女性法律家のネットワークを活かして

キャリアサポートセミナー
女性法律家のネットワークを活かして
2009 年 12 月 8 日(火)午後 6 時~ 於 弁護士会館 10 階 会議室
今年度も、司法修習生及び若手法曹を主な対象
頑張っているところである。
に、キャリアサポートセミナーを開催した。女性
検察官、弁護士、法学研究者という昨年までの四
検察官 52 期:東京・千葉等の地検で捜査・公
判に従事。
法務省刑事局、
大臣官房人事課で勤務。
者構成に加え、今年は、インハウスの経験のある
検察官の女性は増えており、配属のうえで女性
弁護士を含めた、5 名のゲストをお迎えした。ちょ
だからと区別されることはない。取調べにおいて
うど実務修習に入った 63 期のみなさん、法曹と
も女性が不利ということはない。男女気にせず事
して歩み出そうという 62 期のみなさんを中心に、
件の担当は割り振られる。ただ、強姦事件の被害
若手、ベテラン会員をあわせて 28 名の参加をい
者や特に家族からは、女性であることで、早く打
ただき、楽しくも充実した時間となった。以下、
ち解けられる、安心感を早めに与えられるという
ゲストの方々のプロフィールとお話を要約してお
ことで、感謝されるということはある。
法曹の働き方も多様化していることから、裁判官、
伝えする。
同期はほとんど結婚し、子どもがいる人も多い。
女性は 100%育休を取得している。長く休むと迷
裁判官 51 期:地裁民事部・刑事部・家裁を経
験し、現在は地裁民事部に所属。
惑をかけると考える女性もいるが、むしろまわり
法曹の仕事は女性としても向いている職業だと
同期の裁判官の夫との同居がむずかしいのは事
感じている。落ち着いてじっくり検討して結論を
実だが、配慮はしてもらっている。妻が働いてい
出し、判決や和解に至る。円満に解決できて「あ
る男性検事もいるので、特段女性が優遇されると
りがとう」
と言われたときはうれしい。
「裁判官は
いうことではなく、男女平等になるように配慮さ
怖いと思っていたが女性でよかった」と言われた
れている。
経験もある。
の理解がすすんできている。
長いキャリアを考えれば、いつ出産したからど
育児休暇は取りやすく、家庭との両立ができる
う、ということはない。いつでもそれなりの取り
環境が整ってきているように思う。1 年の休暇を
返し方がある。新任 1 年目の出産は避けるべきか
取らせてもらったが、むしろ復帰後の方が大変
など、あまり考えることではない。
だった。渉外弁護士の夫の帰宅は遅く、実家の母
子どもが小さかったので、
「海外での経験は後で
弁護士 46 期:4 年間の勤務弁護士を経て独立。
主な業務は家事事件や破産事件など一般民事事件。
役に立つ」と考えて同行した。このとき家族を優
勤務弁護士時代に出産し、4 ヶ月休んだ。何と
先したことが、帰国後の転勤に伴う別居生活を支
なく肩身が狭い思いをするよりよいのではないか
えていたように思う。転勤については、女性の割
と思い、事務所を移った。今の事務所は、先輩弁
合、妻が働いている男性の割合も増えてきている
護士が昭和 30 年代後半に開設した事務所で、女
ので、どうしても厳しく考えざるを得ない面もあ
性だけの事務所である。みんなで経費を出し合っ
るが、その時々の事情に応じて頑張っていくしか
て経営しており、共同経営者の一員である。
親に助けてもらった。夫が 2 年間留学したときは、
ないのではないか。
家庭と仕事の両立は、気負わないでやっていく
弁護士は、独立してしまえば時間の遣り繰りは
自由で、期日がなければ休むこともできるが、休
方がよいと先輩にアドバイスをいただいたことが
むと収入がなくなり事務所が維持できなくなる。
あり、今も自分にそう言い聞かせながら自然体で
今の状況で 1 年間休むのは収入的に厳しいと思う。
キャリアサポートセミナー
個人事業主なので、自覚しながらやっていくしか
には、女性であることで差別された経験のない者
ない。
