ウォーレン・マッケンジー (アメリカ合衆国) Warren Mac Kenjie (United

ウォーレン・マッケンジー (アメリカ合衆国)
Warren Mac Kenjie (United States)
1994
去る l l 月に陶芸の森でアメリカからウォーレン・マッケンジー氏を招いて講演会とワークショップを
開催した。 京都アメリカンセンターのご紹介を受けての講演会であったが結果として、アメリカ陶芸の
一味違った側面を紹介することができ良かったと思っている。
「今のアメリカの陶芸は?」 という問いに日本の陶芸事情通は、どんな作品を思い浮かべるだろうか。
いわゆるうつわをベースにした作品や大きな人物をモチーフにした作品、色彩あざやかなオブジェなど
がイメージとして浮ぶのが普通であろう。これはカリフォルニアに代表されるような陶芸でアメリカ陶
芸の重要な側面である。ここ陶芸の森でもこれらアメリカの今を代表するような陶芸家たちの作品を収
集している。これらは 1950 年以降、つまりピーター・ヴォーコスがカリフォルニア抽象表現主義的な陶
芸に目覚めて以降の作家たちの作品である 。アブストラク=抽象表現 、フィギュラティブ( 人物表現)
、
ベッ セ ル・コンセプト (うつわによる表現) などと分類される現代陶芸の数々である 。その一部は
現在開催中の収蔵品展で御高覧頂けるわけであるが、ここで紹介したいウォーレン・マッケンジーはヴ
ォーコス以降のアメリカ現代陶芸とは異なる流れにのってきた作家である。
日本に日常雑器やクラフトの世界が あるようにアメリカ にも「安くて使いやすい普段づかいのうつわ
をつくるファンクシヨナル・ポッタリー」という伝統があるのである。安いとはいっても決してマスプロ
ダクションではない。あくまで手づくりである。日本で言うと一昔前の民芸のようなものであろうか。今
回紹介するウォーレン・マッケンジーそんな作品をつくるアメリカの作家の一人である。
マッケンジーは 1950 年代に妻アイリスとともに イギリス、セント・アイビスにあるバーナード・リー
チの工房を訪れ 2 年ほどそこで仕事をしている。この経験からマッケンジー はアメリカにおけるリー
チの考え方 (リーチ・トラディション)の正統的後継者と目されるようになる。
また、アメリカにこの民芸の考え方が入ってきたのも古く 1950 年代はじめのことである。日本の浜田庄
司 、民芸 理論の提唱者である柳宗悦 、それにイギリスの陶芸家リーチがブラック・マウンテン・カレ
ッジでおこなわれたンンポジウムに招かれたのを機会にアメリカ各地を行脚したのがはじまりであると
される。マッケンジー は、 すでにリーチの影響を受けておりここでの出 会いをもと彼自身のスタイル
をつくりあげていったものと考えられる。東と西との融合である。
その後、マッケンジーは、ミネソタ州スティルウォーターに工房を構える。彼の作品の特徴に「安価であ
ること」 があげられる。これは、
「陶器は装飾品であるよりも使うことによっての 日常性があるべきだ」
という彼の考えのあらわれである。また彼は、自分のつくる陶器について次のように述べている。
「器を
つくる場合、大切なのはその即興性である。つまり、一つの器はそれをつくった時々の心の スケッチ、
あるいは思考の表われであるといえるかもしれ ない。したがって、一つの思考を完結させるには数百箇
の器を要する。また、器には、つくり手と使い手とのコミニユケーションの手段としての意味がある。」
マッケンジーは、その後、ミネソタ大学の陶芸科で教被 をとるようになる。そこから数多くの陶芸家を
送り出しているがその中には、マッケンジーの思想を引き継いだ者が多い。
アメリカの陶芸界のジョークのひとつにマッケンジー が 活動してきたミネソタ州の陶芸を称して「ミ
ンゲイソタ」 というのがある。もちろんこれは、日本語の「民芸」と「ミネソタ」を掛け合わせたので
ある。このジョークはアメリカ流ミンゲイの世界の存在の証ではないかと思うがどうであろうか。
(指導員 杉 山 道 夫)
(レビューNO.14,Feb 1995 に掲載)
*ウォーレン・マッケンジー氏は、その後 1999 年 2 月にもゲスト・アーティストとして招聘した。その
際は、リーチ式ロクロでの作品制作とワークショップをおこなった。
リーチ式ロクロでの作品制作とワークショップ(1999)
このワークショップのために、マッケンジーは、自宅工房からリーチ式ロクロを持ち込みました。こ
のロクロは、右足で盤を蹴って廻す蹴ロクロの一種ですが、蹴るタイミングを間違えると急に逆回転し
たりすることがあり使いこなすには習熟が必要です。バーナード・リーチやマッケンジーのような食器
のような小物には向いているロクロだと思います。
マッケンジーが持ち込んだロクロは、もちろん持って帰られましたが、我々もこのロクロを手に入
れたいという思いがあり、分解したロクロのパーツを採寸し、また、本人からもらった図面をコピーし
て、町内の大工さんにお願いしてつくってもらいました。今陶芸の森にあるリーチ式ロクロには、その
ような経緯があります。
作
品
この時に、マッケンジーがつくった作品は、普段使いのうつわの数々でした。この皿は四十数センチ
の大皿ですが、いわゆるアメリカン・志野とよばれる釉薬がかかっています。このアメリカの志野釉
は、日本の伝統的な志野釉よりも、より派手で光沢もあり多くのバージョンがあります。日本の伝統釉
が現代のアメリカで進化、変化した好例だと思います。
(創作研修課長 杉山道夫 2014)
PLATTER 大皿 8.5×44.0×43.5