ビジネスのメガトレンド と企業広報への影響

企業広報研究
企業広報研究
ビジネスのメガトレンド
と企業広報への影響㊤
企業広報を取り巻く3つのメガトレンド
ヘレン・オストロウスキー
ポーター・ノベリ社 会長
大手PRエージェントのポーター・ノベリ社のヘレン・オストロウスキー会長が来日され
た機会に、経済広報センターは「ビジネスのメガトレンドと企業広報への影響」と題する講演
会を1月17日に開催した。今月号と来月号で、その要旨を掲載する。
このグローバルな会話が瞬時にして世界を
のようにして創出し管理すべきかというノウ
駆けめぐるので、企業に大きなプレッシャー
ハウを身につける必要がある。ステークホル
を与えている。
ダーの中には従業員や顧客、投資家、パート
1つの例を挙げてみる。米クリプトナイト
ナーがいるが、これらのステークホルダーと
社という、錠前を製造・販売する会社で、1
のかかわり合いは、常に一貫した、その企業
つの事件が起きた。ある日、ブログにバイ
が提唱する価値観に基づいたものでなくては
ク愛好家が、「実はこのクリプトナイトの錠
ならない。
前は、『ビック』のボールペンで開けることが
オーセンティシティーという概念について
できる」と書いた。直ちにこれが世界中に広
は、人と人、または人と組織、企業と様々な
まり、マスコミなども取り上げるようになっ
ステークホルダーの間のインタラクションが
た。そして、多くのクリプトナイトの錠前を
真実のものであるときに「オーセンティック」
使っている顧客に不安を与えた。その結果、
という表現を使う。すなわち、例えば企業が
クリプトナイト社は、無償で商品交換をする
何々をする、と発言したのならば、それと行
ことになった。
動が一致しているときにオーセンティックと
呼んでいる。
近年、市民ジャーナリストの数が急増して
いる。2005年に30万台程度しかなかったカ
メラ付き携帯電話の数が現在では10億台に
◆3つのメガトレンド
なっている。つまり、多数のフォトジャーナ
◆「オーセンティシティー」という概念
パワフルであり、この新しいつながりこそが
ビジネスの世界には3つのメガトレンドが
リストが世界に存在する状況になった。携帯
ポーター・ノベリ社は、世界でトップ10
会社の最も重要な評価の要因となり、ゆくゆ
ある。
「デジタルネットワーク革命」と「グロー
で撮った写真が記事に初めて掲載されたの
に数えられる大手のPRエージェントの1社
くはその会社の成功につながる。この新しい
バル・インテグレーション」、そして「パワー
は、2005年のロンドンの地下鉄爆破事件の
である。コンサルタント業務やメディア・リ
概念は、「オーセンティシティー」という言葉
を増すステークホルダー」の3つである。
際だった。今では携帯のカメラで撮った写
レーションズ、社内コミュニケーションなど
で表現されている。
真、市民ジャーナリストが提供する画像がひ
デジタルネットワーク革命
を行っている。世界60カ国に100を超えるオ
社会は正直さ、誠実性、それから透明性を
フィスがある。東京ではフォーカスト・コ
求めている。21世紀の企業のリーダーたる
ミュニケーションズという戦略的パートナー
者は、変わりゆく社会環境においてグローバ
デジタルネットワーク革命は、様々な技術
が事務所を構えている。
ルなビジネスを展開していかなくてはならな
革新を総称する表現だとご理解いただきた
い。企業の評判や評価は変わりつつある環境
い。ここ10∼15年の間、インターネットや
ソーシャル・ネットワーキング・サイト
で評価されるものであり、新しい形でのス
無線デバイス、ブロードバンドなどの新しい
(以下、SNS)、例えば「サイワールド」や
しかし、昨今、我々を取り巻く新しい現実
テークホルダーとのかかわり合いの中で生ま
技術が台頭することによってどのように人々
「フレンドスター」
「マイスペース」
「フェース
においては、個人、そして企業の評価を実現
れてくるものである。そして、このステーク
がお互いにかかわり合い、コミュニケーショ
ブック」も昨今すごい人気となって伸びてい
するためには、有言実行だけでは不十分であ
ホルダーは独自の意見を持ち、それを表現す
ンを図っていくかが抜本的に変わった。この
る。多くの人々がこれらのSNSを介して一
る。社会は速いスピードで変化しつつある。
る場を持っている。従って、企業が提唱する
ような新しいコミュニケーション環境が出現
堂に集まり、いろいろな意見を交換したり共
そうした中、人々は今まで以上に各企業とイ
自己アイデンティティーとは全く違ったアイ
することによって、大変強力なチャンスも生
有している。
ンタラクションを介した深いつながりを求め
デンティティーをステークホルダーが創出し
まれた。
ている。企業の行動が、その企業が提唱し、
得る状況にある。
さて、私が幼いとき、両親は私に常に自分
に正直に生きろと言っていた。
とつのニュース源として認められるように
なっている。CNNは独占的な写真使用権に
