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政治のポピュリズム傾斜 - 中期的な投資リターンへの影響は?
要点
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米国のトランプ氏やサンダース氏の健闘や、英国の
欧州連合(EU)離脱を決める国民投票での票の拮
抗、豪州総選挙の先行きなどは、中道支持だった投
票者が左派寄りとなり、経済的合理主義に基づいた
政策への支持が低下していることを示唆しています。
このような政治情勢を巡る世論の変化は、中期的に
投資リターンを抑制する要因となる可能性がありま
す。
はじめに
米国大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏とバーニー・サン
ダース氏の健闘や、英国のEU残留の是非を問う国民投票
(Brexit)の接戦、豪州における総選挙にはどのような共通点
が存在するでしょうか? これらの選挙や国民投票の状況は、
有権者がポピュリズムや左派寄りの政策に傾斜している現状
を反映していると言えます。 仮にこのような傾向が実際の政
策決定に反映されれば、中期的な投資リターンを抑制する要
因の一つとなります。
しかしながら、世界金融危機(GFC)を経て、世論は再び左派
寄りに傾斜しているようです。 これは恐らく根本的なものでは
ありませんが、経済的合理主義への支持は低下しています。
そして、いくつかの時代の潮流を反映しています: GFCが起こ
ったことで金融市場の自由化が行き過ぎたものだったという反
省、 ここ数年の経済成長が抑制され脆弱であること、高水準
の家計債務が借り入れをして生活水準を向上させようという消
費意欲の足かせとなっていること、中間所得者層の実質賃金
の停滞、貧富の差の拡大 などが挙げられます。豪州では、後
者についての心配はあまりありませんでした(高額所得者に対
する高い累進課税や福祉システムが機能していたため)。 し
かしながら、米国と英国では国民全体の所得における上位
1%の高額所得者が占める割合が1980年代以降それぞれ
10%と5%ずつ拡大しましたが、低・中間所得者層の所得の伸
びはそれほど大きくありませんでした。 次のチャートは、過去
30年における主要国のジニ係数(所得分配の不平等さを図る
指標)の変化を表しています。
高まる不平等感 – ジニ係数(1985年と直近の平均)
米国
英国
日本
ニュージーランド
イタリア
豪州
カナダ
OECD平均
ルクセンブルグ
ドイツ
スウェーデン
フィンランド
ノルウェー
デンマーク
長期の政治サイクル
それが短期でも長期であっても、全ては周期、いわゆる“サイ
クル”で巡っています。 これは、天気、経済、金融市場などに
も共通しています。 そして、政治においても通常の選挙のサイ
クルを超えて巡るサイクルがあります。 1960年から1970年代
の重い税負担、保護主義の台頭、国家による介入主義や福
祉国家の樹立などを起因とする景気悪化が、1970年から
1980年代初頭のスタグフレーション(不況と物価の上昇が同
時に起こること)を引き起こし、1980年代において経済的合理
主義を提唱する中道右派の存在感が高まりました。その結果、
英国におけるマーガレット・サッチャー氏、米国のロナルド・レ
ーガン氏、豪州のボブ・ホーク氏やポール・キーティング氏など
が、その後の規制緩和の旗振り役となり、自由貿易や民営化、
限界税率の引き下げ、生活保護適用条件の厳格化、財政規
律の見直しや、生産性の向上を狙った経済の供給サイドにお
ける改革などが実施されました。 共産主義の崩壊、ロシアや
中国などが世界の貿易体制に加わったことなども後押しとなり
ました。 経済と政治システムにおいて自由貿易と民主主義が
最善の体制であるとの見解が世界的に広まり、”歴史の終焉”
という議論さえ存在しました。 1990年代を通して経済的合理
主義が政策の主流となりました。
2016 年 6 月 20 日
直近
1985年
高い
低い
不平等感
*データは、税控除および生活保護支給後。出所:OECD、AMPキャピタル
このような環境において、有権者の怒りを煽り、公的セクター
が経済に積極的に介入し、反グローバル化を目指すという議
論を展開することは、ポピュリスト的な主張をする政治家にとっ
て容易いことです。

