インドの実像とは - Strategy

特集◎インド∼日本企業のさらなるグローバル成長への橋頭堡∼
この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった
岸田 雅裕(きしだ まさひろ)
([email protected])
2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で
ご確認ください。
ブーズ・アンド・カンパニー 東京オフィス
のヴァイス・プレジデント。15年以上にわ
たり、知の編集作業を通じて戦略最適解
を 得 るプ ロジェクトと、クライアント 内
部における実 行 の主体 性 確 立を支 援 す
巻頭言
るプロジェクトをリードしている。
インドの実像とは
岸田 雅裕
様々な産業において新興国に重心が移動しつつある。この
目線で取り組まねばならない。これは異口同音に語られること
ことは、多くの日本 企 業 にとって企 業 活 動 の 基 本 的 方 針 の
である。しかし各 論となると、ゾウのいろいろな部位の話を
変更を余儀なくされることとなる。第二次世界大戦後、多くの
聞いているようで、今日のインドのイメージも一つになりそう
日本企業は一貫して米国と西欧の豊かな市場とそこでのライ
もない。それなら、ということで今回のマネジメント・ジャーナ
フスタイルを目標とし、輸出から始めて、現地マーケティング、
ルは「今一度インドをよく知るためには」という方針で編集に
そして現 地 生 産といった パターンで、リスクを軽 減しながら
取り掛かった。
海 外 事 業 投 資を 進めてきた。しかし、中国においてこの成 功
インドは多種多様な社会だが、人口動態、富の分布、ライフ
パターンは壁に当たった。中国はローコストの生産基地であっ
スタイルの変化といったようにきちんと分解すれば、成功要件
た短 期間を経て、急 速に消費市場 へと成長したため、輸出→
が浮かび上 がってくると我々は 考える。マクロ的にみた場 合
現地マーケティングで教訓を得る前に、現地企業や欧米企業
は、特に中国やかつての日本との違いを把握することができ、
に よる 本 格 的 事 業 展 開 の 投 資 が 本 格 化したという産 業 が
数十年先は間違いなく大国の一角を占めているであろう。そし
多い。自動車産業は中国政府の国策もあり、現地市場と消費者
て、緩やかでも安定的に成長することが見込まれるので、他の
を理解する前に多大な事業投資を余儀なくされた例である。
新興国に比べて堅実に取り組みやすい。
これまで日本企業が慣れてきた発展段階論で語ることは、
10 -20 年 先 の自 社 の 成 長 機 会を 見 据 えるならば、今 から
インドの場合さらに難しくなる。大 量の優れたエンジニアを
インドに取り組むことの必要性には異議は少ないであろう。
輩出する国として、IT アウトソーシング企 業 の急 成 長を成し
ゆっくりとだが社会は発展し、市場は量的拡大から質的向上
遂 げ て い る 国 で ありな が ら 、未 来 都 市 の ような I T 企 業 の
へと競争の軸が変わっていくであろう。日本企業にとって今日
オフィスにたどり着く前には、空港からスラム街を通り過ぎて
のインドビジネスを考える意味合いは、次の三点である。
い か な け れ ば なら な い というギャップ が あ る 。ボリウッド
1:インド国内市場の拡大からの果実を享受する
映 画 の 盛 況や、ミタルによるアルセロール の買収のように、
2:他地域に打って出るための拠点とする(アジア、中東、アフ
グローバル企業を生み出す一方で、スズキの現地 JV が圧倒的
な市場シェアをもち、20万円程 度の車「ナノ」が発売される国
でもある。これまでの日本企業が経 験してきたアジア市場の
リカ、ヨーロッパ向けなど)
3:日本国内の事 業の効率化に役 立てる(アウトソース先と
してだけではなく、製造拠点としても)
パターンを当てはめようとするのは無理だと悟るべきである。
また、中長 期的にインドの 存 在 感が増していくことを踏ま
新興国とひとくくりしていてはついぞ正しい理解に達すること
えると、インド市場で成功を収めつつある外資系企業の動向
はないであろう。
のみならず、インドの主要企業の動向にも着目していく必要が
ブーズ・アンド・カンパニー 東京オフィスでもインドに関連
ある。どのような発想で事業経営に取り組んできているのか、
したプロジェクトが増加し、現地で数日、あるいは数週間過ご
今後のインド国内外での事業拡大をどう見据えているのかと
して戻ってくるスタッフが増えている。日本からの製品・ノウハ
いった視点での検討は、この先、インド企業と付き合っていか
ウ輸出型での取り組みでは相手にされる余地は乏しいことは
ねばならない日本企業にとって有意義な示唆をもたらすもの
間 違 い ない。これまでの成 功パターンから転 換して、現 地 の
と考えられる。
Booz & Company
M a n a g e m e n t J o u r n a l Vo l . 1 4
2010 Summer
3