経済広報センター活動報告 経済広報センター活動報告 電力・エネルギーシステム改革の行方 政策スタッフは非常に少ない。そうなると、メディ 発電は、自然変動の影響を受けるため、 「系統安定化 アを通じた情報収集の比率が高まる。その結果、議 コスト」という追加供給コストが発生するが、需要 論がメディアの報道レベルにとどまったり感情的に 経済広報センターは8月3日、東京大学社会科学研究所のポール・スカリス博士研究員、およびRITE の能動化により、そのコストを低く抑えることが可 なったりしてしまう。具体的な解決策は持ち合わせ (地球環境産業技術研究機構)の山地憲治理事・研究所長を講師に迎え、講演会 「電力・エネルギーシステム 能である。今夏は節電と火力発電の稼働増により電 ていないが、この複雑な問題をメディアも含めて 改革の行方」を開催した。海外の目から見た日本の電力行政や制度についての課題、再生可能エネルギーも 力需給はバランスが取れたが、燃料である石油や天 しっかりと議論するべきである。 含めた新たなエネルギーシステムの可能性についてそれぞれが論じた後、山地氏のモデレートによるパネル 然ガスは中東依存度が高い。これは、単に電力料金 山地 家庭部門の省エネ努力として、何が必要と考 ディスカッションを行った。参加者は約150名。 が上昇するというだけでなく、イラン情勢やホルム えるか。 改革のための政治 ~日本の電力市場の課題と不確実性 ポール・スカリス 東京大学 社会科学研究所 博士研究員 ズ海峡危機により供給安定性の問題が深刻化するこ スカリス エコポイントやクールビズといった制度 イフスタイルを維持するためには、農地を放棄する とを意味する。今後とも火力に頼り続けるのではな 導入などとともに、市民の行動の変化をどう促すか か多くの森林を破壊しなければならない。これはま く、需要の能動化を進める一方で、原子力発電とい が重要だ。教育も必要であり、メディアの問題にも さに皮肉であるが、日本だけではなく、先進国全体 う選択肢を維持する必要があると考える。 関わってくる。 その原子力発電にも賠償や、除染、安全対策、核 に突き付けられた問題だ。 山地 日本には「トップランナー制度」があり、省エ 日本の電力市場は、供 今後、日本は選択を迫られる。原発依存度低下の 燃料サイクルの見直しなど課題は多い。今の原子力 ネについて高効率な機器の開発に力を入れてきた。 給の安定性を重要視して ために、現実的には課題の多い再生可能エネルギー 損害賠償制度では電力会社に無過失・無限責任が課 エコポイントも効果的であったが、液晶テレビへの きた結果、諸外国と比較 をメインにするのか、火力発電の比率を上げて温暖 されるため、民間に任せるのは難しい。民間の賠償 買い替えを例に取ると、テレビの大型化に繋がった して電力料金が高い。な 化ガスの排出量を増加させるのか。ライフスタイル 責任を有限とすべきか、原子力発電所を国有化すべ ため省エネ効果という点では疑問が残る。また、液 ぜ高いのか。石油火力の を変えるのか。森林を破壊してもよいのか。電力料 きか、といった議論も必要となる。 晶テレビを製造する外国メーカーを日本国民の負担 比 率 が 高 か っ た た め に、 金は上がってもよいのか。産業空洞化の問題はない 再生可能エネルギーについては、固定価格買取制 で育成する結果となってしまった。これまでは機器 石油ショック以降、原油 のか。これら全てに 「ノー」 と言うのをやめて、どこ 度の導入により、建設期間の短い太陽光発電の導入 の効率化が重視されてきたが、今後はやはり行動の 価格の高騰に伴い電力価 かで 「イエス」 と言わなければならない。 が進むであろう。しかしながら、先述の通り太陽光 変化が必要であろう。スマートメーター導入により や風力には系統安定化の問題がある。むしろ、準備 電力使用量を「見える化」することで、当初は行動が 格も上昇したが、原油価格下落後も新規発電所の建 こうした議論を進めるに当たり、メディアの果た 設コスト上昇を理由に高止まりしたことの影響が大 す役割は大きい。過去の規制緩和の時もそうであっ に時間はかかるが安定した出力が期待できる地熱、 変化するだろうが、効果は一過性である。人間が判 きい。