米国では、ドナルド・トランプ氏とバーニー・サンダース氏
(自称民主社会主義者)がこのような主張を展開し、支持
を得ました。 トランプ氏は、財政規律を重視せず政府支出
を拡大させることや、保護主義、移民受け入れの門戸を
狭めることなどを提唱し、富裕層への課税強化と最低賃
金の引き上げなどを訴えるなど、共和党の他の候補者と
比べ明らかに左派寄りの主張を繰り広げています。 トラン
プ氏とサンダース氏両名の主張は、民主党の中道である
ヒラリー・クリントン氏が左派寄りの主張をするまでに追い
やっています。 選挙に誰が勝利しても最終的には中道寄
りの政策に落ち着くのかもしれませんが、有権者が左派
に傾いてしまった場合、それは困難を極める可能性があ
ります。


英国では労働党が、”新たな労働党”を提唱したトニー・ブ
レア氏等から代わり、左派寄りのジェレミー・コービン氏が
率いる体制となりました。 Brexitにおけるこれまでの離脱
派の健闘は、グローバル化や移民受け入れに対する反
発が原動力となっています。
豪州において主張が左派と右派でこれほどまでに二分す
るのは、1970年代のホーク・キーティング労働党政権下
において経済的合理主義に基づいた政策が採用されて
以降初めてと言っても過言ではないでしょう。 高所得者層
に対する課税強化(臨時予算復興税の恒久化やその他
優遇税制の廃止等)、健康や教育分野における歳出の拡
大、銀行に対する司法委員会の設置、法人税引き下げに
対する反論、従来の連邦予算の見積もりに対して財政赤
字拡大を許容、外国人による不動産購入に対して連邦レ
ベルで課税を強化など、全て有権者のマインドの変化を
反映しポピュリスト的な政策となっていいます。 議会にお
けるパワー・バランスを保つ役割となる緑の党や他の少
数政党は、もちろん左派寄りとなっています。選挙キャン
ペーンは、資源ブーム終焉後における私たちの生活水準
の持続的な向上に本来必要である経済改革(税制改革を
含む)や、健康や教育における歳出をどのように生産的な
ものにするか等といった議論から遠ざかってしまいました。
例え、保守連合(自由党・国民党)が再選されたとしても、
経済的合理主義に基づいた政策が議会の賛同を得られ
ない可能性があり、政策の実効性にはリスクを孕んでい
ます。
欧米諸国では1980年から1990年代にかけて右派寄りの経済
的合理主義への傾斜が進んだことから、その反動も顕著にな
ると予想されるため、ここでの議論は欧米諸国にフォーカスを
しています。欧州大陸については、以前から左派寄りに傾斜し
ていたため議論の余地は限定的です。もう一つ特筆すべき点
は、ロシアが世界経済の枠組みから遠ざかるリスクで、ドーハ
ラウンドにおける貿易交渉の停滞は良い兆候ではありません。
このような変化は投資家にとって何を意味するのでしょうか?
左派寄りポピュリストへの傾斜が、実際の政策にどの程度影
響を与えるかは不明瞭です。 しかしながら世論における左派
機運の高まりは、中長期的に、次に挙げるような傾向が強まる
可能性があります:歳出の拡大、歳入を超える場合は財政赤
字の増加、規制強化、高所得者への限界税率の引き上げ、反
グローバル化、移民規制の厳格化。または、影響が経済改革
の停滞のみに留まる可能性もあります。この場合のリスクは、
経済の供給サイドに対する足かせによって悪いインフレの上
昇が起これば、経済成長が抑制されるということです。

インフレ率が断続的に低下したことで、資産価値が切り上
がり、利回りが低下したことは投資家にキャピタルゲイン
をもたらしました。

規制緩和、限界税率の引き下げ、小さい政府への移行な
どは、経済における供給サイドの潜在的な競争力の強化
に繋がりました。 この点と次に述べる点が、1980年から
1990年にかけて合理的な経済政策がとられるようになっ
た要因として挙げられます。

グローバル化 - 貿易の障壁を引き下げ、旧共産圏が
世界経済の枠組みに加わったことで貿易量が急増し、成
長が加速すると同時にインフレ率は低下しました。

平和の配当 - 共産主義の崩壊とグローバル社会にお
ける米国の影響力の高まりによって世界情勢が安定し、
それによる防衛費の削減によって各国で財政均衡が進み
ました。

