Ⅴ. 緩和現象 1. 緩和現象 緩和現象とは、力学的、電気的、磁気的など平衡からのずれを生じるために与えられた因子に よって平衡から少しずれた後、平衡に近づいていく現象のことである。ここでは、力学緩和現象 について考えていく。力学的緩和現象は、物の流動によって生じ、こうした流動に関わる学問領 域一般はレオロジ−と呼ばれている。 レオロジ−(rheology)という言葉は、ギリシャ語の「ρε’ω(= rheo; 流れる)」に由来する。古典 力学がニュ−トンの法則を基礎としているように、レオロジ−はフックの法則とニュ−トンの粘 性則を基礎としている。下図は、板に錘を付加したときに見られる現象で、クリ−プと呼ばれる。 平衡状態 緩和過程 時間 緩和現象を粘性と弾性とで記述できると仮定して、それぞれをダッシュポットとスプリングで表 すと、上図の緩和現象は下図のようにモデルで表すことができる。 平衡状態 緩和過程 時間の流れ スプリング 変形を与える ダッシュポット レオロジ−は、粘性と弾性とで記述されるような単純なものではなく、塑性も含む複雑な現象 であるが、高分子材料に関わる緩和現象は粘性と弾性との組み合わせにより記述できることが多 い。 以下においては、線型粘弾性理論と呼ばれている緩和現象を記述する理論の概略について述べる。 1 2. 弾性と粘性 2.1 弾性 物体に応力が作用したとき変形が生じ、それを除去したとき変形が減少する性質を弾性という。 その基本形がフック(Hooke)の法則である。下式で表される。 応力 f = Ex (2-1) 時間 歪 f: 応力 E: 弾性率 x: 歪 時間 応力 したがって、弾性率は下式で得られる。 E= f x (2-2) 歪 与えられた応力と応答としての歪には時間的遅延はない。 実際の引っ張り変形の場合で考えると、荷重がPであり断面積がs、試片長がLで伸びがdとす ると、f=P/s、x=d/L であるから、 E= P / s PL = d / L ds (dyn/cm) として得られる。得られた弾性率をヤング率という。曲げ変形の場合には、変形様式でより複雑 な形となり下記のように断面形状に因子が入ってくる。 曲げ(両端支持中央荷重) 丸棒: E= PL3 12πr 4 d 角棒: E= PL3 4ab 3 d E= 4PL3 3πr 4 d 角棒: E= 4PL3 ab 3 d 片もち梁曲げ 丸棒: ここで、L:スパン、r:半径、d:変形、a:幅、b:厚さ、である。単位は、寸法がmm、荷重 がNであるとき、MPa で得られる。なお、103kgf/cm2 = 0.1GPa あるいは 105kgf/cm2 = MPa である。 弾性率には、このほかせん断弾性率(剛性率)、体積弾性率がある。これらについては省略。 2 2.2 弾性の温度による変化 等温状態において、物体にfなる応力が作用し dl の伸びがあったとすると、その仕事量は fdl である。これを熱力学の第一法則および第二法則の諸式に代入し整理すると、下式を得る。 f =( ∂U ∂S ) T − T( ) T ∂l ∂l (2-3) ここで、U は内部エネルギ−、S はエントロピ−である。 金属や鉱物では、式(2-3)の第二項の寄与が小さいので第一項のみで記述され、 f =( ∂U )T ∂l (2-4) で表される。これは、外力が作用したとき原子分子の結合角や距離が変化することによってエネ ルギ−が蓄えられ、外力が作用しなければ元の状態にもどる、という内部エネルギ−に関する変 化を表す。このような弾性をエネルギー弾性という。エネルギー弾性には時間依存性がない。 他方、高分子材料、とりわけ、無定形高分子材料では第一項が無視でき、第二項のみで記述で き、 ∂S f = −T ( ) T (2-5) ∂l で表される。f と T はともに正の値であるから、 (∂S / ∂l) T は負の値をとる。すなわち、長さ l が増 大するとエントロピ−S は減少する。