課題番号: 16指-5 課題名: 精神遅滞症候群の認知・行動特徴に関する

課題番号: 16指-5
課題名:
精神遅滞症候群の認知・行動特徴に関する総合的研究
主任研究者:加我牧子
分担研究者:大野耕策 近藤郁子 中村みほ 萩野谷和裕 野村芳子
えるものと思われる。
1. 平成 17 年度の研究成果
2. 平成 18 年度の研究計画と期待される研究成
精神遅滞児・者の認知機能評価の特異性を明ら
果
かにするため非侵襲的な神経生理学的手法を確
精神遅滞症候群の認知機能と行動特徴を評価
立した。言語の意味理解と関係の深い事象関連電
し、背景にある脳機能障害を明らかにすることに
位 N400 を導入する際、課題を聴覚的、視覚的、
よって治療への展望を開くために研究を継続す
聴覚+視覚の同時提示した時の3つの場合を比
る。認知機能の他覚的評価のための神経生理学的
較することでモダリティ別認知能力の優位性を
方法の開発をさらに進める。WS については顔の
発達障害児で評価できることを明らかにした。す
認知について特徴の細部を明らかにすることを
なわち視覚性 N400 が不良である発達障害児にお
めざす。PWS の行動異常について原因を明らかに
いて聴覚情報を追加することで学習効果が向上
していくとともに遺伝学的背景をより明らかに
することを期待できることを他覚的に明らかに
していく。いくつかの代表的な疾患特に WS につ
した(加我・稲垣)
。ターナー症候群は視覚情報
いては診断根拠と認知の特徴と遺伝学的背景に
処理に関わる認知機能が相対的に低く、聴覚情報
ついて全国規模の調査を計画したいと考えてい
る。
処理機能は比較的良好なことが示された。この認
遺伝子異常との関連も考慮しつつ各疾患群の
知機能特性が性腺機能不全に伴う脳の側性化の
認知機能障害の特徴を明らかにし、
治療法開発に
未発達が関与している可能性があることを指摘
有意義な情報を与えるものと思われる。
した(加我・相原)
。
Williams 症候群(WS)は視空間認知機能障害
の他、他者と共通のものへの興味・共感を示す「共
同注意」の有無が言語表出に強く関わっていた
(中村)。
Prader-Willi 症候群(PWS)は注意欠陥多動性
障害(20.6%)、自閉性スペクトラム(12%)、その
両方(12.5%)といった発達障害の診断条件を高
率に満たしており、social interaction の障害
は、母由来染色体のダイソミー例で有意に高く、
行動特徴が遺伝子によって決定されている可能
性があった(大野)
。
Angelman 症候群では小脳の低代謝と側頭葉底
部の軽度低代謝が認められることがあり小脳の
低代謝は失調と、側頭葉底部の低代謝は自閉的な
行動様式に関連することが示唆された(萩野谷)。
レット症候群は四つ這いの障害を示すがロコ
モーションセンターである中脳脚橋被蓋核(PPN)
自体の異常でないことを証明した(野村)。
Weaver 症候群は極端に恥ずかしがる性質があ
るが、Sotos 症候群患者の頑固な性格と異なるの
で臨床症状の類似点はあっても、原因遺伝子が異
なる事が示唆された(近藤)。
以上のように、精神遅滞疾患群の認知・行動特
徴について明らかにされた諸事実から、病態診断
に基づく治療法を開発する上で貴重な情報を得
ることができた。本研究班では、遺伝子異常との
関連も考慮しつつ各疾患群の認知機能障害の特
徴を明らかにし、治療法開発に有意義な情報を与
3. 行政施策への貢献度
精神遅滞は全人口の1%以上存在しており、特
徴的な精神遅滞症候群における認知機能評価法
の確立とそれに基づく治療法の確立は直接的に
教育方法の開発と適応に応用が可能であり、医
療・教育施策に大きく貢献する。
4. 研究発表
1)田中恭子,稲垣真澄, 加我牧子:精神遅滞の医
学的診断検査について.小児科臨床 58:461-465,
2005.
2)加我牧子,稲垣真澄,田中恭子,堀口寿広:精
神遅滞.脳と発達 37:139-144,2005.
3)加我牧子, 稲垣真澄, 堀本れい子, 加賀佳美,
鈴木聖子, 羽鳥誉之:誘発脳波と発達―視聴覚刺
激による事象関連電位 Mismatch negativity と
P300 の発達. 臨床脳波 47:403-412.2005
4)NAKAMURA.M, The MEG response to upright and
inverted face stimuli in a patient with
Williams syndrome. Pediat Neurol 34.inpress