中国と 日本におけるボー ト競技者育成体制の比較研究

仙台大学大学院スポーツ科学研究科修士論文集 Vo
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中国と日本におけるボート競技者育成体制の比較研究
笹井善仁
成万祥
勝田隆
キーワード:ボート競技者,育成体制
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回
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7
笹井ほか
日本ボート協会(JARA)では、オリンピッ
1.本研究の背景
現在、世界のスポーツは、運動・スポーツ
クでのメダル獲得のため以前から選手強化
活動による健康の維持・増進、スポーツ選
活動を行っていたものの、体格に勝る欧米
手のコンデイションニングや競技力の維
諸国の選手と差を埋めることが出来ずにい
持・向上、そしてスポーツ・レクリエーシ
9
9
6年アトランタ五輪から
た。そんな中、 1
ヨン活動やスポーツ組織のマネジメントに
軽量級種目が採用され、体格的に劣ってい
関する知識と技術を持った人材を求めてい
た日本選手でも上位進出の可能性が出たこ
る。その中で、国際舞台で活躍できる競技者
とで、 JARAでは、軽量級種目に重点を置き
には、天賊の才能が必要であることは論を
強化活動を開始した。その結果、 2
0
0
0年世
待たない。元中国オリンピック委員会主席
界選手権で国際大会初となる金メダルを獲
の震偉民は、「先天的に優れた運動才能をも
6位)を果た
得、シドニ一五輪でも初入賞 (
っている競技者だけがスポーツ競技のトッ
すなど強化活動が確実に実を結んでいる
プレベルに達することができる o
ている
Jと述べ
O
現在、ボート競技が盛んに行われている
のは発祥の地でもある欧米諸国である
O
日本と中国は第二次世界大戦後、オリン
O
オ
リンピック・世界選手権等の結果を見ても
ピックとアジア大会をめぐり、互いに競い
競技力は高い位置にある。
合ってきた。現在は、北京オリンピックに象
ボート競技は、オリンピック種目として
男子は第 l回ア
徴されるように日本のスポーツ競技力はオ
も正式に採用されている
リンピックメダル獲得数から見て衰退しつ
1回モントリオール大
テネ大会、女子は第 2
つある
O
近年では、 2
0
0
4年アテネ五輪に獲
O
会から競技が行われている
O
7個、北京オリン
得した日本のメダル数は 3
アトランタオリンピック (
1
9
9
6
)から軽量
ピックにおいては 2
5個と減少しているこ
級種目が採用され、体格的に劣っていた日
中国はア
本選手でも上位進出の可能性が出てきたこ
とから競技力低下が見てとれる
O
テネ五輪では 6
3個のメダルを獲得し、 2
0
0
8
とで、日本ボート協会(JARA)では軽量級
年中国で開催された北京オリンピックにお
種目に重点を置き、強化活動を開始した。そ
いてメダル獲得総数 1
0
0個という輝かしい
0
0
0年世界選手権で国際大
の結果として、 2
功績で金メダルの獲得数世界 1位の成績を
会初となる金メダルを獲得し、その年のシ
4
又めている その中で、中国はボート干重目で
ドニーオリンピックにおいてもオリンピッ
北京オリンピックにおいて初めての金メダ
6位)を果たす。強化活
ク史上、初の入賞 (
菱f
尋した。アジアからみても初めての
ルを 5
動が確実に身を結んだ結果となった。 しか
獲得である
し、先に行われた北京オリンピック大会(軽
O
O
日本では、 2000年に当時の文部省から
3位
、
量級ダブルスカル)において男子が 1
「スポーツ振興基本計画」が発表され、スポ
女子が 9位と目標にした成績には届かなか
ーツ各方面では、組織の現状や外部環境と
った。また、メダルを期待された男子におい
の関係、それに伴う諸問題などを正確に把
ては日本の第一人者である武田大作選手が
握した上で、その後の具体的な改革が迫ら
4大会連続の出場、女子の岩本亜希子選手