このことは、高分子材料では分子鎖の配列が秩序だった状 態になることを意味する。結果、作用する力を除けばエントロピー増大方向への収縮が生じるこ とになる。 伸張によるエントロピ−の減少は、伸張による発熱からも確認できる。エントロピ−変化ΔS は ΔS=Δq/T で表される。ΔS の減少はΔq の減少である、物体の熱量が減少することは外部へ向か っての熱の放出、すなわち発熱である。例えば、ゴムを伸張すると発熱が確認できる。 3 2.3. 粘性 粘性は、力と速度勾配との関係における比例定数として定義される。一般に液体が流動すると き、容器壁から離れるほど流速が大である。下図は、そのプロファイルである。 y f x 壁面からの距離を y、その距離における流速を ux とすると、速度勾配 D は、 D= du x dy 流動には力が作用しているから、これをfとする。Newton は、このfが大きいほど速度勾配は 大きくなり、両者の間には比例関係があるとした。その比例定数をη(エータ)とすると、 f = ηD = η du x dy (2-6) D が一定ならば、ηが大きいほど f が大きくなるわけだから、ηは抵抗に関わる量である。この ηを粘性係数、粘度、あるいは内部摩擦係数という。D は、逆に流れやすさを表す。これに従う 流体を Newton 流体という。 壁面に平行な流れを層流という。任意の層流をとったときを考える。下図において、B が A に 対してxだけ流れたとし、その距離がyであったとする。このとき、ずれ変形γは(dx/dy)である から、 B x θ y A この変形に時間 dt を要したとすると、B 部の流速は ux は(dx/dy)/dt である。したがって、式(2-6) から下式を得る。 D= du x d dx d dx dγ = ( )= ( )= dy dy dt dt dy dt (2-7) この D をずれ速度と呼ぶ。γは無次元だから、D は(時間)-1 の次元である。ここで、重要な結論 は、ずれ速度と速度勾配が同じものだということである。 4 ここで、fは面積が大きいほど大きくなるから単位面積で用いなければならない。そこで f は 応力でなければならない。以上のことから、Newton 則は、 f =η dγ dt (2-8) すなわち、 [応力] = [粘性係数] x [ずれ速度] と表すことができる。 多くの流体がある中で、すべてが Newton 流ではない。いま、応力とずれ速度との関係を見る と以下のような様々な挙動を示すものがある。 D (a) (b) (d) (e) (c) (f) f f0 流体 (a) ニュ−トニアン 非ニュ−トニアン(広義) (b) (c) (d) (e) (f) ダイラタンシ− 非ニュ−トニアン(狭義) ビンガム流体 or 塑性流体 チクソトロピ− 非ビンガム流体 or 偽塑性流体 これらの流体の中で D vs. f の関係において原点を通るものについては、下式が成立する。 f n = κD (2-9) f = KD ν (2-10) or ここで、κを見かけの粘度、K を粘性指数、νを流動係数と呼ぶことがある。式(2-9) or (2-10)に おいて、 (a)のニュ−トニアン (c)の非ニュ−トニアン(狭義) (b)のダイラタンシ− である。 5 : n=1 : n<1 : n>1 (or ν=1) (or ν>1) (or ν<1) 原点を通らない曲線においては、ある応力に達してはじめて流動が起こる。この応力を降伏値 として f0 とする。すると、下式が成立する。 (d)のビンガム流体 f − f 0 = η' D : (η’: (e)、(f)の曲線 (f − f 0 ) n = κ' D ν : 偽粘性あるいは塑性粘性) (f>f0) or f − f 0 = K' D ν n<1 (orν>1)のときにチクソトロピ−であり、 sの逆では曲線(e)となる。 6 2.4 粘性の温度依存性 ・Andrede の式 一般に粘性、偽粘性、粘性指数は温度とともに減少する。