社会的な見方や考え方を成長させ - 大垣地域ポータルサイト西美濃

社会的な見方や考え方を成長させ、
自らの生き方をつくり出す子が育つ社会科学習
大垣市立綾里小学校
教諭
早野
雅子
< 概 要 >
本研究は、
「社会的な見方や考え方を成長させ、自らの生き方をつくり出す子が育つ社会科学習」の主
題のもとに、本校における3年間・3学年の実践の中で、改善や発展を求め、取り組んできたものである。
「社会的な見方や考え方」を「社会的事象に対する」「多面的・総合的な」見方や考え方ととらえ、研究内容
を次の3点とした。①社会的事象の意味を確かに理解できるように視点を明らかにして教材開発・単元構
成をする。②多面的・総合的に考えるための学習活動を工夫した問題解決学習及び話し合い活動を仕組む。
③一人一人の見方や考え方を伸ばし、互いによさを学び合える指導・援助を工夫する。実践を進めるにあ
たっては、児童が自分とのかかわりをもとに考え、仲間と互いの見方や考え方を交わし合うことを大切に
した。これらの手立てにより、身近な地域人材や今日的な教材で仲間と学び合う授業の中で、児童の社会
的な見方や考え方を成長させ、自ら社会参画していく礎を築いてきた。それは、自らの生き方をつくり出
す子を育てることへ通ずるものとなった。さらに、新たな課題や挑戦を見出し、今後の実践につなげる。
1.主題設定の理由
(2)自身の研究や実践の歩みから
私は社会科教師として、多くの先輩教師や地域
(1)社会科における今日的課題から
社会科の学習指導要領改訂の趣旨として、改善
の方々に学び、目の前の子どもたちと共に、授業
の基本方針が3点示されているが、注目すべき部
研究や実践を続けている。
「今、ここで、この子ど
分を私は次のように捉えた。
もたちとつくり出すよりよい社会科授業」を願い、
..
○社会的な見方や考え方を成長させることを一層
授業改善に努めてきた。22 年度より本校に勤務し
3年生担任を、23 年度は6年生教科担任、24 年
重視する。
○社会的事象の意味、意義を解釈すること、事象
の特色や事象間の関連を説明すること、自分の
..
考えを論述することを一層重視する。
度は3・5・6年生教科担任として社会科授業に取
り組んできて、課題と感じるのは次の3点である。
・地域や子どもの実態に応じた教材か、学習内容
○公共的な事柄に自ら参画していく資質や能力を
や事例が学年間で整備されているか見直すこと
育成することを重視する。
この中の「問題解決の能力」を身に付けていく
・体験的な学習や調べ学習には意欲的に取り組め
るが、自分の生活や生き方とかかわらせ問題意
本研究では、これらの中から「社会的な見方や
考え方を成長させる」ことに焦点を当てる。その
識をもって学習を進める力に弱さがあること
成長の過程において、社会的事象の意味を確かに
・自分なりの見方や考え方を深めるための話し合
理解することをもとに、社会参画していく資質や
い活動や表現活動を充実させること
能力は育っていくと考えるからである。
これらを克服するには、やはり「社会的な見方
また、「社会的な見方や考え方の成長」「社会的
や考え方を成長させる」ことが鍵となると考えた。
事象の意味理解」について、これまでも重視して
「社会的な」を「社会的事象に対する」
「多面的・総合
きた不易のねらいをより「一層重視する」として
的な」の2つの意味でとらえると、
「社会的事象に対
いる点や、公民的資質の中核として「社会参画」
する」見方や考え方を育てるための教材開発や単
を新たに打ち出している点にも着目したい。
元構成の工夫、
「多面的・総合的な」見方や考え方
自ら参画する力は自分の考えをもって社会にか
かわっていくことに始まり、それは自らの生き方
を育てるための問題解決学習や学び合いの場の充
実を求めていることに重なるからである。
をつくり出すことに通ずるものである。
以上の理由から、本主題を設定した。
-1-
2.研究仮説
人々の願いや保存・継承のための工夫や努力を考
えることが大切であるとしている。
社会的事象の意味を確かに理解できるように視
これらを踏まえ、綾里小校区で毎年盛大に行わ
点を明らかにして教材を開発し、多面的・総合的
れる「綾野祭り」と「はだか祭り」を教材化した。
に考えるための学習活動を工夫した問題解決学習
2つの祭りには、生活の安定や向上に対する地域
を仕組む。その中で自分とのかかわりをもとに考
の人々の願いがこめられ、長く継承していくため
え、仲間と互いの見方や考え方を交わし合うこと
の工夫や努力があって、今日まで受け継がれてき
を大切にする。これらの手立てにより、社会的な
ていることに着目させたいと考えたからである。
見方や考え方を成長させ、自らの生き方をつくり
綾野祭り
出す子が育つであろう。
はだか祭り
いつ
10 月第 2 土曜
2月3日節分の日
3.研究内容
どこで
白髭神社・綾野地内
野口宝光院
(1)教材開発・単元構成の工夫
いつ
から
どんな
願い
内容
江戸時代 250年前
寺は1200年前
祭りは65年前
「厄除開運」
厄を払い福をつかむ
祈祷・豆打式・
みそぎ川渡り など
①社会的事象の意味を確かに理解するための視点
を明らかにした教材開発
②学習内容を構造化し一単位時間の役割を明確に
した単元構成の工夫
表1:2つの祭りの概要 (太枠内が学習内容に関わる)
(2)学習活動の工夫
①強い課題意識のもとに自分とのかかわりから考
①教材開発の視点【教材の価値となる具体的な事実】
「はだか祭り」の最大
える問題解決的な学習の充実
②仲間と相互交流し社会的事象の意味を多面的・
の見所とも言えるのが裸
男の川渡りである。本教
総合的に考える話し合い活動の工夫
材では、自身も裸男を長
(3)指導・援助の工夫
①自分なりの見方や考え方を伸ばす個の学習への
