平成27年度卒業証書・学位授与式 式辞

奈良東大寺の二月堂のお水取りが終わる頃には冬が明けると言われていますが、よう
やくにして春の到来を肌で感じられるようになってまいりました。このよき日に、多く
のご来賓の方々並びに保護者の方々にご臨席を賜り、平成 27 年度卒業証書・学位記授与
式を挙行できますことは、教職員にとりまして大きな喜びといたすところでございます。
高いところからではございますが、最初にご来賓の皆様方にお礼を申し上げたく存じ
ます。公私ともどもご多用のなか、卒業生の前途を祝福していただくことになりまして、
誠にありがとうございます。感謝申し上げます。また、保護者の皆様には心からお祝い
を申し上げます。立派に巣立とうとしておられるご様子に、お喜びもひとしおのことと
存じます。誠におめでとうございます。
卒業生の皆さん、おめでとうございます。心からお祝を申し上げます。256 名の方々
が卒業されます。皆さんには2年間という短い修学期間でありましたが、卒業要件に加
え、免許や資格を取得するために努力されてきました。それだけではありません。課外
の活動においても、多くの方々が励んでこられました。文化活動では、コンテストで受
賞された方々がいます。スポーツ活動では、短期大学の全国大会において優勝された方
々、入賞された方々がいます。また、クラブ活動をまとめる立場で、全学的行事に力を
注いでこられた学生自治会の皆さんがいます。地域の企業や自治体との連携事業におい
て、先生方と一緒になって参画された人たちもいます。ボランティア活動を通して、各
地を回っている人たちもいます。このように、実にいろいろな活動に打ち込まれ、あれ
これ追い求めているうちに、あっという間に卒業を迎えられたというのが実感でないか
と思います。こうした活動を通して体で覚えられたことは、これからの歩みのなかで必
ずや生きてくることと確信をしております。
ところで、皆さんが踏み出される実社会は混沌としており、若者にとっては必ずしも
良い状況ではないと言われています。また、先行きの見えない「不安な時代」とも言われ
ています。そう言われる背景には、経済成長が停滞しているという要因もありますが、
そればかりではありません。むしろ、これまでの経済的、物質的な豊かさを追い求めす
ぎ、仕事することの意味、ひいては生きることの意味の価値が軽視されてきたのではな
いかという、そういったことに対する課題でもあるように思われてなりません。しかし、
どの時代にあっても課題を抱えるでしょうから、それはそれとしてしっかりと受け止め、
新たな仕事に向き合っていただきたいと念じております。社会人として歩まれる皆さん
に、元気よく踏み出していただくよう、3つのことについてお話したいと思います。
1つ目は、巡り会う仕事への向き合い方についてです。皆さんは、数多くある仕事の
なかから、これから勤めようとする仕事場に巡り会うことになります。そこでは、ある
部署に配属され、担当する業務が割り振られ、上司や同僚が決まります。そこには、皆
さんの意志の入り込む余地はほとんどありませんので、その仕事に適しているかどうか
は誰にもわからないことなのです。そこで、大切なことは、その仕事にどのように適応
していけるか、どのように向き合っていけるか、ということになります。
仕事に向き合うにあたっては、最初の数年の取組の大切さを強調される場合がありま
す。これまでに耳にしておられるかも知れませんが、それは「石の上にも3年」という諺
であります。この諺を強調される方に、建築家で、国際的にも高い評価を受けておられ
る安藤忠雄さんがおられます。安藤さんは、後年に東京大学の教授としても活躍されま
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したが、若い人たちへのメッセージに、この「石の上にも3年」をよく用いられていまし
た。ご自身が専門学校や大学で学ぶ機会に恵まれず、工業高校を卒業してから独学で学
ばれ、やがて世界に通じる建築家としての地位を築かれたこともあってのことと思いま
す。若い頃にこそ、辛抱してしっかりと仕事に対する基礎をつくり、その後の長い人生
の原点を作ることの大切さを説いておられます。ここでいう3年とは、「冷たい石でも3
年も座り続ければ暖まる」ということから転じていますので、多くの年月を要する例えに
用いられおり、「我慢強く続けることの大切さ」を意味しています。
ところが、辛抱してしっかりと、と言われると、ずっしりと重くのしかかってくるよ
うな感がしないではありません。また、新たな仕事は予測に反して戸惑う場合もありま
す。私自身もその例にもれず、新しい仕事に就いた折は躊躇してしまいました。それを
察知してでしょう。当時の上司は、最初の3年間を意識してその取組の大切さを語って
くれました。その取組は、皆さんにとっても参考になると思いますので、紹介すること
にします。「1年目は遅れてもいいですから、後ろにいてしっかりと覚えなさい。模倣で
いいのです。2年目は横並びの立ち位置になって、遅れないようにしなさい。3年目は、
いくつか先行できるようになりなさい。この3年間の取組がとても大切です」ということ
