2002 年薬理学 A 再試 アセチルコリンに関する記述について、正誤を答えなさい。 a 自律神経節に対する作用をムスカリン様作用という。 b 中枢神経系にアセチルコリンを含む神経が存在する。 c コリンエステラーゼによって不活化される。 d 末梢血管を収縮させ、血圧を上昇させる。 e アトロピンは代表的な拮抗薬である。 a b c d e 解答・解説 a 誤り。自律神経節には主としてニコチン様アセチルコリン受容体(NN)が存在する。ム スカリン受容体(M1)も存在するが、ワンテンポずらした活動電位の発生を担っておりメ インであるとは言いがたい。 b 正しい。アセチルコリンは中枢においても重要な神経伝達物質である。 c 正しい。アセチルコリンは 2 種類のコリンエステラーゼによりコリンと酢酸に分解され る。 d 誤り。アセチルコリンを静脈内投与すると、血管内皮細胞の M3 受容体を刺激し一酸化 窒素(NO)が合成され、NO が血管平滑筋のグアニル酸シクラーゼを活性化し cGMP が増 加し、続く PKG がリン酸化されることで活性化し平滑筋は弛緩する。 e 正しい。アトロピンはムスカリン様アセチルコリン受容体(M1∼M5)の競合的拮抗薬 である。 S- 1 -S 2002 年薬理学 A 再試 次の記述はコリンエステラーゼ(ChE)活性を抑制して、毒作用を示すことが知られてい る有機リン化合物に関するものである。各記述について正誤を答えなさい。 a 有機リン化合物は、アセチルコリンと競合して ChE の 2 つの活性部位を占めて失活さ せる。 b 有機リン化合物は、 ChE のエステル水解部位(asteratio site)をリン酸化して失活させる。 c アトロピンは、有機リン化合物と ChE と結合を解離させることによって有機リン化合 物の毒性発揮を阻止する。 d アトロピンは、副交感神経支配を受ける効果器の受容体(receptor)においてアセチルコ リンと競合的に拮抗する事により有機リン化合物の毒性発現を阻止する。 e プラリドキシム(PAM)は、アトロピンと同様に有機リン化合物中毒に際して用いられ、 その作用機序もアトロピンに類似する。 a b c d e 解答・解説 a 誤り。有機リン化合物はアセチルコリンと競合することはない。 b 正しい。有機リン化合物はコリンエステラーゼをリン酸化することで、不可逆的に阻害 する。 c 誤り。アトロピンは、有機リン化合物によってコリンエステラーゼが阻害され高濃度と なったアセチルコリンと拮抗するために投与される。 d 正しい。副交感神経支配臓器にはムスカリン様アセチルコリン受容体が存在するので、 既存のムスカリン受容体(M1∼M5)全てを阻害するアトロピンは至適である。 e 誤り。プラリドキシムはリン酸化されたコリンエステラーゼからリン酸基を脱離するこ とで、活性の回復を促進する。ただし、リン酸化反応の早い時期に作用させないと効果が ない。 S- 2 -S 2002 年薬理学 A 再試 コリン作動薬および抗コリン薬について、正誤を答えなさい。 a カルバコールは副腎髄質からアドレナリンを遊離させる。 b サリチル酸フィゾスチグミンは 3 級アミンであり、選択的に中枢性アセチルコリン神経 系を活性化する。 c 塩酸ピレンゼピンは M2 受容体遮断薬であり、心機能亢進が少ない。 d メチル硫酸ネオスチグミンは手術後の腸管麻痺や膀胱麻痺に用いられる。 e 塩酸ピロカルピンは点眼により眼圧を上昇させる。 a b c d e 解答・解説 a 正しい。カルバコールはアセチルコリンのエステル基をカルバミン酸に変換したもので あり、コリンエステラーゼに対して強い耐性を示し、副腎髄質のクロマフィン細胞のニコ チン受容体刺激を介してアドレナリン(およびノルアドレナリン)を遊離させる。 b 誤り。サリチル酸フィゾスチグミンは 3 級アミンであり、非選択的に中枢性アセチルコ リン神経系を刺激する。 (末梢性も有する) c 誤り。ピレンゼピンは M1,(M3?)受容体遮断薬で、消化性潰瘍治療薬である。 d 正しい。ネオスチグミンは間接型コリン作動薬に分類されるコリンエステラーゼ(ChE) 阻害薬である。臨床応用は正しい。 e 誤り。ピロカルピンは直接型コリン作動薬であり、M3 受容体を介して瞳孔括約筋と毛 様体筋を収縮させシュレム管を広げる。これにより、房水の排出が促進され眼圧は低下す る。ゆえに緑内障の治療に用いられる。 S- 3 -S 2002 年薬理学 A 再試 次の抗ムスカリン薬のうち、鎮けい剤として用いられるものを選べ。 