れるようになった。しかし、オリンピックで
のメダル獲得数から見ても世界との競技力
の差は歴然である
O
社団法人日本ボート協会(JA
RA) 日本のボート
略史
中国奏艇協会中国奏艇協会官方岡上
日本のボート競技を統括する組織である
1
1
8
中国と日本におけるボート競技者育成体制の比較研究
も 3大会連続出場となっており、両選手を
しずつ認められてきているが、中国・日本
超える若手の台頭が望まれている。当初は
をはじめアジア勢はトップとの差にまだ距
未知のスポーツと取り組み、幾多の苦難の
離があり、これからの競技力向上と選手発
道を辿りながら、今日ようやく世界の水準
掘・育成は大事な強化活動だと考えられ
に近づき、世界の仲間入りが出来るように
る
。
なったと考える一方で、世界で活躍できる
トップレベルの競技者を組織的・計画的に
n
. 研究目的
本研究は、世界で国際競技力の向上を見
育成する必要があると考えられる。
9
3
0年にイギリス
中国のボート競技は 1
せている中、中国と日本との聞において、ス
9
5
6年
、
人、ロシア人から中国に伝わった。 1
ポーツ事業の発展について着目する。特に
中国の杭州西湖で初めてのボート競技の試
日中両国のスポーツ選手育成システムの違
9
8
4年、ロサンゼルスオリン
合を行った。 1
いについて検討することを第一の目的と
ピックで、中国は、女子舵手つきフォア種目
し、より良いボート競技者を生み出すため
で第 8位を獲得し初めての入賞となった。
の選手育成システムの相違を分析すること
1
9
8
8年のソウルオリンピックでは同種目
を第二の目的とする。これまで、日本と中国
で銀メダルを獲得、女子舵手つきエイトで
のボート競技分野での選手育成に関しての
9
9
6年のアトランタ
銅メダルを獲得した。 1
研究はあまり蓄積されておらず、また日本
オリンピックでは女子ダブルスで銀メダル
と中国のボート競技についての現状はこれ
を獲得。中国のボート競技の発展は、中国の
からのアジアのボート界、世界のボート競
ポート競技の管理システムに従って曲折の
技力向上に繋がるものと考え、本研究は日
過程を経験してきている。
中ボート競技者育成システムに関する基礎
先に行われた 2
0
0
8年の北京五輪の準備
的な研究として位置付けられよう。
の際には、ボート競技の発祥の地といわれ
これらのことを明確にし、今後のボート
0
0
6年
るイギリスのイ一トンで行われた 2
競技者発掘・育成に大きく関与し、世界の
世界選手権大会で初めて五輪種目である女
舞台で戦う未来の競技者をより良くサポー
子軽量級ダブルスカル、男子軽量級舵手な
ト出来る体制を研究する。
しフォアで金メダルを獲得し、優秀な成績
を収めた。そして新たに 2
0
0
8年 8月 1
7日
、
E 研究方法
唐実・金紫蔽・柔愛華・張栃栃、この四人
本研究は日中のボート競技者の育成方法
は優勝を勝ち取った。中国ボート史初のオ
の違いに関することを明らかにする調査研
リンピックで金メダルという新たな歴史を
究である。具体的には、日本と中国の競技者
改めて作り出した。
育成システムの研究をはじめボート競技者
2
0
1
0年広州アジアボート競技大会では、
の環境・生活等の現状を明らかにし、これ
多くの種目で中国代表が金メダル獲得、入
から世界へ羽ばたく未来の有望な競技者へ
賞を果たしている。日本は出場種目 5種目
の競技力向上の手助けになればと考える。
においてメダルを獲得。アジアの中では日
1.文献資料法
中共に高い競技レベルにあると考えられ
2
. インターネット調査法
る
。
3
. ヒアリング調査法
1
9
9
6年アトランタオリンピックより軽
量級種目が採用され、アジア勢の成長が少
1
1
9
笹井ほか
N. 結果及び考察
校には部活動がある。その中でもボート競
日本と中国の競技者育成システムについ
技を選択する競技者はほとんどが高校から
開始する。これは何故かというと一つはボ
て
1
9
2
0年代以来、競技スポーツレベルの急
ート競技を行う環境である。ボート競技は
速な発展にしたがって国際間の競争は日々
