数学集中講義 格子点の図形的考察 1 ∼平面上の格子点の配置∼ 吉田

数学集中講義
格子点の図形的考察 1 ∼平面上の格子点の配置∼
吉田 信夫
座標がすべて整数であるような点を格子点という.
平面内の特定の領域にある格子点の個数を求める問題
は,よく目にする.
解 図のように正方形で
q
囲むと,正方形の周および
らを加えても 366 を得ることはできる.しかし,k を
2 や 3 で割った余りによる場合分けが必要になり,面
倒になる.
%
内部にある格子点の個数は
問題 2. 座標平面内で格子点のみを頂点にもつよ
$
31 ∑ 31 = 961
うな正三角形は存在するか.
である.ここから,三角形
OAB の周,内部に含まれな
2
p
Ê 3ˆ L
Ê 1ˆ L
Ê -2ˆ
L
OA = 10 ÁÁ ˜˜ ,OB = 10 ÁÁ ˜˜ ,AB = 10 ÁÁ ˜˜
Ë 2¯
Ë 3¯
Ë 1 ¯
刻み”に格子点がある ).
よって,線分 OA,OB,AB 上には,端点も含めて 11
個ずつの格子点がある ( 周全体には 30 個 ).
q
b
$
2
p
1 つが原点であるとしても一般性を失わない.残りの 2
頂点を A(a1 ,a2 ),B(b1 ,b2 ) (a1 ,a2 ,b1 ,b2 は整数 )
とする.すると,線分 OA (OB,AB) の長さの平方
は正の整数である.また,三角形 OAB の面積
GOAB =
GOAB =
1
a b - a2 b1 ……… (*)
2 1 2
は有理数である.しかし,三角形 OAB の面積は
$
よび内部には 11 ∑ 31 個の格
p
OB 上には 11 個の格子点が
ある.対称性から,左上の三角形内の格子点の個数は
11∑ 31 - 11
= 165
2
である.同様に考えて,右下,右上の三角形に含まれる
格子点の個数は,それぞれ,
のとき,平行移動して,頂点の
%
を頂点にもつ長方形の周お
2
%
在しないことを示す.
OA2 = a12 + a22
O,(10,0),B,(0,30)
子点がある.また,対角線
q
角形が存在すると仮定する.こ
ずつの格子点がある ( 各線分上には,
“この方向ベクトル
解 1. そのような正三角形は存
格子点のみを頂点にもつ正三
から,線分 OA,OB,AB 上には,端点も含めて 11 個
れる格子点を数える.
注 三角形 OAB の周および内部の格子点で,直
線 x = k (0 ≤ k ≤ 30) 上のものの個数を求めて,それ
れる格子点の個数を求めよ.
うち,左上の三角形に含ま
である.よって,求める格子点の個数は
である.
を頂点とする三角形 OAB の周および内部に含ま
まず,除くべき格子点の
31∑ 21 - 11
21∑ 11 - 11
= 320 ,
= 110
2
2
961 - (165 + 320 + 110) = 366
問題 1. xy 平面で 3 点 O,A(30,20),B(10,30)
いものの個数を引けば良い.
大学への数学 10 年 8 月号 掲載
1
3
OA 2 sin 60 ∞ =
OA 2
2
4
と表すこともでき,無理数である.
これは不合理であり,仮定は誤りである.
よって,頂点が格子点のみの正三角形は存在しない.
* *
sin60∞ が無理数であることが論拠である.これを少し
違う側面から見ると,次のような解法が考えられる.
集中講義∼格子点∼
解 2. 格子点のみを頂点にもつ正三角形が存在すると
仮定し,さきほどと同様に点 O,A,B を設定する.さ
一方,空間内でも,有理点を結ぶ線分の長さの平方は
有理数である.
らに,線分 OA を原点の回りに 60∞ 回転したら線分 OB
になるものとして一般性を失わない.
問題 2 ¢¢. 座標空間内で有理点のみを頂点にもつ
ような正五角形は存在するか.
