日印EPAの動向と インドビジネス成功の鍵

経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
日印EPAの動向と
インドビジネス成功の鍵
経済広報センターは2010年11月8日、国際基督教大学の近藤正規上級准教授、および、7月まで
JETROでインドビジネス相談デスク貿易投資アドバイザーを務めていた森秀三氏を講師に迎え、経団連会
館で「日印EPAの動向とインドビジネス成功の鍵」と題する講演会を開催した。参加者は約250名。
る長期の為替リスク、⑥日本の民間企業のインフラ
力料金の水準の問題、④インド地場企業・中国企業
運営における経験不足、などが挙げられる。
との激しいコスト競争、⑤インフラ向け金融におけ
◆インドの現状と展望
~インドビジネス成功の鍵~
もり
ひ
で
み
森 秀 三
元 インド三井物産(株) 社長
(前 JETRO(日本貿易振興機構)
インドビジネス相談デスク 貿易投資アドバイザー)
■インドビジネス成功の鍵
◆日印EPAとインドの投資環境
インドでのビジネスを成功させるためには以下の
こ ん ど う ま さ の り
近藤正規
3点が重要である。
①インドをよく知る
国際基督教大学 教養学部 上級准教授
■日印EPA
2007年1月の第1回会合から約3年半の交渉を
下位が結婚すると下位に位置づけられるため、現在で
も同じカースト同士が結婚することが多い。
約2400年前にアショカ王はアーリア人が支配す
インドの成り立ちを含めた歴史への理解が必要不
る諸藩王国を統一し、仏教を基本に統治した。独自
可欠である
の言語・文化を容認するなど、各藩王の自治権を大
②良いパートナーを見つける
経て、2010年9月に大筋合意に至り、10月のシン
幅に認め、王との契約ベースの穏やかな中央集権制
日本企業が単独でインドに進出すると、地場企業
を採った。これが現在の連邦共和国の基礎となり、
首相来日時に両国首脳間で「妥結の宣言」を行った。
さにより、大きな問題とならなかったのが実態であ
から様々な嫌がらせを受けることがある。良い
多言語、各州における独自の税制などは今に続いて
今後、条約の文言に関する日本国内での法務当局審
る。日本への輸入品目のうち、米麦、乳製品、牛
パートナーを見つけて、少しずつ出資比率を上げ
いる。アショカ王統治下の非暴力の世界では、外交
査を経て正式署名となり、国会審議の後、EPA
肉、豚肉、鶏肉、雑豆などが保護される一方、生鮮
ていくのが理想である。なお、パートナーの選定
と話術が武器であり、現在のインドの特徴である、
トウガラシ、ドリアン、スイートコーン、カレー
には、第三者的なインド人に評価・チェックして
巧みな外交術、話術や多弁さ、自己主張の強さもこ
もらうとよい
の頃から続いている。
(経済連携協定)が発効される。
日印EPAの主な内容は次のとおりである。
①協定発効後、10年間で両国の貿易総額の94%に
当たる品目の関税を撤廃。インドからの輸入総額
の約97%、インドへの輸出総額の約90%を10年
などは関税が撤廃される。日本からの輸出品では、
米、粉乳、鶏肉などは保護される一方、盆栽、長い
も、桃、イチゴ、カキなどは関税が撤廃される。
関税
(7.5 ~ 12.5%)の撤廃によるコスト削減、イン
②日本からインド市場への工業品アクセス改善品目
フラ部門への投資の拡大、後発医薬品の輸入拡大と
低価格化、などが挙げられる。
部品、各種鋼板などの鉄鋼製品、DVDプレー
ヤー、ビデオカメラなどの電気電子部品、トラク
ターやブルドーザーなどの産業機械
③日本における後発医薬品(ジェネリック医薬品)の
認可手続きを簡素化
④原産地証明については、迂回貿易の防止のため、
一般規則として厳格なルールを採用しつつ日本が
③現地のインド人をうまく活用する
現地の会社や役所との折衝がうまく運ぶ
日本にとってのメリットは、自動車部品に掛かる
間で無税化することになる(貿易額は2006年)
は、エンジン関連部品やマフラーなどの自動車
■投資環境として見たインフラ
16世紀以降は英国の影響を相当受けている。英
国がもたらした5つの重要なポイントとして、①契
約概念、②議会制民主主義、③統一言語としての英
いずれにしても最後は、自分が選んだインド人を
信用する度胸が鍵となる。
日本人を送り込むと給与の負担だけでなく、ハー
語、④財閥の形成、⑤印僑(インド国外に移住した
り、海外でビジネスを展開しているインド人)、が
挙げられる。
ドシップ手当(日本と比べて、生活環境が厳しい地
インド独立(1947年)以降、支配者であった英国
域に赴任する社員に支給する手当)、住宅や自動車
が握っていた全権利(司法、立法、行政)をインドの
インドではインフラ整備の遅れが深刻である。そ
に関する費用などが必要となり、年間で2000万~
文民が奪回し踏襲した。インド憲法上の正式国名を
の影響で経済成長率が1.5 ~2%犠牲になっている
3000万円は掛かる。日本人は最小限にとどめ、基
日本語に訳すと「インド 在主権 社会主義 世俗主義
といわれている。なお、中国など他の新興国のイン
本的にはインド人を活用するとよい。
民主主義 連邦共和国」であり、この国の特徴を表し
フラ投資はGDP
(国内総生産)比約15%であるが、
インドでは約5%と大きく下回っている。
進出の際の市場戦略として、インドの巨大な消費
市場(内需)をターゲットにすることがメインシナリ
ている。また、貧困者
(指定カースト・指定部族)
優遇
策や女性優遇策
(議員の女性枠)
も導入されている。
関心のある品目については、より貿易促進的な
また、電力不足が著しいため、インフラ投資の余
オではあるが、業種によっては中東やアフリカ、欧州
インドは長年にわたる国内産業保護政策の影響で
ルールを採用。例外品目の数ではインド側が妥協
地が大きい。特に、原子力発電のニーズは大きく、
向けの輸出拠点として位置づけることも考えられる。
国際競争力を喪失し、1991年に国家破産状態に陥っ
⑤短期商用訪問者、企業内転勤者などの移動に関し
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さ、②下請けとのトラブル、③発電事業における電
「日印原子力協定」
への期待も高まっている。
たため開放経済に政策を転換した。2007年以降は
■インドの基礎知識
てWTO(世界貿易機関)水準を上回ることを約
道路・空港・港湾の整備に関して、都市部ではP
束。インドからの介護福祉士や看護師の受け入れ
PP
(Public Private Partnership)の導入など民間
約3500年前に白人系のアーリア人が南下し、支
の活用が進んでいる。一方、投資の回収が難しい農
配者として君臨した。その過程における支配システ
農産物の取り扱いに関し、日本のセンシティブ
村については、政府が主体となって整備している。
ムとしてカースト
(身分制度)
、サブカースト
(職業世
品目は保護された。インド農業の国際競争力の乏し
インフラ投資の留意点として、①土地買収の難し
襲制度)
といった制度が始まった。カーストの上位と
〔経済広報〕2011年1月号
高度経済成長が続き、第11次5カ年計画、国民所
得倍増計画がスタート、本格的なインフラ整備も進
んできた。
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(文責:国際広報部主任研究員 北井優康)
2011年1月号〔経済広報〕
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