欧州市場を見る眼~現地からの報告 - HSBC Global Asset Management

ご参考資料
Europe Insights
欧州市場を見る眼~現地からの報告
HSBC投信株式会社
2016年7月
<要約>
• 英国の欧州連合(EU)離脱を巡る不透明感から域外の企業はEUにおける投資を手控える可能性がある。
このリスクへの短期的な対策として、財政支出拡大や減税をはじめとする財政政策の積極化が考えられる。
英国とEUの交渉は長期間を要する可能性があり、暫く不透明感の強い状況が続くとみられる
• 英国企業と比較して欧州大陸企業は成長性とバリュエーションの魅力が大きいことを勘案すると、欧州大陸
企業の株式は英国株式に比べ売られ過ぎている。割安感がある欧州大陸企業の株式は今が買いの好機との
見方もできる
• EUから主要国が離脱するのは初めてとなるため、社債市場では、短期的には先行き不透明感から値動きの
荒い展開が続くことが予想されるが、引き続き選別的ながらも強気な見方を維持
今月の注目テーマ:英国のEU離脱後の欧州における政策対応の展望
英国民投票での欧州連合(EU)離脱派の勝利を受けて、
英国とEU諸国の成長率見通しは下方修正された。英国
とEUは離脱と新たな貿易協定について交渉を進めるこ
とになるが、その期間と交渉結果を巡る不透明感は企
業や消費者の景況感にマイナスの影響を与え、企業は
欧州での投資や雇用を手控える可能性がある。景気の
先行き不透明感に配慮して、各国中央銀行は長期間に
亘り政策金利を低水準に維持し、追加緩和を実施する
可能性がある。経済見通しが悪化すれば、短期的に一
段の景気刺激策や投資促進政策が実施される可能性
もある。短期的には、主にビジネスのしやすさと人件費
の低さの2つの基準で、企業がビジネス拠点を英国から
EU加盟27ヶ国に移す動きが出てくることが考えられる。
財政政策を通じて景気を下支え
2016年年初は好調であったものの、今後は英国のEU
離脱を巡る不透明感から域外の企業はEUにおける
投資を手控える可能性がある。このリスクへの短期的
な対策として、財政支出拡大や減税をはじめとする財政
政策の積極化が考えられる。また、ユーロ圏で景気
回復の腰折れ懸念が強まれば、加盟国の安定化プロ
グラム(中期財政計画)を緩和し、財政規律違反に対す
る制裁が留保されることも考えられる。
EUの「安定・成長協定(SGP)」では、予想外に経済に
打撃を与えるイベントが発生し、財政悪化につながる場
合、財政ルールを柔軟に適用する柔軟条項が設けられ
ているが、現時点では加盟国が協調して景気対策を
実施する可能性は低い。しかしながら、ユーロ圏全体で
は、対外純資産はプラスであり、経常収支も黒字(2016
年は対GDP比+3.5%となる見込み)、政府債務残高と
財政赤字は相対的に低く、2016年はそれぞれ対GDP比
当資料の「留意点」については、巻末をご覧ください。
+69.3%、-1.9%となる見込み (1) であるため、財政政
策の発動余地は比較的大きい。現在、EU加盟国の財
政支出の約10%が2014~2020年の「欧州構造投資基
金(ESIF)」を通じたインフラ投資に充てられている。さ
らに、2015年に始動した「欧州投資プラン(IEP)」 (2) は
2017年までの3年間で従来のほぼ2倍の規模となる総
額3,150億ユーロの投資を実現する計画である。IEPは
主に民間資金により賄われ、公的資金を活用する場合
はSGPの投資に関する柔軟条項が適用される。また、
EU加盟国間で法人税率の差が大きいため、その他の
積極的な財政政策として減税が考えられる(次ページ
図1参照)。
但し、これらの政策が企業をつなぎ留め、企業誘致を
する上で役立つかについては議論の余地もある。経済
のグローバル化が進む中で、通貨安競争と同様に減
税競争も当該国双方が不利益を被り、また各国の政策
への不透明感や不信感が、貿易障壁の増加や規制強
化、関税引き上げ等の報復措置につながる可能性が
