中国での出産と子育て (2) 妊娠 - 定期健診

中国での出産と子育て
第2回 妊娠
-
定期健診、検査、薬、言い伝え
海外出産・育児コンサルタント
Care the World 代表
ノーラ・コーリ
【 定期健診
】
妊娠が確定し、ドクターが決まりましたら、次は定期健診です。検診の間隔は 7 か月目く
らいまでは月 1 回の健診です。8 か月、9 か月目からは 2 週間に一度の健診となります。そ
して 10 か月に入ると週に 1 度の健診になります。これは日本とたいして変わりません。た
だし、中国人のドクターによっては妊娠が順調に進んでいれば、引き続き 3、4 週間に 1 度
の割合でよいと判断します。
検診内容は尿検査、体重測定、血圧測定、心音チェック、子宮底測定、腹囲測定などがル
ーチーンで行われます。このあたりも日本とあまり大きな違いはありません。ただし、問診、
体重測定、心音チェックと簡単なところもありました。
体重管理においては日本ほど厳しく管理されません。日本では小さく産んで大きく育てる
という考えがありますが、中国ではおなかにいる間になるべく大きくしようという考えがあ
ります。そのため、食べろ食べろと勧め、体重増加もそれほど厳しく注意されません。また、
中国人のドクターは多くの患者を限られた時間で診なくてはならないので、こちらから積極
的に質問をしないと短時間で簡単に済まされてしまいます。
大きな違いは中国人が一般的にかかっている病院で健診を受ける場合の流れを把握するこ
とと心構えです。すでにすべて先払いであることと、混雑を覚悟することは前回医療システ
ムで述べたので、ここでは一般中国人がかかるある病院での体験に基づいた流れを紹介しま
す。まず診察代を支払ったら、診察室が並ぶ廊下に通されます。そこは妊婦のみとなり、ご
主人や付き添いの人は立ち入り禁止となります。それもそのはず、廊下は妊婦であふれてい
るからです。その間に血圧測定が行われます。これも並びます。いちいち名前は呼ばれませ
ん。カルテは全過程自分で持ち歩きます。なくしてはな
らないので皆さんしっかりとプラスチックのケースに入
れて、腕にかかえこんでいます。
ドクターにかかるときもちょっとしたテクニックが必
要です。まず 4 人ほど呼ばれます。名前を呼ばれるとみ
んな我先に診察室へかけこみ、席取り合戦が始まります。
血圧測定のために並んでいる そのため、呼ばれたらいつでも動ける体制でいる必要が
妊婦さんたち
あるでしょう。順番などは基本的に無視なので、常に早いもの勝ちです。中国人は常日頃そ
のような競争に慣れていますので、日本人はおちおちしているといつもびりになってしまい
ます。
診察室のドアはいつも解放されています。おもしろいことに順番待ちの妊婦さんたちは診
察中の妊婦さんと同じ空間にいるので、会話は筒抜けです。さらにおもしろいことに順番待
ちの妊婦さんが診察中の妊婦さんの相談内容に口を挟んでくることです。「私もそんなこと
があったわ。」というようにです。超音波画像で自分の子どもを見ている時も、順番待ちの
妊婦さんもいっしょに見ています。そのため、よく言えばグループ診療のような意見交換の
雰囲気がありますが、悪く言えばプライバシーなしです。
ただし、私が訪問した病院では内診などを行う診察台のコーナーだけはカーテンで仕切ら
れていました。しかし、病院によっては仕切りもカーテンもなく、下半身をあらわにした人
たちを横に周りの人たちが平気な顔でうろうろしていたということでした。
健診が終わった段階でドクターはいくつかの検査を言い渡すかもしれません。たとえば血
液検査と尿検査に回るように言い渡されるとしましょう。妊婦はその検査依頼書を持って、
まずそれらの検査の支払いのため列に並びます。支払いが済むと検査依頼書に支払い済みの
スタンプが押され、ここでやっと検査科に出向くことができます。
検査が終わったら、今度は結果待ちです。結果を記した紙を持って、さらにドクターに会
います。ここでも我先と順番を競うので、うかうかしていると自分の前に誰かがさっと並ん
でしまいます。ここで健診が終了となります。支払い、診察、検査、結果、さらに診察とい
うように待つ、待つで 1 日がかりです。このように毎回の定期健診ですら流れが複雑で、時
間を要するため、日本人がなぜ現地の人たちの 20 倍の診察料を払ってでも外国人待遇を選
ぶのかが納得できます。外国人待遇ではまず並ばなくて済みますし、夫も待合室や診察室に
入ることができ、プライバシーが保たれ、サービスが期待できます。そこが大きな違いです。
【 検査
】
多くの病院で、検査は専門の科に出向きます。つまり、診察室で検査は行われず、血液検
査をするところや尿検査をするところに出向きます。
<血液検査>
血液検査は 4 か月目と 7 か月目の最低 2 回
は行われますが、希望に応じてというドクタ
ーもいたのには驚きました。血液検査は銀行
の窓口のようなガラス越しで行われます。そ
のため、立ったままガラスとカウンターの隙
