連載24【施設支援実践論-初級編-その 10】

連載24【施設支援実践論-初級編-その 10】
長野見知的障害福祉協会会長 宮下 智(明星学園)
もう10年程前のことになりますが、
ことができると思います。
ある施設のこんな実践を聞いたことがあ
A男さんは、おもちゃのブロックをカ
ります。
「 夜 間 、ぐ っ す り 眠 る こ と が で き
チャカチャ鳴らし続けて深夜まで眠れな
るようにと、昼間はできるだけ身体を酷
い 夜 、夜 勤 の 職 員 に「 明 日 か ら 帰 省 だ ね 。
使するような作業を行っています」と。
また迷惑をかけると思っているのかな?
しかし、残念ながら、そんな努力にもか
大丈夫だよ、お母さん言っていたよ、帰
かわらず、その施設の利用者の多くの
って来るのを楽しみに待っているよ」と
方々が、眠剤を服用して眠りについてい
励 ま さ れ て 、安 心 し て 眠 り に つ き ま し た 。
ました。
B子さんは、いくら寝かしつけても布
また、こんな実践を聞いたことがあり
団の上に座り込んでウーウー大声を出し
ます。昼寝をしている利用者の方々を、
ています。
「大事なお父さんからのネック
「夜眠ることができなくなるよ」と無理
レスを職員がどこかに失くしてしまった
に起こして回る、時には冷たいタオルで
んだよね。本当にごめんね。職員みんな
顔を拭く、さらには頬っぺたをぺたぺた
で買って返すからね」職員の心からの謝
叩くことで目を覚まさせるということま
罪で眠りにつくことができました。
で …( こ こ ま で 来 る と 人 権 侵 害 で す )。し
C男さんは、深夜廊下を走り回ってい
かし、昼寝をしていない時でも夜間眠れ
ます。掲示してあるスケジュールを確認
ないときがあり、そんな時は、眠剤など
すると、明日に予定されている家族会の
の頓服を使用しても眠れないことが多い
行事の写真が忘れられています。職員が
のですから、結局は昼寝をしようがしま
慌てて用意すると、それを確認するよう
いが、夜間の睡眠には関係が無いという
に眺め、その後床につきました。
ことになります。
D男さんは、施設の行事で初めて舞台
さて、それはなぜなのか?それは次に
に立ちました。本人にとっては、とって
述べるような大原則を基に考えていくこ
も緊張する場面(失敗したらどうしよ
とでその答えを導くことができます。
う!?)でしたが、自己選択の結果選ん
肉体の疲れは、横になっていれば(横
だ道でしたら、最後まで頑張り通しまし
臥 し て い れ ば )と れ る が 、精 神 の 疲 れ は 、
た。その日彼はとても早い時間から床に
「眠る」
( 睡 眠 を と る )こ と を し な け れ ば
つき、翌日の17時まで眠り、その後食
とることができない、という原則です。
事を取った後、再び翌日の12時まで眠
そ し て 、眠 り に つ く た め に は 、
(ある程度
りました。いかに自己決定と自己責任が
の)充足した心理的な満足状態が必要な
脳みそを疲れさせるかが解るエピソード
ことは自明です。つまり、いくら肉体が
でした。そこで…。
過酷な労働で疲れていても、心が精神的
【神話その5】
「昼間身体を酷使す
な葛藤や不満、怒りや妬みを抱えていて
れば、疲れて夜寝ることができる」は神
は、眠ることができないし、眠ることが
話であり、
「豊かなコミュニケーション下
できないことでさらに心は(脳は)疲れ
での暮らしこそが、生活リズムを整え、
しまうということになります。統合失調
夜間も十分睡眠はとれる」が真実なので
症の方や気分障害の方が、いくら肉体を
す。豊かなコミュニケーションとは、支
酷使したからといって眠ることができな
持的な環境下での自己決定権のある暮ら
いのを想像すれば、このことは理解する
しのことです。
【連載バックナンバー掲載】 http://homepage3.nifty.com/myojo-satoru/sub12autism-0.htm