2 0 1 1 年 映 画 興 行 上半期総括と下半期の予測

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≫ S p e c i a l I s s u e 2 0 1 1 年 9 月号
2011 年 映 画 興 行
上半期総括と下半期の予測
3D・東日本大震災・テレビ局主導映画ブームは、
どのように影響しているのか
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2011 年 映 画 興 行
上半期総括と下半期の予測
過去最大興収を記録した 2010 年
2011 年の上半期を総括する前に、まず前年を振り返ってみる。昨年 2010 年、年間興行収入は
2207 億 3700 万円、前年対比 107.1%。観客数は 1 億 7435 万人、前年対比 103.0%。興行収
入は史上最高を記録し、2 年連続で前年を上回る上昇トレンドにあった。この上昇の理由が 3D 映
画のヒットにあることは言うまでもない。「アバター」
(FOX / 09 年 12 月 23 日公開、最終興収
158 億円)
、
「アリス・イン・ワンダーランンド」
(ディズニー/ 4 月 17 日、118 億円)、
「トイ・ストー
リー3」
(ディズニー/ 7 月 10 日、108 億円)、「THE LAST MESSAGE 海猿」
(東宝/ 9 月 18
日、80 億 4000 万円)
、
「カールじいさんの空飛ぶ家」
(ディズニー/ 09 年 12 月 5 日、50 億円)、
「バイオハザードⅣ アフターライフ」
(ソニー/ 9 月 10 日、47 億円)といったヒット作が相次ぎ、
さらに、通常の入場料金に付加される 3D 上映の特別料金が上積みされ、興収を押し上げた。
2011 年は前年の勢いに乗れたのか
2 年連続の伸長を経て迎えた 2011 年冒頭、業界各社は、あと 10%伸びれば年間興収 2400 億
円、観客動員 1 億 9000 万人も夢ではないと考えた。しかし、嫌な予兆もあった。10 年末の超
大作「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1」
(ワーナー/ 10 年 11 月 19 日公開、興収 68 億円)
が急遽 2 Dのみの上映となったのがそれだ。わざわざ 3 D映写機を設備投資し、スクリーンを空
けて待っていた劇場の落胆は想像に難くない。また、興収 50 億円以上が期待された「SPACE
BATTLESHIP ヤマト」
(東宝/ 10 年 12 月 1 日)が 41 億円にとどまり、ここでも期待が裏切られ
ていた。その後も、「相棒—劇場版Ⅱ−」
(東映/ 12 月 23 日、31 億 8000 万円)、「「GANTZ」
(東
宝/ 1 月 29 日、34 億 5000 万円)と安定した結果を残しつつも、以前のような勢いは感じられな
かった。
邦画が以前ほどの勢いを感じられなくなったのは、2010 年の夏頃から。それ以前であれば 20
億円を超えられそうな作品が 15 億円前後にとどまるようになった。その理由として、ふたつのこ
とが考えられた。ひとつは、「アバター」で始まった “3 D映画旋風 ” によって、観客は映画本来の
持つスペクタクルの力を思い起こされたということ。製作費 100 億円を超える超大作のパワーが、
中規模の映画を蹴散らすようになった。ふたつ目は、「踊る大捜査線」
(98)によって口火を切ら
れたテレビ局が主導する映画が、10余年を経て煮詰まってきたということだ。映画観客の嗜好は“香
港映画ブーム ”、“ ホラー映画ブーム ” など、一定の周期で変化してきた。このところの邦画ブーム
も例外ではなく、転換期にさしかかったといえる。本来、テレビの無料放送と劇場での有料上映
の間には、明確な企画の差があるべきだが、そこが曖昧になりつつあるのが現在のテレビ局主導
映画の姿だ。自社番宣枠やバラエティ番組内でのキャスト稼動など、圧倒的な露出量で視聴意欲