Ê b1 ˆ Ê cos 60 ∞ - sin 60 ∞ˆ Ê a1 ˆ 1 Ê a - 3 a ˆ
Á 1
2˜
Á ˜=Á
˜Á ˜
˜
Á b ˜ Á sin 60 ∞ cos 60 ∞ ˜ Á a ˜ = 2 ÁÁ
Ë 2¯ Ë
¯Ë 2 ¯
Ë 3 a1 + a2 ˜¯
において, 3 が無理数であり,(a1 ,a2 ) π (0,0) であ
3
解 cos36∞ を求める.
るから,b1 ,b2 の少なくとも一方は無理数である.しか
図のような 1 辺の長さが 1 の正
し,b1 ,b2 は整数であるから,不合理である.
五角形において,対角線の長さを
よって,頂点が格子点のみの正三角形は存在しない.
x (x > 1) とおく.すると,図の
* *
QR = QS = PS = 1,
ような点 ) で考えよう.
SR = x - 1
有理点 A(a1 ,a2 ),B(b1 ,b2 ) を結ぶ線分の長さの平方
4
6
)
)
5
である.三角形 PQR と三角形 QRS が相似であるから,
は,三平方の定理より,
x : 1 = 1 : x - 1 \ x( x - 1) = 1
AB2 = (a1 - b1)2 + (a2 - b2)2
となるから,有理数である.また,(*) と同様,有理点の
みを頂点にもつ三角形の面積は有理数である.
\
\
x=
形 ABC (AB = AC) があれば,面積公式:
x2 - x - 1 = 0
1+ 5
( x > 1)
2
である.よって,三角形 PST に注目して,
よって,平面内で有理点のみを頂点にもつ二等辺三角
cos 36 ∞ =
A
x 1+ 5
=
2
4
であり,これは無理数である.
1
AB 2 sin A
2
2GABC
\ sin A =
AB 2
および,余弦定理:
GABC=
有理点のみを頂点として正五角
$
o
形を作ることができるなら,図の
AB 2 + AC 2 - BC 2
cos A =
2AB∑ AC
2AB 2 - BC 2
2AB 2
)
7
p
ように二等辺三角形を作って,
一般に,有理点 ( つまり,座標がすべて有理数である
=
o
ような二等辺三角形を,有理点の
B
C
ººº (# )
から,sinA,cosA は有理数となる.
逆に,頂角の正弦または余弦が無理数になる二等辺三
角形は,有理点のみを頂点として作ることができない.
ところで,次元を 1 つ上げて,
問題 2 ¢. 座標空間内で有理点のみを頂点にもつ
ような正三角形は存在するか.
みを頂点として作ることができる.
すると,AB2,BC2 は有理数に
なるので,(#) から,cos36∞ が有
%
&
理数になってしまう.これは不合理である.
よって,有理点のみを頂点にもつような正五角形は存
在しない.
* *
(*) から分かるように,格子点のみを頂点にもつ三角形
の面積は,
1
の自然数倍である.このことをより深く掘
2
り下げてみよう.
なら,答えは「存在する」である.例えば,
A(1,0,0),B(0,1,0),C(0,0,1)
とすれば良い.空間では,頂点が格子点ばかりでも,三
角形の面積が有理数になるとは限らないのである.
問題 3. 座標平面内に格子点 A,B がある.
GOAB =
1
ならば,三角形 OAB の周および内部
2
にある格子点は O,A,B のみであることを示せ.
集中講義∼格子点∼
解 対偶を示す.
となる整数 s,t,u,v が存在して,v ¥ (1) - t ¥ (3),
2
三角形 OAB の周または内部に
頂点以外の格子点 D が存在すれ
s ¥ (3) - u ¥ (1),v ¥ (2) - t ¥ (4),s ¥ (4) - u ¥ (2) から,
$
ば,三角形 OAB は 2 つ以上の小
(sv - tu)a2 = - t,(sv - tu)b2 = s
2
三角形 ( 頂点は格子点 ) に分割で
(sv - tu)a1 = v,(sv - tu)b1 = - u,
%
'
を得る.4 式を用いて右辺が sv - tu になるようにすると,
'
1
きる.各小三角形の面積は の
2
$
%
1
自然数倍なので, 以上であり,三角形 OAB の面積は
2
1
1 以上となる.つまり,GOAB = ではない.