年経験した後に、祭りを
杭瀬川を渡る裸男たち
支える世話役を20年以上続ける人物・寺田さん
指導・援助の工夫
②一人一人の見方や考え方のよさを広める全体指
の役割と願いを中心事象とする。地域に長く続い
てきた祭り、ふるさとを大切に思う心を受け継い
導の工夫
でいこうとする願いに、地域社会への誇りと愛情
4.研究実践
(1)教材開発・単元構成の工夫
①社会的事象の意味を確かに理解するための視
点を明らかにした教材開発
②指導内容を焦点化し一単位時間の役割を明確
にした単元構成の工夫
実践例
「豊作祈願」
五穀豊饒に感謝する
5両の車山の練り歩き・
奉芸 など
を育てる教材としての価値を見出すからである。
宝光院檀家総代
寺田 繁さん
・大垣市野口在住
・裸男として 10 回以上祭りに参加
心男は2回務める
・祭りの世話役を続ける
・本校6年児童の祖父
3年「のこしたいもの、つたえたいもの
~ふるさとの2つの祭り~」
②単元構成の工夫【学習内容の構造化】
2つの祭りを取り上げて対比しながらそれぞれ
①教材開発の視点【学習内容の選定】
本実践は、学習指導要領3・4学年の内容(5)
の祭りの特色をとらえ、伝統ある行事を受け継い
を受けて、「地域の人々が受け継いできた文化財
でいく人々の願いにふれることで、これからの祭
や年中行事には、地域の発展やまとまりなどへの
りや地域社会へのかかわりについて考えを深めら
人々の願いがこめられていることを考え、人々の
れるように単元を構成した。ここでは、祭り当日
生き方にふれるようにすること」を学習内容とす
に見学する「はだか祭り」を重点的に取り扱い、
る。今回の改訂では、調べる対象イについて「地
児童の祭りにかかわる疑問を解き明かす中で、
域に残る(文化財や年中行事)」を「地域の人々
人々の願いや生き方に迫れるようにする。単元末
が受け継いできた(文化財や年中行事)」と改め、
には、自分の考えを大切にこれからに受け継いで
-2-
いく祭りとして紹介する作品にまとめ、発信する。
した。5年生では、国民の食生活を支える稲作の
典型的事例として庄内平野での米づくりを中心教
《単元導入時の児 童の意識》
綾里校区には、古くから残るものがたくさんあるんだな。知っているものや知らないものがある。
2つの祭りはとても有名で大切なものらしい。どんな祭りなのだろう。
《単元を貫く課題》
材とし、自分とのかかわりから考える場面では稲
〈第1時 綾里に のこる古いもの〉
地いきに古くからのこっているものには、どんなものがあるだろう。
綾里校区には寺や神社が多く、昔から続く祭りもある。どんな祭りなのか知りたいな。
作に関連した校区の行事を取り扱う。
3年「農家の仕事」
対比〈第3時
はだか 祭り〉
はだか祭りは、どんな祭りなのだろう。
綾野祭りとは違って、 厄をはらって 福を
つかむという願いを込めた祭りなんだな。
裸男が冷たい川に入るには勇気がいる。
とても迫力があって、ぜひ見に行きたい。
なぜ2月3日でいないといけないのか。
なぜ寒い冬に裸で川に入るのか。
人々の願いや生き方に迫る 未来への思い
地域にのこる古いものには、どんなねがいがこめられているのだろう。
〈第2時 綾野祭 り〉
綾野祭りは、どんな祭りなのだろう。
クラスの中で踊りや笛 で祭りに参加 して
いる子が5人もいる。 大変なこともあ るけ
ど、小さい頃からずっと出ているんだな。
米が豊かに実るように 願いを込めて 踊り
や芸をささげる祭りを 江戸時代から続 けて
いるなんてすごいな。
〈第4時 はだか 祭りの疑問①〉
真冬の2月3日に、はだかで川をわたる祭りをつづけているのは、なぜだろう。
節分の豆まきの日に、鬼を追い払 い、裸で冷たい川を渡 って悪いものを流すため にして
いる。人生の辛いことを乗り越える、多くの福を呼び込む願いが込められているんだな。
祭りは祖父母が生まれる前から続いていて、寺は1200年も前から続いていて驚いた。
〈第5時 はだか 祭りの疑問②〉本時
寺田さんが20年以上たいへんな祭りの世話役をつづけているのは、なぜだろう。
寺田さんは自分も参加してきた はだか祭りをずっと大切 に残していきたいから、 世話役
を続けているんだな。人々の願い のこもった祭りはふるさ との宝物だな。これから も故郷
のことをもっと知って、大切にしていきたいな。
〈第6・7時 は だか祭り見学〉
はだか祭りを見学して、祭りについてもっと知ろう。
裸男が川を渡る姿は迫力があり 、見ているわたしたちに も元気や勇気を分けてく れるみ
たいだ。たくさんの人が見に来るこの祭りを、寺田さんたちが支えているんだな。
〈第8・9時 祭 りパンフレット〉
綾里のお祭りパンフレットを作ろう。
わたしたちのふるさと綾里には、 昔から大切に受け継が れてきた祭りがある。2 つの祭
りにはそれぞれの特徴があり、人々の願いがこめられている宝物だ。
校区でただ一人の専業農家
柳瀬さんを取り上げ、単元構成
する。
庄内平野での米づくりを単元学習の
柱とし、稲作に関連した校区の行事を
取り上げる。
見
柳瀬さんの大型機械による稲
学 刈りとライスセンターでの籾摺り
体 を見学
験
総合的な学習の時間における籾蒔き
と田植えの体験・稲の世話についてお
話を聞く会
(本単元学習後に稲刈りの体験)
地
域
教
材
表2:3年と5年で取り扱う「稲作」の学習内容の対比表
①教材開発の視点【教材の価値となる具体的な事実】
《単元出口の児童 の意識》
綾里校区に古くから残る祭りには、地域の人々の願いがこもっていて、長い間人々は大切に受け
継いできた。歴史のある祭りもそれを支える人々も、ふるさと綾里の宝物だな。わたしたちもふる
さとを大切にする心を受け継いでいきたいな。
3年生「農家の仕事」では、校区で唯一の専業
