論理を考えよう『考えるイルカ』

栄区教育研究会国語部会報告
横浜市立庄戸中学校 小山田洋美
1 日 時
平成22年11月9日(火)5校時
2 会 場
2年2組教室 (男子13名、女子16名、計29名)
3 授業者
小山田 洋美 ・ 鈴木 典子
4 単元(教材)名
五 論理をとらえよう『考えるイルカ』
村山司
5 生徒と題材
活発で元気の良い学級であり、何事にも集中して積極的に取り組める層が授業を引っ張っている。しかし、読解
に苦手意識を持っている生徒が少なくない。これは、問われたことに正対した答え方ができていないのが原因とい
う場合が多い。また、問題文を読むだけでは問われていることの意味を理解できず、詳しく解説を受けて初めて「そ
ういう意味か」と納得する場面がかなり多く見られる。このような場面は国語に限らず見られ、生徒の読解力を伸
ばす必要性を強く感じている。この文章では何が述べられているのか、この質問は何を問うているのかを正確にと
らえる力を伸ばしたいというのが、生徒と教師共通の願いである。
現在国語科ではT
Tで授業を行っており、そこで見えてきたのは、生徒のつまづきの多くが「文章を整理してとらえられていないこ
とによるものが多い」ということである。大まかな内容は理解できているものの、どういう経緯でその結論に至っ
たかという筋道や、因果関係などを説明するとなると、あやふやになってしまうという傾向が見られた。
この単元では、「論理を吟味する」ということを主眼にしている。では「論理を吟味する」とは具体的にどん
な言語活動を指すのかを次のように定義した。
① 筆者の論の展開の仕方をとらえる
② 何が筆者の考察で、その根拠としてどんなことを挙げているのかを明確にする
この『考えるイルカ』は、筆者の「イルカは賢いのだろうか」という疑問に結論を出すために、判断材料として
実験等を挟んだ額縁構造の文章となっている。判断材料つまり根拠の部分も、「実験→実験の結果を受けての筆者
の考察→そこからさらに考察したこと→そう考える根拠」という展開になっており、論の展開も明快でとらえやす
い。しかし一方で、推移性を利用した実験の説明の部分などは、意味を理解しづらいと感じる生徒も出てくると思
われる。そのため流れ図で実験を整理するという活動と、実験結果に対する考察と根拠をはっきりと区別しながら
とらえていくという活動で、論理を明確にしながら読み進めていく方法を身につけさせたい。
6 単元の目標
(1) 筆者の論証の仕方について、自分なりに整理することができる。(関心・意欲・態度)
(2) 訓練や実験の結果を整理してとらえ、まとめ直すことができる。(読むこと)
(3) 筆者がどんな根拠に基づいてどう判断しているかを理解することができる。(読むこと)
(4) 用語の定義や使い方の一貫性、断定を避ける文末表現など、筆者の言葉の使い方に着目し、言葉への意
識を持つことができる。(言語事項)
7 単元の指導計画と評価規準(総時数 4時間)
目
標
学 習 活 動
1 作品の大まかな構
造をとらえ、筆者の
論証のしかたをつ
かむ。
・『考えるイルカ』の範読を聞き、内容
を読み取る。
・筆者の問い(「イルカは賢いか。」)と
答えが、実験を根拠として額縁構造と
なっていることを確認する。
関心・意欲・態度
)
(
2 筆者の論証の仕方 ・訓練と一つ目の実験について、図やフ
を確かめるために、 ローチャートに整理をする。
「実験1」を整理し ・実験1の結果を受けて筆者が考察した
ながら読む。
こととその根拠を挙げる。
・課題につい
て自分の考
3 「実験2」を整理し、 ・前時を参考に、二つ目の実験を整理する。 えをもとう
それをもとに筆者 ・実験2の結果を受けて筆者が考察したこと としてい
本 の考察について吟 とその根拠を区別しながら読み取る。
る。
時 味する。
・イルカの賢さについて筆者がどう考え
ているかや、そう考える根拠を整理し ・友だちの考
てまとめる。
えを聞き、
自分のもの
4 論理の吟味の仕方 ・論理を吟味するときの着眼点として次
の見方や考
を確認し、それを生 のポイントに注目し方法をつかむ。
え方を広げ
かしながら根拠を
(ウ・エは前時までの確認)
ようとして
もって自分の考え
ア 用語の定義や使い方
いる。
述べる。
(例.「訓練」と「実験」の使い分け)
イ 極端な一般化がされていないか
(例.断定を避けた文末表現や、断定しない理由)
ウ 判断や結論に根拠があるか。
エ 筋道に無理がないか。
評価規準
読むこと
言語事項
構造を把握し、筆
者の考えの根拠が
三段論法の実験に
あることを理解し
ている。
実験の手順をと
らえ、まとめ直
すことができて
いる。
筆者の考察につ
いて、その根拠
となる実験結果
や事例を指摘で
きている。
筆者の考察や根
拠と、それを述
べる言葉の使い
方を見比べ、妥
当かどうか吟味
している。
・『考えるイルカ』を読んで考えたこと
を、根拠を示しながら述べる。
8 本時について(3/4)
(1) 目標
「実験2」を整理し、それをもとに筆者の考察について吟味する。