2
対偶が示されたので,これで題意は示された.
* *
(sv - tu)2(a1b2 - a2b1) = sv - tu
となる.ここで,sv - tu = 0 としたら s = t = u = v = 0
となり,(1),(4) に矛盾する.ゆえに,sv - tu π 0 で,
(a1b2 - a2b1)(sv - tu) = 1
∴
a1b2 - a2b1 = 1 または - 1
( ∵ a1b2 - a2b1 ,sv - tu は整数 )
次に, 問題 3 の逆を考えよう.
である.よって,
問題 4. 座標平面内に格子点 A,B があり,三角形
OAB の周および内部にある格子点が O,A,B の
GOAB =
である.
* *
みであるとする.
(1) すべての格子点 P は,整数 s,t を用いて,
L
L
L
OP = s OA + t OB
と表せることを示せ.
(2) GOAB =
L
これを用いて 問題 1 の答えを確認するために,多角
形に関する公式を紹介しよう.
多角形の周および内部に点をとり,これらを頂点
1
であることを示せ.
2
L
1
1
\ a1b2 - a2b1 \ = 2
2
とする小多角形に分割すると,以下が成り立つ:
( 点の個数 ) - ( 辺の個数 ) + ( 多角形の個数 ) = 1
……… ($) L
解 (1)点 C を OC = OA + OB で定めると,C は格
子点で,平行四辺形 OACB の周および内部にある格子
点は O,A,C,B のみである.
例
q
図のように,これと合同な
平行四辺形で平面全体を覆い
尽くせる.各平行四辺形の頂
点は格子点であり,周および
%
&
$
2
p
内部に格子点は存在しない.
よって,任意の格子点 P は,どれかの平行四辺形の頂
点になるので,ある整数 s,t が存在して,
L
L
L
OP = s OA + t OB
と表せることが分かる.
(2) A(a1 ,a2 ),B(b1 ,b2 ) とおくと,(1)より,
(1,0),(0,1) に対して,
\
Êa ˆ
Êb ˆ Ê ˆ
Êa ˆ
Êb ˆ
Ê 1ˆ
Á ˜ = s Á 1 ˜ + t Á 1 ˜ ,Á 0 ˜ = u Á 1 ˜ + v Á 1 ˜
Áa ˜
Á b ˜ Á 1˜
Áa ˜
Áb ˜
Á0˜
Ë ¯
Ë
¯
Ë 2¯
Ë 2¯
Ë 2¯
Ë 2¯
sa1 + tb1 = 1 ºº (1) sa2 + tb2 = 0 ºº (2)
ua1 + vb1 = 0 ºº (3) ua2 + vb2 = 1 ºº ( 4)
.%)(#-5)
)(%)-#.5)
参考 ($) を用いて, 問題 1 の答えを確認しよう.
三角形 OAB の周および内部のすべての格子点を用い
て三角形 OAB を小三角形に分割し,公式を適用する.
各小三角形の内部に格子点はないので, 問題 4 より,
小三角形の面積は
S=
1
である.三角形 OAB の面積 S が
2
1
30 ∑ 30 - 10 ∑ 20 = 350
2
であるから,三角形 OAB は 700 個の小三角形に分割さ
れている ( 多角形の個数は 700).
Ê 3ˆ L
Ê 1ˆ L
Ê -2ˆ
L
OA = 10 ÁÁ ˜˜ ,OB = 10 ÁÁ ˜˜ ,AB = 10 ÁÁ ˜˜
Ë 2¯
Ë 3¯
Ë 1 ¯
から,線分 OA,OB,AB 上には,端点も含めて 11 個
集中講義∼格子点∼
ずつの格子点がある.( 周上の格子点の個数 N は N = 30
である ).三角形 OAB の内部にある格子点の個数を P と
=
( b n + an )( b n +1 - an +1 ) - ( b n +1 + an +1 )( b n - an )
8 2
2 a n b n +1 - 2 a n +1 b n
おくと,点の個数は P + N = P + 30 である.