これについて、Andrade は下式で表 される実験式を提案下した。 B η = A exp[ ] (2-11) RT ここで、Aと B は比例定数、R は気体定数、T は絶対温度である。この式は、定性的には以下の ように導くことができる。 一般に分子がある状態Ⅰから状態Ⅱへ移行するとき、それが生じる確率は Boltzmann 因子 exp[ −ε ] RT C ε Ⅰ Ⅱ に比例する。したがって、温度が高いほどⅠ→Ⅱの確率は高い。ところで、③状態に滞在する時 間はτは、この確率に逆比例する。何故なら、確率が高いことは速やかに移行することであり、 Ⅲに滞在する時間が短い。したがって、 τ ∝ exp[ ε ] RT 分子が一時的な結合状態に滞在する時間が長いほど内部摩擦は大きい、すなわち粘性は大きい。 粘性はτに比例する。したがって、その比例定数を決定すれば式(2-11)を得る。この式は多くの実 験結果を記述した。 ・Eyring の粘性式 Eyring は、ニュ−トン流動を下図のように考えた。層流を平行に並ぶ粒子のずれ移動と考えた のである。しかも、その中に欠陥部(孔)があり、その孔に順次粒子が送り込まれることで、流 れが生じている。 l3 l l2 l1 層間距離 : l1 層内粒子間距離: l2、l3 7 この層流においてΔu を二層間の相対流速(差)とすると、式(2-6)から、 η= f l1 (2-12) ∆u を得る。 ここで、粒子が隣の孔に飛び込む過程を考える。この解析は、Eyring の絶対反応速度論に基づ いて議論できる。問題は、式(2-12)のΔu を求めることに帰着する。 ① はじめの状態は、下図の実線である。このとき、ε以上のエネルギーをもつ粒子だ けがこの峠を越えることができる。この壁をエネルギ−障壁という。 はじめの状態は、左右対称系だから、右から左あるいはその逆に向かう粒子の数は 同じと考えてよい。すなわち、流動は生じない。 ② 応力が与えられたとき、二つの状態間に生じ破線のようなエネルギ−状態になる。 このとき、左から右に行く場合のエネルギ−障壁は、逆方向に向かう場合の比べて 小さい。したがって、この場合には右から左への流動が生じることになる。 エネルギー ε 1 f l 2l3 2 1 f l 2l3 2 l 位置 この左右からの移動数の単位時間の差にlを上ずればΔu を得る。 その結果は、以下のとおりである。 η= h exp[∆G # / RT ] l1 l 2 l 3 hN A exp[∆G # / RT ] V hN A = exp[−∆S # / RT ] exp[∆H # / RT ] V = (2-13) ここで、NA はアボガドロ数、V=l1l2l3、ΔG#は流動の活性化エネルギ−、ΔS#は流 動の活性化エントロピ−、ΔH#は流動の活性化エンタルピ−である。 なお、l1=l2=l3=l とした。 以上の議論から、式(2-11)の定数を式(2-13)から決定することができる。 8 3. 3.1 静的粘弾性 刺激と応答 緩和現象に限らず、対象に外部から刺激を与えその応答を見ることで、その対象の性質をする ことができる。以下に述べる粘弾性は、力学的刺激を与えてその応答から性質を明らかにするも のである。この刺激と応答との関係をとり結ぶ物理量が、力学緩和の場合には緩和弾性率、クリ −プコンプライアンスといった粘弾性量である。これらの量が材料の分子構造と結びつけられる とき、測定結果は微細構造と関連付けた議論が可能となる。 この理論は、刺激応答理論といわれ電気回路、誘電体、磁性体など多くの物理系に対して適用さ れ十分に研究されている。 変形、荷重 刺 激 応力、変形 系 応 答 両者の関係 刺激応答理論は、非線形を含むものであるが一般的取り扱いとしては確立してはいない。一般的 刺激応答理論は、因果律と Boltzmann の重畳原理との二つを基礎として、記述される。 