」
”The Attitude for Food: Comparison between France and Japan”
おいしい食べ物は生活の楽しみであり、多くの食べ物はフランス人と日本人に
共通して好まれる。しかし、中には同じ食品材料を用いた食べ物でも、好ましい
状態が異なる場合がある。演者は、20 種類の食品の嗜好について、フランス人と
日本人にアンケートと官能評価を行った結果を報告した。また、2008年に食
品安全委員会がインターネットで行った食品および食品の安全に関するフラン
ス人と日本人の意識調査結果を報告した。
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日仏の食品嗜好について説く畑江教授
フランスの大学、グランゼコール、研究機関への訪問:JSPS 事業説明会・JSPS 同窓会支部会の実施
当センターは、フランス各地の大学・研究機関を訪問し、直接に大学幹部や研究者と直接に対話を行い、また、その機
会に各地の JSPS 同窓会との交流を深めています。
1 月 23 日/
フランス JSPS 同窓会幹部会が、パリ第 6 大学において開催さ
れました。幹部会では、フランス同窓会会長の Prof. Marie-Claire LETT 、
Dr. David BOILLEY ( 副 会 長 ・ カ ー ン 大 学 准 教 授 ) 、 Prof. Franck
DUMEINGNIL ( 事 務 局 長 ・ リ ー ル 第 一 大 学 教 授 ) 、 Prof. M.A.
LACAILLE-DUBOIS(会計担当・ディジョン大学教授)、Dr.Hamid-Reza
NEDJAT (副会計担当・スタンダール-グルノーブル第三大学)、Dr. Robert
PANSU(ENS de Cachan)、Dr. Reiko ODA(CNRS 研究員)、Dr. Anne-Lise
POQUET-DHIMANE(CNRS 研究員)の 8 名の幹部メンバーが集まり、新
規会員の勧誘、会員名簿の整理、ドイツ同窓会との共催シンポジウム等につい
フランス同窓会幹部会メンバーらと。
て議論されました。同幹部会には、木戸場副センター長、安川国際協力員が陪
席しました。
1 月 28 日
早稲田大学パリオフィス訪問
1 月 28 日、早稲田大学パリオフィスの招待で、JSPS 事業説明会を早稲田大学パリオフィスのあるパリ政治学院
(Institut
d'Etudes Politiques de Paris)にて行いました。説明会には 18 人の参加者があり、JSPS 事業および同窓会活動の説明を
熱心に聴講されました。また説明会には、2 名の JSPS OG から日本における研究生活や経験談をお話いただきました。
説明会後の行われた懇親会では、参加者らとの親睦を深めるとともに日仏の学術交流について意見交換を行いました。
中谷センター長による学術振興会事業説
明会
2 月 26 日~27 日
Prof. Marie-Claire LETT フランス同窓会会
長による同窓会説明会
Dr. Danielle HILHORST(CNRS 主任研
究員、JSPSOB)による日本での研究生活
の紹介
Université Paul Sabatier(トゥールーズ第三大学)訪問
トゥールーズ第三大学のあるトゥールーズ市は、フランス南西部のミディーピレネ地方にあって、エアバスなど航空宇
宙産業の拠点であり、またトゥールーズ第一、第二、第三大学の 3 大学を中心に 7 万人以上の学生を擁する学問・研究都
市の顔ももっています。ローマ時代にさかのぼる古い歴史があり、9 世紀にはトゥールーズ伯領として華やかな中世文化
が開花し、ルネサンス時代には藍染料や穀物の交易で大いに繁栄しました。旧市街にはガロンヌ川でとれるピンク色の粘
土からつくった赤レンガの家並みが軒を連ね、「バラ色の街」との異名をとっています。
トゥールーズ第三大学は、1969 年の大学改革の折に、1912 年のノーベル化学賞受賞者 Paul Sabatier 博士の名にちなみ、
Paul Sabatier 大学と名づけられました。現在、理学、医学、工学、スポーツ科学の 4 つの専門課程、及び工科短期大学
8
(IUT)を有する総合大学で、学生数 28000 名(内、外国人学生 3000 名)
、教育・研究スタッフ 2350 名、CNRS などの
研究者 1200 名、事務・技術スタッフは 1500 名にのぼります。