でした。そして、「この3年間の取組を経て、そこからが本当の意味での仕事になります。
自分なりに改善できるようになりなさい。自分なりに開発できるようになりなさい。自
分なりにわからないことを明らかにできるようになりなさい」と加えられました。私にと
っては、今なお、「3年後の取組」が続いていることになります。
2つ目は、将来に向けて思いを寄せる生き方についてです。この生き方については、
巡り会う仕事を通して、「こうなりたい」、「ああなりたい」という思いを、将来に向けて
願うこと、望むこと、その大切さを意味しています。具体的には、こういう栄養士にな
りたい、ああいうパティシエになりたい、こういう保母さんになりたい、ああいうビジ
ネスマンになりたいなどのように、思いを抱くことです。こういうとか、ああいうとか
と言いましたが、そこには職業的なスキルをどの程度に設定するかという課題がありま
す。私たちは「こうなりたい」と思う以上の者になれませんので、できれば少し大きな思
いを描けることが望ましいのではないかと思います。
思いを寄せる生き方については、京都セラミック株式会社、現在の京セラですが、そ
の創業者である「稲森和夫さん」が強調されています。稲森さんは若くして仲間数人と会
社を設立され、国際的にも信頼される企業に成長させてこられましたので、そこでのご
苦労があるように思われます。その思いについては、次のように語っておられます。「思
いというのは、いわば種であり、その種が人生という庭に根を張り、幹を伸ばし、枝を
張り、花を咲かせ、実をつける」という、そのための最も大切な要因となると言うことで
す。「こうしたい」、「こうなりたい」という思いが起点となって、年月はともかく、思い
描いたところに到達できるであろうということになります。ただしです。「そうできれば
いいなあ」という程度の思いではだめであって、ひたむきに思うこと、ひたむきに思い続
けること、そうなればその思いは生きる原動力になると言っておられます。ここで、ひ
たむきに思い続ける上で必要なものは何かを考えてみますと、知識でもなく、技術でも
なく、お金でもないように思います。それは、私たちそれぞれが描くことのできる内な
るエネルギーであると思われます。皆さんは、溢れんばかりのエネルギーをもっておら
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れます。この内なるエネルギーが思いを描く原動力となり、次になすべきことへ導いて
くれることになるのです。
3つ目は、本学の建学の精神である「心技一如」についてです。私たちが巡り会う仕事、
生活の糧となる仕事がどういう仕事であろうとも、自分のために働くということ、言い
換えれば、自分を磨くために働くということを心に留めてください。このことは、いつ
の時代であっても、どういう職種に就こうとも、どの国で仕事しようとも、共通のこと
と理解してください。自分を磨くためということは、仕事を通して身につけていく過程
での「人となり」、いわゆる「人間性」を指しています。このことについては、心を揺さぶ
られる言葉があります。松下電器産業の創業者の松下幸之助さんの言葉です。現在のパ
ナソニックですが、松下さんは大阪の町工場から世界の松下電器に導かれました。その
松下さんが、「松下はどういう会社ですか」と問われると、「松下は人をつくる会社です。
そして、電気製品もつくっています」といっておられたのです。始めに人づくりです。次
に電気製品づくりです。一流の経営者は、このように考えておられるのです。社会に出
ると、職業人として高いスキルを持っておられるの方々は、人間としての品性や品格を
併せ持っておられることに気づかれると思います。
社会人として、仕事に就こうが、家庭に入ろうが、よりどころにする指針としては、
建学の精神である「心技一如」を踏まえてください。心技の心は、心のはたらきとしての
品格や品性を表しており、心技の技は、生きるすべとしての能力、職業人としてのスキ
ルを指しています。心と技が相まって、「人となり」をつくっていくのです。生涯にわた
って、この「心技一如」を胸に刻んでくださるように願っております。
卒業生の中には、仕事に就く方ばかりでなく、4年制大学や専門学校に進学される方
がいます。また、仕事をアルバイト的に関わる人たちもいます。これまでお話ししたこ
とは、新たな環境において、仕事であろうと、学業であろうと、その取組は同じである
ということです。新たな取組を通して喜びが得られますよう、大いに期待しております。
結ぶにあたりまして、縁あって、このキャンパスで巡り会うことになった学友の皆さ
んとは、暖かい絆を持ち続けられますように願っております。また、2年間の学びを支
えていただいた教職員の方々に、そして今日まで何かと支えていただいた保護者の方々
に、感謝の念を忘れずに実社会に踏み出してください。卒業される皆さんの前途に幸多
からんことを祈念し、学長のおくる言葉としたします。
平成28年3月15日
滋賀短期大学学長
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佐藤尚武