しかし、ここでは刺激応答理論によらず力学モデルに基づいて緩和現象を考える。いずれにせよ、 粘弾性理論が刺激と応答との関係を記述するものであり、こうしたアプロ−チによって対象とし ている系の特性が明らかにできることは重要である。 この刺激応答は動的粘弾性においても同じである。 9 3.2 粘弾性現象 先に述べたように、弾性では応力と変形とが一対一の対応関係にあり、粘性では応力とずれ速 度とが一対一の対応関係にあった。すなわち、各瞬間に一方が与えられれば、他方は一意的にき まる。 弾性 : 応力 変形 粘性 : 応力 ずれ速度 例えば、時刻 t1 にせん断応力σ0 を与え時刻 t2 に急に取り去る(下図(a))と、弾性体では段階的 変形を示し(下図(b))、粘性流体では直線的増大を示す(下図(c))。高分子材料では、こうした単 純な挙動にはならず、より複雑である(下図(d))。 (d)では変形が応力に遅れて生じ、遅れて元に戻っているこのように応力より変形の遅れる現象を クリ−プという。 応力 変形 (a) σ0 (a’) t2 t1 t1 時間 変形 t2 応力 (c) (b) (b’) (d) t1 t2 時間 t1 t2 応力の代わりに変形を与えた場合が上図の右の図である。弾性体の場合には左図と同じ瞬間的応 答をする((b’))。しかし、粘性流体では t1、t2 の大きな変形速度において瞬間的な大きな応力を 示し、それが時間とともに減少する。これを応力緩和という。 以下において論じるクリ−プや応力緩和は、その物体が弾性と粘性との両方を有した物体とし て説明される。こうした性質を粘弾性という。粘弾性の記述は、力学モデルによる方法と刺激応 答理論に基づく方法とがある。後者はより厳密である。 10 3.2 力学モデル 以下では力学モデルを用いた議論をする。弾性をスプリング(バネ)で表し、粘性をダッシュ ポット(ピストン)で表すことにする。それぞれ、先に述べたフックの法則とニュ−トンの粘正 式に従うものとする。 スプリング f = Ex f: E: x: ← (2-1) 応力 弾性率 歪 ダッシュポット dγ ← (2-8) dt η: 粘性率 dγ/dt: 変形速度 f =η このスプリングとダッシュポットを組み合わせて、粘弾性挙動を記述することを試みる。最も単 純な組み合わせは以下の二通りある。ひとつは、この二つが直列に結合したものでマクスウェル モデルと呼ばれ、他は並列結合したものでフォークトモデルという。 マクスウェルモデル フォ−クトモデル ここで、直列と並列の特性について考える。応力が与えられたとき、図からわかるように、直列 ではそれぞれの要素に加わる荷重は等しく、並列ではそれぞれの要素の変形量が等しい。 11 3.3 静的粘弾性(ひとつの特性時間を持つ場合) ・応力緩和 応力緩和とは、一定の変形を物体に与えたとき応力が減少していく現象である。これを上記の 二つのモデルを用いて解析する。 (i) マクスウェルモデルの場合 f なる応力が作用し、r なる変形が生じているとする。 このとき、スプリングとダッシュポットにそれぞれ r1 と r2 の変形が生じたとする。 f E r1 このとき、式(2-1)と(2-8)から下式が成立する。 f = Er1 r2 η ∴ f =η dr df =E 1 dt dt dr2 dt (3-1) (3-2) r = r1 + r2 (3-3) 式(3-3)を t で微分すると、 dr dr1 dr2 = + =0 dt dt dt ( ∵ r = 一定 ) (3-4) 式(3-1)と(3-2)を式(3-4)に代入すると、 1 df f + =0 E dt η (3-5) t f = f 0 exp[− ] τ (3-6) この微分方程式を解くと、 ここで、f0 は t=0 での応力、τ=η/Eである。τを緩和時間という。式(3-6)において t=τとする と、 f= 応力 f0 e f0 f0/e τ 時間 すなわち、τは応力がはじめの 1/e になるまでの時間である。