農家・柳瀬さんの米づくりの工夫と努力を中心事
象とする。自身の田にとどまらず多くの農家から
図1:単元構想図「のこしたいもの、つたえたいもの」
頼まれ、学校の敷地の14倍の広さの田で 2,000
≪本実践をして≫
祭りの特色を調べ、寺田さんから直接お話を伺
い、祭りを見学した児童は、「地域の人々の願いが
俵もの米を作るための機械化や効率化の工夫、稲
作を続け田を守っていく決意に、地域に根ざし地
域を支える産業と自分たちの生活とのかかわり
こもった伝統ある祭りとふるさとを大切に思う心
を守っていきたい」「祭りのことをもっと知りたい、
を考える教材としての価値を見出すからである。
米作りに励む
毎年見に行きたい」「多くの人に祭りの素晴らしさ
を知ってほしい」という考えをもち、パンフレット
にまとめることができた。「ふるさとの宝物」とし
て2つの祭りを発信した。☞詳細は資料編参照
実践例
5年「米づくりのさかんな庄内平野」
単
地域には農作物の生産にかか
我が国の米の生産が国民の食料を確
元 わる仕事があり、自分たちの生活 保する重要な役割を果たして国民の食
生活を支えていることを理解する。
目 を支えていることを理解する。
標 ・仕事に見られる特色
・自然環境と深いかかわり
・他地域などとのかかわり
・人々の工夫や努力
を理解する。
・生産地と消費地を結ぶ運輸などの働き
を理解する。
農家の仕事と自分たちの生活
国民生活を支える米の生産の発展
とのかかわりを考えようとする。
について考えようとする。
3年「農家の仕事
柳瀬 敏秋さん
・大垣市中原在住
・綾里小校区で唯一の専業農家
・稲作の一部作業を100軒ほど
全作業を60軒ほどの農家から委託される
・自家用ライスセンターを所有
5年生では、地域教材についてのみ述べる。本
~米づくりにはげむ柳瀬さん~」
校では総合的な学習の時間に、4年生で「輪中堀
5年「米づくりのさかんな庄内平野」
田での米づくり」を、5年生で「学習田での米づく
①教材開発の視点【学習内容の選定】
3年生に「地域の生産活動」として、5年生に
「我が国の食料生産」として、農業にかかわる学
習内容がある。学習指導要領5年の内容の取扱い
において、3年生では「地域の生産活動を通して
地域社会に対する理解」を、5年生では「我が国
の農業についての理解」を深めることに、それぞ
り体験」を学習していることも生かし、校区の稲
作関連行事を取り上げる。機械化や品種改良が進
んだ今も、「虫送り」や「春と秋の祭り」の行事を
長く続けているのは、米づくりに対する人々の
願いやつながりが受け継がれているからである。
この点に、自分たちの生活とかかわりある地域の
稲作を足場にして、米の生産の役割や発展につい
れのねらいがあることに留意を求めている。
綾里小校区は、輪中を形成し田が広がる昔から
て考える教材として価値を見出すことができる。
稲作が盛んな地域なので、3年生では、地域の産
業の特色や自分たちの生活とのかかわりを具体的
にとらえられる事例として、校区の稲作を教材化
虫送りの札
-3-
綾野祭り
≪本実践をして≫
①教材開発の視点【教材の価値となる具体的な事実】
3年「農家の仕事」では、柳瀬さんが米づくり
江馬蘭斎は西美濃の蘭学の祖であるだけでなく、
をされる田の広さや米の収穫量と、米づくり農家
日本の蘭学の興隆につながる人物であった点から
の学級児童5軒の総量(約 200 俵)とを比べての驚
も、中心事象となりうる。蘭斎は46歳で江戸に
きから、単元を貫く課題を設定することができた。
出て、杉田玄白から「解体新書」を、前野良沢から
大型コンバインによる
蘭学を学んでいる。さらに、蘭斎は教科書に「オラ
稲刈りの様子やライスセ
ンダ正月」として掲載されている絵図にも登場し
ンターでの乾燥・籾摺り
ている。正式には「芝蘭堂新元会図」であるが、1794
の過程を実際に見学して、稲刈り見学
年、蘭方医大槻玄沢が蘭学者たちを蘭学塾芝蘭堂
大型機械による作業の効率
に招いて、太陽暦の新年会を開いたときの様子が
化や米づくりに携わる柳瀬
描かれ、このとき集まった当時の名立たる蘭学者
さんの思いを具体的にとら
29名の中に、蘭斎も加わっている。郷土大垣の
えることができ、毎日「ご飯」
人物が教科書資料に登場し、全国的に蘭学者とし
として食べる米がこうやって
し らんどう し ん げ ん か い ず
て活躍していたという
ライスセンター見学
生産され、自分たちの生活を支えていることを実
事実は、児童の興味・関
感していた。☞詳細は資料編参照
心を高め、学習内容を関
5年の授業実践の具体は研究内容(2)で述べる。
実践例
6年「江戸の文化と新しい学問
~大垣の蘭方医・江馬蘭斎~」
江馬蘭斎が寄せた賛辞
連付ける。ここに教材と
しての価値が見出せる。
ヘスリンク博 士(オラ ンダ人)の 論 文
「芝蘭堂のオランダ正月 1795 年1月1日
(1995 年)」によると、江馬蘭斎は○印の
人物とされる。右隣は前野良沢。
①教材開発の視点【学習内容の選定】
本実践は、学習指導要領6学年の内容(1)を
受けて、
「町人の文化が栄え新しい学問が起こった
ことが分かり、現在の自分たちの生活や社会の基
盤がどこにあるのかを考えたり、過去の出来事を
江馬蘭斎が使っていた「解体新書」全5冊
(当時高価でなかなか手に入らなかった)
現在および将来の発展に生かすことを考えたりす 図2:「解体新書」
≪本実践をして≫
ること」を学習内容とする。今回の改訂では、
「『歌
舞伎や浮世絵』及び『国学や蘭学』についていず
れかを選択して取り上げることができる」という
内容の取扱いを削除し、我が国の伝統や文化につ
江馬蘭斎の授業実践の具体は研究内容(2)で述べる
実践例 6年「わたしたちの願いを実現する政治
~身近な防災を考える~」
①教材開発の視点【学習内容の選定】