ある。
(1) IMF World Economic Outlook (April 2016)
(2) 欧州投資プラン(IEP)では、エネルギー、広帯域ネットワーク、輸送
インフラ、教育、研究・革新技術、再生エネルギー、エネルギー効率
などの分野に注目。欧州委員会(EC)による2015年「年次成長報告
(Annual Growth Survey)」を参照。
http://ec.europa.eu/prioritiessites/beta-political/files/investmentplan-eu-wide-state-of-play-june2016_en.pdf
最近新たに欧州財務理事会(EFB)が設置され、財政
政策の協調と透明性の向上が図られている。EU加盟
国間の競争ではなく、協力を促進することに重点が置
かれている。
図1: 2015年のEU加盟国の法定実効税率(付加税を含む)
%
40
30
EU条約第50条が発動され、2年間の離脱交渉が開始
される時期によるが(EU加盟27ヶ国が同意する場合に
延長可能)、英国が単一市場に残るのは2019年までと
なる可能性がある。新たな自由貿易協定の締結は数
年を要するとみられる(EUとスイスとの間の協定は10
年、カナダとは5年を要した)。英国の金融機関のEU単
一パスポートとユーロ取引を巡る議論は白熱すること
が予想されるが、結果の予測は極めて困難である。
20
安い人件費
企業が事業継続にあたり考慮すべきもう一つの要素と
0
して人件費がある。比較的低賃金で教育レベルが高
い労働力は明らかな強みであり、その面でギリシャ、ポ
ルトガルおよびドイツは有利な立場にある(図3参照)。
2005年にドイツで実施されたハルツ第Ⅳ法には派遣労
働の段階的な規制緩和、職業訓練、失業給付に関す
出所:Eurostat Taxation Trends in the European Union(2015年報告書) る法律の厳格化が含まれた。これらの改革により賃金
をもとにHSBCグローバル・アセット・マネジメント(フランス)が作成
上昇圧力が緩和され、失業率は2005年3月に12.1%の
ピークをつけた後、2016年6月には6.1%と過去最低水
欧州でビジネスがしやすい環境を整備
英国のEU離脱によりEUは最もビジネスがしやすい 準まで低下した。他の欧州諸国による最近の労働市
加盟国の一つを失うことになる。英国のビジネス環境 場改革への取り組みも(スペインとポルトガルは2012
ランキングは世界6位であり(図2参照)、競争力の 年、イタリアは2015年、フランスは2016年)、企業の立
向上や企業の取り組みの促進に成功していることを示 地選択に影響を与える可能性がある。また、EU域内に
している。英国は概してこの分野における政策改革を おける人の自由な移動、雇用と福祉に関する平等な権
強く支持してきた。近年、ユーロ圏において市場や 利 は 、 英 国 ( 2001 ~ 2015 年 の 賃 金 上 昇 率 は 年 率
労働の規制緩和が進んでいるが、2010年以降は進展 3.2%)とドイツ(同2%)における賃金上昇圧力の緩和
が遅れており、なお改善余地は大きいと言える。ビジ に寄与したと考えられる。英国民投票では移民規制の
ネス環境ランキングから企業がどの国で事業を展開し 強化と主権回復が主な争点となったが、英国は移民政
たいか推察できるが、英国のEU離脱後に加盟国の 策を見直すとみられ、これが長期的に労働市場に影響
首脳が協調して一貫性のある政策を実施できるか等、 を与える可能性がある。
図3: 2001~2015年の賃金上昇率(年率)
新たな要素により、この見方が変わる可能性がある。
フランス
ベルギー
ドイツ
ポルトガル
ルクセンブルグ
%
出所:世界銀行(2015年6月)のデータをもとにHSBCグローバル・
アセット・マネジメント(フランス)が作成 http://www.doingbusiness.
