バラ積み貨物の数量不足賠償請求に対応するにあたっての喫水

GARD NEWS 153
(翻訳文)
1999 年 3 月 発行
バラ積み貨物の数量不足賠償請求に対応するにあたっての喫水検査の重要性
The importance of draft surveys in the defence of claims for shortage of bulk cargoes
喫水検査というのは必ずしも精密科学ではない
とがありますが)、本船上と船主の事務所双方
ことは一般に認められています。実施時の天候、
に警鐘が鳴らされなければなりません。その理
うねり、喫水マークの正確さ、そして必要な計
由は、往々にして船荷証券上に記載された数量
算を行うにあたっての注意深さに依存するとこ
が、それ自体正確であるか否かに関わらず、船
ろが大きいからです。それでもなお、喫水検査
主を法的に拘束するからです。船荷証券の表側
を適切に行えばその正確さは、最終数値の 0.5
の文言によっては荷送り人が、船荷証券の数値
パーセント前後と認められています。それゆえ
が間違っており、「余剰」貨物は荷積みされな
に検査中の高いうねりなどの例外的状況を排除
かったと主張することを阻止する(法律用語で
すれば、陸側の数値と喫水検査の数値の差が
いう「禁反言で阻む」)ことができます。
0.5 パーセントよりも大きければ、単なる「書
類上の」差異よりも具体的な増減を表している
バラ積み貨物を輸送する際の船荷証券にはよく
といってよいでしょう。「書類上の」差異とは
「口承重量」とか「口承」あるいは「重量、計
文字どおり書類上の問題に過ぎません。そのよ
量、記号、番号、品質、内容、価格不明」など
うな差異は大方の場合、用いられている計量方
の文言を含んだものがあります。司法管轄によ
法の違いによる誤差の結果です。
ってはそのような条文は、船荷証券の表側にタ
イプで打ち込まれたものではなく印刷されたも
陸側の数値が喫水検査の数値よりも低い場合は、
のであっても、その証券は輸送されたと記した
その差異は大して重要ではありません。後に検
貨物の数量についての一応の証拠とさえなりま
討するように船主には、実際に船上に積み込ま
せん。したがって、輸送されたと称する数量を
れて荷揚げされるべき量よりも、むしろ船荷証
証明する責任は貨物の賠償請求人の側にあるの
券に記載された重量あるいは数量を引き渡す法
です。かかる条文は英国の法廷では通常支持さ
的責任があります。実際に積みこまれた貨物の
れますが、不幸にして他の多くの国の法廷はそ
船側の(荷積み後に行われた喫水検査で確定さ
のような印刷された条文を認めていません。そ
れた)数値が船荷証券上の数値よりも大きい場
の理由は、条文が単に該当船荷証券の基本的文
合、船主は少なくとも船荷証券に重量あるいは
言の一部をなすだけであり、特定の貨物に関し
数量として記載された量と同量の貨物が本船に
て付加されたものではないからというのです。
積み込まれたものと思ってまず間違いありませ
したがって、船荷証券の書式にかかる文言が印
ん。指摘したようにこの重量あるいは数量が、
刷されているいないに関わらず、証券の表側に
船主が契約上引き渡さねばならない量なのです。
そのような文言をタイプするか手書きで付け加
ゆえに、航海中の事故で貨物の物理的喪失が起
えることが不可欠です。しかしながら司法管轄
きた場合を除いて、船主は必然的な計量差およ
によってはそのような船荷証券の条文を、印刷、
び貨物の性質によるロスを見込んでも、荷揚げ
タイプ、手書きに関わらずまったく認めないと
港で船荷証券に記載された重量あるいは数量と
ころもありますからご注意下さい。
ほぼ同量を引き渡せるはずです。しかしながら、
もし荷送り人が船荷証券に記入したい数値が喫
そこで喫水検査の重要性に戻ります。本船上で
水検査の数値よりも 0.5 パーセント以上大きけ
はこれが荷送り人の数値をチェックできる唯一
れば(当組合は陸側の数値が喫水検査の数値を
の手段だからです。荷送り人の数値はほぼ確実
7 パーセントも超える場合のクレームを見たこ
に、陸上で行われた一方的な検数によるもので
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Gard News 153 March/May 1999
す。本船の船長にはこのような検数をチェック
主は用船契約のもとに用船者から賠償を受け得
する手段はまったくありません。さまざまな理
る可能性が大きいということです。
由で荷送り人の数値は正確とは限らないので、
喫水検査の数値が荷送り人の数値よりも 0.5 パ
もうひとつ指摘しておかねばならない点があり
ーセント以上低ければ、本船受取証および船荷
ます。当組合の規約では「組合員または船長が、
証券に貨物の物理的不足の可能性があることを
貨物の明細、数量または状態につき不正確な記
反映した条文を付加すべきです。その条文には
載があることを知りながら船荷証券、貨物運送
喫水検査の数値を明瞭に記載し、可能な限り正
状、その他運送契約を証する証券を発行したこ
確を期さなければなりません。
とによって生じた責任、経費および費用は填補