緩和時間はその材料の緩和に関す る特性を表すから特性時間とでもいうものである。 12 式(3-6)は、一般的な緩和挙動を概ね記述する。 応力 f0 理論 実験 時間 (ii) フォ-クトモデルの場合 この場合、下式が成立する。 f = Er + η dr dt (3-7) 変形が一定だから、dr/dt=0 であり、したがって、 E η r= r1 f0 E (3-8) r2 したがって、フォ−クトモデルでは応力緩和は記述 できないことがわかる。 応力 f0 理論 実験 時間 13 ・クリ−プ クリ−プは、一定応力が与えられたとき、変形が時間とともに増大する現象のことである。 (i) フォークトモデルの場合 変形量が r であるとすると、スプリングとダシュポット はともにrの変形量であるから、下式が成立する。 r それぞれの要素にかかる応力を f1、f2 とすると、下式が 成立する。 E f 1 = Er η f2 = η (3-9) dr dt (3-10) f = f1 + f 2 (3-11) 式(3-9)、(3-10)、(3-11)から、 f = Er + η ∴ η dr dt dr f = − E(r − ) dt E これを解いて、 r− f E = c' exp[− t ] E η (3-12) t=0 のとき応力が作用していないから変形は生じず r=0 であるから、 f c' = − E さらに、t=∞のとき f r∞ = E と書くことにすると、式(3-4)は下式となる。 t r = r∞ (1 − exp[− ]) λ (3-13) ここで、λ=η/E である。このλを遅延時間という。緩和時間と同様に考えると、この遅延時間 が r/r∞が(1-e-1)に等しくなるまでの時間であることがわかる。これもまた、クリ−プ特性を表す特 性時間である。 変形量 理論値 実験値 時間 クリ−プの場合、フォ−クトモデルは概ね実験結果を記述することができる。 14 (ii) マクスウェルモデルの場合 f なる一定応力が作用し、r なる変形が生じているとする。 このとき、スプリングとダッシュポットにそれぞれ r1 と r2 の変形が生じたとする。 f E r1 このとき、式(2-1)と(2-8)から下式が成立する。 f = Er1 η r2 dr df =E 1 dt dt ∴ f =η dr2 dt r = r1 + r2 ← (3-1) ← (3-2) ← (3-3) 式(3-1)、(3-2)、(3-3)から、 dr 1 df f = + dt E dt η (3-14) ここで、応力一定だから df/dt=0 であり、 dr f = dt η したがって、初期条件 t=0 で r=0 であることを考慮して解くと、 r= f t η 変形量 理論値 実験値 時間 f/ηは一定だから上式は直線となる。したがって、マクスウェルモデルでは実験結果を記述できな い。 15 3.4 静的粘弾性(一般化された記述および緩和スペクトル) ・緩和時間と遅延時間 先の議論において、応力緩和はマクスウェルモデルによって概ね記述されることがわかった。 その挙動の特性は特性時間である緩和時間によって依存した。 応力 t f = f 0 exp[− ] τ f0 f0/e τ1 τ2 τ3 τ4 時間 図示するならば、τが大きくなるにつれて、上図のように応力の減衰は緩やかになる。すなわち、 緩和時間が長いほど緩和が緩やかに生じることを示している。 同様のことは、クリ−プの特性を表す時間である遅延時間いついても言える。クリ−プはフォ −クトモデルによって概ね記述された。 t r = r∞ (1 − exp[− ]) λ 変形 r0 r0(1-e-1) λ1 λ2 λ3 λ4 時間 遅延時間λが長くなるにつれて、クリ−プの変形の増大は緩やかになることがわかる。 ここで、上図の緩和現象を特徴付ける緩和時間や遅延時間はひとつであった。しかし、ひとつ の特性時間では記述できない。