また 2007 年に同大学、トゥールーズ第一大学、第二大学、Institut National Polytechnique de Toulouse(INPT)、Institut
National des Sciences Appliquées de Toulouse(INSA-Toulouse)、Institut Supérieur de l’Aéronautique et de l’Espace
(ISAE)で組織した研究高等教育拠点 PRES ”Université de Toulouse”には、現在 16 の高等教育機関が加盟し、共同でセ
ミナーを開いたり、研究論文の所属先や博士号証書は、すでに”Université de Toulouse”の名で出したりしています。そ
して、フランス高等教育・研究省の進めている大学施設改善施策である”Opération Campus”にも選ばれました。
トゥールーズ第三大学の特徴は、124 ヘクタールという広大なキャンパスを有するとともに、航空宇宙産業をはじめと
した産業界との産学連携が盛んで、積極的に企業研究者を受け入れ、共同研究を実施することにより、研究資金の獲得に
努めています。例えば、同大学はミディーピレネ地方の 3 つの産業クラスター(Pôles de compétitivité)、Aéronautiques、
Espace et Systems Embarqués(アエロノテック・スペース)、Cancer-Bio-Santé(ガン・健康)、Agrimip Innovation(農
業 イ ノ ベ ー シ ョ ン) や 高 等 教 育 ・ 研 究 省 が 選 抜した先 端研究拠点 RTRA の1つ Sciences et technologies pour
l’aéronautique et l’espace(アエロノテック・スペースのための科学技術)の参加メンバーです。また今回訪問した
CIRIMAT は、化学、物理、結晶学、冶金学、高分子学の研究者が、マテリアルのテーマの下に集結した総合研究所で、
基礎研究を企業研究に直接結び付けることを目的として、フランス全土に作られた Carnot Institut の1メンバーで、予算
200 万ユーロのうち 50%は企業からです。
今回の訪問では、Prof. Alain MILON 研究担当副学長、Prof. Juan MARTINEZ-VAGA 国際担当副学長等の大学幹部と
の意見交換、また MILON 副学長(JSPS OB)の司会により、研究者、博士課程の学生を集めての学術振興会プレゼンテ
ーションおよび JSPS OB5 名による日本での研究生活や経験談が語られました。また、JSPS フランス同窓会主催による当
地同窓会員の親睦会や、日本の高等教育機関との交流、研究者の派遣に関心のある研究者との懇談会が開催されました。
さらに、JSPS フランス同窓会員の Dr. Isabelle SASAKI 国際課日本担当・CNRS 研究員のアレンジにより、4つの化学研
究所、Laboratoire des Interactions Moléculaires et Reactivité Chimique et Photochimique(IMRCP)、Laboratoire
d’Hétérochimie Fondamentale et Appliquées(LHFA)、Synthèse et Physico-Chimie de Molécules d'Intérêt Biologique
(SPCMIB)、Laboratoire de Chimie de Coordination(LCC)、1つの材料工学研究所、Centre Interuniversitaire de
Recherche et d’Ingénierie des Matériaux(CIRIMAT)、1 つの物理学研究所、Laboratoire Plasma et Conversion d’Energie
(LAPLACE)
、1 つの生物学研究所、Institut de Pharmacologie et de Biologie Structurale(IPBS)を訪問し、各研究室長
から研究の概要説明を受けるとともに、研究施設を見学しました。
プレゼンを行った JSPS OB たちは、帰国後それぞれ京都大学、JAMSTEC、埼玉大学、早稲田大学と学術交流や学生交