用語の定義や
使い方の一貫
性、断定を避
ける文末表現
など、筆者の
言葉の使い方
に着目し、言
葉への意識を
持つことがで
きている。
(2) 本時の構想
先に述べたように、「論理を吟味する」ということを、具体的な言語活動として
①「筆者の論の展開の仕方をとらえる」
②「何が筆者の考察で、その根拠としてどんなことを挙げているのかを明確にする」
と定義した。
本時はまず①「「筆者の論の展開の仕方をとらえる」ために、筆者が二つ目に行った実験を流れ図でノートにま
とめ、整理することとした。実験により何がわかったのかを整理することで、その後の筆者の考察への流れが見え
やすくするためである。前時に実験1を流れ図に整理し、まとめ方はつかんでいると思われる。しかし、これまで
文章構成をとらえるための学習は、まず段落の要点をまとめ、次に段落相互の関係をつかみ、最後に言葉で整理し
てまとめる、という手順で行っていたので、図で簡単に整理するという方法に戸惑いを感じる生徒も出てくると思
われる。
しかし、
文章を簡単な図式で表すという活動は、
今後プレゼンテーションなどでも必要になってくるため、
その有効性がわかるように説明したい。
実験について整理した後は、②「何が筆者の考察で、その根拠としてどんなことを挙げているのかを明確にす
る」活動に取り組む。考察と根拠を混同してしまう生徒が出てくることが予想されるので、実験の結果(イルカは
アルファベットから対応するものを選ぶことに失敗)から、筆者はどう考察したのかという考察1(推移性が分か
るとされるイルカでも逆方向に考えることは苦手らしい)が導き出された、という点をまず明確に押さえたい。そ
うすることで、より混同しやすいであろう考察2(その理由は、イルカの生態に起因しているのではないか)とそ
の根拠(逆方向に考える経験が乏しいという予想も、区別しやすくなると考える。
(3) 本時の評価の観点と具体の評価規準
具体の評価規準
読 おおむね満足できる(B)
Bのうち十分満足できる(A)
む ・実験2を流れ図にまとめ、結果 ・前時の学習をもとに、実験結果を根拠に
を受けての考察とそう考える根
考察1が述べられ、また考察2とその根
こ
拠について、読み取っている。
拠が続いているということを自分の力で
と
読み取っている。
支援を要する生徒への手立て(C)
・前時のノートを参考に、流れ図
での表し方を例示する。
・具体的に読むべき段落をヒント
として与える。
(4) 本時の展開
段階
学 習 内 容
時間
導 1 本時の学習目標を
入 把握する。
5
分
学 習 活 動
留意点・支援○、評価■
・前時の学習内容「実験1」についてまとめた図や 考
察とその根拠を確認する。
・本時は「実験2」について同様に整理し、考察や 根
拠を吟味していくことを理解する。
■本時の流れやねらいが理解できたか。
意欲 (観察)
○前時にまとめたものを例として掲示する。
「実験2」を整理し、筆者の考察について吟味しよう。
・「実験2」にあたる部分を読む。
2 「実験2」につい
て図などで整理する。
展
開 3 結果と、考察につ
35 いて読み取る。
分
○「吟味する」=「考察と根拠を明確にする」
とし、「考察」「根拠」の意味を確認する。
実験2の内容を、整理して流れ図で書きましょう。
【期待する生徒の反応】(筆者の考察)
■どんな実験だったかを図にまとめている
か。
読むこと (ノート)
結果はどうでしたか、また、それを受けて筆者はどう考察しましたか。
[考察1]
・(「逆ができないのはなぜだろう。」)
○結果と、筆者の考察を板書する。(考察を明
→「逆方向にものを考えるのは苦手らしい。」
確にすることで、根拠を探しやすくなる)
[考察2]
・「苦手な理由はイルカの生態に起因しているのでは。」
それぞれの考察の、そう考えた根拠は何ですか。
4 筆者が二つの考察 【期待する生徒の反応】(考察の根拠)
○「逆方向が苦手らしい」の根拠は実験結果で
の根拠として挙げて
[考察1の根拠]
あることを先に確認する。前の実験同様、結
いるものをそれぞれ
・「アルファベット→ものができなかったこと。」
果を受けて考察しているという形をまず押さ
挙げる。
[考察2の根拠]
える。
・「魚の群れ→海鳥の群れと思い浮かべるだろうか。」
■実験2を受けて筆者が考えたことと、その考
・「サメ→仲間の血のにおい、とは頭にないはず。」
えを裏付ける根拠を読み取っている。
読むこと (ノート)
終 5 イルカの賢さにつ
筆者はイルカの賢さについてどう述べていますか。
末
いて筆者がどう考え
また、そう考える根拠として何を挙げていますか。
10
ているか、またそう考 ・第一時で読み取った考察を確認する。
■筆者の考察について、その根拠となる結果や
分
える根拠をまとめる。 ・⑳以降を読み、根拠を探す。
事例を指摘しているか。
読むこと (ノート)
【期待する生徒の反応】(考察の根拠)
・「高い様々な能力の反面、子どもでもわかることができない。」
・「ハイイロホシガラスより私たちが劣っていると言えるか」