水と衛生シンポジウム 国際衛生年記念「アフリカとアジアへの行動に向けたプラットフォーム」 閉会ご挨拶 国連開発計画(UNDP)駐日代表 村田 俊一 本日の高村外務大臣の基調講演にもございましたように、世界の 6 人に 1 人は 安全な飲み水を得ることができず、2 人に 1 人は清潔なトイレすら利用できない のが、この世界の現実です。 安全な水の利用率が最も低いのはサハラ以南のアフリカですが、安全な水を利 用できない人の大半はアジアで暮らしています。 世界的な水危機は、貧困層に特に深刻な影響を与えています。不衛生な水など が原因の下痢で亡くなる子どもの数は、HIV/エイズで亡くなる子どもの数の5 倍にのぼっています。数百万人もの女性と女の子が、毎日 4 時間にもおよぶ水 汲みに時間を費やしています。開発途上国の住民の約半数が、水と衛生設備の 不備による疾病に苦しんでいます。 世界中の人々の必要を満たすための十分な水は地球上に存在しています。しか し、なぜ、こんなにも多くの人々が、安全な飲み水すら手にいれることができ ないのでしょうか。それは国家間、そして国内で水資源が不平等に分配されて いるからです。 飲み水と基本的な衛生状態を保つのに必要な水の量は1日 20 リットルです。開 発途上国の11億の人々がこの 20 リットルの必要最小限の衛生的な水を確保で きずにいます。一方、先進国ではトイレの水を流すのに1日平均50リットル を使用しています。日本人は1日350リットル以上の水を使用しているとい われています。 また、UNDP が去年発表した「人間開発報告書」では、もし二酸化炭素の増加 による気候温暖化がこのまま進めば、2080 年までに、水不足に苦しむ人々は 18 億人増加する恐れがあると分析しています。気候変動に関する政府間パネル (IPCC)によると、アフリカでは、水不足の危機にさらされる人々の数は 2020 年までに、最悪のシナリオで 2 億 5,000 万人に増加するとされています。 水不足か深刻化すれば、飲み水が利用できなくなる人が増えるだけではありま せん。旱魃により飢饉が発生します。国や民族間の水資源をめぐる争いが表面 化し、内戦が勃発したり、国際紛争に発展する危険性もあります。 先ほどもミレニアム目標(MDGs)のお話がありましたが、我々が直ちに行動 を起こし、ミレニアム開発目標(MDGs)に掲げられた数値目標を達成すれば、 今後 10 年間で 100 万人以上の命を救うことができるといわれています。 しかしながら、水と衛生分野は恒常的な資金不足に見舞われています。この分 野の公共支出は概ね GDP の 0.5%未満です。世界中の人々に、安全な飲み水と最 低限の衛生設備を提供するための費用は年間約 90 から 100 億ドルと試算されて います。これは、富裕国が毎年ミネラルウォオーターに費やす金額の半分以下 です。 また、水と衛生設備に関する数値目標を達成するために必要な投資1ドルにつ き見込まれる経済効果は8ドルと推定されています。何百人もの若い命を救い、 無駄にされている教育の潜在的機会を解き放ち、健康を奪う疾病から人々を自 由にし、そして繁栄をもたらす経済的利益を生み出すことのできる投資と考え れば、この 100 億ドルはそれほどたいした金額ではないでしょう。 水は国境を越えた、世界全体の問題です。世界中で200を超える水系が国境 をまたがって流れており、世界の12の主要な河川と湖は 100 か国が共有して います。 海に囲まれている日本も、世界の水問題と無関係ではありません。日本への輸 入品の生産には年間400億立方メートル以上の水が使用されていますが、そ れは開発途上国に住む約12億人が一年間に使用する生活用水に匹敵します。 すなわち、日本は、輸入を通じて世界の水資源に依存しているということにな るのです。それゆえ、日本は、水が貧困国を含む全ての国の人々にとって持続 的に利用できる資源となるように支援する責務を負っています。 日本は現在、水と衛生分野で最も多額の援助を行っている国で、この分野での トップドナーです。気候変動の影響を軽減し、世界の水危機を解決するために は、国境を越えた協力が必要です。先ほど、高村外務大臣から、今年開催され る、第 4 回アフリカ開発会議(TICAD IV)や G8サミットにおいて、日本は 「水と衛生」についての議論を主導していく決意を改めてお伺いし、ここにい らっしゃる誰もが、今年、2008 年は、日本のリーダーシップのもと、水と衛生 の分野でのばらばらな国際的努力をまとめ、政治的行動へと結びつけるために 中心的な役割を果たすことができる絶好の機会だと思われたのではないでしょ うか。我々、国際機関も日本と力を合わせ、世界の「水と衛生」の問題を解決 すべく更なる努力を行っていく決意を新たにする所存です。 日本のリーダーシップによって、国際社会が世界の水・衛生の問題を解決する には、 「全員参加型」の協力が不可欠です。ここにご来場の皆様に、国際社会が 「2015 年までに安全な飲料水と基礎的な衛生設備を継続的に利用できない人々 の割合を半減する」というミレニアム目標を達成するためのご理解とご支援を お願いして、終わりのご挨拶に代えさせていただきたいと存じます。 ご清聴、ありがとうございました。
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