いての理解を深め、尊重する態度を育てることを
一層重視するとしている。
図3「芝蘭堂新元会図」
本実践は、学習指導要領6学年の内容(2)を
受けて、
「地方公共団体や国の政治は、国民生活の
これらを踏まえ、歌舞伎や浮世絵、国学や蘭学
のいずれも取り上げる中で、自分とのかかわりが
え
安定と向上を図るために大切な働きをしているこ
とを考え、身近な日常生活における政治の働きに
ま らんさい
感じ取れる、郷土大垣の蘭方医・江馬蘭斎を教材化
関心をもつようにすること」を学習内容とする。
した。身近な地域で新しい学問を広め、より優れ
内容の取扱い(2)のウでは、「児童の関心や地域
た医学を取り入れようと努めた先人の生き方や功
の実態に応じて、社会保障、災害復旧の取組、地
績が、今の地域社会や自分たちの生活の発展につ
域の開発などの中から事例を一つ選択して取り上
ながっている。このような人物との出会いは、ふる
げ、具体的に調べるようにする」としている。
さとの歴史への興味・関心を高められると考えた。
大垣の蘭方医
江馬
蘭斎(春齢)
・大垣市生まれ 92歳没
・大垣藩医の養子となり、跡を継ぐ
・46歳で江戸に出て蘭学を学び、大垣へ
帰って蘭学塾「好蘭堂」を開く
・日本初西洋内科診断書「五液診法」出版
これらを踏まえ、
「災害復旧の取組」を児童の関
心や地域の実態から「身近な防災」に置き替えて
教材化した。平成23年3月11日、東日本大震
災が起こり、地震や津波による甚大な被害を目の
当たりにした私たちは、災害復旧の取組とともに、
-4-
防災対策の見直しへの関心も高まった。重ねて、
本校養護教諭が県の被災地派遣教員として、10~
時
1
課題と主な学習事項
課題づくり
「東日本大震災を通して、被災するとはどういうことか考えよう」
・宮城県三陸地方の状況 ・今後の東海地震の予測
2
市の取組
「大垣市は災害に備えてどのような取組をしているのだろう。」
・地域特性と課題の分析 ・防災計画の見直し
・相互応援体制の確立
・ハザードマップの配布
・耐震化の促進 ・防災リーダーの育成
わたしたちの命や暮らしを守るために、市(国や県)はど
地域の取組
んな備えをしているのだろう。わたしたちにできることはど
「安田さんが自主的に栄町で初めての防災運動会を実施したのはなぜだ
んなことだろう。
ろう。」
・防災運動会の先行実施(H19 県下初モデル地区)
・自主防災倉庫の備え ・安田さんの願い
防災パンフレット作り
「学習したことを生かして、我が家の防災に役立つパンフレットを作ろう。」
・綾里校区の地図・自宅付近の地域地図への書き込み
・市の取組(国や県との連携)、地域の取組の情報
・我が家でできる防災(物の備えと心の備え)
家族防災会議
課外に各家庭で実施
税金の働き …以下、課題・学習事項を略
国の政治1―国会の働き
国の政治2―内閣の働き
国の政治3―裁判所の働き
国民の祝日 単元のまとめ
12 月の3ヶ月間宮城県南三陸町(伊里前小学校)
へ赴任され、被災地の状況
や私たちが考えなければな
らないことを直接伝えてく
ださったので、児童の被災地
3
より強いものになっていた。
被災地の話を聞く会
(新学習指導要領施行初年度が23年度であり、
4
5年生の国土の自然等の学習に「自然災害の防止」
が付加されたが、6年生は前年度学習していない
ため、内容が重複することはない点も考慮した。)
「大垣市の防災対策」は県や国と連携しており、
今の私たちの願いの実現や生活の安定を図るため
に政治が大切な働きをしていることを理解するの
に適した事例である。さらに、
「政治の働きに関心
をもつ」とは、自ら社会にかかわろうとする態度
を育てることにつながるととらえ、
「地域住民の自
主的な備え」や「地域社会や家族の一員として自
分にできる防災」を考えることまでを取り扱う。
それは、社会参画していく資質や能力を育てるこ
5
6
7
8
9
表3:「わたしたちの願いを実現する政治」単元指導計画略版
≪本実践をして≫
第4時では、「なぜ今防災対策が必要か」「大垣
市ではこんな対策を」「地域ではこんな取り組み
を」「我が家でできることは」の4点を見出しに、
防災について学習したことをまとめ、それを持ち
帰って各家庭で家族防災会議を開くことを課題と
した。次に児童の「自分の考え」の一例を挙げる。
とにも通ずると考える。
今、防災対策をすることがとても大切だということ
と、わたしたちにもできることがたくさんあることが
分かりました。できることを精一杯やって、防災対策
を万全にしたいです。(パンフレットの考え欄より)
災害に備えて、ある程度のことは対策してあったけ
ど、対策していない所もあったので、一つ一つ対策し
ていきたい。(家族防災会議録の考え欄より)
①教材開発の視点【教材の価値となる具体的な事実】
児童が身近に感じ具体的に考えられる地域の自
主防災の取組を推進する人物、安田さんを中心事
象とする。校区の栄町自治会長であり、大垣市防
災リーダーでもある安田さんは、
「災害時のパニッ
☞作品全体は資料編参照
クを防ぐために楽しく訓練を体験してほしい」
「行
政治の働きとしての防災を理解するだけでなく、
事に参加することで顔なじみとなり、地域の絆を
自分にできることを進んで見つけ行動しようとする
深めることが助け合いや協力を生む」という願い
主体的な態度に結びつく学習となった。
から地域で防災運動会を実施している。この点に、
分にできることは何かを考え行動しようとする契
(2)学習活動の工夫
①強い課題意識のもとに自分とのかかわりから
考える問題解決的な学習の充実
②仲間と相互交流し社会的事象の意味を多面的・
総合的に考える話し合い活動の工夫
機を得る教材としての価値を見出すことができる。
実践例