間から手を検査側に伸ばして、採血してもら
います。採血量が少なくてすむ検査では指先
から少しばかりの血液を採取していました。
ガラスの窓越しに立ったまま採血
<尿検査>
尿検査で驚いたことは採尿する容器の小さいことでした。これでは勢いよく出たら、手が
びしょびしょになってしまうと思いました。
そもそも私が訪問した病院ではトイレのドアに
鍵もないところがほとんどだったので、これで
はいつドアを開けられるか、落ち着いて採尿の
作業もできないと思いました。けれどもそれは
日本人だからそう感じるのであって、中国人か
らしてみれば、ドアがあるだけでもましと捉え
ていることでしょう。中国では公衆便所でもト
イレにドアがないのが一般的だからです。
この小さな試験管のような容器に採尿
<内診>
内診はほとんどのドクターのところで生まれる直前まで行われていませんでした。これは
世界のスタンダードに近いと感じました。日本は毎回内診を行うドクターもいるので、むし
ろ日本の方が世界のスタンダードからするとやや多いという印象を受けます。
<超音波検査>
超音波検査はドクターによりますが、まったく行わないドクターから希望をすれば検査に
回してくれるドクター、最低 2 回は行うというドクターとさまざまでした。ただし、日本と
比べたら、回数は少ないといえます。基本的には必要であればという考えのようです。それ
でも胎児の心音を確かめたり、動きを測定する検査、臨月にノンストレステストが行われて
います。画面が固定されている場合もあり、あえてお願いしないと胎児の画像は見せてもら
えません。なお、中国では超音波検査で性別がわかっても基本的には教えてくれません。そ
れは中国人が男の子を歓迎するため、女の子とわかると堕胎を選ぶ人がいるからです。ただ
し、外国人は特別なので、聞けば性別を教えてくれます。聞かなかった場合はあえて教えて
くれません。
医療診断装置においては、なかなか高度なものが備え付けられていますが、撮影技術や読
影技術においてはあまり高度な技術は期待できないとのことでした。機器のメンテナンスに
おいても疑問点を感じるという感想でした。
なお、外国人はお金に余裕があると見られていることから、特に高齢出産あるいはハイリ
スク妊婦には多くの検査を勧める傾向があります。そのため、何のための検査なのか、また
はたして本当に必要な検査かどうかも聞き、納得のいくうえで受けてください。特に外国人
専用の病院では後払いということもあるため、説明を受けていない高額な検査を知らずに受
けていたという方もいました。検査を受けた後で請求額に対して交渉するのでは遅いので、
ぜひ検査前に確かめてください。検査費用は産婦人科医が中国人か外国人かによっても異な
りますので覚えておいてください。
【 薬
】
日本では妊娠中は極力薬の服用を控えるようにと指導しています。漢方は西洋の薬と比べ
てからだにやさしいと言われています。そのため、妊娠中こそ中国ならではの漢方を試すチ
ャンスかもしれません。たとえばつわりの時、疲れたときなどは高麗人参やナツメなどを煎
じた滋養薬が効果を発揮するといいます。マッサージと合わせてつわりを乗り越えた人もい
ました。中には鍼を利用して高熱を一晩で治した人もいました。
どのような漢方薬がよいのかは産婦人科医に相談すると漢方医を紹介してくれます。中に
はあやしいと思われる高価な漢方薬も出回っているので、購入時には衛生局の認可があるか
確認してください。また、説明書をよく読み、効能、副作用、有効期限も服用前に確認する
必要があるでしょう。
なお、欧米で訓練を受けたドクターの場合は、総合ビタミン剤、葉酸などをルーチーンと
して出す傾向があるようです。
【 妊娠にまつわる言い伝え 】
おなかを見て性別を当てる
- 日本でも同じですが、中国でもおなかを見て性別を当て
ます。たとえばおなかがとがっているようですと産まれてくるのは男の子だろう、丸いと女
の子だろうと言います。フレンドリーな中国人ですとおなかを見て何か月?と聞いたあとに、
きっと女の子だね、などのコメントを付け加えます。
頭のよい子が産まれるために - 妊娠初期にくるみを食べると脳の発達によいという言
い伝えがあります。
男の子が生まれるために - 中国では男の子が生まれることを歓迎し、それは「出産」と言えば、
男の子が生まれることを意味するほどです。そのため、男の子が生まれるように妊娠中にひまわり
の種やすいかの種など種モノを食べたり、餃子を食べたりします。一人っ子政策が取り入れられ、
今では一回勝負なので、男子誕生への熱はさらに上がったように思えます。
ほかにも早く生まれるようにナツメを食べたり、子どもが順調に産み落とされるように落花生を食
べたりします。このような風習が中国では昔から続いています。そして妊婦はとても大切に扱われ、
冷えにもたいへん敏感です。服にしても重ね着をして暖かく過ごすように努めています。どの国にお
いても子どもの誕生は周囲の期待が大きいと感じました。
次回は実際に産まれる現場と入院中の様子をお伝えします。