を喚起してきたが、テレビサイズの映画(邦画)に製作費100億円超のハリウッド大作が並んでは、
観客の足が次第に洋画へ向いていくのは自然だろう。
東日本大震災が映画業界にもたらしたもの
3 月 11 日 14 時 46 分、日本の太平洋三陸沖を震源として発生した大地震は、東日本大震災を引
き起こし、甚大な被害をもたらした。そして、地震と津波により福島第一原子力発電所事故が発
生し、放射性物質漏れによる汚染が起きた。東北地方の多くの映画館が被災し、神奈川、千葉な
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どの映画館も地震の影響で休館を余儀なくされた。
また、
3月5日公開の「ドラえもん」
(東宝/ 24億4000万円)、地震翌日の12日公開「SP 革命編」
(東宝/ 33 億 3000 万円)は震災の影響をまともに受けた。それでも、この興行結果はかなりの
善戦だ。上映中だったクリント・イーストウッド監督の「ヒア・アフター」
(ワーナー)は津波のシー
ンがあることから上映打ち切りとなり、宣伝展開が進んでいた「唐山大地震」
(松竹)も公開延期
となった。
地震被害による休館は、ほどなく復旧できるが、地震を境に変化した国民の意識が元に戻るには、
長い時間が必要だ。震災後、西日本など被災を受けなかったところでも、一昨年、昨年とそれほ
ど内容の変わらない映画の観客が減少するようになった。そこには、数百年に一度とも、千年に
一度ともいわれる厳しい現実を前にして、自分が本当に求めているものは何かを見極めようとす
る、国民の意識の変化があったのではないだろうか。仮にそうだとすれば、慌てて付け加えたよ
うな “ 被災地を勇気付ける ” という宣伝コピーは、空々しく響くばかりとなる。映画を発信する側
にとっては「本当に伝えたいものを持っているか」を問われることに他ならない。
こうした意識の変化によると思われる影響は、特に邦画に現れた。4 月以降、昨年までなら 20
億円を超えたであろう作品が 15 億円前後に留まり、中には 10 億円にも満たない作品が出るよう
になった。ダウン幅は、単純に見積もって約20%。洋画では「パイレーツ・オブ・カリビアン」
(ディ
ズニー/ 5 月 20 日、90 億円超)、
「ブラック・スワン」
(FOX / 5 月 11 日、25 億円超)といったビッ
グヒットがある一方で、同時期の邦画にはひとつも見当たらないといったら分かりやすいだろう。
こうして 2011 年の上半期を振り返ると、洋画では「パイレーツ・オブ・カリビアン〜」、
「ハリー・
ポッターと死の秘宝 PART1」といったビッグヒットがあるものの、09 年の「カールじいさん〜」、
「アバター」
、
「アリス〜」には及ばない。さらに邦画も、10 年の「ONE PIECE 〜」
(東映/ 09 年
12 月 12 日 48 億円)、「のだめカンタービレ 前編」
(東宝/ 09 年 12 月 19 日、41 億円)、「のだ
めカンタービレ 後編」
(東宝/ 4 月 17 日、37 億 2000 万円)といったラインナップとは開きが
ある。シリーズものも「名探偵コナン〜」
(東宝/ 4 月 17 日、32 億円)、「ドラえもん〜」
(東宝/
3 月 6 日、31 億 6000 万円)と、前年よりも悪化している。
サマリーでは、上半期の東京ロードショウ劇場 81 館の集計で観客動員数 418 万 3995 人、
(前年 82 館、508 万 1746 人)82.3%。興行収入は 57 億 8677 万円、(前年 70 億 4109 万円)
82.2%となっている。ローカルは明らかに東京地区よりも厳しく、全体では 80%を割っているだ
ろう。このように、2400 億円、1 億 9000 万人を期待して幕を開けた 2011 年の上半期は、前年
対比で 80%程度の厳しい結果となった。
まとめると、洋画では昨年のような興収 100 億円超のメガヒット作が出なかったことと、邦画
に昨年並みのヒットが出なかったため苦戦。その背景として挙げられるのが、テレビ局映画の過