限界発電コストは、福島第一原子力発電所の たが、メディアが問題を取り上げることで議論が進 バイオマスなどに力を入れて、自然変動性の高い電 断するのではなくHEMS(ホーム・エネルギー・ 事故以前は原発が火力・水力と比較して安いとされ むということを、政治家は理解している。今後の日 源のシェアは一定限度に抑えるべきである。 マネジメント・システム)など機械制御でコント てきたが、有限な化石燃料による火力発電のコスト 本のエネルギー政策を考えるためには、検討しなけ 電力制度改革については、家庭まで含めた小売り ロールする方が有効である。しかし、HEMS単体 が今後下がる見込みは低い。再生可能エネルギーの ればならないことがまだまだ多いということを、メ の全面自由化により電力選択の自由を確保するとと では経済性の壁があるため、防犯や健康などのサー コストは、将来的には下がると考えられるが、不確 ディアは伝える必要がある。 もに、電力ネットワークの広域運用が必要である。 ビスも取り入れるなどの工夫が必要となろう。 これは、各電力会社間の連系線の容量を拡大し、電 最後に、島国である日本として、海洋資源をエネ 力会社の境界を越え、需要側の電源も含めて広域で ルギーに生かすアイデアがあれば、伺いたい。 効率的な電源構成を実現するために必要である。ま スカリス 日本は海洋国家であり、洋上風力や潮力 た、新規の発電事業者がネットワークを使用する際 を活用した発電は非常に興味深い。洋上の風速は陸 実性が高い。 ここで、原発の代替として期待される再生可能エ ネルギーについて、必要な土地面積という観点で考 えてみたい。米国での大規模太陽光発電の事例を参 考に試算すると、原発1基に相当する1GWの発電 電力システム改革の構図 や ま じ け ん じ 山地憲治 RITE (地球環境産業技術研究機構) 理事・研究所長 (東京大学名誉教授) の託送料も含め、電力系統利用における透明性、公 上より速いといわれる。しかし、風速が速いために 能力を有する太陽光発電設備の建設には、約400平 福島の原発事故以降、全 平性の確保も必要である。このように、電力制度改 発電機が壊れるリスクもある。実際にデンマークの 方キロメートルもの土地が必要である。日本の電力 国の原発が一部を除き稼働 革は今後の日本にとって非常に重要であることを認 洋上風力発電設備が全て壊れた、ということもあっ 事情を考慮すると、全国の原発を全て太陽光に置き を停止した結果、ピーク時 識し、「電力対反電力の争い」といったレベルではな た。他にも、漁業関係者との利害調整や航路確保の 換えるのは不可能であることが分かる。同じく風力 の電力不足という問題に直 く、もっと合理的な議論を進め、最終的には成長戦 問題もある。 では、1GWの発電のために約750平方キロメート 面 し、 各 地 で 節 電 要 請 に 略にまで結び付けられるようにすべきである。 ルが必要になる。国内電力需要の20%を風力発電 至った。しかし、これはコ で賄おうとする場合、日本の農地の70%を超える ジェネレーションシステム 面積を発電用に充当しなければならない。これらは やBEMS (ビル・エネル 山地 電力制度改革を進めるためにはメディアの役 えた議論をしなければならない。日本ではまだそう ディスカッション 私は、日本は再生可能エネルギーの導入にも着手 する必要があると考えているが、どのような電源を 選択するにしても二律背反であるということを踏ま ギー管理システム) 、電力ネットワークのスマート 割が重要であるとの指摘があったが、具体策はある した賢明な議論がなされていないことが問題であ 再生可能エネルギーは素晴らしいアイデアではあ 化などにより、ユーザー側が需要を能動化し、電力 か。 る。 るが、脱原発・脱化石燃料を推進し、かつ現状のラ 需給を調整することで、ある程度解消できる。ま スカリス 例えば米国と比較して、日本の政治家の 実現可能なアイデアだろうか。 20 た、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる 〔経済広報〕2012年11月号 k (文責:国際広報部主任研究員 落合基晴) 2012年11月号〔経済広報〕 21
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