私たちの生活の安定と向上を図るため、政治の働
きとして大垣市や岐阜県、国の取り組んでいるこ
とを理解するだけでなく、社会の一員として、自
栄町自治会長
安田
大垣市防災リーダー
光男さん
・大垣市栄町在住
・「防災ひとづくり塾」で防災リーダー認定
・大垣防災支援ネットワーク所属
・H19県下初の防災運動会を栄町で実施
・本校見守りアイ バドミントンクラブ講師
②単元構成の工夫【学習内容の構造化】
3年「のこしたいもの、つたえたいもの
~ふるさとの2つの祭り~」
① 問題解決的な学習【強い課題意識をもつ】
研究内容(1)②の中で前述したが、2つの祭
りの概要を学習した段階で、長く続く祭りを受け
継ぐことの重み、そこに込められた人々の願いに
迫るため、児童が「なぜ」
「どうして」と驚きや疑
問から課題が生まれるような資料提示を工夫する。
-5-
身近な防災を考える
への思いや防災への関心は、
第3時の終末に昨年の祭りの様子をVTRで視
≪本時のまとめの交流場面での発言≫より
T:今日の勉強をして考えたことを発表しましょう。
C4:ぼくは、裸男は地域の人がいっぱい来るのかと
思ったら、野口の人は少なくなって、とうとう
0人になってしまったと聞きました。Aさんが
いい質問をしてくれて、遠くから裸男をやりた
い人が集まってくると聞いて、安心しました。
それで、ぼくは何だかふるさとを忘れたくない
気持ちになってきました。世話役って大変だけ
ど、人の役に立ちます。ぼくも、大人になった
らいろんな人の役に立ってみたいです。それで
喜んでもらいたいです。そんな自分になりたい
と心から思っています。
C5:今日、寺田さんに来てもらってお話を聞いた時
に、寺田さんはお祭りの世話役で、大変な仕事
をしているということが分かりました。寺田さ
んはお祭りやふるさとを残したいという気持
ちを話してくださいました。わたしは、大人に
なってもふるさとを大切にしようと思いました。
寺田さんが裸男を20年以上続けていたこと
にもびっくりしました。明日のはだか祭りを見
学するのが楽しみです。
(・・・後略・・・)
聴させ、
「なぜ、寒い時期に裸で川に入るのか」と
いう疑問から課題化し、第4時では、昔と変わら
ないスタイルを守り続けている祭りに込められた
願いを考えさせる。さらに第5時では、一見昔の
ままの伝統が守られている祭りであるが、その担
い手が地域住民から有志・ボランティアへと変容
していく中、世話役を続ける寺田さんの祭りの準
備の様子を資料化し、
「なぜ、大変な世話役を長く
続けているのか」という疑問から課題を設定した。
《はだか祭りの準備》
・のぼりを立てる ・豆まきの舞台作り
・川原の掃除 ・川底の掃除 ・打ち合わせ 等
豆まきの舞台を作る
のぼりを立てる
図4:はだか祭りの準備の内容
二重線部分は祭りへの願いを考えることで、地
①問題解決的な学習【自分とのかかわりで考える】
域への誇りや愛着の芽生えが見られる所であり、
第5時では、これまで学習したこと
本時のねらい、また単元目標に迫ることができた。
をもとにGT寺田さんの話を直接聞く
実践例
6年「江戸の文化と新しい学問
~大垣の蘭方医・江馬蘭斎~」
①問題解決的な学習【強い課題意識をもつ】
ことで、自分なりの考えがもてるよう
に導入の課題化と後段の検証の場の2
回GTの話を位置付ける。
GT寺田さん
研究内容(1)②の中で前述したが、教科書掲
授業の導入時には、GTの紹介に続いて、裸男
載資料の絵図「オランダ正月」の蘭学者の中に大
の体験談や今年の祭りの準備をした話をしていた
垣出身の江馬蘭斎がいることは、児童に大きな驚
だき、「寺田さんが20年以上大変な祭りの世話
きを与え、「なぜそこにいるのか」「一体どんな人
役を続けているのは、なぜだろう」という課題を
物なのか」という強い問題意識を生み出す。
設定するとともに、予想を立てる足場とする。
本時では、郷土の人物や歴史について専門的立
≪予想の交流場面での発言≫より
場から話していただくGT
T : それでは、予想したことを話しましょう。
C1:自分がはだか祭りに出た時にいろいろな準備
をしてくれた人に感謝していたから、今度は自
分が世話役になって、裸男や見に来るお客さん
に安全に楽しんでほしいからだと思います。
C2:はだか祭りは自分も20回以上出ているし、
いいお祭りだから、その祭りがずっと続けら
れるように、世話役をしていると思います。
C3:祭りの世話役をする人が少ないから、自分が
役に立てたらいいと思って、続けているのだ
と思います。
(・・・後略・・・)
として、市史編纂室の坂東
先生をお招きした。授業導
入時の絵図の説明・江馬蘭
斎という人物の紹介もして
いただき、そこでの疑問か
『オランダ
江馬蘭斎を示す ら、本時の課題「
正月』の集まりに参加している大垣藩医江馬蘭斎
は、どんなことをした人だろう。」を設定した。
棒線部分は寺田さんの話をもとに考えたことで、 ①問題解決的な学習【自分とのかかわりで考える】
本時では、配布資料から課題追究をした後、さ
波線部分は寺田さんの願いを考えている所である。
授業後段で予想を検証する際、再び寺田さんに
らに蘭斎の功績を新たな視点から追究するため、
語っていただき、祭りへの思いやふるさとを大切
美濃の蘭学の発展とつなぐ話をGTから聞く。蘭
に思う心について、さらに考えを深める場とする。
斎が西洋医学や蘭学をもたらしたこと、藩政時代
-6-
実践例 5年「米づくりのさかんな庄内平野」
②話し合い活動の工夫【仲間との相互交流】
から大垣に学問が栄え文教都市として受け継がれ
ていることを、GTに語っていただき、ふるさとの
単元末に、これまで学んできたことをもとに「米
歴史に関心を高め、愛着を深められるようにする。
②話し合い活動の工夫【仲間との相互交流】
