Case 20: ドッグランで他の犬たちと楽しく遊ばせるには?

Case 20:
ドッグランで他の犬たちと楽しく遊ばせるには?
牧口 香絵
ペット行動治療コンサルテーション PAW and TAIL 代表
質問:ドッグランで他の犬たちと楽しく遊ばせるにはどうしたらよいですか。
生後5カ月になるメスのヨークシャー・テリア
(仮名:ショコ)を飼育しています。ショコを家族
の一員として迎え入れてまもなく、ウイルス性疾患にかかり長期入院をさせなければなりませんで
した。そのせいか、散歩デビューや犬友達を作る時期が遅れてしまい、つい最近になりやっと屋外
に出るようになりました。ショコにもお友達を作ってあげたい!という願いからドッグランにも連
れてくようにしていますが、ドッグランでは縮こまり私
(飼い主)のそばから離れようとしません。
どうしたらショコがドッグランで楽しく他の犬たちと遊ぶことができるようになりますか?
選ばなければ事故に巻き込まれる可能性もありますの
■ 回 答
で注意が必要です。
犬の発育段階の中で、生後3週齢から 12 週齢にあ
たる 社会化期 は重要な時期にあたります。この時
期に子犬が楽しみながらさまざまな刺激を体験するこ
とで、何事にもびくつかない柔軟性のある気質を形成
Diagnosis
社会化不足が引き起こす恐怖行動
させることが可能です。
反対にこの月齢に家の中に閉じ込めており、室内の
限られた刺激との接触しか経験させていないと、小さ
Advice 1:ショコちゃんに他の犬を慣らす適切な方
法について
な刺激に暴露させただけで不安が増大してしまいま
す。ショコちゃんのケースも乏しい社会化期を過ごし
てしまい、他の犬と遊ぶ楽しみやルール等を学ばずに
POINT !
社会化期が終了してしまったようです。
リードから離れた複数の犬(ドッグランを訪れた際
しかし、社会化期が終了してしまっても新たなもの
に会う刺激レベルのこと)に慣らすのではなく、まず
に慣れる能力がすべて消失したわけではありません。
は1匹適切な犬を見つけその犬に慣らすように心がけ
小さな刺激から徐々に順応させ、苦手なものを大丈夫
る。相手の犬は小型犬で他の犬を見ても吠えない、お
なものに切り替えることは可能です。ショコちゃんは
となしい個体が望ましい。慣れてきたら、別の犬との
他の犬を見て攻撃的な態度で相手を排除しようとする
交流を徐々に増やしてみる。
タイプではないので、慣らす相手を限定することによ
りお友達を作ることは可能です。ただし、ショコちゃ
■ 慣らす手順
んの飼い主が希望としている ドッグランで他の犬と
遊んでほしい
という願いの実現を目標にするには
1.上記に示したおとなしい犬(可能であれば月齢が
もっと時間が必要です。また、使用するドッグランも
若いほうが好ましい)とその飼い主に協力しても
※ NJK は、みなさんで作る雑誌です。症例紹介、御質問、御意見をどしどしお寄せください。応募、質問方法は投稿フォームを御覧ください。
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Aug 2008
らい、
公園でお互い距離を取り合い別行動する(初
装着させずに犬がのびのびと遊べる場所 という印象
めから強引に挨拶を強要させては逆効果。それぞ
がありますが、他の犬を攻撃したり、マウンティング
れがまるで無関心に公園を散歩しているような素
をし続けたり、威圧的に吠えついたりする個体は使用
振りをとること)
。慣れてきたら徐々にお互いの
できない場所だと考えてください。また、ドッグラン
近くを通過する。または、協力してくれた飼い主
内でボールなどのおもちゃの使用も注意をしなければ
とその愛犬がベンチに座っている(相手の犬が動
犬同士のケンカの原因になります。下記にドッグラン
いていないことがポイント)そばを通過したり、
を安全に楽しく使用するポイントを挙げてみました。
近寄ったりする。この際ショコちゃんが怖がらず
飼い主にアドバイスする時の参考にしてみてください。
相手を意識していたら飼い主は言葉で明るく誉
め、トリーツを与える。このようなレッスンを繰
り返し行う。
1. 愛犬はドッグランを訪れることを喜んでいます
か? 飼い主の足元から離れない、いつも不安そ
2. 1のような練習を重ねることで、相手に対する恐
うなそぶりを見せる、他の犬に追い回されている
怖心や警戒心は徐々になくなってくる。慣れてき
ようでしたら無理にドッグランに連れていく必要
たら、相手の飼い主からトリーツをもらったり、
はありません。別の場所で他の犬との交流を楽し
撫でてもらうという行動を相手の犬のそばでチャ
みましょう。
レンジさせる。他の犬と遊びたいかどうか(他の
犬に対する関心の度合い)はさまざま。お互い挨
2. 会員制であり、ワクチン(狂犬病、混合ワクチン)
拶をするだけ、またはそばにいるだけで満足する
の接種を確認できる個体のみが使用できるような
犬もいることも念頭にいれてほしい。愛犬の気持
ルールがあるところが適切です。
ちを尊重してあげることが大切。
3. 体のサイズ別にドッグラン施設が分かれていると
3. 他の犬との触れ合いに自信がついてきたら、別の
ころ、ダブルドアが設置されているところ、安全
犬と挨拶の練習を行い、徐々に複数の犬に囲まれ
を確保できる施設を選んでください(急斜面があ
た中で自分らしく振舞えるように練習を重ねる。
る、死角が多い、犬がすり抜けられるスペースが
遊びを誘うのが上手な個体が輪の中にいると、い
ある場所は不適切)
。
ままで遊ばなかった犬も遊ぶようになるケースも
ある。
4. ドッグランでは常に愛犬を監視してください。こ
れは安全を守るためにたいへん重要なことです
Advice 2:正しいドッグランの選び方と使用方法に
(以前愛犬が盗まれたケースもあります)
。
ついて
最近、ドッグランでの咬傷事故などのトラブルが急
貸切りドックラン、会員制ドッグラン、カフェに併
増しています。楽しく安全に施設を利用するために一
設されているドッグランなどドッグランにもさまざま
人ひとりが正しい知識を持って利用するべきだと感じ
なタイプがあります。ドッグランというと リードを
ます。
牧口 香絵(まきぐち・かえ)
獣医師、ジアス認定ペットアロマセラピーアドバイザー、AEAJ 認定アロマセラピーアドバイザー
ペット行動治療コンサルテーション PAW and TAIL 代表
1998 年麻布大学獣医学部獣医学科卒業。卒業後動物病院で勤務。その後アメリカ、NY 州コーネル大学獣医学部 Animal Behavior Clinic
にて、犬、猫、馬の行動学、しつけ、行動治療を学ぶ。帰国後、コンパニオンアニマルの問題行動に関する治療を実施。ハウスコール
(飼
い主の自宅でのカウンセリング)
、各病院でのカウンセリング、パピークラス
(仔犬のためのしつけ教室)
、院内セミナーを行っている。
AVSAB(アメリカ獣医行動学会)
会員。
神戸ロイヤルグルーミング学院、社団法人日本愛玩動物協会でしつけ、行動学の講師を務める。
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