流を行ったり、二国間交流を主催したり、Core-to-Core に参加したりしています。また Laplace は、愛媛大学と交流を、
またトゥールーズ第三大学全体では、2007 年から 2010 年までの 3 年間、国際交流の戦略重点地域にとして、カナダ、マ
ダガスカル、ラテンアメリカ、中国、日本をあげています。
Dr. Carlos Vaca-Garcia JSPSOB による日
本での研究生活のプレゼンテーション(右
から 6 人目)
トゥールーズ第三大学訪問(Prof. Alain
Milon 研究担当副学長(左から 2 人目)、
Dr. Jean Claude MICHEAU CNRS 主任研
究員・JSPSOB(左端)、Dr. Isabelle SASAKI
国際課日本担当・JSPSOB(右から 2 人目))
9
化学研究所(LHFA)訪問(右から 3 人目
が Dr. Jean ESCUDIE(CNRS 主任研究員・
JSPSOB)、右から 5 人目が Dr. J.Antoine
BACEIREDO(CNRS 主任研究員))
3 月 3 日~4 日
Facultés Universitaires Notre-Dame de la Paix(ナミュール大学)訪問
ナミュール大学は、ベルギーの首都ブリュッセルから南東約 60km、鉄道で約 1 時間ほど行ったところに位置し、ナミ
ュール市の中心街にキャンパスを有しています。ナミュール市は、東西、南北の交易ルートの中継地として発展していき
ましたが、ミューズ川とサンブル川が合流する地点に位置しているため、地理的な要地として、中世以来フランス、オラ
ンダ、ベルギーに占領されるなど戦禍が絶えない街でした。現在はワロン地域(フランス語言語地域)の首都となってい
ます。1831 年創立のナミュール大学は、理学部、法学部、経済・社会学・経営学部、コンピュータサイエンス学部、医
学部、人文学部の 6 つの学部から構成される総合大学で、学生数 5000 名、教員・研究スタッフ 670 名です。ナミュール
大学は、大学の基礎研究から産業界への技術移転を積極的に推進しており、1999 年、2002 年、2003 年、2005 年には大学
発のベンチャー企業を生んでいます。
今回の訪問では、ナミュール大学の Prof. Stéphane VINCENT 理学部化学科教授のアレンジにより、大学本部、理学部
化学科、及び生物学科の研究室を訪問しました。3 日の理学部化学科、生物学科の研究室訪問では、両学科長、各研究室
長から研究の概要説明を受けるとともに、研究者、学生交流について意見交換を行いました。4 日には、Prof. Michel
SCHEUER 学長、Prof. Michel JADOT 研究担当副学長、Prof. Xavier THUNIS 国際担当副学長、Prof. Robert SPOREN 理
学部長と面談する機会を持ち、JSPS の事業を紹介するとともに、日本とベルギーの学術交流について懇談を行いました。
また、VINCENT 教授の司会により、研究者、博士課程の学生を集めて、中谷センター長による学術講演、木戸場副セン
ター長による学術振興会事業のプレゼンテーションに続いて、JSPS の OB3 名による日本での研究及び滞在についてのプ
レゼンテーションが行われました。
理学部生物学研究室訪問(Prof. Martine
RAES 生物学科長(左端)
)
ナ ミ ュ ー ル 大 学 長 表 敬 訪 問 ( Prof. Michel
SCHEUER 学 長 ( 左 か ら 2 人 目 )、 Prof.
Stéphane VINCENT(右端)
)
多くの日本人研究者と学術交流を行ってき
た Prof. Alain KRIEF ナミュール大学名誉教
授・JSPSOB によるプレゼンテーション
仏側対応機関、ストラスブール日仏大学会館、在ストラスブール日本国領事館との連携・協力
当センターでは、フランスにおけるこれまでの活動によって得られた情報、ネットワークの資産を活かして、日本との
学術交流に興味のあるフランスの大学、研究機関からの照会に応じています。また、学生レベルでの日仏交流を促進する
ストラスブール日仏大学会館が主催する事業にも参加・協力を行うとともに、在ストラスブール日本国領事館との緊密な
協力関係の構築に努めています。
1 月 19 日/
理化学研究所から油谷泰明氏(グローバル・リレーション推進室長)が来訪され、中谷センター長、Dr.