渡期(転換期)と、震災による観客の意識の変化、ということになるだろう。
2011 年下期は、前記のマイナスをリカバーできるのか
それでは、2011 年下期は、上記のマイナスをリカバーできるのか。まず、昨年の 6 月から 8 月
までの公開作のなかで興行収入が 10 億円を超えた作品を挙げてみる。
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洋画では、
「トイ・ストーリー 3」
(108 億円)、「インセプション」
(ワーナー/ 7 月 23 日、35 億
円)
、
「ソルト」
(ソニー/ 7 月 23 日、20.5 億円)、「セックス・アンド・ザ・シティ 2」
(ワーナー/
6 月 4 日、17.4 億円)、「ベスト・キッド」
(ソニー/ 8 月 14 日、15.2 億円)、「アイアンマン 2」
(パ
ラマウント/ 6 月 11 日、12 億円)、
「魔法使いの弟子」
(ディズニー/ 8 月 13 日、10 億円)の 7 作
品で、興行収入の合計は 218.1 億円。
邦画は「借りぐらしのアリエッティ」
(東宝/ 7 月 17 日、92.5 億円)、「踊る大捜査線 3」
(東宝
/ 7 月 3 日、73.1 億円)、「ポケットモンスター〜」
(東宝/ 7 月 10 日、41.6 億円)、「ハナミズキ
〜」
(東宝/ 8 月 21 日、18.3 億円)
、
「仮面ライダー」
(東映/ 8 月 17 日、14.7 億円の 5 作品、合
計 288.7 億円だ。
一方、2011 年の同時期はどうだろう。数字は推定である。洋画は、
「ハリー・ポッター〜」
(ワー
ナー/ 7 月 15 日、100 億円)
、
「トランスフォーマー/ダークサイド・オブ・ムーン」
(パラマウン
ト/ 7 月 29 日、45 億円)、「カーズ 2」
(ディズニー/ 7 月 30 日、28 億円)、「カンフーパンダ 2」
(パラマウント/ 8 月 19 日、20 億円)、
「スーパーエイト」
(パラマウント/ 6 月 24 日、17.5 億円)
の 5 作品で、推定合計 210.5 億円。前年に対して微減、もしくは同程度になる。
邦画は、
「プリンセストヨトミ」
(東宝/ 5 月 28 日、16 億円)、「パラダイス・キス」
(ワーナー/
6 月 4 日、14 億円)、
「アンダルシア女神の報復」
(東宝/ 6 月 25 日、19 億円)、
「ポケットモンスター
〜/黒・白」
(東宝/ 7 月 16 日、41 億円)、「仮面ライダー〜」
(東映/ 8 月 6 日、18 億円)、「コク
リコ坂から」
(東宝/ 7 月 16 日、50 億円)の 6 作品、推定合計 158 億円となる。邦画は、10 億の
ラインに届くかどうか、といった「こちら葛飾区亀有公園前派出所」
(松竹/ 8 月 6 日)、
「ロックー
わんこの島—」
(東宝/ 7 月 23 日)
、
「劇場版NARUTO」
(東宝/ 7 月 30 日)、「忍たま乱太郎」
(ワーナー/ 7 月 23 日)などがあるが、これらをプラスしても、前年に対して 80 億円ほど足りない。
夏興行を分析すると、まず「コクリコ坂から」、
「アンダルシア〜」が大きな誤算といえるだろう。
どうしても、昨年の「借りぐらしのアリエッティ」、前作にあたる「アマルフィー 女神の報酬」
(東
宝/ 09 年 7 月 18 日、36.5 億円)と比較してしまう。作品の質的な問題は別として、期待を裏切
る結果となっていることは間違いない。また、今夏興行の大きな特徴として見逃せないのが、週
毎に好不調が入れ替わったことだ。多くの関係者が首を傾げていたが、考えられる理由は、初日
の置き方に問題があったということだろう。強い作品が均等に並んでいれば、もっとバランス良
く動員できたのではないかと推測される。「ポケットモンスター」の同時 2 本公開も、昨年までの
1 本興行とほほ同程度に終わりそうだが、仮に 2 週間ほど公開がずれていれば、もう少し動員が増
えたのではないかと思える。恐らく、
