CFA 協会ブログ

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2015 年 7 月 24 日
No.241
シアトルの眠れない夜:フラッシュ・クラッシュの脅威と同居することはニュー・ノーマルなのか?
Sleepless in Seattle: Is Living with Threat of Market Flash Crashes the New Normal?
スヴャトスラフ・ロゾフ博士
ニューヨーカー誌は今週、太平洋岸北西部が地震によ
って崩壊するのは避けられないとの記事を掲載しま
した。記事の恐ろしい雰囲気を高めているのは、もち
ろんこの出来事がいつ起こるか予測するのが不可能
である点です。その記事は私に高頻度取引(HFT)を
巡る議論を思い起こさせました。現代の市場の構造が
高頻度取引の断層線の上に建てられていることから、
評論家はこのシステムの脆弱性とリスクの増加を警
証券の流動性が特に高いからです)
。
最近、米国財務省はこの“フラッシュ・クラッシュ”
についてのレポートを発表しました。そのレポートの
重要なポイントは、この出来事の原因は一つも(ある
いは、ほぼ間違いなく、いかなる原因も)見つからな
かったということです。しかしながら、レポートには
いくつかの興味深い点が挙げられています。
告しています。しかし、そのクラッシュを予測する手
・ レポートによれば、フラッシュ・クラッシュの期
段が存在せず、歴史的に低スプレッドかつ高流動性の
間中、高頻度取引の流動性供給シェアが増加し(約
市場が存在していることから、システム全体にわたる
50−65%から 75%へ)
、相対的に銀行ディーラー
変更を行うことや、あるいはその変更がどういったも
の流動性供給シェアが減少した(約 30−40%から
のであるべきかを決めることさえ、正当化することは
15−20%へ)こと。
困難です。結果的には、概ね、これまでどおりのビジ
ネスに何らかのサーキットブレーカー制度や他のシ
ステム修復を組み合わせたものになります。これはそ
もそも地震が心配されているシアトル以外のどこか
他の場所に建物を建てるというよりは、むしろシアト
ルの建築基準を厳しくすることに相当します。
・ 二つの別個の高頻度取引戦略が稼働――パッシブ
高頻度取引は、フラッシュ・クラッシュの期間中、
マーケットメイクを行っていた一方、アグレッシ
ブ高頻度取引は価格の方向に取引し、価格の下落
と上昇の過程で観測された取引の偏りの大部分を
作り出した──していたこと。これは、私が以前
投稿したブログで書いたとおり、二つの全く異な
しかし、微震は時たま発生します。その最近のものは、
2014 年 10 月 15 日に米国債市場で起こったフラッシ
ュ・クラッシュです。その日の午前 9 時 33 分から 9
った種類の高頻度取引――マーケットメイクを行
う“良性の”高頻度取引と、利己的な“悪性の”
高頻度取引――が存在することを立証しています。
時 45 分までの間に、10 年債利回りは明確な理由もな
・ 高頻度取引はフラッシュ・クラッシュの期間中、
く 16 ベーシス・ポイントも急低下し、その後急上昇
狭いスプレッドを提示し、提示する取引サイズを
しました。これは米国債市場では大きな動きです。株
減らすことでリスクを管理した。他方、市場に残
式市場と同様に、米国債市場でも電子取引が増加して
っていた銀行ディーラーは広いスプレッドを提示
います(特に指標銘柄がそうですが、これはそれらの
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することで彼らのリスクを管理しました。これは
興味深い結果であり、市場に性質の異なる参加者
1
が存在することの意義を示しています。何やら、
が指数関数的に累積し、2008 年の金融危機に繋がっ
そのうち CFA 協会のリサーチペーパーで取り上
たということ、そしてその後もそれらは線形的に(指
げられそうなテーマですが。
数関数より増加率は低いが)累積し続けていることに
・ その時のクラッシュはどんな市場参加者のいかな
る大きなポジション変化にも関連しておらず、ま
た電子注文の誤入力や異常な成行注文も何一つな
かったこと。
彼らは気づきました。著者はこの結果について、金融
市場での微視的な出来事の伝播が市場全体でのフラ
ッシュ・クラッシュのような大きな変化を伴い得る、
あるいはひょっとして、引き起こし得ると考えていま
す。これはより一般的には工学システムにも見られる
現象で、飛行機の翼の微小なひび割れが、金属疲労、
米国債市場のフラッシュ・クラッシュにおけるこれら
そして最終的には故障に繋がるのと同様です。
の発見は、S&P500 E-mini 先物市場でのフラッシュ・
クラッシュに関心がある人にとってはとてもなじみ
深いものでしょう。実際のところ、大雑把に見れば、
それらは同類に思われます。私は、これらのフラッシ
市場のフラッシュ・クラッシュは、“本当に大きな地
震”の前震なのでしょうか?
ュ・クラッシュに経済的な理由や注文の流れに関する
理由を見つけようとしても徒労に終わると思ってい
ます。
高頻度取引は、太平洋岸北西部と同様、なくすことも
動かすこともできません。市場を根本的に再構築する
ことが可能になる(あるいは望ましい)とは思えませ
答えは、2013 年にネイチャーで発表されたジョンソ
ンらの著者で、以前我々のブログで引用した興味深い
論文の中に見つかるかもしれません。論文の著者は、
高頻度取引を金融の視点からでなくシステムの視点
で見ます。多くの金融取引は、基本的には人と人の交
流に基づくものから、機械の時間軸の中で機械間での
やり取りに基づくものに移行しています。人間がイベ
ントに反応できなかったり介入できなかったりする
ようになると、市場の動態が変化し、一瞬での価格の
ん。より可能性が高いのは、ランダムなクラッシュが
(事後ですら)予見できない理由によって発生するだ
ろうということ、そして“本当に大きなクラッシュ”
がすぐそこに迫っているかもしれないということを
市場が確信し、地震帯の中で生きる術を学ぶ必要に迫
られるだろうということです。土木工学のように、シ
ステムの基盤がダメージから回復するよう確実に構
築されることが、たぶん私達にできる精一杯のことで
しょう。
急落や急騰が、非常に短期間にわたってより頻繁に起
こると著者は主張しています。
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著者はこれらの動態を調査し、自動的な取引反応や利
己的なアルゴリズムトレーダーが、暴落や急騰からの
(翻訳者:西村直哉、CFA)
瞬時の反転の原因となっていそうだと指摘していま
す。興味深いことに、そうした”小さなブラック・スワ
ン“的出来事(想定外かつ予測が極めて難しい出来事)
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英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2015/0
7/24/sleepless-in-seattle-is-living-with-threat-of-ma
rket-flash-crashes-the-new-normal/
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事を
日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版および英語
版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が
優先します。
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