このことから、実際の材料においては様々な緩和機構があって、 それぞれに対応した緩和時間や遅延時間がありそれらが全体として材料の緩和挙動を決定してい るという考え方がでてくる。 そこで、一般の材料は様々な緩和時間や遅延時間をもっている、すなわち時間分布を有している と仮定して議論をすすめる。 16 ・一般化された応力緩和 いくつかの緩和時間を持つマクスウェルモデルを考えると、下記のモデルができる。それぞれ のマクスウェル単位がひつつずつ緩和時間を有する。 下図に示した一般化されたマクスウェルモデルにおいて、全体に作用する応力を f とすると、 これはそれぞれのマクスウェル単位に作用する応力の和であるから、先の結果である式(3-6)を用 いて f= n n ∑f = ∑f i i =1 f = r ∴ exp[− i =1 n f 0 ,i i =1 r ∑ 0 ,i exp[− t ] τi t ] τi したがって、 E r (t) = n ∑E i exp[− i =1 t ] τi (3-15) ここで、Er(t)を緩和弾性率という。 E1 τ1 E2 Ei τ2 En τi τn 式(3-7)を一般化して積分表示すると、 ∞ ∞ t t E r ( t ) = H(τ) exp[− ]dτ = H(ln τ) exp[− ]d ln τ τ τ −∞ 0 ∫ ∫ (3-16) この一般化においては、緩和時間の積分範囲をτ(≡E/η):0∼∞としていることからわかるよう に、上図のモデルに並列にダシュポットのみとスプリングのみの単位を加える。ここで、 H(τ) : 分布関数 H(lnτ): 緩和スペクトル である。ここで注意しなければならないは、 「分布」あるいは「スペクトル」という名称にかかわ らず、これらがマクスウェル単位の数あるいは割合を表しているのではなく、その緩和時間を有 するマクスウェル単位の弾性率を表していることである。これは式(3-7)と(3-8)との対応からすぐ に理解できる。 17 一般化されたモデルにおいて、緩和過程がどのように表されるかをイメ−ジとして下図に示し た。緩和が進行するに伴って、それぞれのマクスウェル単位の緩和が終了していく。 τ1 τ2 τ3 τi ① 変形を与える前の状態 ② t=0 τn (変形を与えた直後の状態) 各マクスウェル単位のスプリングのみが 伸張する 終了 ③ t > τ1 ダッシュポットが次第に伸びてくる。 t > τ1 だから、緩和時間τ1 のマクスウェ ル単位の緩和は終了する τ1 終了 τ2 τ3 τi τn 終了 ④ t > τ2 t > τ2 だから、緩和時間τ2 の単位の緩和 も終了する τ1 τ2 τ3 τi τn ⑤ t → ∞ 全てのマクスウェル単位の緩和が終了する τ1 τ2 τ3 τi τn 18 ・一般化されたクリ−プ 応力緩和の場合と同様の手順で一般化したフォ−クトモデルから下式を得る。 r= n ∑r ∞ ,i (1 − exp[− i =1 ∴ r = f n r∞ ,i i =1 f ∑ t ]) λi (1 − exp[− (3-17) t ]) λi したがって、 J C (t ) = n ∑ J (1 − exp[− λ t i =1 (3-18) ]) i i ここで、JC(t)をクリ−プコンプライアンスという。これを一般化すると、 n ∑ ∞ ∞ t t t J C (t ) = J i (1 − exp[− ]) = L(λ )(1 − exp[− ])dλ = L(ln λ)(1 − exp[− ])d ln λ λi λi λi i =1 −∞ 0 ∫ ∫ (3-19) L(λ)と L(lnλ)は、それぞれ遅延時間の分布と遅延スペクトルという。これら、λなる緩和時 間のフォ−クト単位の数や割合を与えるものではなく、コンプライアンスを与える。 19
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