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商法基礎
第4回
〔目
商号と商号の保護、商号使用許諾者(商号使用許諾会社)の責任
的〕
商号の意義、商号自由の原則に関する例外、商号の保護について、どのような法規制が
あるのか、商号使用許諾者(名板貸人)の責任及びその要件(商法 14 条、会社法 9 条【改
正前商法 23 条】)、商法 14 条【改正前商法 23 条】の類推適用の要件について理解するこ
とを目的とする。
【準備作業】
参照文献や、商法総則商行為法の教科書等を読み、以下の予習事項を調べておくこと。
その際に、下記にあげる参照判例・参集文献は各自が必要に応じて参照しておくこと。ま
た、下記の設問に関して各自が調べてまとめてくること。
【事前の予習事項】
(1)商号と商標の違いは何か。
(2)商号は日本語でなければならないか。
(3)商号は、企業が行う営業の実体を表すようなものでなければならないか。例えば、八百
屋を営む商人が、「ニコニコ魚屋商店」という商号を利用することは認められるのか。
(4)会社でない商人は、その商号中に会社の文字を含めることは、なぜ、許されないか。ま
た、なぜ、会社の種類を商号中に含めなければならないのか。
(5)多角経営を行っている会社は、その事業活動毎に別の商号を使用することは認められる
か。
(6)商号は登記しなければまったく保護されることはないか。
(7)商号使用許諾者(名板貸人)の責任が認められる要件は何か。 また要件が充足した場
合の効果はどうなっているか。
(8)会社法 8 条でいう「不正の目的」の意義は何か。
【事前配布資料】
なし
[参考判例]
・大決大正 5 年 11 月 29 日民禄 22 輯 2329 頁
・最判昭和 40 年 3 月 18 日判タ 175 号 115 頁
・最判昭和 58 年 10 月 7 日民集 37 巻 8 号 1082 頁
・最判昭和 50 年 7 月 10 日裁判時報 670 号 1 頁
・最判昭和 36 年 9 月 29 日民集 15 巻 8 号 2256 頁
・最判昭和 60 年 2 月 21 日判時 1149 号 91 頁
・最判昭和 30 年 9 月 9 日民集 9 巻 10 号 1247 頁
・最判昭和 35 年 10 月 21 日民集 14 巻 12 号 2661 頁
・最判昭和 43 年 6 月 13 日民集 22 巻 6 号 1171 頁
1
・最判昭和 36 年 12 月 5 日民集 15 巻 11 号 2652 頁
・最判昭和 42 年 6 月 6 日判時 487 号 56 頁
・最判昭和 55 年 7 月 15 日判時 982 号 144 頁
・最判昭和 42 年 2 月 9 日判時 483 号 60 頁
・最判昭和 41 年 1 月 27 日民集 20 巻 1 号 111 頁
・最判昭和 58 年 1 月 25 日判時 1072 号 144 頁
・最判平成 7 年 11 月 30 日民集 49 巻 9 号 2972 頁
・東京地判平成 16 年 2 月 23 日判タ 1159 号 242 頁、金判 1189 号 36 頁
・千葉地判平成 15 年 2 月 28 日判タ 1158 号 179 頁
・知財高判平成 19 年 6 月 13 日判時 2036 号 117 頁
[参考文献]
・落合誠一・大塚龍児・山下友信著『商法Ⅰ-総則・商行為 〔第 4 版〕』(有斐閣、2009
年)49 頁~64 頁
・江頭憲治郎・山下友信編『別冊ジュリスト No.194 商法(総則商行為)判例百選[第 5
版]』(有斐閣、2008 年)26 頁~37 頁
[問題]
1.Xは、平成 14 年 4 月 1 日、「入会日」欄記載の日に、ナベゴルフ倶楽部待兼山コー
ス(平成 18 年 5 月にトヨナカヒルズゴルフクラブと名称が変更された。)の会員となる
ゴルフ会員契約を締結し、その際、預託金額 1000 万円の入会保証金を預託した。そして、
入会保証金の返還については、預託金証書発行の日から 10 年間据置くものとし、据置期間
満了後、会員からの文書による申出があったときは、入会保証金をその会員に返還するな
どとする約定がなされていた。
本件ゴルフクラブの入会承認通知書及び「入会手続のご案内」と題する書面には,株式
会社待兼山リゾート(以下「待兼山リゾート」という。)が文書作成者として明示され、
入会手続用の住民票や写真等の書類を待兼山リゾートに提出するよう指示されており、ま
た、入会金や入会保証金の支払先口座として待兼山リゾートの銀行口座が指定されている。
Xは、受取人欄を「株式会社待兼山リゾート」として入会保証金相当額を振込送金し、
入会保証金の領収書も待兼山リゾート名義で発行された。
株式会社ナベは、バルブ及びその他の流体制御又は濾過用機器並びにその付属品の製造
販売を業とする、昭和 40 年設立の株式会社であり、設立当初から、「渡辺バルブ株式会社」
の商号で営業を行っていたが、平成 18 年 10 月 1 日、商号を「株式会社ナベ」に変更した。
株式会社ナベは、平成 5 年まではAが代表取締役社長を務め、同年からは,Aの娘婿で
あるCが代表取締役社長、Aが代表取締役会長(平成 14 年 6 月からは代表権のない取締役
会長)であった。
株式会社ナベは、昭和 40 年ころからその製品、包装、会社案内中に「WATANABE」
を短くした「NABE」の呼称を使用し、昭和 45 年に商標登録の「NABE」のロゴマー