本時では、児童に四つの資料(❶年表「江馬蘭
斎の一生」❷文章「蘭方医江馬蘭斎の活躍」❸図
表「蘭学者相撲見立番付」❹写真「江馬蘭斎の著
書」)を提示し、それらを関連させながら読み取っ
たことを全体交流する中で、多面的・総合的に考
えられるようにした。☞4つの資料の具体は資料編
≪個人追究後の全体交流での発言≫
T :資料から読み取ったことを発表しましょう。
C1:❶と❷をつなげて、蘭斎は46歳で江戸に出て、
杉田玄白や前野良沢から蘭学を習っているの
で、よっぽど蘭方を学びたかったと思います。
C2:「オランダ正月」と❷をつなげて、蘭斎はオラ
ンダ正月に呼ばれ、全国での評価も高かったの
だから、優秀な蘭学者だったと分かります。
C3:C1さんと C2さんに付け足します。❷には蘭
斎は大垣に帰って蘭学塾を開いたとあるので、
蘭学を広めようとしていたと思います。
T :別の資料を使って読み取った人はいませんか。
C4:❷と❹をつなげて、蘭斎は「五液診法」という
日本初の内科診断書を書いているので、それは
今の医学につながっているのではないかと思
います。
(・・・後略・・・)
づくりの未来を考える会議」を開き、話し合い活動
の問題点を改善するために次のような工夫をした。
△自分の考えがはっきりともてない児童や自信を
もてない児童があり、全員参加になりにくい。
△互いの考えの視点が見えず、自分の考えを述べる
だけにとどまり、発言が絡みにくい。
・・・話し合いが深まっていかない・・・
○事前に一人一人自分の考えをまとめ、その子のよ
さ(キーワード)を教師が価値付けておく。
○児童の考えを視点別に整理し、多様な見方・考え
方が交流できるようにパネリストを選んでおく。
○パネリストの意見を聞いてさらに考えを出し合
い、全員発言を目指す。
・・・話し合いが深まっていく・・・
次のような視点からパネリスト 15 名を選んだ。
1.米づくりの現在の課題
2.「もっと米を食べよう!」
・米粉製品 ・米の栄養価 ・米は安心安全
・新しい米製品 ・海外に売り出す
3.「もっと米を作りやすく!」
・会社にする ・体験教室 ・コストダウン
・未来の機械
4.「田んぼ・米は大切!」
・水田の働き ・食料自給率 ・農家の跡継ぎ
≪本時のまとめの交流場面での発言≫より
T :今日の勉強をして考えたことを発表しましょう。
C5:私は、(蘭斎が)45歳にもなって江戸に出て新
しい学問を学ぼうとして、46歳で杉田玄白か
ら「解体新書」を学び、わずか1年で前野良沢
に蘭学を学ぶなんてすごいと思った。私だった
ら、45・46歳にもなって学ぼうと思わない
だろうし、また、批判された中でやろうとは思
わないのに、塾を開いて優秀な人材を出すまで
になったなんて、すごいと思った。たぶん杉田
玄白や前野良沢と同じで、未来へつなげようと
していたんじゃないかと思った。
C6:江馬蘭斎さんがオランダ正月に参加していたな
んて、びっくりしました。大垣にも蘭斎(その
孫の代までに)の門人が331人もいて、それ
からも学問が盛んで博士のまちと呼ばれてい
たなんてうれしいです。ぼくは、蘭斎さんのよ
うな人がいて、大垣の学問が発達していったん
だと思います。ぼくも、先輩たちみたいに立派
な人になりたいです。(・・後略・・)
パネリスト児童は、事前に考えのキーワードと
なる言葉やイラストを書いたパネル(画用紙)を準
備して会議に臨んだ。パネルを示しながら考えを
話し、発表後は黒板に構造的に貼って板書に生か
すようにした。児童は視点別にパネリストの考え
を聞き、キーワードや感想を記録しながら、会議を
進めていった。☞児童の提案・感想の具体は資料編参照
≪パネリストによる提案と聞いて考えたこと≫より
T :「もっと米を食べよう」という考えの人たちです。
C1:米の消費量が減ってきているので、米粉製品を
もっと食べるようにしたらよいと思います。
C2:米は低カロリーで栄養があって健康にいい食品
なので、もっと食べるようにするといいです。
C3:日本の米は安全だしおいしいので、もっと外国
に米を買ってもらうようにするとよいと思います。
C4:C1 さんに付け足して、新しい米粉製品を研究・
開発したらいいと思います。米粉ラーメンとか。
(・・・中略・・・)
T :パネリストの話を聞いて考えたことを発表します。
C5:考えを言ってくれた 15 人の人たちは、今まで
誰も考えたことがない意見だったので、すごい
と思いました。特に米粉ラーメンはぼくもラー
メンが大好きなので、食べてみたいです。ぼく
は毎朝必ずパンを食べているので、ちょっと変
えたいと思いました。
(・・・後略・・・)
棒線部分は資料や仲間の発言と関連付けて考え
たことで、波線部分は蘭斎がどんな人物かを考え
ている所である。二重線部分は蘭斎の生き方や功
績から郷土への誇りや愛着をもち、ふるさとの歴
史に関心を高められた感想であり、本時のねらい
に迫ることができた。
-7-
△パネリスト全員が一通り発言し終えないと、どん
な考えが出されるか全体像が分からない。
△パネリストの発言は順に進むので、自分のタイミ
ングで考えを述べ合い、論を戦わせるに至らない。
・・・話し合いがまだ深まっていかない・・・
≪会議を終えて≫より
T :今日の勉強をして考えたことを発表しましょう。
C6:わたしは、お米づくりや食料自給率アップも、
少し工夫すればいいアイディアになっていく
と思いました。米を使った製品をたくさん食べ
て、日本は外国に頼らず、頼られる国になって
ほしいです。
C7:わたしは、この会議をして、5 年生全員がお米
のことを大好きになったと思うし、わたしも、
日本の未来のために食料自給率を上げること
をしたいなと思いました。 (・・・後略・・・)
5年生の児童なり
○児童の考えを視点別に整理し、事前に一人一人の