a 塩酸トリヘキシフェニジル b トロピカミド c d 臭化水素酸ホマトロピン 臭化プロパンテリン e 臭化メチルベナクチジウム 解答 c , e a トリヘキシフェニジルは、第三級アミンを有し中枢系に入りやすい抗コリン薬であるの で、パーキンソン症候群の治療に用いられる。閉塞隅角緑内障患者には禁忌である。 b トロピカミドは、抗コリン薬であるがアトロピンに比べて作用時間が短く、点眼より瞳 孔括約筋を弛緩させて散瞳を起こす。また、毛様体筋を弛緩させて水晶体の厚さを減少さ せる(近視症を抑える) 。 c プロパンテリンは、第四級アミンを有する抗コリン薬である。 d ホマトロピンは、抗コリン薬で散瞳薬として用いられる。閉塞隅角緑内障患者には禁忌 である。 e メチルベナクチジウムは、第四級アミンを有する抗コリン薬である。 鎮痙薬とは、胃腸、胆管、尿管などの内臓平滑筋に作用して、緊張を取り除き、運動を 抑制する薬物のことである。胃腸の痙れん性疼痛、痙れん性便秘、潰瘍性大腸炎、胆嚢・胆 道疾患、尿路結石などの治療に用いられる。 鎮痙薬を大別すると以下のように 2 つに分ける事ができる。 ① アトロピンのように副交感神経性の反応を抑制する向神経性鎮痙薬 ② パパベリンなどのように直接内臓平滑筋を弛緩させる向筋性鎮痙薬 鎮痙薬として用いられるアトロピン代用薬には、4 級アンモニウム構造を持つものが多い。 S- 4 -S 2002 年薬理学 A 再試 下図は、イヌの血圧をベントバルビタール麻酔下で、観血的に測定記録したものである。 図中の A と B の間で適用したと考えられる薬物は、次のうちどれか。 血圧 アセチルコリン アセチルコリン アセチルコリン 2μg/kg 静注 2μg/kg 静注 2mg/kg 静注 a エピネフリン b ノルエピネフリン d アトロピン e ピロカルピン c イソプレナリン 解答 d アトロピン 解説 無処置の条件下で少量のアセチルコリンを静脈内投与すると、血管内皮細胞の M3 受容 体を介した刺激により血管が拡張し、血圧が低下する。 アトロピン存在下で少量のアセチルコリンを静脈内投与すると、アセチルコリンとアトロ ピンが血管内皮細胞の M3 受容体を奪い合う(拮抗し合う)ため、血管の拡張が起こらず 血圧は変動しない。 アトロピン存在下で多量のアセチルコリンを静脈内投与すると、アセチルコリンは自律 神経節のニコチン様アセチルコリン(NN)受容体およびムスカリン様アセチルコリン(M1) 受容体を刺激する。交感神経の例外の一つである副腎髄質のクロマフィン細胞のニコチン 受容体は高濃度のアセチルコリンが静脈内投与された場合に感作し、アドレナリン(およ びノルアドレナリン)を分泌する。また、交感神経節の刺激により交感神経末梢からノル アドレナリンも放出されるため二次性の血圧上昇がみられる。 S- 5 -S 2002 年薬理学 A 再試 膜に作用する薬物に関する次の記述について正誤を答えよ。 a アトロピンは、毛様体筋の収縮を抑制するため、近点に焦点が合うようになる。 b トロピカミドは、瞳孔散大筋の収縮を促進することにより瞳孔を散大させる。 c エピネフリンは、瞳孔括約筋を収縮させることにより瞳孔を収縮させる。 d ホマトロピンは、瞳孔散大筋の収縮を抑制する事により瞳孔を収縮させる。 e ピロカルピンは、シュレム管を開口して眼房水の排出を容易にする。 a b c d e 解答・解説 a 誤り。アトロピンの投与により毛様体筋が弛緩すると、遠方に焦点が合う(=遠視性調 節麻痺)ようになる。 b 正しい。トロピカミドは抗コリン薬であり、瞳孔括約筋を弛緩させて散瞳を起こす。ま た、毛様体筋を弛緩させて水晶体の厚さを減らす(=遠視性調節麻痺) 。 c 誤り。エピネフリンは、瞳孔散大筋を収縮させることにより瞳孔を拡張させる。 d 誤り。ホマトロピンは、抗コリン薬で散瞳薬として用いられる。 e 正しい。ピロカルピンは直接型コリン作動薬であり、虹彩の M3 受容体を介して瞳孔括 約筋と毛様体筋を弛緩させることによりシュレム管を広げ、眼房水の排出を促進する。 効果器 交感神経 瞳孔括約筋 副交感神経 遮断 収縮(縮瞳)M3 弛緩(散瞳) 瞳孔散大筋 収縮(散瞳)α1 弛緩(縮瞳) 毛様体筋 弛緩(遠方に焦点= 収縮(近位に焦点= 交感 副交感 遠視性調節麻痺)β2 近視性調節麻痺)M3 収縮 弛緩 S- 6 -S 2002 年薬理学 A 再試 自律神経系に関する次の記述について、正誤を答えなさい。 a 副腎からの活性物質の遊離は、副交感神経の興奮によって生じる。 