運星の相

第 47 回天野杯ドイツ語弁論大会
第 1 部指定テキスト
運星の相
星占いで運命をみてもらう人たちに、コイナさんは、ある格別の幸運なり不運なりのお
きた、ある過去の日付を、占星術家たちにいってごらんなさい、と頼んだ。
占星術家は天宮図によって、その幸運なり不運なりを、多少とも明らかにすることが、
できるはずだった。コイナさんはこの提案によって、成果をほとんどおさめなかった。と
いうのは、星占いの信奉家たちが星の吉なり凶について占星術家から受けとった報告は、
質問者の体験と合致しないものであったが、しかしそのとき、占星術家たちは、星は或る
幾つかの可能性を示しただけであって、これら幾つかの可能性は所与の日付において、こ
とごとく存在していたかもしれないと、ぷりぷり怒って、いったからである。これをきい
て、コイナさん、いかにも意外だという面持をうかべ、さらに一つの質問を発した。
「どうもわたしにはわからないのですが」
と、かれはいった。
「あらゆる生物のうちで、どうして人間だけが、天体の運行に影響されるのでしょう。星
のもつエネルギーはそう簡単に動物をほうってはおきますまい。ここにひとりの人間がい
て、この人は水がめ座であり、それが牡牛座のノミを一匹、もっているとして、その人間
が川でおぼれるとしたら?ノミは、吉の運星かもしれないのに、いっしょにおぼれるでし
ょうね。こういうことは、わたし、きらいです。
」
(出典:ベルトルト・ブレヒト(長谷川四郎訳)
『コイナさん談義』、未来社、1963 年、p.90-91。
)