アメリカ英語・イングランド英語 映画タイトル Saving Mr.Banks (ウォルト・ディズニーの約束) 野口祐子 製作年 2013 年 監督 ジョン・リー・ハンコック 映画について 当時の製作秘話に原作者 P・L・トラヴァーズの人生をからませた映画 DVD 情報 日本で入手可/英語字幕あり (126 分) 1964 年のディズニー映画『メリーポピンズ』製作から 50 年、これは です。 児童小説『メアリー・ポピンズ』の映画化をめぐる原作者とウォルト・ ディズニーとの葛藤と和解のストーリーに、トラヴァーズの現在の生活 とオーストラリアでの幼年時代の回想が挿入されます。トラヴァーズが 映画『メリーポピンズ』での父親バンクス氏の描き方に抵抗するのは、 彼女のつらい思い出のため、というストーリーがタイトル “Saving Mr. Banks”の由来です。 主要キャスト エマ・トンプソン(P・L・トラヴァーズ役) 、トム・ハンクス(ウォル ト・ディズニー役)、コリン・ファレル(トラヴァーズ・ゴフ役) 、ポー ル・ジアマッティ(ラルフ役)、ジェイソン・シュワルツマン(リチャ ード・シャーマン役) あらすじ 『メアリー・ポピンズ』のミュージカル映画化を 20 年間温めていた ウォルト・ディズニーが、作者トラヴァーズから映画化権を得ようとす るが、彼女はなかなか応じない。トラヴァーズは経済的な理由からしぶ しぶロンドンを発ち、ロサンジェルスで脚本の確認に立ち会うが、彼女 は当初から批判の姿勢を崩さず、ウォルトや作詞作曲のシャーマン兄弟 たちを辟易させる。彼女の頑固な性格には、慕っていた父親の死が影を 落としているらしいことが次第にわかってくるが…… 英語の特徴 この映画は、アメリカ文化とイギリス文化、アメリカ英語とイギリス 発音・文法・語 英語の違いを際立たせて描いています。映画の冒頭、1961 年のロンド 彙 ンでトラヴァーズが「絶対にロサンジェルスには行かない!」“I shan’t be going.” と喚きます。 自分の意志を表すのに will ではなく shall を使 うのも、Los Angeles の語尾を [li:z] と発音するのもイギリス英語の特 徴です。後半、アニメーションは絶対に使わない約束だったのに騙され たとウォルトに食ってかかる場面でも “But I shall not be moved upon the matter of cartoons, sir.” Pamela と親しげに名前で呼ばないで Mrs. Travers と呼ぶように、と最後まで言い通すトラヴァーズは製作チームに心を閉 ざしたままです。 (c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会 http://eureka.kpu.ac.jp/~myama/worldenglishes/ r の発音にも違いがあります。ロサンジェルスのホテルの部屋ではデ ィズニー・グッズがてんこ盛りでお出迎え。うんざりするトラヴァーズ ですが、真っ先にやったのはテーブルの上に飾られた果物のうち、 “Absolutely no pears.”とつぶやきながら、梨の実を窓から放り投げるこ とでした。これは彼女の悲しい過去に関わることが後で明かされます。 pear はアメリカでは「ペア」の後に舌を奥に巻く r 音が続く[pɛər]です が、トラヴァーズは [pæ:]に近く発音しています。ウォルトのせりふに ある ulcer(トラヴァーズのせいでストレス性の潰瘍ができそう)、 daughter、water の r も同様です。また ter は「ラー」「ダー」に近く曖 昧に聞こえます。 トラヴァーズはさらに、 『メリーポピンズ』には赤色を絶対に使わな いこと、と要求してウォルトを我慢の限界に追い込みます。「イギリス じゃバスも郵便ポスト(mailbox)も赤じゃないか!」 郵便ポストはイギ リスでは postbox や pillarbox(赤い円筒形)と呼びます。なぜ彼女は赤 色を嫌がるのでしょう? 映画の後半、アニメが使われることを知ったトラヴァーズが憤慨して ロンドンに帰った後、ウォルトの事務所で交わされる会話では、トラヴ ァーズの本名がヘレン・ゴフであることをウォルトがはじめて知って、 “I’ve been talking to the wrong person?”(person の r 音に注意) 「人違いだ ったのかな」と言い、秘書の若い女性が悪口をまくしたてます。 “She acts as hoity-toity British, and she’s really an Aussie.” [ɔ:zi:]を強調して発音 する「彼女は本当はオーストラリア人なんですよ!」というせりふには けなす気持ちが表れています。トラヴァーズの発音はイギリスの RP(容 認発音)です。RP はアメリカ人には気取って聞こえがちな上に、彼女 は歯に衣着せぬ物言いで、よけいに反感を買っています。でもアメリカ 滞在中いつも寄り添ってくれた専属運転手のラルフには唯一心を許し ました。 映画のみどこ ろ 映画『メリーポピンズ』中のせりふや歌がちりばめられているので、 そちらを先に観ておくと気づく場面がいっぱいあります。本映画のテー マはトラヴァーズが抱える父への思慕と死のトラウマです。ウォルト が、父親の精神的覚醒と家族の再生を描く映画『メリーポピンズ』によ って、頑なになったトラヴァーズの心を開かせるという、ちょっとセン チメンタルな物語になっているところが、アメリカのお国柄を感じさせ ます。『メリーポピンズ』では高圧的な父親に描かれているバンクス氏 のせりふが、この映画ではトラヴァーズ自身のせりふになっているの は、どういう意図があるか、考えてみてください。 (c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会 http://eureka.kpu.ac.jp/~myama/worldenglishes/ その他 映画の最後にテープレコーダーからトラヴァーズ本人の声が流れます。 (c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会 http://eureka.kpu.ac.jp/~myama/worldenglishes/
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