されない」(規約 34(1)(ix))ことです。
実際的な問題も勿論数多く起こりえます。船荷
したがって、組合員あるいは船長が船荷証券に
証券は現地代理店が発行し署名するべく取り決
記載された数量が間違っていることを関知して
められているかも知れません。そしてその代理
いるにも関わらず、証券にそのような条文を入
店は用船者の代理人であることがよくあります。
れることを怠った結果「責任、経費および費
用船者自身も荷送り人であったり、荷送り人に
用」を生じた場合、この規約のもとに填補は拒
何らかの関係があったりすることもあります。
否されることになります。
荷送り人は、ほぼ確実に船荷証券に記載された
重量または数量に基づいて荷受け人に対して送
時によってはバラ積み貨物がいくつかの比較的
り状を作成します。にも関わらず船荷証券は、
小さい梱包、たとえば 1,500 メトリックトンご
用船者とではなく船主との運送契約を証するよ
との 5 個の梱包に分けられていることがありま
うな文言で作成され、署名されるのです。この
す。船上ではこれらの梱包の間に仕切りがない
ような状況では、船荷証券を確実に形式上も文
と仮定して、喫水検査が効果的に行われ得る唯
言上も適切(すなわち、本船受取証と厳密に一
一の時点はその特定の港における全貨物の積み
致している)と認められる状態で発行させ署名
込み完了時です。用船者と荷送り人は当然本船
させることは船長にとって困難なこともありえ
をできるだけはやく出港させたがりますが、関
ます。
連目録が前もってチェックされていれば喫水検
船長がなしうることは:
査は長くても 2 時間はかかりません。当組合は、
(1) 船長の代理店当ての授権書に、船荷証券
荷積み後と荷揚げ開始前両方での、この短い時
は本船受取証と厳密な一致の上で署名すべきこ
間的投資は十分値打ちがあるとの見解です。
とを必ず特記すること、そして
(2) 本船受取証が適切な文言であることを確
当組合は特に農産物の損失を申し立てる保険金
かめ、必要であれれば喫水検査で計算された数
請求を数多く取り扱ってきました 。これらの
値を記入することです。
請求は、決まって船荷証券の数値の 0.5 から 5
上記手続きの両方をおこなうよう念を押すこと
パーセントの間で申し立てられる損失に関する
が大切です。一方のみでは十分ではありません。
ものです。実際にはこのような請求はすべて
この手続きをすることで、用船者またはその代
「書類上の損失」であり本船は受け取った貨物
理店が実際に船長が委任したように船荷証券を
をすべて荷揚げしたことはほぼ疑う余地はあり
発行する保証はなく、荷受人が貨物不足を申し
ません。しかし時にはそのような議論だけでは
立て賠償請求を起こしても船主が抗弁できると
請求を撃退することはできません。そこで喫水
いう保証もありません。しかし、もし用船者ま
検査のレポートがものをいうのです。レポート
たはその代理店が船荷証券を委任された形で発
は荷積み港で本船上に受け取った量と荷揚げ開
行し、また/あるいは署名しなかったことによっ
始前の本船上にある量の、本船側の独自の記録
て船主に荷受け人に対する責任が生じれば、船
としての役割をはたすからです。荷積み後にハ
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ッチカバーが封印され、荷揚げ開始前に封印が
拠ですらありえないと主張するほかありません。
破られていなければ(そして封印が手付かずで
しかし申し述べたように、この議論はひとえに
あることを荷受け人が承認すれば)、航海中に
船荷証券の文言に依存するものであり、請求を
貨物の損失が発生するはずがなかったことの更
完全に却下することは多くの場合困難です。
なる証となります。
したがって船主の皆様には、バラ積み貨物を運
具体的な事実の証拠はどのような賠償請求に対
送する場合は必ず荷積み後と荷揚げ前に喫水検
応する場合も必要欠くべからざる要素であり、
査を手配なさるようお勧めします。当組合は現
指摘した貨物不足の賠償請求においても例外で
地連絡事務所を通じて喫水検査の手配をさせて
はありません。喫水検査のレポートがないとい
いただきます。関連費用はまずは組合員の負担
うことは、船主が、船荷証券に記載された重量
になりますが、レポートが賠償請求の対応に役
または数量が間違っていること、そして喫水検
立てられた場合は、当組合から填補されること
査のレポートに表示された数値と比較すること
もあります。さらにそのレポートのお陰で賠償
によって、本船は荷積み港で受け取ったのにほ
請求が却下され取り下げられ得た場合は、組合
ぼ等しい重量または数量を引き渡したことを示
員の損害記録に有利に反映されます。
すための、独自の証拠がないということです。
このような証拠なしでは船主のできることは、
喫水検査に関しておききになりたいことがあれ
船荷証券に記載された重量または数量は、実際
ば遠慮なく当組合にご相談下さい。
に本船で輸送された重量または数量の一応の証
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