=
いま,周は 30 個の小線分に分割されている.700 個の
=1
小三角形の辺は重複を込みにして 700 ∑ 3 個あり,これら
のうち三角形 OAB の内部にある 700 ∑ 3 - 30 個は,2 つ
の小三角形で共有されている.よって,分割における辺
\
である.
(2) 解と係数の関係から,a,b は 2 次方程式
x2 - 6x + 1 = 0
a2 - 6a + 1 = 0,b2 - 6b + 1 = 0
ˆ
Ê 3∑ 700 - 30
( P + 30) - ÁÁ
+ 30 ˜˜ + 700 = 1
2
¯
Ë
P = 336
を満たす.ゆえに,(%) から,
b n + 2 + an + 2
b n ∑ b 2 + an ∑ a2
=
2
2
b n (6 b - 1) + an (6 a - 1)
=
2
6( b n +1 + an +1 ) - ( b n + an )
=
2
= 6 x n +1 - x n
xn + 2 =
であり,確かに 問題 1 の答えと一致する.
注 格子点のみを頂点にもつ三角形 OAB で,面
積 S,周上の格子点数 N,内部の格子点数 P は,
\
Ê 3∑ 2 S - N
ˆ
( P + N ) - ÁÁ
+ N ˜˜ + 2 S = 1
2
Ë
¯
1
S = N + P -1
2
という関係式を満たす.これを“ピックの定理”といい,
一般に,格子点のみを頂点にもつ多角形で成り立つ.
* *
では,最後に,面積を利用した論証問題を挙げておく.
問題 5. 座標平面の点列 {Pn(xn ,yn )} を
(3 + 2 2 )n + (3 - 2 2 )n
2
(3 + 2 2 )n - (3 - 2 2 )n
yn =
2 2
で定める.
xn =
L
であり,同様に
yn + 2 = 6yn + 1 - yn
である.よって,
L
L
L
OP n + 2 = 6 OP n +1 - OP n
が成り立つ.
(3) P0(1,0),P1(3,2) は C 上の格子点であるから,
(2)より,帰納的に,Pn は格子点である.また,
xn ≥ 0 ,yn ≥ 0 ,
( b n + a n )2
( b n - a n )2
- 2∑
4
8
4( ab)n
=
=1
4
xn 2 - 2 yn 2 =
( n ≥ 0)
より,Pn は C 上の格子点である.
C の弧 PnPn + 1 上に格子点 Q
(1) 三角形 OPnPn + 1 の面積を求めよ.
L
8 2
の 2 解であり,
3∑ 700 - 30
+ 30 である.
2
よって,($) から,
2( ab)n ( b - a)
L
(2) OP n + 2 = 6 OP n +1 - OP n を示せ.
(3) 曲線 C : x2 - 2y2 = 1 (x ≥ 0,y ≥ 0) 上の
格子点をすべて求めよ.
解 (1) b = 3 + 2 2 ,a = 3 - 2 2 とおくと,
が存在したら,凸性から,それ
は三角形 OPnPn + 1 の内部にあり,
3f#) ;
4
2
3f
凸
の個数は
8 2
=
GOPn Pn +1
= GOPn Q + GOPn +1Q + GPn Pn +1Q
3
≥
2
となる.これは(1)に矛盾する.
a + b = 6 ,ab = 1 ,b - a = 4 2
ゆえに,C 上の弧 PnPn + 1 に格子点は存在しない.
b n + an
b n - an
xn =
,yn =
2
2 2
以上から,C 上の格子点は
である.よって,
GOPn Pn +1
1
= x n y n +1 - x n +1 y n
2
ººº (%)
Pn (n = 0,1,2,………)
である.
(よしだ のぶお,予備校講師)