org/rankings
スロバキア
スロベニア
フィンランド
英国
ルクセンブルグ
スペイン
アイルランド
1.8 2
イタリア
ギリシャ
ルクセンブルグ
イタリア
スロバキア
ベルギー
スウェーデン
スペイン
フランス
オランダ
ポルトガル
オーストリア
ドイツ
アイルランド
フィンランド
0
英国
20
1.2
オーストリア
40
フランス
60
4.7
3.4 3.5
3 3.1 3.2
2.5 2.5 2.5 2.6 2.6 2.8
ベルギー
2015年6月
オランダ
2010年6月
80
6.1
ユーロ圏
100
ドイツ
7
6
5
4
3
2
1
0
(順位)
ポルトガル
図2: 欧州各国のビジネス環境ランキング
ギリシャ
ギリシャ
スペイン
オランダ
オーストリア
スウェーデン
英国
ハンガリー
チェコ
ポーランド
ラトビア
リトアニア
アイルランド
10
出所:Eurostat(2016年7月7日時点)のデータをもとにHSBCグローバ
ル・アセット・マネジメント(フランス)が作成
英国とEUの交渉は長期間を要する可能性があり、現
時点で結果を予測することはほぼ不可能である。今後
英国の輸出全体(財とサービス)に占める対EU輸出の
18ヶ月間に複数の国で選挙が予定されているため、こ
割合は45%だが、英国を除いたEU加盟国の輸出全体
れらが終わるまで交渉妥結の可能性は低い。但し、
に占める英国向け財・サービスの直接輸出と間接輸
英国とEUの関係当局は、英国のEU離脱が域内経済と
出の割合は約12%である。但し、これは国による違い
加盟国の結束にマイナスの影響を与えることを十分認
が大きいことにも注目すべきだろう。アイルランド、マ
識している。したがって、英国とEUは交渉の早期妥結
ルタ、キプロス、ルクセンブルグ、デンマークおよびオ
が双方の利益になると考える可能性はある。
ランダは英国との貿易面での結びつきが強い。また、
結局、英国のEU離脱後は各国の国内政策の枠組み
EU主要国の中では、ドイツとスペインは対英輸出への
が大きな違いを生むことになると考えられる。最近の
依存度が高い。一方、英ポンドの対ユーロでの下落は、
傾向をみると、EU関係当局は加盟国との交渉に応じる
少なくとも英国が単一市場に残る間は英国の輸出競
用意があり、最終的には国内の状況に配慮したEU政
争力を高めるとみられる。
策ルールの弾力的な適用を認める可能性がある。
当資料の「留意点」については、巻末をご覧ください。
2
欧州株式市場:英国のEU離脱が市場に与える影響は過大視されているか
• 英国民投票の結果を受けて、1)ドル高・ポンド安、2)貿易障壁、3)労働者の移動、
4)英国の低成長が企業収益に与える影響が経済面での大きな関心事となってい
る。しかし、全体として、英国とアイルランド以外の国を本拠とする欧州企業の英国
における売上高構成比はかなり低い。実際、大きな影響を受けるのは欧州大陸諸
国の企業ではなく、英国企業である。英国企業にとり唯一のプラス材料は自国通
貨安とされるが、これも常に正しいとは限らない。例えば、英国の食品・総合小売
業は仕入れの大半が米ドルベースであるため、実際はポンド安によりマイナスの
影響を受ける。
• 投資家の間で英国のEU離脱が他のEU加盟国に波及するとの憶測が広がってい
るが、懸念されるのは必ずしも経済リスクではなく、加盟各国の政治リスクとEUの
結束が弱まるリスクだろう。
全体として、英国と
アイルランド以外の国
を本拠とする欧州企
業の英国における
売上高構成比は
かなり低い
図4: 地域別売上高構成比
100%
80%
60%
40%
20%
0%
ヨーロッパ大陸
英国
北米
その他
出所:データストリーム、UBS 欧州株式戦略(2016年6月29日時点)のデータをもとに、HSBCグローバル・
アセット・マネジメント(フランス)が作成
欧州債券市場:6月の動向と今後の見通し
英国のEU離脱と中央
銀行の金融政策の
動向が引き続き市場
の方向性を左右した
欧州国債市場の動向
• 6月23日の英国民投票でEU離脱派が勝利したことを受けて、ユーロ圏加盟国の10