「コクリコ坂から」と「ポケットモンスター〜」が競合しな
いように各社が調整を図った結果が、今夏の公開スケジュールになったのだろうが、かえって裏
目に出てしまった。いずれにしても 8 月までの累計では、興行収入ベースで前年対比 85%前後で
推移してきたといえるだろう。
9 月以降の予測も大きな期待は禁物か
昨年の 9 月以降は、邦洋ともにビッグヒットは少なかった。特に洋画のラインナップが弱く、
振り返ってみると、興行収入 10 億円以上の作品は、洋画では「バイオハザードⅣ〜」
(47.0 億円)、
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「ナイト&デイ」(FOX / 10 月 9 日、23.2 億円 )、「怪盗グルーの月泥棒」
(東宝東和/ 10 月 29 日、
12 億円)しかない。
一方、邦画は「THE LAST MESSAGE 海猿」
(80.4 億円)、「大奥」
(松竹=アスミック・エー
ス/ 10 月1日、23.2 億円)、
「悪人」
(東宝/ 9 月 11 日、19.8 億円)、
「BECK」
(松竹/ 9 月4日、
17.6 億円)、
「十三人の刺客」
(東宝/ 9 月 25 日、16 億円)、「君に届け」
(東宝/ 9 月 25 日、15.3
億円)
、
「インシテミル」
(ワーナー/ 10 月 16 日、12.2 億円)となっている。
2011 年の 9 月以降 11 月末までの 10 億超を期待できそうなラインアップは次の通り。洋画で
は「世界侵略、ロサンゼルス決戦」
(ソニー)、「LIFE 命をつなぐ物語」
(エイベックス)、「ワイル
ド・スピード MEGA MAX」
(東宝東和)、「スパイキッズ4 3 D」
(アスミック・エース)、「猿の
惑星」
(FOX)、「キャプテン・アメリカ」
(パラマウント)、「マネーボール」
(ソニー)、「三銃士 王
妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」
(ギャガ)など。
一方、邦画は「セカンド・バージン」
(松竹)、
「アンフェア 2」
(東宝)、
「モテキ」
(東宝)、
「一命」
(松
竹)
、
「ステキな金縛り」
(東宝)、「アントキノイノチ」
(松竹)、「RAILWAYS」
(松竹)などとなる。
洋画は昨年を上回る可能性が高いが、邦画が昨年並みを達成するには、かなりの “ 大化け作品 ”
が出ないと難しい。
こうしてみると、どうやら 2011 年は、前年対比で 80 〜 85%くらいに落ち着きそうだ。邦洋
の内訳は、洋画は微減、邦画は 75 〜 80%くらいか。数字にすると、年間興収で 1776 〜 1875
億円、観客動員数は 1 億 3948 万〜 1 億 4820 万人と見られ、年間興収 1828 億円だった 1999 年、
1708 億円だった 2000 年の頃に戻るような感じだ。これは、非常事態ともいえる水準である。当
時は邦画バブルが弾けて製作本数が減り、倒産する映画会社が続出したが、スクリーン数が 1.5
倍となった現在、今度は立ち行かなくなる劇場が出てくるかもしれない。
映画は企画から劇場公開まで、およそ 2 年ほどかかるものであり、巨大なタンカーが急に方向
転換できないように、すぐに方向性を変えるのは難しい。しかし、観客はそんなことに一顧だに
せず、常に新しいもの、今、この瞬間にフィットしているものを求める。洋画の製作については
ハリウッド本社の意向によるため国内で対応する術はないが、国内映画各社が邦画の観客の減少
をどう捉えるのかは、今後の映画業界にとって大きな問題だ。つまり、一過性のものと捉えるのか、
観客の意識の変化によるものと見るのかということだが、当研究所では、意識の変化による転換
期に来た可能性が高いと判断している。映画を発信する側は、本当に伝えたいものは何かを、改
めて見極めなければならな時期に来ているだろう。
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