関する契約を、一般の市民ジャーナリストと
結んでいるほどだ。
しかし、このようなSNSは決して真新し
2つ目の傾向として、ブログが台頭してい
いコミュニケーション手段ではない。このS
組織のDNAに組み込まれている価値観とき
このような状況で、広報活動をつかさどる
る。ブログおよびブロガーが、これまで企業
NSというものは、昔から人々が実行してい
ちんと足並みをそろえているものであること
部署にとって新たな圧力がかけられていると
が遭遇したことがないような情報発信源と
るひとつのコミュニケーション方法、すなわ
を期待している。
いうことはいえよう。プロとして新しいコ
なっている。公の場で情報が共有され、人々
ちクチコミそのものである。なぜクチコミに
ミュニケーションスキルを身につける必要
がディスカッションを行う場となっている。
は影響力があるのかというと、自分が信頼し
「新しい形のつながり」という概念はとても
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があり、このインタラクションのモデルをど
経済広報 2008年3月号
経済広報 2008年3月号
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企業広報研究
ている人に対して、人は耳を傾けるものだか
地域のオフィスの廊下やカフェテリアなどで
らだ。自分と似ている人の意見を尊重すると
交わされる会話の重要性を過小評価してお
いうのが、人間の元来の性質である。これを
り、マネジメントワークについては、eメー
「ホリゾンタル・インフルエンス(水平的な影
ルや電話、またはビデオ会議さえすれば情報
響力)
」
と呼んでいる。
そして、昨今は水平的な影響力を及ぼす人
の力が、新技術によってさらにパワーを増し
ている。
このような状況の中、企業が人々と接する
がうまく伝達されると過信していた。どれだ
けの内容を相手の解釈に任せてしまっていた
かを理解していなかった。
だが、ある出来事で、Dellは対面での会議
を開く重要性を認識し、やり方を変えた。
方法が大きく変わりつつある。どのようにし
て消費者やその他の利害関係者とチャネル
パワーを増すステークホルダー
を持つのかも変わってきている。今まで企業
にとっては全然ステークホルダーではないと
3つ目のトレンドが、ステークホルダーが
思われていた人でさえも新たにステークホル
力を得たことだ。これまでも企業はいろいろ
ダーとして加わり、これらの人々が企業の評
なステークホルダーやグループとやりとり
価を行うような会話をインターネット上で行
をしていたが、それらが今までとは様変わり
い、評価そのものを決めている。
している。今まで以上に多種多様な人々がス
テークホルダーとして存在するようになっ
グローバル・インテグレーション
た。例えば、それはコミュニティーであった
り、ある特定の利害関係を持っているグルー
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2つ目のトレンドはグローバル・インテグ
プ、NGO、また個人である。一見これらの
レーションである。これまでの企業は階層
グループは組織化されているように思われる
型、平面的、一次元的な存在で、様々な地域
が、Aというグループが1週間後にAという
にオフィスさえ構えていればいいという状況
グループのまま存在するわけではなく、自分
であったが、今はそうではなく、組織そのも
たちの目標が達成された後には、また新たな
のが水平化し、ネットワークされてグローバ
アイデア、テーマのもとに形成されるという
ルな形で統合されることが求められている。
形になっている。
そういった状況下で、どのように組織化す
このようにステークホルダーが今までな
るのかというルールそのものや、企業がどの
かったような力を得ることによって、
「グリー
ようにして仕事を実行し、従業員とかかわ
ン・ムーブメント」という環境運動が出てき
り合うのかも変化しつつある。企業がより効
ている。そして、それに応じる形で企業も環
率性を求め、従業員が世界に分散するように
境に優しい事業活動を展開しなくてはならな
なっている。そして、新しい技術があるがゆ
くなってきている。その際、オーセンティシ
えに、これらの分散化している労働力は管理
ティーというのは大変重要な要素となってい
しやすくなったと思われがちだが、そうで
るので、単に自分たちがどのようにして環境
はないことをDellのケースは実証している。
に優しい活動をするのかを語るだけではな
Dellはアジア拠点を拡大したため、バーチャ
く、実際に環境に優しい体制にすることが重
ルワークフォースを設けている。従業員は、
要である。
自分たちを管理するマネージャーから遠く離
(4月号に続く)
れたところに存在している。当時、Dellは各
(文責:国内広報部長 佐桑 徹)
経済広報 2008年3月号