年物国債利回りが急低下した。英国とEUとの間で協議される新たな協定だけでな
く、交渉に要する期間を巡る不透明感は企業の景況感に加えて、域内の投資、雇
用、景気にマイナスの影響を与え、ユーロ圏のインフレ率に下押し圧力がかかる可
能性がある。
• ユーロ圏加盟国の10年物国債利回りは25~30ベーシスポイント低下した。現在、ド
イツ10年物国債利回りは-0.15%で、スペイン10年物国債利回りは1.24%である。
また、イタリア10年物国債利回りは1.35%であるが、同国の政治リスクの高さと銀
行問題を背景に、利回りの低下幅は他の投資適格級の国々に比べ小さかった。
図5: ドイツ国債の利回り曲線
%
1
0.8
0.6
0.4
0.2
15Y
0
10Y
-0.2
3Y 5Y 7Y
20Y
30Y
-0.4
-0.6
-0.8
2016年6月30日
2016年5月31日
30/06/2016
31/05/2016
-1
※上図は過去の実績であり、将来の成果を示唆・保証するものではありません。
出所:ブルームバーグ(2016年6月30日時点)のデータをもとにHSBCグローバル・アセット・マネジメント
(フランス)が作成
当資料の「留意点」については、巻末をご覧ください。
3
前回の危機と異なり、
マーケットメーカーの
保有する社債の在庫
は少なく、投資家は
豊富な資金を有する
ため混乱は直ぐに収
まった
社債市場は値動きの
荒い展開が続くと
予想されるが、引き
続き選別的ながらも
強気な見方を維持
欧州社債市場の動向
• 欧州中央銀行(ECB)の社債買入れプログラム(CSPP)は利回り上昇の抑制に寄
与し、6月は欧州社債が欧州株式を大きくアウトパフォームした。投資家心理の変
化を最も反映する社債インデックスであるMarkit iTraxxクロスオーバー・インデッ
クスの6月末時点のスプレッドは366ベーシスポイントであった。英国民投票の翌
日にスプレッドが120ベーシスポイント拡大し、一時440ベーシスポイントを付けた。
• しかし、英国のEU離脱交渉には長い時間がかかるとの認識が投資家の間に広
がるとともに懸念が後退、6月最後の3日間に相当程度値を戻している。前回の
危機と異なり、マーケットメーカーが保有する社債の在庫が少なく、投資家は豊
富な資金を有するため、混乱は直ぐに収まった。当然のことながら銀行の劣後債
が最も大きな影響を受け、英国とイタリアに加えて、スペインも度合いは小さいな
がら打撃を受けた。
今後の見通し
• EUから主要国が離脱するのは初めてのことで、手続きがまだ試されておらず、
交渉には数年を要する可能性がある。このため、社債市場では先行き不透明感
から、値動きの荒い展開が続くことが予想されるが、当社では、引き続き選別的
ながらも強気な見方を維持。但し、欧州周辺国ではボラティリティの高い状況が
続くとみられる。
• 当社がポートフォリオに組み入れ、英国の国内景気の影響を受ける発行体は、
国民投票の結果がもたらす変化に上手く対処できると考えている。特に銀行は、
2014年と2015年のイングランド銀行(BOE)が実施したストレステストに合格した
が、当時想定されたシナリオは2016年と2017年に見込まれるものよりはるかに厳
しかった。
• 欧州社債のファンダメンタルズとテクニカル要因は引き続き良好だが、スプレッド
は発行体の信用力からみた適正水準から乖離する傾向がある。特に、弁済順位
が低い債券のリスクプレミアム(事業会社が発行するハイブリッド証券や保険会
社の社債)は魅力的な水準にある。過去12ヶ月間のデフォルト率は2.5%と引き続
き低水準にあり、CSPPは年後半のスプレッドの大幅な拡大を抑制し、景気が悪
化すれば追加緩和が実施される可能性もある。
• なお、夏休みシーズンの到来により新規発行額は極めて少ないとみられるため、
流通市場におけるスプレッドの拡大は抑制されよう。
当資料の「留意点」については、巻末をご覧ください。
4
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