水上スポーツであることから湖・川・海と
激烈になってきた。世界中の競技スポーツ
いった専用のコースが必要不可欠である。
強固はトレーニングの科学化を重視してき
よってボート競技を運動部として存在する
た。各国は、現代の先進科学技術をスポーツ
学校も限られてくる。その中から大学へ進
トレーニングの領域に積極的に活用し、科
学しボート競技を継続する競技者は減少傾
学的理論と方法及び先進技術と設備を用
向にある。そして小学校から中学校、中学校
い、競技者をトレーニングさせ、さらにスポ
から高校、高校から大学へと進学時に指導
ーツタレントの選抜を科学的トレーニング
が断絶するという欠点もある。競技者育成
の重要な部分にした。例えば、旧ソ連、ドイ
には指導者の一貫した指導方法を確立する
ツ(旧西ドイツと旧東ドイツ)、ルーマニア
ことも問題の一つである。
などの国々は、スポーツタレントの選抜を
これらのことを踏まえ、日本ボート協会
国としての重要な研究課題として、適切な
はオリンピックや世界大会への出場選手を
選抜制度を打ち立てた。
大会等によって各チーム・学校・大学から
中国では 1
9
8
0年頃から、スポーツタレン
選抜する。この時、競技者たちは、基本的に
トの選抜に関する研究が促進された。多く
は、金銭的に全て自己責任でまかなうこと
の研究者とコーチは外国のスポーツタレン
になっている。現在は五輪出場選手の強化
ト選抜に関する経験を学習した上で、長期
を狙って、「強化金」の支給等が行われるが、
的な研究と検討を加えることにより、スポ
原則的には大会参加や日ごろのトレーニン
ーツタレントを選抜する意義と選抜の仕方
グ、指導者の選択等、全て自己責任である
を徐々に明確にしてきた。
よって競技者らが五輪や世界大会に出場す
O
日本の競技者育成のシステムは大きく 4
るのも個人の資格ということになるし、そ
つに分けられる。1)ナショナルチーム 2)
こで優れた成績を収めれば、それは彼ら個
企業のクラブ 3)プライベートクラブ 4)各
人の功績となるのも事実である。ボート競
学校の代表チームの 4つである。 2)3)4)
技の大会によって賞金が出る大会は無く、
から国際大会に参加するため、各チームか
競技者の個人負担は疲労と同時に金銭的な
ら優秀な人材を選抜して、短期的なトレー
問題も多くあると考えられる。
中国には「挙国体制 J
というシステムがあ
ニングを千子い、1)ナショナルチームとして
試合にでる。しかし、このような各学校とア
る
。
マチュアクラブのトレーニングだけでは、
これは、中国におけるスポーツ選手は国
現在競争の激しい世界では、どうしてもス
家が育て、国家の為に競技を行い、その成果
ポーツ強国になるには難しい。
は国家に帰することが原則となる。そのた
日本は、基本的に小学校・中学校の義務
めに、国家は彼らに基本的な衣食住と豊か
教育を終え、高校そして大学へと進む。各学
な練習環境、指導者を提供する。最終目標は
オリンピックであり、そこで金メダルを取
r
曾凡輝.王路徳.邪文華他著.関岡康雄監修. ス
って、中国の威光を世界に示すことである。
ポーツタレントの科学的選抜J.道和書院 P
2
.1
9
9
8
中国の競技者育成システムは三つのレベル
1
2
0
中国と日本におけるボート競技者育成体制の比較研究
からなっている。この三つレベルの指導思
れ、「国家チーム jの一員として、超一流の英
想は「思想一章棋、姐奴一条北、洲捺一貫制。」
才教育を受ける。オリンピック・世界選手
である。これはつまり、「思想を一致させ、組
権などに出場するのも基本的に国家チーム
織を統一し、訓練を一貫する。」という方針
の選手から選出される。中国のボート競技
である。最初は才能がある子どもを選抜し、
大会では賞金がある。中国全国大会に出場
基本的なトレーニングをさせ、その中で優
し、一般的に 8位までに入賞すると賞金が
秀なスポーツ選手が生まれる。これを基盤
贈られ、優勝すると個人に対して 1万元以
とした広いピラミッドのようなスポーツト
上が贈られるという大会もあるという。
まとめると中国のボート競技者育成では