考えを机列表にまとめて児童に配付し、誰がどん
な考えをもっているかを互いに知っておく。
○机列表(考え一覧)と連結した板書で発言内容を整理
しながら、自分の考えを主体的に話せるようにする。
・・・話し合いがより深まっていく・・・
パネリスト児童が話す
に既習事項や新たに
児童の考えを分類し、会議の机列を組むことにし
た。内容ごとに座席を近くにし、相対する考えは席
調べたことをもとに、
を向かい合わせ、中立的な考えは中央に配置した。
真剣に米づくりの未
児童一人一人がどんな考えをもっているかを机
来を考えた夢のある
列表で一覧にして、教師は実態把握を生かした意
提案が多く出され、
図的指名や構造的な板書に生かし、児童は仲間の
(棒線部)仲間の考え
考えを全体の中でとらえたり内容を確認したりす
を聞き合う中で、新しい見方や考え方が広がった。
ることに役立てることができた。
(波線部)また、「自分に関係のないこと」ではなく、
「自分にもできることがある」「自分も何かやって
☞机列表(児童の考え一覧)の詳細は資料編参照
≪会議に参加して≫より
T :今日の勉強をして考えたことを発表しましょう。
C1:ぼくがAさんの意見を聞いて思ったことは、
ぼくの意見はTPPについて食料生産のこと
を発表していたのに対して、Aさんは医療費の
負担の問題まで話していたので、取り入れたい
と思いました。ぼくは、この会議をして、貿易
はバランスよくやっていき、外国とも仲よくな
れることも大切だと分かりました。
C2:みんなの意見を聞いてみて思ったことは、B
さんやCさんの「技術を輸出する」意見で考
えが深まり、Cさんの「日本のよさや得意な
ことを生かしていく」ことがいいと思いました。
今まで TPP に賛成だったけど、賛成すると困
る人もいる、TPP 反対は外国と関係が悪くな
りダメなど、いろいろな意見を言っていたの
で、TPP の問題もバランスよくやっていくと
よいと、考えが変わりました。貿易を続け、国
同士仲良くやっていってほしいと思いました。
(・・・後略・・・)
みよう」と関心を高められ、自ら参画する意欲や
態度につながる活動となった。
実践例
5年「工業生産と貿易」
②話し合い活動の工夫【仲間との相互交流】
前回の会議を終えた児童から「話し合うのが楽
しかったからまたやりたい」という感想も多く聞か
れ、第2弾を企画して、さらに話し合う力を高めた
いと考えた。そこで、日本の貿易の特色をまとめ、
問題点や解決策を調べた後、単元末に「これからの
日本の貿易について考える会議」を位置付けた。
ここでは、小学生には難解な貿易の問題点の理
解を促し、より深まりのある話し合い活動に改善
するために次のような工夫をした。
○パネリストを選んでおくことで、視点別に整理・
比較しながら考えを聞き合うことができた。
○話し合いの内容が板書で確認しやすく、自分の出
番を自覚して全員が発言することができた。
図4:「これからの貿易を考える会議」板書写真
考えの 視 点を 短
冊に表し、机列と対
応して板書に配置
する。
棒線部分は資料や仲間の発言と関連付けて考え
たことで、二重線部分は自分の考えを再構築した
感想であり、社会的な見方や考え方が成長した。
対 立
終末のまとめでキー
ワードとなるような言
葉は赤い文字にする。
中
立
的
会議の目当
てを図式化し、
話し合うことに
より自分の考
えを広げたり深
めたりすること
を意識づける。
ネームプレートを
活用し、一人一人の
考えを位置付ける。
考えの内容により板書の
位置を考慮し、色分けや矢
印でつなぐなどして、関連付
けて考えられるようにする。
-8-
実践例
6年「日本の歴史を学んで」
波線部分は仲間の考えと関連付けて考えたこと
で、棒線部分は自分の考えを再構築して自らの生
②話し合い活動の工夫【仲間との相互交流】
大単元「日本の歴史」は 10 の小単元を通して長
き方を考え判断している。社会的な見方や考え方
く学ぶので、歴史学習全体を振り返り、自分の考
を成長させたととらえられる。☞詳細は資料編参照
えをまとめる場を設定することは重要であると考
(3)指導・援助の工夫
①自分なりの見方や考え方を伸ばす個の学習へ
の指導・援助の工夫
②一人一人の見方や考え方のよさを広める全体
指導の工夫
える。これまでの実践では、
「日本の歴史を学んで」
という題で 400 字作文を書いて、一部紹介し終わ
っていた。そのため、仲間と相互交流してさらに考
えを深め合う活動にはなっていなかった。
また、6年生は 11 月に、国語や総合的な学習の
①個への指導・援助の工夫【自分なりの学習】
社会科授業において、資料を読み取る場面や自
時間に平和学習したことをもとに「世界は一つ~
綾っ子からの提言」という学習発表をし、現代社会
分の考えをまとめる場面で個に応じた指導・援助
や身近な生活の問題点、課題、未来への願いについ
は欠かせない。それだけでなく、授業外の生活や
て一人一人が具体的な自分の考えをもっている。
学習においても、社会的事象に関心や問題意識を
そこで、5年生の実践を発展させ、歴史学習の
もつこと、広い視野で様々な角度から考えること
まとめとして、400 字作文を生かした話し合い活
が、社会的な見方や考え方をより成長させるうえ
動を位置付けることにした。今回の改善点は、話
で大きな役割を果たすと考える。ここにも個に応
し合い後に自分の考えを再構築する場の充実であ
じた指導・援助は必要であり、それを具体化した
る。仲間と相互交流した後再考する視点を与え、
実践が「自主勉強ノート」の継続である。
「自分の考えが変わる・
実践例
5・6年「社会科自主勉強ノート」
広がる・深まる」ことを
児童一人一人
意識してまとめる時間
が、毎週1回家
を確保した。
庭学習として、
≪会議に参加して≫より
