1 高かった貯蓄率

経済学概論
1 高かった貯蓄率
10.4 貯蓄と高齢化・少子化
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戦後の高度成長期に日本の貯蓄率は国際的に高く、
日本経済の高度成長を資金の供給面で支えた。(貯
蓄→投資)
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低成長期に入ってからは、貯蓄超過→貿易収支黒字
増により、対外貿易摩擦の要因になった。
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高齢化・少子化の進行により、貯蓄率が低下してきた
。
中村学園大学
吉川卓也
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日本の貯蓄率が高かった理由
(1)政府との代替仮説
(2)ボーナス仮説
(主張)公的な社会保障が不足していた。老後の生活の準備のため
貯蓄をしたので、家計の貯蓄率が高かった。
(主張)ボーナスの比率が高いので貯蓄率も高かった。
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家族制度を通じ、各世帯(家族)が老後の生活補助を担っていた。
←老人が家族と同居している世帯の比率が高かった。
(問題点)70年代後半から社会保障制度が充実しても高貯蓄率が
続いた。
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ボーナスからの貯蓄性向は高い。
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家計が毎月の給与で消費し、ボーナスで貯蓄するなら、ボーナス比率の高い
日本の貯蓄率は高くなる。
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ただし、流動性制約の存在(お金を自由に借りられないこと)が前提となる。
(問題点)高度成長期の貯蓄性向の高さを完全には説明できない。
社会保障給付の充実に伴い、その後貯蓄率は低下している。
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ボーナスを前提としたローンは一般的である。
ただし、高齢化によっても貯蓄率は低下する。
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流動性制約の影響は限定的である。
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(3)目標資産水準
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(4)ライフサイクル仮説
(主張)戦後の荒廃した状況下で、老後のために資産をより多く保有しておきたいとい
う欲求が強かった。→将来の資産蓄積のため貯蓄性向が高まった。
(主張)ライフサイクルを考えると、若い人が貯蓄して、老人は負の貯蓄をする(
貯蓄を取り崩す)。
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平均寿命が延び老後が長くなると予想されたこと、土地神話なども影響した。
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他の敗戦国でも貯蓄性向が高かった。
日本の人口構成の推移をみると、これまでは若年層が大きな比重を占めてい
た。若い人が多い国では貯蓄する人が多くなるので、マクロの貯蓄は大きい。
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1970年代に石油ショックによる狂乱物価で金融資産の実質的な目減りが生じた時
期に、家計の貯蓄率は上昇した。
→貯蓄率が高かった。
(問題点)資産の目標水準を明示することは困難である。また戦後当初は資産水準
が低かったからということで、戦後30年もたった高度成長期後半の貯蓄率を説明でき
るかという問題がある。
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(問題点)日本人は老人になってもそれほど貯蓄性向が低下しないという指摘
がある。ライフサイクル・モデルが成立せず、貯蓄行動が年齢とあまり関係なけ
れば、人口構成が変化してもマクロの貯蓄率は変化しない。
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貯蓄率の低下傾向
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人口構成の高齢化:若いときに貯蓄して、老後に貯蓄
を取り崩すので、高齢化は貯蓄率を低下させる。
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消費者信用の拡大:クレジットカードなどの普及で、若
いときから将来の所得をあてにした多額の消費が可能
になり、貯蓄する意欲が低下してきた。
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ストック資産価格の大幅な上昇:住宅価格の上昇で、
住宅購入をあきらめ、貯蓄しなくなった。
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これからの貯蓄の動向
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高齢化は貯蓄を抑制する方向に働く。
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ただし、遺産として世代間の資産移転が進むなら、貯
蓄率はあまり低下しないかもしれない。
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いくつかの相殺する要因があるが、結果的には貯蓄
率は低下傾向で、貯蓄は減少する可能性が高い。
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