b 副腎髄質には、クロム親和性細胞が豊富に存在し、カテコールアミンを産生する。 c ショック時には、副腎髄質からカテコールアミンが遊離される。 d 生体防御反応では、副腎髄質のみが働き、副腎皮質からのホルモン分泌はない。 e チラミンは、副腎皮質ホルモンを分泌させる。 a b c d e 解答・解説 a 誤り。副腎髄質は交感神経に支配される効果器である。副腎皮質は各種のホルモンや生 理活性物質(アンギオテンシンⅡなど)によって調節を受ける。 b 正しい。クロム親和性細胞(Chromaffin Cells:クロマフィン細胞)はコリン作動性で、 カテコールアミン(アドレナリン>ノルアドレナリン)を分泌する。 c 正しい。ショック時には血圧が低下するため、血圧を上昇させるためにカテコールアミ ンが分泌される。 d 誤り。副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)の分泌はサーカディアンリズム(概日リ ズム)に基づいて主として朝に分泌されているが、糖質コルチコイドは生体防御反応に大 きく関わるホルモン(抗アレルギー作用および免疫抑制作用を持つ)である。 ※ 国家試験で文章中に「限定」の表現があるのは誤りである場合が多い。 →この世の中に例外なんて多いものだ。 e 誤り。チラミンは間接作用型交感神経興奮様薬の非カテコールアミンで、神経細胞内の NA を追い出す。 S- 7 -S 2002 年薬理学 A 再試 交感神経の興奮の際に、次に掲げる各効果器にみられる反応および関与する受容体の組み 合わせについて正誤を答えなさい。 効果器 反応 受容体 a 冠状動脈 収縮 β b 気管支平滑筋 弛緩 α c 分泌抑制 β d 副腎 アドレナリン ニコチン e 皮膚血管 収縮 α 汗腺 a b c d e 解答・解説 a 誤り。冠状動脈にはβ受容体(β2;Gs)が存在し、アデニル酸シクラーゼの活性化→ cAMP 増加→PKA のリン酸化による活性化という一連の反応の結果、血管平滑筋は弛緩す る。 b 誤り。気管支平滑筋には冠状動脈にはβ受容体(β2;Gs)が存在し、交感神経が興奮 すると弛緩する。気管支喘息治療薬の一つに選択的β2 刺激薬がある。 c 誤り。汗腺は交感神経の例外の一つであり、末梢からはアセチルコリンが遊離するので 受容体はムスカリン受容体である。 d 正しい。副腎も交感神経の例外の一つであり、交感神経の興奮により副腎髄質のクロマ フィン細胞からカテコラミン(アドレナリン>ノルアドレナリン)が分泌される。 e 正しい。交感神経が興奮すると、皮膚血管および大部分の内臓血管平滑筋はα1 受容体 を介して収縮する。 効果器 反応 受容体 a 冠状動脈 弛緩 β2 b 気管支平滑筋 弛緩 β2 c 分泌 ムスカリン d 副腎 アドレナリン ニコチン e 皮膚血管 収縮 α1 汗腺 S- 8 -S 2002 年薬理学 A 再試 次の記述について、正誤を答えなさい。 a ノルアドレナリンは、アドレナリン作動性神経終末部におけるノルアドレナリンの生合 成を抑制する。 b コカインは、神経細胞膜における興奮伝導を抑制する。 c メタアンフェタミンは、アドレナリン作動性神経終末部からノルアドレナリンの放出を 抑制する。 d アトロピンは、ノルアドレナリンと受容体の結合を競合的に抑制する。 e イミプラミンは、ノルアドレナリンのアドレナリン作動性神経終末部への再取り込みを 促進する。 a b c d e 解答・解説 a 正しい。ノルアドレナリンの律速段階はチロシンからドパへの水酸化であり、この過程 はノルアドレナリンにより負のフィードバック制御を受けている。 b 正しい。コカインは Na チャネルを阻害する事で、知覚神経の伝導を阻害するので、末 梢型局所麻酔薬として用いられる。また、コカインはアミンポンプを阻害しノルアドレナ リンの再取り込みを抑制することで血管を収縮させ、作用時間が長いのが特徴である。 c 誤り。 メタアンフェタミンは、交感神経末梢からのノルアドレナリンの放出を促進する。 また、中枢神経においても活性アミンの放出を促進する。精神依存性が強く嗜癖を生じ、 また、耐性も生じる覚せい剤である。 d 誤り。アトロピンは、アセチルコリンとムスカリン様アセチルコリン受容体の結合を競 合的に抑制する。 e 誤り。三環系抗うつ薬であるイミプラミンは、中枢系においてアミンポンプを阻害しノ ルアドレナリンの再取り込みを抑制する。 S- 9 -S
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