会議の様子
会議をして「自分の考えがどう変わったか、どのように深まった
か」を視点に、これからの日本について考えをまとめよう。
T :会議をして考えたことを発表しましょう。
C1:わたしは、今の日本は平和だと言われているけ
ど、公害や領土問題があり、本当の平和とは言
えないと思います。経済を発展させていくのは
いいけど、国民一人一人のことを大切にして、
社会問題をなくし、世界が本当に平和でみんな
が笑顔でいられたらいいなと思いました。まだ
わたし一人でできることは少ないけど、友達の
中での差別などを少しずつなくしていき、子ど
もから高齢者まで穏やかに暮らせるようにし
たいと思いました。
C2:わたしはこの会議をして、やっぱり戦争という
ものはしてはいけないと改めて感じました。食
料が少なくなり、人が犠牲になってしまうの
で、戦争は嫌です。世界から見ると、今の日本
は平和と見られているけど、戦争をしないこと
が平和というわけでないと思います。人権・公
害・領土などの問題がまだ残っているので、日
本は平和とは言えないと思います。
「真の平和」
を目指すために、自分にできることをし、問題
は話し合って解決して、平和が本物になるよう
にしたいです。(・・・後略・・・)
興味関心のある
テーマを決めて
調べ、考えをノ 5年自主勉強ノート
ートにまとめる。児童が選んだテーマに対して何
をどう調べたか、どうまとめたか、どんな考えを
もったかについて、教師が価値付けや励まし等を
加えることにより、その子なりの見方や考え方を
伸ばす。適宜、補充・修正を促す助言もした。
自主勉強ノートの取組により、児童が自ら課題
を見つけ調べる力や整理して書き表す力がつき、
その子なりの見方や考え方を高めることができた。
☞自主勉強ノートの実際は資料編参照
②全体指導の工夫【個のよさを広める】
前述した自主勉強ノート以外に、長期休業には
共通テーマによる個人レポートを家庭学習の課題
とした。児童には、まとまった時間が確保しやすく、
じっくり取り組んで自分なりの調べ方やまとめ方
で作品を仕上げられる。教師は、一人一人の作品
のよさを価値付けて授業で取り上げ、学級全体に
広めたり交流したりすることができる。
☞机列表(児童の考え一覧)の詳細は資料編参照
-9-
実践例
黄金
週間
夏
休み
冬
休み
5・6年長期休業中の「課題レポート」
5 年
6 年
世界の国旗調べ
ふるさと歴史探検
米づくりの未来を考える
8月に戦争と平和を考える
社会科すごろく
自分史年表・10大ニュース
学習について話題にしてもらうことにもつながった。
☞社会科通信の
実際は資料編参照
6年社会科通信
表4:5・6年の長期休業中の課題レポートのテーマ一覧
例えば、5年「米づくりの未来を考える」レポー
5年社会科通信
トは、前述した会議のパネリストにつなげること
ができた。6年「8月に戦争と平和を考える」レポ
ートは、太平洋戦争の学習に生かすことができた。
ここでは、共通テーマを受けてどんな個人テー
5.成果と課題
○児童の生活との接点があり、自分とのかかわり
をもとに学習できる地域事象や今日的な課題を
マを設定するか、何を使ってどう調べるか、まとめ
教材化したことで、社会的事象への関心を高め
るか、どんな考えをもったかが一人一人異なる点
ながら確かに理解し、自分の考えをもって自ら
に、紹介し合う意味がある。仲間と交流すること
により、互いの社会的な見方や考え方を成長させ
ることができた。☞課題レポートの実際は資料編参照
参画しようとする生き方の素地が育ってきた。
○強い課題意識から問題解決していく単元や単位
時間の展開を工夫し、話し合い活動における相
互交流の方法を改善することで、仲間と学び合
いながら、自分なりの社会的な見方や考え方を
広げたり深めたりして、成長させてきた。
○授業外においても個への指導と全体指導を一体
化して継続させることで、児童一人一人の学び方、
5年すごろく作品
社会的な見方や考え方のよさを伸ばしてきた。
授業で紹介し価値づけることだけでなく、
「社会
科作品コーナー」に掲示したり、
「社会科通信」を
発行したりして、個のよさを全体に広めた。
実践例
仲間と学び合い、高まろうとする意欲が増した。
●今年度の指導計画に基づく実践をまとめ、指導
計画の見直しに生かすことで、今後の自身の社
5・6年「社会科作品コーナー」
会科指導、次年度・次学年の児童のための指導
高学年社会科作品コーナーの掲示により、5・
6年生の作品を見合うことができて、仲間の作品の
よさを学び、自分に取り入れる姿が多く見られた。
計画をよりよいものに改善していく。
●これまで改善に努めながら、十分な成果が挙げ
られなかった面を、さらに工夫していく必要が
ある。単位時間の問題解決学習や話し合い活動
をより深めるための手立てを探っていきたい。
●一人一人の社会的な見方や考え方の変容を丁寧
に見取り、授業内外におけるより個に応じた効
果的な指導・援助の工夫に努めていきたい。
社会科作品コーナー
実践例 5・6年「社会科通信『共に生きる』の発行」
社会科は動きのある社会を対象として学習し、
《参考文献・実践》
社会生活との接点には家庭生活がある。各家庭に
・「小学校新学習指導要領の展開」
・「小学校学習指導要領解説
学校の社会科授業でどんな学習をしているのかを
通信で伝え、理解と協力を得ることは、児童の社
北俊夫・片上宗二
2008
・「初等教育資料」平成 24 年4・5・8月号より
会的な見方や考え方を成長させるのに有効である。
社会科通信の発行により、一人一人の見方や考え
社会編」2008
澤井陽介
2012
・「小学校社会科教育研究協議会全国大会」
方のよさを確かめ合うことができ、各家庭で社会科
-10-
高知市立昭和小学校公開授業
2012.11.9.