も多い。しかし、社会には、均等法以前と全く変
子育てについては、夫や夫の実家に頼むうちに、
わらない差別の現実がある。皆さんが裁判所で出
子どもは大きくなった。出産が計画できるなら計
会う人たちは、そうした変わらぬ差別社会のなか
画してもよいと思うが、計画通りにはいかないこ
で生きている。自分の身の回りに差別はなくても、
とも多いので、出産することになったら休むこと
そうした差別に対して想像力をもてる法曹になっ
を周囲に早めに伝えるなど周囲に協力してもらい
て欲しい。女性法曹は現在でもマイノリティーだ。
ながらやっていくといいのではないか。
マイノリティーとして果たす役割が大きいことを、
どこかで意識して欲しい。
弁護士 53 期:企業法務・金融法務その他一般
民事に携わったのち、金融庁に 2 年間任期付
公務員として勤務。最近、弁護士として復帰。
感想など
修習担当の先輩女性弁護士にあこがれ、修習先
休を取る際の配慮、取るタイミングについて、
「そ
の事務所からスタートした。1 年後にその先輩女
ろそろ出産を」と促されている修習生・若手法曹
性弁護士に誘われ、事務所を開設した。6 年後、
から、切実な関心が寄せられた。これについては、
ゲストのお話のあとの質疑応答では、産休・育
再び先輩女性弁護士から
「女性なのでキャリアに
「早め」に職場に伝えるということに尽きるようだ。
なることはいくらでも経験した方がよい。
」
と背中
「早め」には、具体的な出産予定の有無にかかわ
を押され、公務員になった。
らず、「仕事はするが子どもも欲しい」という気持
金融庁では、未明まで役所にいることもたびた
ちを日ごろから隠さず周囲に伝えておき、周囲の
びという生活で、夫に平日の夕食をつくることは
人々を教育し、職場の環境づくりをしておくこと
全くできなかった。しかし、広く国民から注目さ
も含まれる。
れるなかで、弁護士では経験できない大きな仕事
離婚事件やDV事件で発生している逆上した夫
ができ、充実した生活だった。まわりは、志の高
から女性弁護士に対する暴力などのリスク回避に
い官僚の人たちであったが、特に女性キャリアが
ついても、裁判所の体制や弁護士会の取り組みを
活躍していた。独身や子どものいなかった同僚が、
含め、さまざまな具体的なアドバイスがあった。
その後、結婚、出産し、国家公務員であるので育
休もしっかり取っていると聞いている。
女性法律家が増え、よい先輩女性にも恵まれ、
若い世代の方々が仕事と生活を両立させておられ
人の縁で背中を押され、その結果、よかったと
ることがセミナー全体から感じられ、とてもうれ
思えるのは恵まれていると思う。金融庁に行った
しかった。しかし、数字的には、まだまだ女性法
ことで、ネットワークを広げることができた。
律家の割合は少なく、垂直分離は著しい。男性職
場でさまざまなかたちで苦労されている女性法律
法学研究者:ロースクール教授。専門は刑事法。
保護司、家裁調停委員・参与員等を務める。
家も多いだろう。社会の子育て支援も十分ではな
ロースクールの教育には、実務法曹がさまざま
の活躍が期待される場所も今後さらに多様になっ
な形で携わっているが、女性の実務家教員は少な
ていくだろう。これからも、女性法律家のネッ
いのが実情だ。女子学生の比率が高くなっている
トワークを広げ、女性法律家のキャリア形成をサ
なかで、女子学生は研究者教員も含めてロールモ
ポートしていくこうしたセミナーを、協会は続け
デルを見い出せない状況にある。ロースクールは
ていって欲しいと思う。
法曹と研究者の交流の場として重要だ。将来の職
い。実家が頼りの現実もある。また、女性法律家
文責:武田 万里子 ( 大学教員 )
業選択の一つとして、ロースクールで教える道も
考えて欲しい。
「ジェンダーと法」や
「少年法」を教えているが、
ロースクールにストレートで来ている学生のなか
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