臨床症例報告 7 右後肢大腿部にできた巨大な腫瘤 NJK 掲載:2007.10. vol.74 突然ですが、断脚だの顎を取るだの腫瘍外科はあまり かなかそうもいかないのが困ったところです。しかしな 気持ちの良い仕事ではありません。できることなら外観 がら癌治療において最大の外科治療がすべてではない 上の変化なく QOL を維持できれば最高なのですが、な ケースもあります。 症例 【プロフィール】 雑種犬(13 歳・去勢雄) 【主訴】 10 カ月前より右後肢大腿部にシコリがあり、大き くなるまで放置していた。 【局所所見】 大腿部外則に長径 15cm の巨大なやや軟性腫瘤が 存在し、可動性はあるものの一部は強度に固着し ている(図1、2)。 【一般検査所見】 膝窩・ソ径リンパ節腫大なし。 【細胞診検査所見】 単一非上皮系細胞群。細胞の形態は比較的均一。 図1、2.右後肢大腿部に巨大なシコリが存在 【画像検査所見】 腫瘤は軟部組織性で骨浸潤なし。その他転移所見 なし。 図3.単一非上皮系細胞群が存在 44 症例報告 7 右後肢大腿部にできた巨大な腫瘤 ■先生なら次のステップは? 以上の結果から良性・悪性を含む腫瘍性病変であり、 大きさから考えても切除は免れないと思われます (図4、 血管周皮腫:異型中程度 核分裂少数 5) 。では術式は? 断脚なのか局所切除なのか? このように、組織結果によって術式が大きく変わる場 コア生検のポイントは、生検を行った部分の皮膚は必 合は組織検査が必須です。とまあ堅苦しく言えばそうな ず一緒に切除しなければなりませんので、術者自身が行 のですが、実際頭の中では血管周皮腫など、そんなに悪 う方が有利ということです。そうすることで術者は手術 性度の高くない軟部組織肉腫を疑っています。その理由 を想定して生検ができるからです。私自身は生検時に生 は、 「老齢犬の四肢に発生、増大スピード、孤立性、軟 検針を挿入した場所が分からなくならないように、1糸 らかい、自潰がない」 などです。 縫合糸を掛けておきます。本症例の場合はどの道取らな 血管周皮腫のキャラクターは、比較的良性の挙動をと ければならない部位、自潰しそうもない固着している所 る軟部組織肉腫です。悪性ですから少なからず転移もし から採材します。 ますし、その確率は5%くらいと言われています。しか しながら術後の再発率が高く大きな腫瘍の場合、局所切 除のみではまず間違いなく再発するでしょう。ですから ■ 診 断 教科書的には断脚もありとされています。 血管周皮腫 T 4N0M0 本症例のような場合、後数年の余生を過ごすわけです が、転移性が低く悪性度も低い腫瘍ということを加味し て、本当に断脚をして根治を選ぶのか? 足は温存して 再発覚悟で騙し騙しいくのか? 後は担当医とご家族が ■ 治 療 十分に話し合って決定します。何が何でも治したいとい 本症例の場合は局所切除を実施しました。当然、手術 うご家族は事実存在します。 の目的は対症治療であり、再発前提の手術になりますの で十分にインフォームド・コンセントを行います。今後 ■ 病理組織検査 は騙し騙しコントロールするとは言っても毎月切除が必 コア生検を実施しました。その結果は… は手術を繰り返し行うことによって転移率が上がってし 要な手術はしてはいけません。なぜなら、軟部組織肉腫 図4、5.大きさから考えても切除は免れない。断脚か局所切除か? 45
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