レーニングシステムである。これがまさに
競技者養成の基本となる「業余体育学校」→
軍事領域のような「挙国体制」である。
「省・市体表j→「国家代表」というピラミッ
表 1 中国の競技者育成管理システム
ド型の「三級制度」システムは確立されてい
一、初級トレーニング形式:小学校、中
ることがわかる。この三級制度は、オリンピ
学校、伝統的なスポーツ学校、アマ
ックで金メダルを取るためのものであり、
チュアスポーツ学校。
そのための「挙国体制」だと言える。このピ
二、中級トレーニング形式:重点アマチ
ラミッドに入れない者は、基本的には競技
ュアスポーツ学校、スポーツ中学校
者としての道を遮断され、ボートを含めス
三、高級トレーニング形式:県と市チー
ポーツとはほとんど縁のない生活を送るこ
とになる。すなわち、日本のような中学、高
ム、国家代表チーム
校には部活動と言われるものはなく、スポ
ーツと関わるといっても、休み時間に校庭
中国のボート競技者は各地方の水上運動
学校である業余体育学校へ入学する。入学
で身体を動かすというのが一般的である。
後は午前と午後に 1日 2回の練習が基本で
そして、高校時は、大学入試に向けた勉学に
あることが。そして夜には授業が行われる。
励むというのが中国人の一般的な姿であ
中国 S県ボートチーム N監督によると、 S
る。しかし N 監督によると、省・市の代表
県のチームには 6歳から加入している選手
チームや国家チームに在籍した競技者が、
もいるとのことだった。業余体育学校で優
引退もしくは突然ケガや何らかの原因で競
秀な選手は、今度は地域ごとに集められ、地
技を継続できなくなった場合、大学受験や
域代表選手として指導を受ける。最近のボ
就職することは非常に難しくなる。専門競
ート競技者の中には、陸上競技・バスケッ
技のコーチにも人数は限られている。これ
トボールを経験した競技者が、スカウトさ
はご承知の通り一日の半分をトレーニング
れ種目変更を行いボート競技開始すること
や食事・休息に費やし、一
があるという。スカウトする際には、保護者
では同世代の子との知識の差の聞きが大き
の身長・体重など身体測定も行われ、 10
くなってしまう。この事は、ボート競技に限
種類以上の項目があるとのことだった。競
らず、中国のあらゆる競技者に対して、そし
技者に対しては、身長・体重等の身体測定
てこれからの競技者に対しての大きな問題
は毎月行われ、競技の記録等が全部数字化
であると言える。
されているという。
ここで更に優秀な選手は北京へと召集さ
1
2
1
二時間の勉学
笹井ほか
V. まとめと今後の課題
日本国では、世界でも通用するトップア
るO そこから選抜された優秀な競技者で金
メダルを目指すことになる O
スリートを多く輩出するために多くの政策
つまり、日本はある程度スポーツの普遍
を打ち出している O 現段階でボート競技に
化が進んでいるのに対し、中国はエリート
関しては「競技者育成プログラム」はまだ構
化していると言える O 二つ目は、国のサポー
築されていないのが現状である O
ボート競技は、水上種目の為、湖や川とい
ト体制である。中国は国家が全面的に衣食
住のサポートするのが大きな特徴である O
った競技を行う環境がある学校へと限られ
競技者からすれば競技に集中でき、一握り
てくる O その上で、一貫指導システムの構築
である国家代表を目指す大きな力になり、
が遅れていることもあり世界で通用するた
五輪での金メダルという目標に精進出来
めの日本国独自のシステム構築が必要であ
る。しかし、一方で引退後や競技の道を外れ
るO 特に閏際競技力向上の観点からも国家
た場合は、その後の生活において厳しい状
規模のタレント発掘システムの構築が必要
態になるのも確かである O 日本は、競技者に
であると言えよう
対して、競技生活中は基本的に自己責任で
O
中国の競技者育成システムは大きく 3つ
ある O 金銭的なことから大会参加や日ごろ
のレベルからなっていることがわかった。
のトレーニング、全てが自己責任で貫かれ
1)初級トレーニング形式 2) 中級トレー