1970年の階級闘争を経て、それまで利益水準が低かった
企業が1980年そして1990年代における利益成長をフル
に享受することができた。

1980年代初頭は所得に対する家計債務は低水準だった
が、その後の金利低下によって借入が容易になり個人消
費の拡大に拍車をかけた。
現在、環境は大きく変化しました。

投資スタート地点における各資産の利回りは、債券の平
均的利回りが1%程度、預金金利はほぼゼロに近い水準、
居住用不動産の利回りは3%程度、グローバル株式の配
当利回りは2%程度と、異例の低水準です。いくつかの資
産クラスは今もなお魅力的な配当水準(豪州の株式や商
業用不動産)となっていますが、決して高いリターンが見
込めるスタート地点とは言えません。

デフレ、そしてインフレが上昇するリスク - 高インフレ
から低インフレへの移行時において投資リターンが押し上
げられたのは、過去の出来事です。 デフレは単純な低イ
ンフレよりも深刻ですが、仮にインフレが加速した場合、
1980年代と1990年代における低インフレからの恩恵で押
し上げられた投資リターンの巻き戻しが起こる可能性があ
ります。

規制の再強化、高い税金、大きな政府 - これらは既
に金融規制の強化などで見られますが、経済的合理主義
が衰退し政策が左派寄りに傾斜すれば、生産性の悪化か
ら供給サイドが低迷し、最終的にインフレの加速を引き起
こす可能性があります。

反グローバル化 - 自由貿易拡大の流れが滞れば、成
長は抑制されます。

テロの恐怖の台頭と米国の軍事的影響力の低下 - 過
去10年の間にテロの脅威が高まり平和の配当の恩恵は
なくなりましたが、米国の軍事的影響力の低下によって、
中東ではサウジアラビアやイラン、ロシアなどが競って影
響力の拡大に動いていることから地政学的緊張は高まっ
ており、南シナ海では中国が軍事力の増強に動いていま
す。1989年のベルリンの壁崩壊以降続いてきた、地政学
面における良好な世界情勢の潮目が変わりつつあること
は明らかです。

米国企業の利益水準は高く、政策が左派寄りになった場
合は影響を受けやすいでしょう。

所得に対する家計債務はGFC以降で最も高い水準に達
しており、これ以上の家計債務の増加は健全ではありま
1982年から2000年にかけて豪州も含めグローバル株式市場
が平均2桁の成長を続けた長期的な上昇相場は、いくつかの
ドライバーによって支えられました。特に原動力となったのは
次に挙げる通りです:

スタート地点における高い投資利回り ― 1982年に債券
利回りはおよそ15%でした、短期金融資産の利回りも同
様の水準でした、株式の配当利回りはおよそ7-8%で、賃
貸住宅の利回りも8%程度でした。 スタート地点における
高い利回りは、その後長期間における平均投資リターン
を高水準へと押し上げました。
せん。これは、消費という成長のドライバーが一つ消える
ことを意味します。そして中期的な投資リターンを抑制す
る要因となるでしょう。
分散投資と投資配分の見直しによるリターンの最大化が重要
これまで述べてきたように、経済的合理主義に基づいた政策
(規制緩和、小さな政府、グローバル化)が市場にもたらした追
い風は過去のものとなり、その他の様々な要因と相まって、今
後は中期的な投資の平均リターンが抑制される可能性があり
ます。とはいえ平均リターンの低下が、各年のリターンの低下
を意味している訳ではありません。
現在のように経済や政治、地政学等、様々なサイクルが過渡
期にあり投資リターンが安定しない環境下においては、限られ
た資産への集中投資に偏らず、目標とするキャピタルやインカ
ムのリターンを定め、それに基づいて分散投資の戦略を立て、
適宜戦略の見直しを行うことで、中長期的な時間軸において
運用成果の最大化を目指すことが重要です。
シェーン・オリバー博士
インベストメント・ストラテジーヘッド&チーフ・エコノミスト
AMP キャピタル
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