Richard GIEGE(ストラスブール大学の理研交流担当官)
、Mme. Michèl DEBAY(ストラスブール大学国際課長)と、ス
トラスブール大学と理化学研究所との学術交流について話し合いを行いました。
10
1 月 27 日/
東京から Prof. Marc HUMBERT
(東京日仏会館長)が来所され、
センター長から JSPS の事業説明を行いました。その後、Prof. Marie-Claire
LETT (フランス同窓会会長、日仏大学館長)、Dr. Mireille MATT(ストラス
ブール大学評議員)、Dr. Anne KLEBES-PÉLISSIER(ストラスブール大学国際
担当副学長)、Dr. Michèle FORTÉ(ストラスブール大学講師)、Mme. Michele
DEBAY(ストラスブール大学国際課長)が同席され、今後の日仏学術交流に
ついて話し合いを行いました。
Prof. Marc HUMBERT 東京日仏会館長
(中央)らと。
2 月 5 日/
2009 年 1 月 1 日にストラスブールにある 3 つの大学(Louis-Pasteur
大学(Strasbourg 第 1 大学)、Marc-Bloch 大学(Strasbourg 第 2 大学)、
Robert-Schuman 大学(Strasbourg 第 3 大学)
)が統合して、フランスで一番
大きい大学 ”Université de Strasbourg(UDS)”が誕生し、その創立記念式典
が 2 月 5 日にストラスブール大学にて開催され、中谷センター長が出席しま
した。同式典には、バレリー・ペクレス(Valérie Pécresse)高等教育・研究
大臣が出席し、祝辞が述べられました。
祝辞を述べるバレリー・ペクレス(Valérie
Pécresse)高等教育・研究大臣。
2 月 5 日/
日仏大学会館主催により、Stéphane ARENA 氏(写真家)の展覧会「Chroniques japonaises(日本の日常
風景)」が日仏会館で行われ、当センターのメンバーも開会式に参加しました。同展覧会には、川田司・在ストラスブー
ル日本国総領事館総領事をはじめ、多くの見学者が訪れ、大変好評でした。
Stéphane ARENA 氏(左端)
、川田総領事(右
から 2 人目)、Prof. Marie-Claire LETT 日仏大
学館長(左から 2 人目)。
展覧会の様子
3 月 11 日/
パリにあるフランス科学アカデミー(Académie des Sciences)、
に訪問し、日仏共催ワークショップ「環境と健康」開催について、担当責任
者である Prof. Guy LAVAL 国際局長、Mme. Anne ANDIVERO 国際課長、
Mme. Isabelle THOMAS 国際担当官と打合せを行いました。
Mme. Anne ANDIVERO 国際課長(中央)
、
Mme. Isabelle THOMAS 国際担当官(右端)
と。
11
3 月 15 日/
片岡宏誌 教授(東京大学新領域創成科学研究科)が来所され、中谷センター長に同教授が担当している
JSPS-CNRS 二国間共同研究の現状報告をされ、日仏研究交流について意見交換が行われました。
3 月 23 日/
中曽根康弘元総理がヴェネチアのサミットで提唱し、1989 年、ストラスブールに事務局が設立されたヒュ
ーマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)の 20 周年記念式典が、ストラスブール市長の主催で開かれ、
中谷センター長が出席しました。
3 月 24 日/
有馬朗人(財)日本科学技術振興財団会長/元 文部大臣/
HFSP 新議長、文部科学省 山口茂 科学技術・学術政策局研究交流官が来所
され、フランスの高等教育機関等との交流について中谷センター長、Prof.
Marie-Claire LETT 日仏大学館長と意見交換されたほか、ストラスブール大
学を表敬訪問されました。
有馬朗人(財)日本科学技術振興財団会
長(右から 2 人目)
、山口茂 文部科学省
研 究 交 流 官 ( 左 か ら 3 人 目 )、 Prof.
Marie-Claire LETT 日仏大学館長(右から
3 人目)。
有馬朗人(財)日本科学技術振興財団会長(右
から 2 人目)、Prof. Eric WESTHOF ストラ
スブール大学研究担当副学長(左から 2 人)
山口茂 文部科学省研究交流官(左端)。
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安川淳子国際協力員が、当センターでの 1 年間の研修を終えて 2009 年 4 月より本務先の東京海洋大学に復帰します。
フランスでの経験を活かして、今後は東京海洋大学の国際交流・留学生担当業務での活躍を期待しています。
日本学術振興会ストラスブール研究連絡センター/JSPS Strasbourg Office
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