ている O しかしながら、引退後や競技を継続
ニング形式 3) 高級トレーニング形式
出来なくなった場合は、義務教育という制
これは低いレベルが高いレベルに従属す
度で基本的な勉学は培われているため次の
るという管理システムであり、旧ソ連から
人生へのステップは行いやすいと考えられ
学んだ、ものであった。中国における競技者
る。以上のことが明らかになった O
は国家が育て、国家の為に競技を戦い、その
成果は国家に帰することが原則となること
引用・参考文献
が大きな特徴である O そのために中国国家
1)曾凡輝.王路徳.耶文華他著.関岡康雄
は競技者に基本的な衣食住と豊かな練習環
スポーツタレントの科学的選抜J.
監修.I
境、指導者を提供する。最終目標はオリンピ
2
.1
9
9
8
道和書院 P
ックであり、そこで金メダルを取って、中国
2
) 国奏艇坊会中国奏艇坊会官方岡 (
2
0
1
1.
l0
)
の威光を世界に示すことである O
3
) 和久貴洋,
I
ジ、ユニアからの選手発掘を
日本と中国の競技者育成システムを比較
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o
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s[
s
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p
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] 国立ス
考える J G
すると大きな違いは 2つあると著者は考え
ポーツ科学センタースポーツ情報部.
るO
2
0
0
3
一つは、世界に通用する競技者の輩出方
4
)J
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nG
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.I
オーストラリアにおける
法である O 中国の競技者育成は三級制度を
. JISS国際スポー
タレント発掘モデル J
基本に、国家チームを目指し幼いころから
0
0
4
. P
1
3
.2
0
0
4
ツ科学会議 2
一貫した教育を受け、中国国家のためにオ
5
) 勝目隆ら,
I
タレント発掘プログラムの
リンピック金メダルを目指す。日本は、かな
必要性と可能性」種目転向プログラムの
りの割合で競技者が中学・高校時代に運動
構築に関する基礎調査仙台大学紀要第
部に所属し、程度の差はあれ、チャンピオン
3
6巻第 2号. 2
0
0
5
シップ形式の大会に出場する経験を持って
6
)妻
洋
,
I
中日スポーツ選手育成システム
の比較からJ.現代中国事情
大学へ進学、もしくは企業で競技を継続す
1
2
2
第2
3号
中国と日本におけるボート競技者育成体制の比較研究
(
2
0
0
9
.1
.
5
)
7
)日本経済新聞.1
有望なジ、ユニアを発掘 J
.
1月 2
9日朝刊. 2
0
0
4
8
)飯田 晴子 .
1オーストラリアにおけるタ
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a
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sR
o
o
t
s
.国
レント発掘の取り組みJ.G
立スポーツ科学センタースポーツ情報
部. N
o
.1
.
2
0
0
3
9
) 謝英2
1世会瑚我国克技体育管理体制与
話行机制比較研究.西安体育学院学技
2
0
0
2pl
11
4
1
0
)王氏侍,杵「樹,李貴成,嘆大利亜高水
平逗功員培葬体制調査研究,体育科学,
2
0
0
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1
7
1
9
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3