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クを製品に表示していた。また、株式会社ナベは、昭和 50 年ころからは片仮名の「ナベ」
の呼称を併用した。
平成 13 年 1 月、Aは、ゴルフ場の開発運営を行っている豊中産業株式会社代表取締役会
長のDから、グループ会社において新しいゴルフ場を開発中であり、そのゴルフ場開発に
関与しないかと誘われた。Aは、会社とは関係なく、個人的な趣味ではあったが、「株式
会社渡辺バルブ代表取締役」の肩書でゴルフ場の発起人代表を務めた。
本件ゴルフ場建設の際に、資金繰りついて支障が生じたことから、株式会社渡辺バルブ
の子会社である渡辺ファイナンス株式会社が融資を行った経緯があるが、ゴルフ場の運営
主体である株式会社待兼山リゾートの経営権は、豊中産業が掌握することをAが勧め実際
に、豊中産業が待兼山リゾートの総議決権の 8 割を有する株式を保有していた。
もっとも、Aは、発起人代表就任の挨拶で、株式会社渡辺バルブを主体とする渡辺グル
ープが本件ゴルフクラブを建設する、ナベグループが本件ゴルフクラブの経営母体である
などと発言しており、会員募集のパンフットにもその旨の挨拶が記載されていた。また会
員募集に当たり重要な意義を有するパンフレットや新聞広告、本件入会契約の当事者が必
ず目にする入会申込書等の入会契約関係書類には、株式会社渡辺バルブの登録商標であっ
た「NABE」のロゴマークに酷似したロゴマークが使用されていた。
しかし、これら一連の関係書類にはすべて、ゴルフ場の運営主体は、待兼山リゾート株
式会社である旨の記載がなされており、また、これら一連の宣伝活動に関し、株式会社渡
辺バルブは一切関与していなかった。
株式会社渡辺バルブは、平成 19 年 3 月、「ナベ」等の名称の使用中止等を求める商標権
侵害申入書を待兼山リゾート株式会社に送付し,平成 19 年 9 月 25 日には上記商標の使用
差止めを求める訴えを大阪地方裁判所に提起した。同訴訟は,平成 20 年 3 月 4 日、待兼
山リゾート株式会社が株式会社渡辺バルブに対して 1 億円の和解金を支払い、待兼山リゾ
ートは「ナベ」等の名称を使用しないこと、「ナベゴルフ倶楽部」の名称を変更すること
などの内容の和解が成立した。その結果、本件ゴルフクラブの名称は、平成 20 年 5 月、
「ト
ヨナカヒルズゴルフコース」となった。
平成 21 年 10 月 1 日、待兼山リゾート株式会社は、2 回目の手形不渡りを出し、事実上
の倒産を来し、トヨナカヒルズゴルフクラブは閉鎖された。
そこで、Xは、株式会社ナベを被告として、入会保証金 1000 万円の返還を訴求した。
(1)Xから弁護を依頼されたあなたは、どのような主張を展開して、株式会社ナベに対して
入会保証金 1000 万円の返還を請求できるか検討しなさい。
(2)株式会社ナベから弁護を依頼されたあなたは、X側の主張に反論して、返還の不当性を
主張できるか、検討しなさい。
(3)あなたが、当該裁判における裁判官であった場合、どのような判断を下すか検討しなさ
い。
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2.Yは、A株式会社(以下、「A会社」と称する)との間で平成元年 5 月 22 日、A会社
所有の豊中駅前ビルの 1 階部分 40 坪(以下、「本件建物」という)について賃貸借契約を
締結し(以下、「本件賃貸借契約という」、同契約に基づき本件建物の引渡を受けた。
Yは、本件建物において、「浪速スタイル」という商号で、居酒屋を経営していたが(以
下、「本件店舗」という)、平成 19 年 3 月末に廃業し、本件賃貸借契約を解除した。
その後、Yが経営していた居酒屋「浪速スタイル」の従業員であったBが、当該建物の
所有者A会社と、新たに賃貸借契約を締結し、そのままになっていた本件店舗を利用し、
Yに了承を求めることなく「浪速スタイル」という商号で、居酒屋を行っている。
(1)YはBに対して商号の使用の差止めを請求することができるか、検討しなさい。
(2)上記設例の事実関係とは異なり、その後、Yが経営していた居酒屋「浪速スタイル」の
従業員であったBが、当該建物の所有者A会社と、新たに賃貸借契約を締結し、そのまま
になっていた本件店舗を利用し、Yに了承を求めることなく「浪速スタイル」という商号
で、ブティックの経営を行っている。もっとも、Yは、Bが「浪速スタイル」という商号
でブティックの経営を行っていることを開業以来知っていたが、商号使用について文句を
言うとか、使用を禁止するよう注意をしたことはなかった。
Bの営業開始後に、本件店舗の改修をBはX工務店に依頼し、その際にX工務店は、Y
の営業活動が継続していると思って「浪速スタイル」と取引をしたものと考えていた。
X工務店は、Yに対して本件店舗の改修費用の 700 万円の支払を請求した。
(ア) X工務店から弁護を依頼されたあなたは、どのような主張を展開して、Yに対して 700
万円の支払を請求できるか検討しなさい。
(イ)Yから弁護を依頼されたあなたは、X工務店側の主張に反論して、支払の不当性を主
張できるか、検討しなさい。
(ウ)あなたが、当該裁判における裁判官であった場合、どのような判断を下すか検討しな
さい。
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