CFA 協会ブログ

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2013 年 1 月 29 日
No.118
銀行財務報告書:真の原因は闇の中だが、結果は明白
Bank Financial Reporting: “The cause is Hidden, but the result Is Well Known”
マット・ウォルドロン、CPA
あなたは、信用しやすいほうですか? では、金融危
成され、それらは顧客の市場リスク管理の手助けの目
機後の 6 年間で銀行を信用するとなるとどうでしょう
的で取引され、投資家の要求に従い運用され、あるい
か? 是非、アトランティック誌の最近の記事 「ア
は投資家のために取引されます。」
メリカの銀行業界の内部はどうなっているのか?」を
熟読すべきです、投資業界の多くの関係者あるいは世
間一般が、なぜいまだに銀行を信用しないかについて
書かれています。この記事で著者は、1)JP モルガン
銀行のチーフ・インベストメント・オフィサーによる
60 億ドルのトレーディング損失が招いた広く公表さ
れた失墜、2)大手銀行による LIBOR の不正操作、
3)アメリカ政府職員がメキシコの麻薬密売人のマネ
ーロンダリングを手助けしたとの告発、4)米銀が競
売申請の迅速化のため「機械的な承認」書類により虚
偽の不動産記録を捏造したとの容疑など、銀行が信用
されない理由を提示しています。銀行の信用回復とい
う点では、全く嬉しい話ではありません。
銀行の財務報告書を信用することについてはどうで
しょうか? 著者は、いわゆる保守的な銀行のいくつ
かの主要な財務報告書の内容を精査し、いかに年次報
告書の不透明性が利用者(すなわち投資家)に対して、
業績の実態をわからないままにしているかを指摘し
ました。理解していただくために、ここに記事の中で
引用されている 2011 年ウェルズ・ファーゴ銀行年次
報告書(入手可能な最新のもの)からの一節を紹介し
ます。これは、
「カスタマー・アコモデーション」ト
レーディングによる 10 億ドルの収益を次のように定
義しています:「カスタマー・アコモデーション・トレ
ーディングは、証券あるいはデリバティブ取引から構
日本 CFA 協会
著者はさらに、カスタマー・アコモデーション・トレ
ーディングや他のデリバティブ単体取引と密接に関
係するウェルズ・ファーゴ銀行のリスク開示について
書いています。記事では、大手銀行の金融資産ポジシ
ョンを理解するうえでつきまとう困難さの一つに焦
点を当てています。つまり、銀行自身、金融危機が起
こる前から金融システムを改善すべく多大な努力を
していたにもかかわらず、以降もずっと相も変わらず
複雑かつ不透明であり続けていたのです。銀行の開示
内容は、非常に軽い程度のものから緻密で理解できな
いものまであると、著者は指摘しています。
ゴールドマン・サックスのインベスター・リレーショ
ンズの責任者でさえ、記事の中では、ごく普通の人々
は銀行を理解できないと指摘しています、なぜならば、
透明性が欠如しているからです。経験を積んだ投資家
は銀行についてよりよく理解しています、しかし、一
般的な人々にとって理解することが厄介であるとい
う事実が、銀行に対する人々の信用を失わせるのです。
もっとよく言われるのは、会計の実務と会計報告につ
いて十分な経験と知識をもつ人々でさえ、銀行を信用
していないということです。著者は、アメリカ財務会
計基準審議会の 2 人の前ボードメンバーに、銀行の財
務報告書を信用できるか質問したことがあります。彼
らの答えは「いいえ」でした。
1
最後に、エリオット・マネジメント社の社長であるポ
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事
ール・シンガー氏は最近、2013 年世界経済フォーラム
を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版および
における JP モルガン銀行のジェイミー・ダイモン氏
英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の
との対話の中で、世界規模で活動する金融機関は「あ
内容が優先します。
まりに不透明」であると述べました。ファイナンシャ
ル・タイムス誌でシンガー氏が述べたように、銀行が
公開する会計報告の不可解さのために、銀行が実際リ
スキーであるのか、健全であるのかについて知ること
が不可能になっています。
リスク開示のあり方を改善することは、明らかに投資
家を利する分野のひとつです。CFA 協会が最近発行し
た報告書、IFRS 下における金融商品のリスク開示につ
いてのユーザーの認識(Volume 2)では、金融機関およ
び非金融機関のデリバティブとヘッジ取引の開示に
焦点を当てました。この報告書は、国際会計基準審議
会(IASB)と FASB の両者はデリバティブ取引の開示の
改良を図っていますので、彼らを啓蒙することに役立
つでしょう。報告書で推奨されている開示は、投資家
の要求に焦点をあてており、リスクについて明らかに
することで銀行への更なる信用回復を手助けするこ
とでしょう。
このブログ記事のタイトル(オウィディウス氏の変身
物語から翻訳された一文です)が指し示すように、投
資家は何が起きたかを理解していますが、いつもなぜ
そうなのかについては理解できていません。よりよい
開示方法は信用回復の手助けとなるでしょう。
執筆者
マット・ウォルドロン(Matt Waldron)、CPA
CFA 協会、会計報告ポリシーのディレクター。
(翻訳者:浜野 秀明)
英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2013/01
/29/bank-financial-reporting-the-cause-is-hidden-bu
t-the-result-is-well-known/
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